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昼夜放牧と昼放牧(ウォーキング・マシン併用)、厳冬期はどちらがBetter?②(生産)

2月に入り、本年も繁殖シーズンがついにやってきました。繁殖シーズンは生産牧場にとって、生まれてくる子馬への期待でワクワクする一方、難産などを含めた繁殖牝馬の疾病、また新生子の疾病などのため非常にストレスのかかる時期です。そのような中、もうすでに出産が始まっている牧場もあろうかと思います。当場も同様に、2月末より8頭の出産を予定しています。そのため、少ない頭数ですが準備に忙しい時期となっています。

 さて、そのような状況の中、昨年この時期に同じように生まれた1歳馬達に目をむけて見ますと、2つの異なった放牧管理のもと両群とも順調に育っています。すなわち、A:昼夜放牧群(22h) B:昼放牧(7h)+WM併用群(馬服装着)という2つの群です。2群についての比較項目としては、前号でも記載した通り ①被毛を含めた外貌的所見、②GPSを用いた放牧中移動距離、③脂肪の蓄積度合い、④体重・測尺値の変化、⑤成長に関わるホルモン動態(プロラクチンなど)、⑥ストレス指標(血中コルチゾル値を測定することで推定します)、⑦蹄の成長率など、様々な方向性から検討を行っています。

今号では、“昼夜放牧と昼放牧、厳冬期はどっちがBetter?②”ということで、明確な答えが出ない内容ではありますが、少しでも皆様のヒントになればと思い引き続き記載したいと思います。

 まず、前号のおさらいをしますと、前号では①外貌所見(特に被毛) ②GPSでの移動距離の違いについて記載しました。

 すなわち、被毛は昼夜放牧群で長く、昼放牧群はあきらかに短くなりました。また、移動距離は昼夜放牧群で長く(約7~9km)、昼放牧群は短い(約3km)という結果でした。

 それでは、その結果も念頭に置いてさらに話を進めていきたいと思います。まず、③の“脂肪の蓄積度合い”についてです。これは屈腱部の超音波検査などを実施する際と同様なエコー機器を用いて、馬のおしり(臀部)の脂肪の厚さ(これを臀部脂肪厚といいます)を測定することで全身の体脂肪率や脂肪を除いた体重(これを除脂肪体重といいます)を推定します。 

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Fig.①:臀部脂肪厚測定の風景

リニア型(接触面が直線的な)プローブを用いて検査します。

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Fig.②:臀部脂肪厚測定のエコー図

赤丸で囲んだ三角形の部分の最大の厚さを測定します

当初の我々の予測として、昼夜放牧群は寒さに適応するため体脂肪が“増加”していき、昼放牧群は昼夜放牧群ほど寒さに適応する必要性がなく、さらにWMを使用して強制的な運動も行うことから、体脂肪は徐々に減少していくのではないか?と考えていました。予想通り、昼放牧群では早い時期から体脂肪率の低下が認められました。一方、昼夜放牧群においても緩やかですが体脂肪率の低下が認められました。

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Fig.③:体脂肪率の変化 [A群(昼夜):青  B群(昼+WM):赤 で示してあります]

この昼夜放牧群のデータは、我々にとっては非常に不可解な結果でした。理由は、現在その他のデータも含めて検討中ですが、①重要臓器を守るために体表面ではなく、内臓への脂肪蓄積が行われた ②給餌している餌では維持エネルギーが足りず、維持エネルギー産生のため脂肪を徐々に利用する必要があった、というような可能性が考えられました。

まず、内臓脂肪についてですが、これは実際に解剖しなければわかりません。そのため、判定が困難ですので、推論の域はでません。人間の体組成計のような器具があればよいのですが・・・次に、餌については濃厚飼料として約23kg(エネルギーにして約6~9MKcal)、また粗飼料はルーサンを約2kg(エネルギーにして約3~4MKcal)およびラップ乾草は放牧地の4隅に不足しないように補充しながら配置したので、1日に約4~5kg程度摂取した(エネルギーとしては約6~7Mkcal)と推定いたしますと、摂取エネルギーの総量としては約1519Mcal程度摂取したものと考えられます。そのため、通常の管理であれば体を維持するには十分な量と考えられます。しかし、この昼夜放牧における“寒さ”へ対応するための必要エネルギー量は我々が考えている以上に大きいのかもしれません。人の例を挙げますと、南極観測隊の隊員は寒さに対応するため、派遣前に1020kg程度体重を増量してから現地に向かい、しかも現地では通常の約1.52倍程度のエネルギー摂取が必要という話もあります。日高地方は南極の気候と比較すると非常に“暖かい(?)”とはいえ、最低気温は-20℃、厳冬期の平均気温は約-5-7℃程度になることもあることから、厳冬期の昼夜放牧管理では、多くのエネルギー量が必要なのかもしれません。

次に、検討項目④の“体重・測尺値”の変化について記載します。まず、体重についてですが、昼夜放牧群では12月初旬から停滞傾向が認められました。一方、

昼放牧群では当初大幅に体重が減少しました。この理由としては、昼放牧群も実験開始前は昼夜放牧管理をしており、時間にして22時間から7時間と大幅に放牧時間が減少したことによる“牧草採食量の一時的な減少”という要因が大きいと思われます。また、WM導入直後の運動量やそのストレスによる部分も少なからずあるのかもしれません。通常、完全舎飼いなどに変更せず、一定の放牧時間が保たれていれば、1週間程度で体重は元のレベルまで戻ることが知られています。そのため、本実験での昼放牧群の体重変化を見ると摂取エネルギーとWMを用いた強制的な運動による消費エネルギーとの不調和もあったのかもしれません。このような点は放牧管理形態の変更時やWMを用いる際に注意すべき重要な点だと思われます。最終的に、昼放牧群の馬体重が元のレベルに復すまでに3週間弱かかりましたが、その後は順調に増加し、1月末時点では両群とも同様な体重となりました。

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Fig.④:体重の推移 [A群(昼夜):青  B群(昼+WM):赤 で示してあります]

また、測尺値については昼夜放牧群において管囲が若干太い傾向が認められましたが、その他体高・胸囲などには大きな差は認められませんでした。

先ほど③の“脂肪の蓄積度合い”の話でも記載しましたが、同様にこの体重データから見ても昼夜放牧群の12月初旬以降の摂取エネルギー量は不足している可能性があります。しかし、現在の飼養管理形態(基本的に充分な量のラップ牧草を給与している)を考えると、実際に摂取エネルギーを増加するには、濃厚飼料を増量するしか手はないのかもしれません。現在、約3kg程度の濃厚飼料を給餌していますが、当歳から1歳にかけてこれ以上増量した場合には、OCDなども含めて色々な問題が発生する可能性もあります。そのため、このような点は“厳冬期における昼夜放牧管理”の難しさなのかもしれません。

徒然なるままに記載してきましたが、今回は ③脂肪の蓄積度合い ④体重・測尺の変化 という2点について比較しました。皆様、いままでの4項目のデータを見てどのように思いますか?感想など頂ければ幸いです。

それでは、次号も引き続きのご愛読よろしくお願い致します!

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