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騎乗馴致におけるランジングとペン(丸馬場)の有用性

山の木々の葉も落ち、北国のつかの間の秋があっという間に通り過ぎて冬支度完了といった日高です。先日は日高山脈の高嶺に初冠雪を確認しました。

育成馬達の馴致は順調に進んでいます。12群は屋内800mトラックでの駆歩調教をこなし、次のステップとして11月からは週2回程度屋内坂路馬場へ通うことになります。また、1015日から馴致を開始した317頭は、ペン(丸馬場)の中で騎乗できるまでになっており、数日で屋内800トラックでの集団調教に移行します。今年は幸い56頭のほぼすべてが騎乗馴致のステップを大過なく上っており、ここまでは、まず一安心といったところです。

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1,2群の育成馬は、駆歩運動後の鎮静運動として場内各所を15分ほど常歩します。人を乗せてしっかり歩くこともこの時期の若馬にとって良い運動刺激になると考えています。背景は、初冠雪の野塚岳。

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ゲート通過は毎日の日課となっています。

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第3群は、騎乗に先立ち場内各所で十分なドライビングを行っています。補助者は馬から離れ、馬は御者の指示に従い前進気勢のある常歩をしています。馬はハッピーパレットの07(牝:父チーフベアハート)。

今回は、騎乗馴致でおなじみのランジング(調馬索運動)とペン(丸馬場)の有用性についてです。この話題を取り上げるきっかけとなったのは、当場で夏から秋の10月一杯まで実施している、一般ファンの方達に対する牧場内バスツアーにおいて受けた質問です。それは「騎乗馴致ではなぜ馬をペンでクルクル回すのですか」というものでした。

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ペンの中でランジング運動する育成馬。クルクル回っています。馬はミヤビトップレディーの07(父タイキシャトル)。

騎乗馴致において我々が当たり前のこととして行っている基本ですが、以下のように説明しました。

まず、馬をクルクル回す作業はランジングといい、調馬索という約10mの長さの平打ちのロープを用います。ランジングは、よく訓練された馬であれば、調馬索だけで綺麗な円運動をさせることが可能です。しかしランジングの経験のない1歳馬たちは、調馬索で繋がれていても、どう動いていいのかわからないのです。追われることで直線的に人から逃避したり、大きく膨らむ、逆に内に入ってくるなど反応は様々です。そこで綺麗に円運動をすることを効率的に学ばせる施設として存在しているのが、ペンなのです。

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図のように御者(馴致では二人でチームを組み役割分担をします)によって「前に動きなさい」というプレッシャーと「外に膨らみなさい」というプレッシャーを受けた馬は、ペンの壁により外に膨らめないことから、自然にその壁に沿って円運動をすることになるわけです。

図のような御者のペン内における位置関係は、馴致開始初日から騎乗が終了するまで、基本形として継続されることになります。

次に、それではなぜ馴致においてクルクル円運動を実施するのでしょうか。馴致において最も大切なのは人と馬の信頼関係に裏打ちされたコミュニケーションです。ペンは直径15mの円形をしています。そのため必然的に中心に位置する御者と壁に沿って運動する馬との距離は常に7m程度に保たれるわけです。この位置関係を守ることで、人は労せずに馬の運動を継続させ、一定の距離で馬とのコミュニケーションを交わすことが可能になるわけです。

このような役割と目的を持ったペンは、中の馬が外を見ることができない高さと、隙間を作らない工夫が必要で、ちなみに当場のペンは、高さ2.3mで安全のため内部の高さ1mほどまでゴムを貼っています。このペンとその壁を有効に使うことで、安全でスムーズな騎乗馴致を進めることができるわけです。

つまり「ランジングで行う円運動は、馬に運動をさせながら人が馬とコミュニケーションをとるために非常に有用な手法であり、ペンは馴致されていない若馬に綺麗な円運動を行わせるためにとても効率の良い施設で、騎乗馴致には不可欠なものなのです」。