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育成馬ブログ 日高③

〇大腿骨遠位内側顆における軟骨下骨嚢胞について

 

 軟骨下骨嚢胞(subchondral bone cyst、いわゆる「ボーンシスト」、以下

SBC)は関節軟骨の下の骨が骨化不良を起こし発生する病変であり、遺伝、

栄養や増体率などの要因により、1~2歳の若馬の様々な骨に生じます。この

うち競走馬の育成に問題となるものとして、大腿骨遠位内側顆のSBCがあげら

れます。日高・宮崎両育成牧場では研究の一環として、毎年秋と春に育成馬の

膝関節のX線検査を行い、この病変の発生状況を調査しています。

馬の膝関節は図1の骨標本に示す位置にあり(図1)、SBCはX線写真では透亮

像(黒く抜けた所見)として認められます(図2)。

  1図1.馬の膝関節の位置

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図2.左:症例のレントゲン像 右:正常像

 

この病変は図3のとおり大きさと形状によって4つのグレードに分けられます。

図3.SBCグレードごとの形状と大きさ(出典:Santschi et.al, 2015,

Veterinary surgery, 44(3), pp281-8 )

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グレード1: 極わずかな軟骨下骨の窪み
グレード2: ドーム状の軟骨下骨の窪み
グレード3: ドーム状のX線透過部位を有する嚢胞
グレード4: 円形・釣鐘状のX線透過部位を有する嚢胞

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図3.膝関節部を後ろから撮影した像

 

 SBCグレードは数値が高くなるに従い、予後が悪くなる傾向にありますが、

X線検査で大型(直径10mm以上)のSBCが確認された1歳馬において、跛行を

示したのは2割以下であり、SBCを確認した馬が必ずしも跛行を呈するわけでは

ないとの報告もあります(妙中ら, 2017, 北獣会誌, 61, 207-211)。

 症状を伴わない場合は治療を行う必要はなく、調教を進めることができます

が、跛行する場合の治療の選択肢としては、①関節内へのステロイド注入、

②関節鏡下での掻爬術、③螺子挿入術(図5)が挙げられます。①のステロイ

ド注入はエコーガイドもしくは関節鏡下でSBC内にコルチコステロイドを注入

する治療法で、SBC内および関節面の消炎作用を期待して行います。②の関節

鏡下での掻爬術はSBCの変性した軟骨を取り除き掻爬することで、健常な軟骨

下骨および関節軟骨の再生を促す治療法です。③の螺子挿入術はSBCを跨ぐよ

うにして螺子を挿入することで固定・補強する治療法です。

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図5-①.ステロイド注入

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図5-②.掻爬術

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図5-③.螺子挿入術

 

 上述したSBCの治療法は一定の効果は認められているものの、ステロイド注

入法では2ヶ月、掻爬術では6ヶ月、螺子固定術では2ヶ月の休養が必要とされ

ます(Kawcak, 2011,  ADAMS&STASHAK’S LAMENESS IN HORSES

SIXTH EDITION, pp801-4およびSantschi et.al, 2015, Veterinary

surgery, 44(3), pp281-8 )。また、SBC自体に未解明の部分が多いため、

確実な治療法としては確立していません。そのため、日高・宮崎両育成牧場で

は、発症時期、原因、跛行との関連性および病変と競走成績の関連性を明らか

にするとともに、治療を含めた管理方法の確立を目指して研究を継続します。