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育成馬ブログ 日高⑥

育成馬の装蹄開始のタイミング

 

市場購買した1歳馬は、裸足、いわゆる

「跣蹄(せんてい)」の状態で入厩します。

その後、調教が進み、蹄が走行時の負担に耐えられなく

なってくると蹄鉄を装着します。

では、いったいどのタイミングで蹄鉄を装着するのが適切なのでしょうか?

 

1_3写真1 装蹄の様子

 

野生の馬は蹄を削切することも蹄鉄を装着することもありません。

それは彼らの運動量に関係しているのです。

競走馬や乗馬と比較して運動量が少ないため、

蹄が伸びた分だけ減ることで、バランスが保たれるため、

装蹄の必要がないわけです。

しかし育成馬は違います。

日々調教強度が増すとともに、蹄への負担は増加していきます。

蹄鉄には「滑走」および「摩滅」の防止という大きな役割があります。

運動時に跣蹄の状態で着地すると蹄が滑り、

蹄叉(蹄の裏の三角形の弾力装置、衝撃を和らげたり、

蹄の隅々に血液を送る重要な部位:写真2)に衝撃がかかります。

運動量が増えてくると蹄叉が絶えられなくなり、

中央部に横裂が生じます(写真2)。

このタイミングで装着すればまず問題はないでしょう。

この状態を見過ごすとやがて裂け目から出血し、

重度の場合には蹄叉欠損となり、調教は困難となります。

この兆候を見逃さず早めに蹄鉄を装着することが重要です。

 

Photo_2写真2 蹄叉の横裂

 

ほかにも蹄を曳きずったり、負重による摩滅を

削蹄で直しきれなくなった場合には早めの蹄鉄装着が必要となります。

当場では装蹄師による継続的なチェックを行うことで護蹄管理に努め、

必要に応じて前肢もしくは後肢のいずれか一方から、

もしくは最初から前後肢に蹄鉄を装着していきます。

2歳3月の現時点では、すべての育成馬に蹄鉄が装着されています。

蹄鉄を装着してからも蹄鉄の摩滅の具合は1頭1頭異なるため、

蹄鉄を装着したから大丈夫!ではなく、運動量とのバランスを

考慮しながら護蹄管理を続けることが重要といえるでしょう。

育成馬ブログ 生産編⑥(その2)

「交配誘発性子宮内膜炎」について

 

○治療の注意点

 

子宮洗浄および子宮収縮剤(オキシトシン、クロプロステノール)の

投与に関しては、治療のタイミングに注意が必要です。

どんなに早くても、交配後4時間以上経過してから治療を

行うようにしなくてはなりません。

なぜかというと、精子が受精する場である卵管内に到達するまでに

およそ4時間かかると考えられているからです。

その後であれば、子宮内に残った余分な精液は

本来繁殖牝馬から見れば異物であり、速やかに除去することで

炎症反応を抑えることができます(写真3)。

逆に、治療は遅くとも排卵の2日後までに行うようにしなくてはなりません。

理由は、受精卵が排卵5~6日後には卵管から子宮内に移動するので、

その前までに治療を終えておく必要があるからです。

 

Photo_5

写真3 交配4時間後以降に子宮洗浄を行い、余分な精液を除去

 

○交配翌日の経直腸超音波検査のススメ

 

交配翌日の経直腸超音波検査ですが、

上記のように排卵確認以外にも「交配誘発性子宮内膜炎」の

早期発見・早期治療につながるため、強く推奨されます。

たとえ期待通りに排卵が起こっていて卵管内で受精していたとしても、

子宮内に炎症があると着床が阻害され、

結果として「不受胎」となってしまう恐れがあります。

現在、hCGなどの排卵促進剤の使用が広く普及し、

交配翌日の検査を省略するというケースも散見されますが、

卵巣だけでなく子宮の状態を確認するためにも、

交配翌日の経直腸超音波検査をオススメします。

 

(おわり)

育成馬ブログ 生産編⑥(その1)

「交配誘発性子宮内膜炎」について

 

「交配誘発性子宮内膜炎」とは

 

そもそも「子宮内膜炎」とは文字通り繁殖牝馬の子宮内に炎症が起き、

受胎率が低下するやっかいな病気の一つです。

一般的には細菌や真菌(カビ)などの感染が原因で起こることが

知られていましたが、近年必ずしも感染が原因とは限らず、

交配(種付け)後の精液に対する過剰な免疫応答や子宮機能の低下により

精液の排出が上手くいかないことが原因で起こる子宮内膜炎が

存在することが明らかとなっています。

前者を「感染性子宮内膜炎」、

後者を「交配誘発性子宮内膜炎(Breeding Induced Endometritis

もしくはPost-Mating Induced Endometritis)」

と呼んで区別することが提唱されています。

 

診断と治療のポイント

 

交配の24時間後に排卵確認を兼ねて経直腸超音波検査を行い、

子宮内の状態を観察します。

そこで、子宮内貯留液が2cm以上認められる場合(写真1)、

もしくは炎症反応が8時間以上持続する場合、

「交配誘発性子宮内膜炎」と診断されます。

ここで綿棒によるぬぐい液検査(子宮内スワブ検査)を行っても、

細菌が検出されないことが「感染性子宮内膜炎」との違いです。

 

Photo_2写真1 種付けの24時間後に子宮内貯留液が2cm以上認められる

 

治療にはコルチコステロイド製剤(デキサメサゾン、プレドニゾロン)の

全身投与、子宮洗浄、子宮収縮剤(オキシトシン、クロプロステノール)の

投与などがあります。

「交配誘発性子宮内膜炎」には同じ馬が毎年繰り返して発症するという

特徴があるため、過去に同病を発症したことのある繁殖牝馬に対しては

炎症を抑えるためアセチルシステインを

交配前に子宮内に注入するという方法もあります(写真2)。

 

Photo_3写真2 交配前にアセチルシステインを子宮内に注入

 

(つづく)

育成馬ブログ 宮崎⑥

○育成馬調教見学会の開催(宮崎)


少しさかのぼりますが、2月中旬にNHK「ひるブラ」が

宮崎育成牧場から生中継されました。

ご覧になられた方はいらっしゃいますか?

全国の皆様には、晴天の下で宮崎育成牧場を

ご覧いただきたかったのですが、

残念ながら雨が降りしきる中での中継となってしまいました。

しかし、育成馬の調教から乗馬の障害飛越、ポニー演技、そして馬車まで

「“馬のテーマパーク”を楽しもう!」というテーマに沿って、

ゲストの西村和彦さんと武本アナに魅力的にご紹介いただきました。

傘に驚きやすい馬のことを第一に考えて、

強雨にもかかわらず、リハーサルから本番まで傘をささず、

フードも被らずレインコートのみでズブ濡れになりながらも、

笑顔で対応していただきました西村和彦さんと武本アナに

この場をお借りしてお礼申し上げます。

 

Photo_2写真① 宮崎育成牧場のアイドルポニーと

「ひるブラ」のゲストの西村和彦さん(左)と武本アナ(右)

 

 

●育成馬の近況


さて、宮崎育成牧場のJRA育成馬22頭は、

4月25日(火)にJRA中山競馬場で開催される

ブリーズアップセールに向けて調教メニューをこなしています。

500mトラック馬場では、速歩2周の後、

直線はキャンター、コーナーは速歩という調教を

左右両手前で3周ずつ実施しています。

500mトラック馬場での調教は、ウォーミングアップとしての目的が

あることはもちろん、スピード調教を繰り返していくと、

ハミにかかる傾向が強くなるのを改善する目的もあるため、

ハミを必要以上に取らずに、馬自身のバランスで

走行させることを主眼に置いて実施しています。

一方、調教のベースとなる1600m馬場では、

1列縦隊で20~18秒/ハロンのペースでの2000mの

ステディキャンターを基本調教として実施しています。

週1回のスピード調教では、1200mを2本走行させる

インターバルトレーニングを実施し、2本目に3ハロンを

42~45秒(ハロン14~15秒)程度で走行しています。

 

Photo_3写真② 週1回実施している牡馬の強調教時の様子。

内:上場番号16番コスマグレースの15(牡 父:ブラックタイド)、

外:上場番号25番クリアムーブメントの15(牡 父:パイロ)。

 

 

●育成馬調教見学会

 
ここからは、2月18日(土)に開催いたしました

「育成馬調教見学会」についてご紹介いたします。

この見学会は、地元の一般来場者の方々が、

育成馬の疾走する姿を間近で見ることができるイベントです。

毎年10月と3月に開催している立ち馬展示をご覧いただく、

「育成馬見学会」とともに、

宮崎の地で成長していく育成馬の姿を間近で見て、

少しでも身近に感じていただくことを趣旨に実施しています。

 

 

Photo_4写真③ 育成馬調教見学会には200名を超えるお客様に

お集まりいただきました

 

当日は天候にも恵まれたため、

200名を越えるお客様にご来場いただきました。

見学場所としていた診療所建物の2階だけでは収容しきれず、

1600m馬場柵沿いも開放したため、

来場いただいたお客様にはより間近で調教する姿を

見ていただくことができました。

ご参加いただきました方々には、この紙面をお借りして、

改めてお礼申し上げます。

 

 

動画 2月18日に行われた調教見学会の調教の様子

育成馬ブログ 日高⑤

○ 騎手課程生徒の研修を行いました(日高)

 

関東地方で春一番が吹いた2月17日。

日高育成牧場のある浦河町でも最高気温が

7度まであがり春を感じさせましたが、

その後は気温が急降下して20日夜には猛吹雪となりました。

景色は一気に冬に逆戻りしましたが、

この時期の気象の乱高下は毎年のことです。春は確実に近づいています。

 

1

写真① 一気に冬景色へと逆戻りした日高育成牧場の育成厩舎

 

 

●競馬学校騎手課程生徒の研修

 

今年も2月8日から5日間の日程で競馬学校から

騎手課程生第34期生が来場し、生産地研修を行いました。

馬産地日高で毎年行われるこの研修では、

生産牧場や種馬場の見学や普段彼らが

騎乗しない若馬(JRA育成馬)の調教騎乗を行います。

自分の目で生産地を見ると同時に、

生産・育成に携わり馬を育てている人々から

直接話を聞くことで、将来レースで騎乗する

競走馬達が背負っている“様々な思い”を

感じてもらうことが目的です。

競馬学校の基礎訓練を修了し、

美浦・栗東の両トレーニング・センターで

競走馬に騎乗する実践課程に進んだ彼らも、

若馬の取り扱いには慣れていません。

研修期間中は1人平均12鞍(3日間)に騎乗しました。

騎乗を重ねるごとに肩の力が抜け、

最終日には育成馬と一体になって

伸び伸びとした動きを見せてくれました。

 

●育成馬の近況

 

育成馬の調教メニューは前回ご紹介した内容から変わらず、

週2回(火曜日・金曜日)の坂路調教を行っています。

今回は騎手課程生徒が騎乗した、

調教中の様々なシーンを紹介します。

毎日の調教は角馬場でのウォーミングアップから始まります。

体をほぐして調教の準備をすると同時に、

獣医師・装蹄師・騎乗者という3者による

歩様検査をして馬の状態を確認します。

 

 

 

動画① 騎手課程生徒は赤白の染め分けヘルメットを被って騎乗します。

まだ少し緊張がみられます。

 

 

JRA育成馬のメイン調教場である800m屋内トラックです。

動画は2本目のキャンター調教で、

2列縦隊で走行するところです(1本目は縦列で実施)。

砂をかぶってもひるまず、前後左右の馬に気を取られることなく、

騎乗者の指示に従って走行することが目標になります。

 

 

動画② 3名の生徒が騎乗し、綺麗な隊列で走行しています

 

 

最後の動画は1000m屋内坂路馬場で、

ラスト3ハロンを57~54秒で駈け上がるところです。

馬場の中央を一列で走行し、

先頭の馬は真っ直ぐ同じペースで走りぬくことを、

後続馬は走りたい気持ちをためて、前を走る馬の

キックバック(前の馬が走行中に巻き上げるウッドチップなど)

に怯まないことを教えます。

 

動画③ 騎手課程生徒は先頭・後続など様々なポジションで騎乗しました。

1組目の先頭は山田敬士君が騎乗する

ゴートゥザノースの15(牝、父:バゴ)、

2組目の先頭は木村和士君が騎乗する

ロゼットネビュラの15(牝、父:エンパイアメーカー)。

 

 

彼らが生産地研修で得た経験を活かして、

競馬ファンの皆様や競馬サークルの皆様に

愛される騎手として将来活躍してくれることを期待しています。

さて、今回の報告は以上です。

今年のJRAブリーズアップセールは4月25日(火)に

中山競馬場で開催されます。

今いる育成馬と私たちが共に過ごせる時間も

あと2カ月弱になりました。

限られた時間に何ができるか、デビューしてから悔いが残らないよう、

しっかり考えながら毎日馬と向き合っていきたいと思います。

育成馬ブログ 生産編⑤(その2)

白線裂の治療と予防

 

白線裂による蹄感染症の治療は

主に疼痛管理と膿瘍除去になります。

教科書的には全身投与の抗炎症剤や

抗生物質の投与が推奨されています。

しかし、場合によっては

投与によって治癒が遅延することもあるため、

実施のタイミングなどについては議論の余地が残されています。

 

最終的に膿瘍が消失することで疼痛が緩解するため、

蹄底に穴をあけて強制的に排膿させることもできますが、

膿瘍形成部位の特定が困難であることが多く、

穴をあけることによって、

かえって跛行を悪化させる場合もあるため、

あまり推奨されません。

 

蹄冠部などの柔らかい部分からの

自然排膿を促すことを目的とした湿布処置、

神経ブロックによる麻酔処置後の

ランジング運動などが場合によっては有効です。

 

1_2

  自然排膿を促すことを目的とした湿布処置

 

 

予防としては、蹄を清潔に保持するための洗浄、

過度な乾燥を防ぐための蹄油塗布に加えて、

白線裂が見つかった場合、

進行を防ぐための括削や消毒(パコマなどの逆性せっけんが有効)

などがあげられます。

 

白線裂についても、

他の疾病や怪我と同様に

「早期発見、早期治療」が極めて重要です。

軽症例に対して、

括削や消毒などの処置を速やかに実施することによって、

重症例、ひいては感染症を予防することが可能となります。

 

当場では、子馬全頭に対する蹄洗浄および蹄油塗布、

さらに、白線裂の発症部位に対する

括削および消毒を実施しています。

これによって、白線裂の発症および進行を防いでいます。

 

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白線裂の進行を防ぐための括削

 

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白線裂の予防および治療で実施している蹄洗浄、消毒、蹄油塗布

 

Photo

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

JRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。

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育成馬ブログ 生産編⑤(その1)

冬期の子馬の蹄のケア ~白線裂~

 

当場では、当歳から1歳にかけての冬期も昼夜放牧を実施しています。

冬期の昼夜放牧のメリットとして、

馬本来の生活形態である「群れ」で

多くの時間を過ごすことによる精神的な安定、

屋内で長時間繋養される場合と比較して

換気が良い屋外で過ごすことによる感染症予防などがあげられます。

 

デメリットとしては、

降雪による青草の摂取量減少、

運動量低下などがあげられます。

これらに対しては、

放牧地へのロール乾草設置や

ルーサンなどのコンパクト牧草を各所に散布、

ウォーキングマシンによる運動などの対策を実施しています。

 

一方、冬期の昼夜放牧による上記以外のデメリットとして、

蹄の感染症があげられます。

当場でも例年この時期は子馬の蹄感染症に悩まされています。

では、なぜこの時期に蹄の感染症が多いのでしょうか?

 

Photo

冬期放牧の悩みの1つは蹄の感染症

 

 

この時期の蹄感染症の原因の1つとして、

白線裂があげられます。

白線裂とは、

白線(蹄下面に見られる蹄底と蹄壁の境界。白帯ともいわれる)の

角質が腐敗あるいは崩壊することで、

蹄底と蹄壁が離開する状態です。

 

Photo_2

白線の構造(蹄底)

 

1白線の構造(矢状断面)

 

1_2

 

1_3 

Photo_3

(上)正常蹄  (中)軽度の白線裂 (下)重度の白線裂

 

 

冬期に白線裂の発症が多い原因として、乾燥した空気、

放牧地の地面の凍結および泥濘(ぬかるみ)などが考えられます。

これらによって、

蹄の角質が脆弱化して白線が腐敗・崩壊します。

人間でもこの時期の水仕事で

手指の肌荒れに悩まされるのと同様です。

 

1_4 水仕事による手指の肌荒れと同様、

冬期の地面の凍結や泥濘(ぬかるみ)が白線裂の要因

 

 

白線裂が悪化して蹄内部にまで空洞が拡張すると、

離開部位から細菌や真菌などが侵入することで、

蹄内部における感染が成立、

すなわち膿瘍が形成されることによる疼痛を伴う炎症がおこり、

跛行を呈します。

軽症例の場合には、

そのまま自然治癒することも多いのですが、

重症例の場合には放牧を中止せざるを得ませんし、

治癒に時間を要する症例も少なくありません。

 

1_5白線裂から細菌などが侵入し膿瘍を形成する。

 

(つづく)

2017JRAブリーズアップセール関連情報(事務局)

○上場番号が決定しました!!

2017JRAブリーズアップセールの上場番号が決定いたしました。

以下のリンク先、JRAホームページ上で公開しておりますのでご覧ください。

   http://jra.jp/training/bus.html

 

また、今後セールに関わる更新情報等がありましたら、

当ブログや上のホームページにて公開いたしますのでご確認ください。

今後ともJRAブリーズアップセールをよろしくお願いいたします!!