« 2013年1月 | メイン | 2013年3月 »

厳冬期の1歳馬の管理~移動距離を増やす工夫~(生産)

先月に比べて若干寒さも和らいできましたが、まだまだ寒い日が続き春は遠いと感じる今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。「寒いと動きたくなくなる」のは人間も馬も一緒なのか、過去の研究から冬は放牧地での移動距離が少なくなることがわかっています。日高育成牧場ではこの時期、1歳馬の放牧地の四隅の雪の上にルーサン乾草を撒いています(写真1これにより、馬は食べるために放牧地を移動しなくてはならず、運動量を増やすことができます。

今回はこのような冬に移動距離を増やす工夫について述べたいと思います。

Photo_5

写真1 放牧地の四隅にルーサン乾草を撒いています

なぜ移動距離を増やす必要があるか?

そもそも、なぜ移動距離を増やす必要があるのでしょうか?それについては、まず(春から秋にかけての)昼夜放牧がなぜこれほどまでに広まってきたかというところから考えていきたいと思います。

昼夜放牧を行なうメリットとして、草食動物である馬を野生に近い環境で過ごすことは生理的に自然であり、長い時間牧草を食べることで自然な栄養を摂取できること、群れで行動する時間が長くなることで社会性が身につくことなどが挙げられます。中でも一番のメリットは昼放牧と比較して移動距離、すなわち運動量が増え、骨や腱の成長が促されることです。

おそらくもともとは実際に馬を管理している現場のホースマンたちが「昼放牧より昼夜放牧の方が“骨太”になる」という印象を持っていたため、「昼夜放牧の方が良い」と広まっていったのではないかと推測されますが、過去に当歳から1歳にかけての馬を用いて放牧時間と骨や腱の成長を調査した研究がなされています。1歳馬を用いて、24時間放牧を行なった群と、12時間放牧を行なった群、24時間馬房に入れっぱなしだった群の骨密度を比較した調査では、放牧時間が長いほど骨密度が増加したという結果が得られています(図1)腱に関する研究では、運動を負荷した馬としなかった馬の浅屈腱の断面積の比較したところ、運動開始2ヶ月後から運動を負荷した馬の断面積が大きい傾向が認められたという結果が示されたという報告があります。このことから、運動を負荷すると骨が丈夫になり腱の発育が早まると考えられます。

Photo_6

図1 放牧時間が長ければ長いほど、骨は丈夫になります

JRAでは、以前からGPS装置を用いて放牧地内での馬の移動距離を調査してきました。その結果、昼夜放牧と昼放牧を比較すると、移動距離に2~3倍もの差があることがわかっています。今までの話をまとめると下記の通りです。

昼夜放牧をすることで運動量UP

→骨が丈夫になり、腱の成長が早まる

→強い馬づくりに繋がる!

では、話を冬に移しましょう。同じくJRAの過去の調査では、当歳の冬においては昼夜放牧(17時間)した場合で4~6km、昼放牧(7時間)した場合で2~5kmと、春から秋にかけてのように放牧時間を延ばしてもはっきりとした差がつかなかったという結果に終わっています(図2)これではせっかく昼夜放牧を行なっても馬体の成長には繋がらず、いたずらに馬を消耗させてしまうだけ、ということになりかねません。そこで、馬の移動距離を増やす工夫が必要になる、というわけです。

Photo_7

図2 昼夜放牧を実施しても、何も工夫しなければ冬には移動距離が減ります

移動距離を増やす工夫

それでは、ここ日高育成牧場で試みている「移動距離を増やす工夫」についてご紹介していきたいと思います。

まずは冒頭で述べた「放牧地の四隅の雪の上にルーサン乾草を撒くこと」です。ルーサンを食べるために、馬は放牧地内を探し回るようになります。チモシーなどイネ科の牧草でも代用は可能ですが、嗜好性が良いためまずはルーサンを撒き、雪が深くなり掘って下草を食べることもできなくなってきたらチモシー乾草もプラスして置くようにしています。厳冬期には繊維分を腸管内で発酵する際に生じる熱が体温維持に重要であると言われているという観点からも、こうして積極的に乾草を食べさせることは大切です。

次に、「積雪が深くなってきて馬が歩きづらくなってきた際には、重機で雪を押して道を作ること」です。この場合も馬がより長い距離を歩くように長方形の放牧地であればまず牧柵に沿って道を作った後、斜めに対角線を描くように雪を押します。こうすることで馬が動きやすくなり、結果移動距離が増やせます。この方法で注意すべき点は、下草が見えてしまうまで雪を深く掘り過ぎないということです。そこまで掘り下げてしまうと、草地が痛み翌春の放牧地の回復が遅くなってしまいます。また、暖かい日が続いて雪が融け、その後寒い日が続くと地面がカチカチに凍り、馬が転倒して怪我をする危険が出てきたり硬くてかえって歩かなくなったりするためこまめな観察とメンテナンスが重要です。

このような工夫を試みた結果、従来は昼夜放牧を行なっても1日4~6kmしか歩かなかった馬が、6~12kmと春から秋にかけてと遜色ないくらい移動するようになりました(図3)日高育成牧場では生産馬を冬季に昼夜放牧群と昼放牧群の2群に分けて管理していますが、昼放牧群についてはウォーキングマシン(WM)を併用し、両群ともに同様の運動量を確保しています。

Photo_8

図3 工夫することで冬でも6~12kmの移動距離を維持しています

このように、厳冬期に昼夜放牧を実施する際には、春から秋にかけてとは違った工夫が必要となります。寒い冬を上手く乗り切り、健康で丈夫な馬を育てましょう。

(次回へ続く)

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

平素はJRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。当ブログに対するご意見・ご要望は下記メールあてにお寄せ下さい。皆様からいただきましたご意見は、JRA育成業務の貴重な資料として活用させていただきます。

アドレス jra-ikusei@jra.go.jp

活躍馬情報(事務局)

先週土曜日の小倉競馬10R(あすなろ賞)におきまして、JRA育成馬シンネン号が優勝しました。同馬は日高育成牧場で育成調教され、昨年4月に開催されたブリーズアップセールにて取引された馬です。

また、昨年当セールで取引された育成馬は、11頭(新馬戦優勝4頭)が勝ちあがりました。今後のますますの活躍を期待しております。

2013021610r

2/16 1回小倉競馬3日目 第10R あすなろ賞:3歳500万 芝 2,000m

シンネン号キタサンバースデーの10) 牡 3歳

【 厩舎:浅見 秀一(栗東) 父:ステイゴールド 北海道セレクションセール購買 】

 なお2012年のブリーズアップセール取引馬の個別成績はこちらをご覧ください。

ヴァイタルウォーク(宮崎)

 北海道では恒例の札幌雪祭りが開催されるこの時期。全国的に寒い日が続いていますが、南国の地 宮崎では2月とは思えないような暖かく過ごしやすい日々が続いています。2013年に入り、最高気温が10℃を下回ったのはわずか数日、全国的に暖かくなった24日には最高気温が23℃まで上昇しました。

 今春、宮崎県ではプロ野球5球団のキャンプに加え、WBC日本代表(侍ジャパン)の春季合宿も行われます。サッカーJリーグのキャンプまで含めると実に26チームが宮崎県内でキャンプを行う予定で、温暖な宮崎の気候がアスリートの調整に適していることを証明しているのではないでしょうか。育成馬たちも温暖な気候の中、青々とした生牧草を頬張りながら今夏のデビューに向けた鍛錬に励んでいます。キャンプの見学などで宮崎にお越しの皆様、宮崎育成牧場に立ち寄られてはいかがでしょうか。毎週土曜日には調教公開も行っています。是非お越し下さい。

Photo

【写真1】:雨上がりの育成厩舎。「空が広い」宮崎では綺麗な虹のアーチを見ることができます。

 現在22頭すべての育成馬が順調に調教を消化しています。先月から本格化した1600m馬場の調教ですが、現在は内馬場(500m馬場)でのウォーミングアップ後、1600m馬場に入り1200mのキャンター2本(ベーススピードは1ハロン20秒程度)を実施しています。週2回程度行うスピード負荷日(2本目をハロン17程度)でも、調教後の息遣いもスムーズでまだまだ物足りない顔をしている馬もおり、今から楽しみが尽きません。

Photo_3 Photo_4

【写真21600m馬場で併走の練習を行う2頭。外(右)が青森産馬グランドアピアの11(牡:父キャプテンスティーヴ)、内(左)が九州産馬マヤノビジューの11(牡:父ケイムホーム)。この日の調教タイムは、最後の3Fが20.1-18.3-17.2/Fでした。

 JRAの両育成牧場では、調教後のクーリングダウンを「ヴァイタルウォーク(Vital Walk)」で行えるよう常に意識しています。ヴァイタルウォークとは、全身を使った闊達な常歩のことをいいます。JRA競走馬総合研究所のデータによりますと、ヴァイタルウォークを行った際、通常の常歩を行う場合の心拍数と比較して約1014拍/分も上昇します。これは同じスピードで3%の坂道を上っているのと同じ負荷に相当するそうです。時間をかけた速い常歩、すなわちヴァイタルウォークは結構な運動量になることがわかります。調教終了後の育成馬をのんびりとした常歩でリラックスして歩かせてあげたい、とも思いますが、ヴァイタルウォークを行う有益性を考えると馬たちには頑張ってもらわざるを得ません。

 宮崎育成牧場では、今年からヴァイタルウォークを実践するためクーリングダウンを行う際に常歩のタイム測定をしています。1600m調教馬場の裏手にある杉林にスタート地点とゴール地点を決め、この常歩区間をどの馬が最も早く歩くことができるかを競い合います。測定タイムは職員皆の目に触れるところに貼り出し、競争心を煽ることで馬を早く歩かせる、すなわちヴァイタルウォークを誘起します。開始前の平均タイムが340秒程度、現在は同じ距離を310秒程度で歩けるようになりました。ブリーズアップセールに登場する頃にはヴァイタルウォークが身についた馬に育っていて欲しいものです。

 

Photo_2

【写真3】調教が終わり、杉林でヴァイタルウォークに励む育成馬たち。ついて歩く調教監督者も汗をかくほどのスピードで歩けるようになりました。

 さて、「魅せる育成」に取り組んでいる宮崎育成牧場ではこれまで、「一般の方々向けの育成馬見学会」や毎週土曜日に1600m馬場での調教をご覧頂く「調教公開」などを実施してきました。これらは地元宮崎の方々に育成馬やその調教風景を見学していただく機会を設け、育成牧場の業務内容を披露することで競馬やJRA育成馬に対する更なる興味を喚起することを目的として実施しています。

 29日(土)には宮崎育成牧場で初の試みとなる「調教見学会」を開催しました。過去の見学会に来場されたお客様を招待して、調教やウォーキングマシン運動、ゲート練習の様子をはじめ、馬房で過ごす育成馬の素顔など普段見ることのできない「バックヤード」部分についてもご紹介しました。来場された23名のお客様は、調教担当者の解説を聞きながら真剣な眼差しで調教に臨む育成馬たちをみておられました。短い時間ではありましたが、これから活躍が期待される若きアスリートの姿を見てお楽しみいただけたものと思います。

 今後とも、ウインズ宮崎に来場された皆様や育成牧場に遊びに来られた方々に育成馬を披露する機会を定期的に設け、育成馬の成長する様子を楽しんでいただける環境を作っていきます。これらの機会を通じて育成馬に興味を持っていただくことで競馬が好きになり、競馬産業の裾野が少しでも広がることこそが、私たち宮崎育成牧場職員の願うところです。

ベストターンドアウト賞(日高)

  前号では、今冬の12月の北海道の降雪の多さについて触れましたが、年が明けて最も寒さが厳しくなるといわれている小寒から大寒にかけての期間は、一転して寒さが和らぎ、1月下旬にしては珍しい降雨を認めました。2月に入っても冷え込みが厳しい日は少なく、このまま春を迎えるのではないかと思わせるほどです。

 BTC育成調教技術者養成研修生

 本年も小寒の頃の恒例行事となっているBTC育成調教技術者養成研修生の騎乗実習が始まりました。本年の研修生は19名で、49日(火)に予定されている育成馬展示会までの約3ヶ月間、67名ずつの3班に分かれ、1週間交代でJRA育成馬を活用した騎乗実習を行います。騎乗実習開始時には初めて騎乗する若馬の動きに対応しきれないことも少なくありませんが、卒業後のそれぞれの進路に向けたモチベーションによって著しい成長を成し遂げる姿を見守ることは、我々にとって楽しみのひとつになっています。将来、研修生たちが育成牧場の最前線で仕事をする際に、この騎乗実習で得た経験が役立ったと思えるようにサポートしたいと思っております。

 また、育成馬も騎乗馴致から関わってきた担当者以外の騎乗者に騎乗されるという経験を積むことができます。これによって特定の騎乗者に関わらず、騎乗者自体をリスペクトしているかどうかを確認することができます。この経験を乗り越えることにより、馬自身のキャパシティーが上がることも期待できるために育成馬の成長にも役立っています。

 

Btc

  BTC研修生(2および4番手がBTC研修生)の騎乗実習が始まりました。先頭からボンビバンの11(牡 父:マンハッタンカフェ)、オンワードシルフィの11(牡 父:ケイムホーム)、シルバーインゴッドの11(牡 父:アドマイヤジャパン)、マチカネアオイの11(牡 父:ヴィクトリー)、ガクエングレイスの11(牡 父:チチカステナンゴ)。

●育成馬の近況

 JRA育成馬の調教は、1月に入り徐々に本格化してきました。12月までは騎乗馴致を開始した順番にグループ分けしていましたが、1月からは騎乗馴致の開始時期に関わることなく、牡および牝の2群に分けて調教を実施しています。

800m屋内トラックでは1列縦隊で1周もしくは2周駆歩(ハロン24秒まで)を行った後に、2頭併走で2周駆歩(ハロン22秒まで)の計2,4003,200mの調教をベースに、週2回は800m屋内トラックで1列縦隊での2周駆歩(ハロン22秒まで)を行った後に、坂路での調教(ハロン19秒まで)を実施しています。坂路調教を開始した12月上旬には、坂路を1本駆け上がるのが精一杯でしたが、この2ヶ月で体力も向上し、ステディキャンターのスピードも上がり、坂路調教後もすぐに息が入るようになってきました。また、牡馬では余裕が出てきてやんちゃな素振りを見せる馬も出てきました。

一方、牝馬は調教強度の増加に伴い、特に繊細な馬では飼葉を残すなど精神面のストレスを受けているようにも見受けられるため、今後の強調教の実施に際しては、肉体面のみならず精神面のコンディションに注意を払わなければならないと考えています。前号での①前に(Go forward②真っ直ぐ(Go straight③落ち着いて(Go calmly走行させることが競走馬の礎であるということを肝に命じて調教を進めていきたいと考えています。

1月最終週の牡(前半の角馬場での速歩から坂路調教まで)および牝(後半の角馬場での速歩から坂路調教まで)の調教動画。ステディキャンターのスピードも上がり、体力の向上が見られます。※なお、ゼッケン番号とブリーズアップセール番号は異なりますので、ご注意ください。

●育成馬検査

1月下旬に育成馬検査が実施されましたので、少し触れてみたいと思います。育成馬検査とはJRA生産育成対策室の職員が日高育成牧場で繋養している育成馬を第三者の視点から、市場での購買時からの馬体の成長具合、現在の調教進度、馬の取り扱いなどをチェックし、ブリーズアップセール上場に向けての中間確認を行う検査のことです。この検査に備えて、年明けからは日頃にも増して馬の手入れに時間をかけ、タテガミや尾のトリミングにも取り組んできました。

検査は2日間かけて行われ、2日目は雪が舞う中の検査となりましたが、第3者に見られるという緊張感のなか、育成馬の展示が行われました。育成馬の検査のみならず、手入れ、トリミング、しつけ、さらには騎乗時のプレゼンテーションも含め、最も手入れが行き届き美しく仕上げられた馬および担当者に贈られる“ベストターンドアウト賞”、また、検査時の展示の仕方が優れた者に贈られる“ベストハンドラー賞”の審査も同時に行われ、2頭の最優秀馬と1人のベストハンドラーが選ばれました。

Photo

雪が舞う中、実施された育成馬検査の様子。今回は“ベストハンドラ―賞”も新設され、緊張感が漂う中、セール本番さながらの展示が行われました。

Photo_3 

“ベストターンドアウト賞”の審査で最優秀馬に選ばれたケイアイリュージンの11(写真左 牡 父:ディープスカイ)とラインクリスタルの11(写真右 牡父:アグネスデジタル)。

今回の検査を通して、日常では見落としていた指摘を受け、個々の馬の発育および調教進度状況を再認識することができました。また、423日(火)に開催されるブリーズアップセールおよび49日(火)に開催される育成馬展示会のためのみならず、馬主、調教師、牧場関係者などのお客様の来場に備えて、馬を展示し、見て頂くという姿勢を再確認する機会にもなりました。浦河にお越しの際は、お気軽にご来場いただき、JRA育成馬をご覧いただきたいと思っております。

活躍馬情報(事務局)

  先週日曜日の中京競馬5R(3歳未勝利)におきまして、JRA育成馬シンネン号が優勝しました。同馬は日高育成牧場で育成調教され、昨年4月に開催されたブリーズアップセールにて取引された馬です。

  また、当セールで取引された育成馬は、11頭(新馬戦優勝4頭含む)が勝ちあがりました。今後のますますの活躍を期待しております。

201302035r

2/3 1回中京競馬6日目 第5R 3歳未勝利 芝 1,600m

シンネン号(キタサンバースデーの10) 牡 3歳

【 厩舎:浅見 秀一(栗東) 父:ステイゴールド 北海道セレクションセール購買 】

  なお2012年のブリーズアップセール取引馬の個別成績はこちらをご覧ください。