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育成馬ブログ 生産編⑧「その3」

難産症例 -両臀部屈曲位(ドッグ・シッティング)-

 

前回までの説明を踏まえたうえで、

日高育成牧場で発生した難産症例について紹介します。

  

本症例は胎子の姿勢異常(両臀部屈曲位)により難産を呈しましたが、

病院への輸送タイミングを逸したため、残念ながら胎子が死亡した事例です。

 

なお、母馬は9歳のサラブレッドで産歴5頭、

これまでの出産では大きなトラブルは認められませんでした。

 

経過

14:00     放牧地にて陣痛を認めたため、集牧し馬房内で様子を見る。

15:00     破水するが尿膜水量は少なく、足胞は現れない。

15:50     再び尿膜水が排出される。羊膜が現れるが、直後に膣内に戻る。

5分後に羊膜が再度現れるが、胎子の蹄は確認できず。

その後も横臥と起立を繰り返すが娩出は進まない。

16:40     最終的に娩出できず、胎子は死亡。

          

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2回目の破水後に現れた羊膜(左)正常な足胞(右)

 

 

 

胎勢

 

本症例は、両臀部が屈曲するとともに、

後肢の蹄が骨盤上口に固定されている

「両臀部屈曲位(ドッグ・シッティング)」とよばれる異常胎勢でした(下図左)。

 

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両臀部屈曲位(ドッグ・シッティング)(左)分娩時の正常な胎子(右)

  

この場合、胎子の前半身のみが部分的に娩出されますが、

それ以降は怒責によっても娩出されません。

 

このため、本症例のように分娩に時間がかかっている場合は、

これを疑う必要があります。

なお、産道保護のため、

頭部、両前肢および胸部が正常に触知できたとしても、

無理な牽引は禁忌とされています。

  

多くの場合は、病院における全身麻酔下での仰臥位での整復

あるいは帝王切開が適応されます。

もし、胎子を子宮内に押し戻すことが可能であれば、

骨盤上口に固定された蹄をはずすことで整復できますが、

娩出動作によって産道に子馬がきつく押し込まれている場合には

極めて困難です。

 

ある調査によると、

両臀部屈曲位はのべ517回の分娩中に2回(発生率0.38%)

認められたということです。

  

本症例で認められた分娩時の異常所見をまとめます。

 

・破水後の尿膜水量が明らかに少ない。

・破水後から1時間近く羊膜が現れない。

・羊膜内に胎子の蹄が認められない。

・羊膜が現れた後も、スムーズに胎子が娩出されない。

  

これらのような分娩時の進行停滞や異常所見が認められた場合には、

躊躇せずに病院へ輸送すべきです。

  

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