育成馬ブログ(日高①)

1歳馬と当歳馬、それぞれの移動

 ○ 1歳馬の入厩

 
今年もセプテンバーセール(9/21~22開催)でJRA育成馬の1歳市場での購買も終了し、日高育成牧場への育成馬の入厩も完了しました。

今年も各市場の取引成績は好調で、JRA育成馬の主要な購買市場であるサマーセール(8/23~27開催)では売却率は2年連続75%を超え、平均価格も2年連続700万円に迫っており(昨年693万円、本年688万円)、生産者や販売者にとって良い流れが続いています。さらにセプテンバーセールも高い売却率を維持しており、関係者からはコロナ禍でも競馬開催を継続できていることへの感謝の声も多く聞かれ、改めて競馬開催の重要性を認識させられたセリでもありました。
購買する立場としては、狙った馬が思うようにセリ落とせず苦労しましたが、本年も予算の範囲内で良質な馬74頭(九州1頭、八戸4頭、セレクション12頭、サマー47頭、セプテンバー10頭)を購買することができました。

サマーセールから数日後の9月1日には、サマーセールで購買した育成馬54頭のうち45頭が日高育成牧場に入厩してきました(9頭は宮崎育成牧場に入厩)。

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写真1) 装蹄師による入厩時の肢蹄検査

 

例年と同じく、飼養者の方々に当場まで輸送していただきましたが、一日に多頭数の馬を迎え入れることから混雑しないように牡牝の入厩時間を分けて行いました。入厩時には獣医師・装蹄師による馬体検査や体重測定を行い、飼養管理方針の確認を行いました。また、多様な飼養者のもとから移動してくることから、病歴やウォーキングマシンの使用歴、駆虫・ワクチン接種歴、放牧の方法などこれまでの飼養情報を入手しておくことで、環境変化時のトラブルに対応するようにしています。入厩してきた馬たちがこれから始まるトレーニングでどのように成長するのか、今から楽しみです。

 

○ 当歳馬の移動

 
移動したのは1歳馬ばかりではありません。8月下旬に離乳を終えたばかりの当歳馬(JRAホームブレッド)も、昼夜放牧を行うためさらに広い放牧地への移動を行いました。
日高育成牧場内の移動ではあるものの5㎞ほど離れた分場への移動ですので、馬運車を使っての移動です。短い距離ではありますが、生まれて初めての馬運車。当歳馬の小さなお尻が並んでいる姿はかわいらしいですが、昼夜放牧で逞しく成長してくれることを期待しています。

Photo_5写真2) 初めての馬運車

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写真3) 昼夜放牧中の当歳馬

育成馬ブログ(生産①)

JRAホームブレッドの生産履歴

 

○通算100頭目のJRAホームブレッド

 秋になり本年生まれた当歳馬たちも離乳の時期が近づいてきました。JRA日高育成牧場で生まれた100頭目のホームブレッドとなるユッコ2021(父:クリエイターⅡ)も、離乳に備えているところです(写真1)。今回はこれまで生産してきたJRAホームブレッドの生産履歴について、振り返ってみたいと思います。

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写真1 100頭目のJRAホームブレッドとなるユッコ2021(父:クリエイターⅡ)

 

○受胎から出産までの損耗率

 2009年から生産を始めたJRAホームブレッドが通算で100頭となったわけですが、受胎した馬がすべて無事に生まれてくるわけではありません。表1は、2009年から2021年までの13世代で受胎した111頭の中で、出産までに胎子が失われた件数を示しています。早期胚死滅や流産などが発生し、損耗率は9.9%でした。受胎馬の損耗率は13.8%【イギリス】(Rose, 2018)、14.7%【日高地方】(Miyakoshi, 2012)などの報告があることから、JRAホームブレッドの生産では損耗率を抑える管理ができているものと考えられます。損耗の原因の中で、その半数近くが胎齢約40日以内の喪失として定義される早期胚死滅が占めていました。胎子の喪失の中で、胎齢39日までの発生が55%、胎齢49日までの発生が75%を占めるという報告もあります(Bain, 1969)。これらの事実からも、早期胚死滅を防ぐ管理を行っていくことが、損耗率を低下させるためには非常に重要であることが示唆されます。早期胚死滅の発生率は加齢と共に上昇することが知られています(Miyakoshi, 2012)。このことから、繁殖成績(産駒の競走成績)の芳しくない高齢の繁殖牝馬は、更新することを検討すべきかもしれません。

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表1 JRAホームブレッドの受胎から出産までの損耗率
(2009~2021年生まれの13世代)
  

○子馬の性別、出生時体重、妊娠期間

 表2は子馬の性別、出生時体重、妊娠期間についてまとめたものを示しています。牡とめすの比率は、遺伝法則に従ってほぼ半分半分という結果になっています。年によっては片方の性別に偏り、離乳後の集団管理に支障が生じることもありましたが、長期的には比率が収束していくようです。子馬の出生時平均体重は53.2±6.7 kgでした。最大は66 kg、最小は29 kgとなっています。最小体重で生まれた子馬は、母馬が慢性的な蹄葉炎を患っていたために虚弱状態で生まれました。乳母により育てられることになりましたが、最終的には競走馬になっています。

 平均妊娠期間は341.6±8.8日であり、最大363日、最小318日でした。いろいろな文献によって値が多少変わりますが、320~360日の間が正常の妊娠期間と考えられています。教科書では305日未満に生まれた子馬は生存できない状態であると言われており、320日未満に生まれたものは未熟な状態として定義されています。320日未満で生まれた馬は1頭いましたが、出生時の状態に問題なく、最終的に競走馬となりました。一方、360日を超えて生まれた馬も1頭でした。牛では妊娠期間が長くなると胎子が巨大化して難産の発生率が高まることが知られていますが、馬においては問題ないと言われています。363日の妊娠期間であったこの馬は、初子であったこともあり、出生時体重が43 kgでした。妊娠期間を決めるのは胎子の成熟度であると考えられており、当然個体差があります。分娩予定日は排卵日から340日後として設定されることが多く、その日から大きく外れると不安になることと思いますが、妊娠期間よりも出生後の子馬の状態を見極めることの方が重要であると考えられます。

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表2 子馬の性別、出生時体重、妊娠期間

 

 ○受胎からBU上場までの損耗率

 前述のように、受胎から出産までに約1割が損耗しますが、生まれてからも競走馬になれない馬が残念ながらいます。現在までのところ、2019年生まれの馬までがブリーズアップセール(BU)に上場されて売却されています。表3は受胎からBU上場までの間の損耗率を示しています。胎子喪失に加え、当歳時に死亡してしまったり、育成期の病気や怪我によりBUセールを欠場してしまったりした結果、損耗率は30%となっています。

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表3 JRAホームブレッドの受胎からBU上場までの損耗率
(2009~2019年生まれの11世代)
  

 出生からBU上場までをみてみると、82頭生まれた中でBU上場まで至った馬は63頭ですが、欠場馬の中で5頭が二次売却を経て競走馬となり、合計68頭が競走馬となりました。つまり、約8割が競走馬となったことになります。2020軽種馬統計によると、2017年に日本国内で生産されたサラブレッドは7,083頭であり、競馬に出走した頭数は6,432頭でした。日本国内全体で生まれてから競走馬となる馬の割合は約9割となります。このように、出生した馬の中で1~2割の馬が競走馬になれないことになります。せっかく生まれた馬が競走馬になれない時には、非常に悔しい思いをしますが、多くの生産牧場の方々が同じ思いを抱いている現状があるようです。

 

○ヨシオ号がアイドルホースオーディションで第1位

 これまでの100頭の中で、最も獲得賞金が多いJRAホームブレッドはヨシオ号(2013年生まれ、父:ヨハネスブルグ、母フローラルホーム)となります。同馬は、2020年にオープン特別のジャニュアリーSを勝利し、現在までのところ1億5000万円以上の賞金を獲得しています。先日、JRA京都競馬場が実施した、アイドルホースオーディションでは、見事に第1位となりました(詳細はこちら)。応援していただいている多くの皆様に感謝申し上げます。

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写真2 ヨシオ号の軌跡

  

このように現在は立派な競走馬となったヨシオ号ですが、出産直後の母馬が「母乳分泌不足」となったため、乳母に育てられた過去があります。これは、母馬が初産であったため乳房が上手く発達せず、子馬を育てるのに十分な母乳が作れなかったことによるものです。ホルモン剤処置を受けた乳母の協力を得て育ったヨシオ号が、これほどまでの活躍をしたことには、感慨深いものがあります。詳細はこちらの記事()でご確認ください。今後も多くの皆様に応援していただけるような馬を生産していきたいと思います。

育成馬ブログ(2020年 生産⑤)

子馬を帯同しない種付けの影響

 

子馬を帯同しない種付けとは?
 JRA日高育成牧場では、子馬のいる繁殖牝馬に種付けする際に、子馬を種馬場まで連れて行かない形で種付けを実施しています。方法はいたってシンプルで、子馬を馬房に残すだけです。突然母馬がいなくなった子馬は、馬房内で寂しくて鳴いたり、不安から飛び跳ねたりすることもあるため、馬房の扉や裏戸をしっかりと閉めることや飼い桶や水桶などの突起物を取り外すことなどを確実に実施し、子馬が怪我をしない状況を整えることが重要となります(動画1)。

https://youtu.be/AQ9Twcc2Phk
動画1 種付けの際に馬房に残され子馬の様子

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 また、種付けから帰ってきた際にも、注意が必要です。種付けを終えて帰ってきた繁殖牝馬は興奮しており、哺乳にきた子馬を蹴って怪我をさせてしまう可能性があります(動画2)。それを防ぐために、馬房に戻ってきた繁殖牝馬と子馬をしっかりと向い合せ、慣れるまで待つことが重要となります。その後、繁殖牝馬を保持した状態で、子馬が問題なく哺乳したことを確認してから、繁殖牝馬を馬房に離します。このように、いくつかの点に注意を払えば、安全に実施することができます。JRA日高育成牧場では、種付けに出発してから帰ってくるまでの時間は約5時間ですが、これまで大きな事故が発生したことはありません。

https://youtu.be/83CbxSOF_GA
動画2 子馬を蹴ろうとする母馬

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 この方法の利点について考えてみると、馬運車に慣れていない子馬が暴れて、馬運車内で怪我をしてしまうことが防げます。また、母馬が種付けに行く時期の子馬はまだ免疫機能が低く、牧場外の環境に触れることで何かしらの疾病にかかる危険性がありますが、牧場に残しておくことでそのリスクをなくすことができます。さらに、副次的なメリットとして、輸送時に子馬を保定する人員を減らすことにもなります。

 一方で、一時的とはいえ、親子を引き離すことになりますので、親子双方にストレスがかかることが問題点としてあげられます。その結果として、子馬の健康状態や成長に悪影響を与える可能性も考えられます。また、先ほど述べたように馬房内の安全確保に努めたとしても、子馬が怪我をしないようにしっかりと監視する必要があります。(図1)。

 

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図1 子馬を帯同しない種付けの利点と問題点

 

子馬を帯同しない種付けの影響
 先ほど説明した問題点について、どの程度の影響があるのかを検討した結果がありますので、ここでご紹介したいと思います。まず、種付け時のストレスについて、血液中のコルチゾール値を指標として検討したところ、馬房に残された子馬が大きなストレスを感じていることが明らかとなっています。しかしながら、そのストレスは一過性のものであり、母馬が牧場に戻ってきて親子が再会した時点では、正常値に戻っていました。つまり、一時的には大きなストレスを感じるものの、その精神面への影響は長くは続かないものと考えられます。

 子馬の健康や成長といった身体的な影響については、子馬を帯同しない種付けをした群(5組)と種付けをしなかった群(母馬と離れた経験のない群)(4組)に分けて、比較・検討を行いました。それぞれの子馬で体重には個体差がありますので、各馬の1日あたりの増体重量を出生30日後から30日ごとに調べ、各群の平均を比較しています(図2)。もしも、身体面への影響があるとすれば、母馬が種付けを実施したあとの出生60日後以降において、増体量に差が出てくるはずですが、両群間に有意な差は認められませんでした。つまり、子馬を帯同しない種付けを行っても、その後の子馬の成長に大きな影響は認められないと考えられます。

 

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図2 子馬の1日あたりの増体重の比較

 

 以上のように、子馬を帯同しない種付けには、種付けに行く人員を削減できたり、子馬の感染症予防になったりといった、利点があることを説明してきました。さらに、問題点として懸念される、子馬の健康や成長に対する影響も、長期的には大きなものではないことも示唆されました。しかしながら、今回の記事は子馬を帯同する種付け自体を否定するものではありません。生産者の中には、いつでも親子が一緒にいた方が安心できると考える方もいるかと思います。

 

 アメリカのケンタッキーでは、種付けに行く時には子馬を帯同しない形が一般的です。さらに、輸送自体も輸送専門の業者が行い、牧場関係者すら帯同しない場合も多くあります。これは、生産牧場と種馬場が概ね1時間程度の圏内にあることが要因と考えられます。ヨーロッパのアイルランドでは子馬を帯同する種付けが一般的で、輸送も繁殖牝馬が繋養されている牧場のスタッフが行います。このように、牧場の考え次第で対応が異なるものであると考えられ、帯同するかしないかの正解はないと考えられます。今回の記事で興味を持った方が子馬を帯同しない種付けを検討していただければ幸いです。

育成馬ブログ(2020年 日高③-2)

JRA育成馬の近況 その2


今回の育成馬日誌では、現時点での坂路調教で目を引く動きをしている育成馬を紹介したいと思います。

【動画】
https://youtu.be/p31FhsAHRwI
(左)スノーボードロマン2019、(右)ジュエルメッセージ2019

スノーボードロマン2019 めす 父クリエイター 生産:JRA日高育成牧場(浦河)
JRAホームブレッド。兄2頭はいずれも2歳戦で勝ち上がり、1つ上の姉フレンドロマンも2歳9月の未勝利戦でクビ差2着と堅実で早仕上がりの血統。父がクリエイターで母系のスピードに持続力が加わった印象。
1月19日坂路コースの上がりタイム:3F41.3-26.0-13.4 乳酸値15.9mmol/L

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ジュエルメッセージ2019 めす 父ザファクター 生産:三石橋本牧場(三石)
父は新種牡馬ザファクター、2代母レディサファイアはロードカナロアの半姉。前進気勢が強く、坂路ではあえてウッドチップが深く負荷がかかる外側(動画では右側)を走行させることで、運動強度をコントロール。
1月19日坂路コースの上がりタイム:3F40.4-25.8-13.3 乳酸値15.7mmol/L

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【動画】
https://youtu.be/sugwHiPZ-Z8
(左)エポカブラヴァ2019、(右)マイネアンティーク2019

エポカブラヴァ2019 めす 父ザファクター 生産:谷川牧場(浦河)
父は新種牡馬ザファクター、半兄レッドゲルニカはバレンタインS(OPダ1400m)含め6勝を上げる。筋肉量が多くしっかりした馬体。普段は大人しいが、坂路では抑えきれないほどのスピードで駆け上がってくる。
1月19日坂路コースの上がりタイム:3F44.3-28.9-14.0 乳酸値15.2mmol/L

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マイネアンティーク2019 めす 父ロードカナロア 生産:今牧場(静内)
父ロードカナロア、母父サクラバクシンオー。全兄サンキューユウガは芝1200mで2勝を上げる快速馬。父系、母系いずれもスピードに優れている血統構成で、坂路での動きも上々。
1月19日坂路コースの上がりタイム:3F44.2-28.6-13.9 乳酸値14.9mmol/L

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【動画】
https://youtu.be/v4z2IEtolr4
レッドサーガ2019

レッドサーガ2019 牡 父プリサイスエンド 生産:大北牧場(荻伏)
父プリサイスエンド、母は芝1200mで、半兄レイデマーはダート1200mでそれぞれ勝っており、近親には熊本産の星ヨカヨカがいるスピード豊かな牝系。前進気勢が強く、他馬と併せるとヒートアップし易いため、坂路ではウッドチップが深く負荷がかかる外側(動画では右側)での単走で運動強度をコントロール。
1月19日坂路コースの上がりタイム:3F44.7-29.3-14.7 乳酸値13.5mmol/L

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【動画】
https://youtu.be/oglpHa4uf9Q
(左)ホクセツダンス2019、(右)ニシノツインクル2019

ホクセツダンス2019 牡 父ルーラーシップ 生産:日高大洋牧場(門別)
母はダート短距離を中心に6勝を上げてオープンまで上り詰める。母系を遡ると日本競馬の礎を築いた名牝シラオキに辿り着く。歩様に多少の緩さがあるため1月のこの時期にスピードが出るか半信半疑だったが、坂路では上がり3F40秒を楽に切ってきて、不安を完全に払拭してくれた。
1月19日坂路コースの上がりタイム:3F39.5-26.1-13.5 乳酸値18.6mmol/L

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ニシノツインクル2019 牡 父ストロングリターン 生産:松本牧場(三石)
母と半兄ニシノコデマリはいずれも芝1200mで2勝を上げているスピードが勝った血統。本馬は父よりも母父ヨハネスブルグが出た馬体と気性を持っており、早い時期からの活躍が期待できる。
1月19日坂路コースの上がりタイム:3F39.8-26.2-13.6 乳酸値18.1mmol/L

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これら以外にも、まだまだ期待が大きい育成馬が多数いますので、ブリーズアップセールを是非楽しみにお待ちください!

育成馬ブログ(2020年 日高③-1)

JRA育成馬の近況 その1

今回の育成馬日誌では、1月現在の日高育成牧場におけるJRA育成馬の調教の進捗状況をお伝えしたいと思います。

11月まで基礎体力をつけるメニューをこなしてきた育成馬は、12月に坂路とトレッドミルで強い負荷をかける調教を開始し、年末年始に一時的に楽をさせた後、1月中旬から強い調教を再開しています。

現時点での調教内容は、
・強調教は屋内ウッドチップ坂路とトレッドミルで実施。翌日はハッキングもしくはウォーキングマシンでの軽調教のみ。
・強調教の頻度は2週間に3回程度(中4~5日)で、乳酸値が10~15mmol/Lになる強度にスピードを設定。
・上記以外の日は、屋内800mダート馬場と屋内ウッドチップ坂路でF22程度のステディキャンター。距離は計2200~2400m。
・ステディキャンターの際は、縦列調教で馬と馬の間隔を1~2馬身。

このように、乳酸値10mmol/L以上の強い調教を行うことで有酸素運動能力の向上を図るとともに、若馬の馬体成長やメンタル面を注視して、各馬の運動負荷が可能な限り適切になるように調整しています。
例えば、調教後の乳酸値が15mmol/Lを大きく超えた場合、次回の調教は10mmol/L程度になるようにスピードを調整する。テンションが高く、坂路で簡単にスピードが出てしまう馬については、併走ではなく単走にして精神面のコントロールに努めるなど、個々の馬に応じたきめ細かいメニュー調整をしています。
また、ステディキャンターでは、前の馬との間隔を1~2馬身に詰めてキックバックに慣れさせるような調教も行っています。競馬で走行する際の「馬群」に順応させることが目的ですが、このような調教は若馬にとって体力向上と同等かそれ以上に重要と認識しています。

https://youtu.be/vkUohtLSTXU
坂路でのステディキャンター(F22程度のスピード)では、前の馬との間隔を1~2馬身に詰めてキックバックに慣れさせるような調教を行っています。

https://youtu.be/6nX46mb0xqw
トレッドミルでの強調教(アートオブビーン2019 父クリエイター めす)。乳酸値が10~15mmol/Lになる強度にスピードを設定。この馬の場合、この日は速度13m/s、傾斜6%で3分間のギャロップを実施し、調教後の乳酸値は13.8mmol/Lでした。

この時期になると、前進気勢があり、スピードを容易に出すことができる馬が頭角を現してきます。次回の育成馬日誌では、そのような馬についてピックアップして紹介したいと思います。お楽しみに!

育成馬ブログ(2021年 生産③)

冬期の成長停滞とその対策

全国的な寒波の襲来により、日高地方も平均気温が-10℃を下回る極寒の日々となっています。昨シーズンは積雪の少ない暖かい冬でありましたが、本シーズンはこれまでのところは例年並みの積雪の日々となっています。年が明けて1歳となった子馬たちも、このような厳しい寒さの中でたくましく育っているところです(写真1)。

1_2写真1.氷点下の中で日向ぼっこをする1歳馬たち

子馬の成長停滞
日高地方の厳しい寒さは子馬の成長にも大きな影響を与えることは、みなさまも実感しているところかと思います。当歳の春から1歳の春までの1年間にわたる馬体重の推移を図1に示しました。こちらのデータは2017年から2019年に生まれたJRAホームブレッド24頭のものを使用しています。春に生まれた当歳は、緩やかな曲線を描いて成長していきますが、最低気温が氷点下となってくる12月初め頃から成長の停滞が認められます。その後、寒さの続く3月末頃まで、仮想の成長曲線に比べて実際の成長曲線が大きく乖離していることがお分かりいただけると思います。

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図1.子馬の馬体重の推移

 さらに、寒さの緩和してきた4月以降についても、仮想の成長曲線に近い値まで戻るには約2か月かかっていることもお分かりいただけると思います。このような成長停滞は、成馬となった時の馬体重に影響を与える可能性が示唆されるだけでなく、DOD(発育期整形外科疾患)の発症にも大きく影響を与えています。そのため、この時期の成長停滞を予防することがとても重要となり、生産牧場の方々も頭を悩ませていることと思います。

成長停滞を予防するための対策
成長停滞を引き起こす要因は、大きく分けて①栄養摂取量の低下、②寒さによるエネルギー消費量の増加、③放牧地での運動低下の3つに分けられるかと思います。これらの要因に対する対策について、JRA日高育成牧場が行っている方法をご紹介していきたいと思います。

まず、①栄養摂取量の低下については、11月頃までは放牧地で摂取可能であった青草の生育が止まって枯れることにより、粗飼料の摂取量が低下することが大きな原因です。さらに、12月以降は積雪によって放牧地が覆われると、よりいっそう粗飼料を摂取する機会が少なくなります。粗飼料は腸管内で腸内細菌によって発酵分解される際に熱を発生させることから、えん麦などの濃厚飼料に比べ体温を維持する効果が高いので、冬期の飼料として優れています。多くの生産牧場においても、自家製のロール乾草を放牧地内に設置することを行っていることと思います。JRA日高育成牧場では、イネ科牧草よりも多くのカロリーを含むマメ科のルーサン乾草を毎日放牧地に投げ入れることで、粗飼料摂取量を維持しています(写真2)。このように、上質な粗飼料を良い状態で摂取できる点は大きなメリットであると考えています。

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写真2.積雪上に散布されたルーサン乾草を食べる子馬たち

 つづいて、②寒さによるエネルギー消費の増加への対策は、馬服を着用することや退避場所として放牧地内にシェルターを設置することで対応しています。GPSを用いて昼夜放牧(22時間)を行っている子馬の行動を観察した結果、約6時間はシェルター内で過ごしていることが分かっています。このことは、風や雪を防げるシェルター内が過ごしやすい休息場所として役立っていることを示唆しており、寒さ対策を行いながら昼夜放牧を行う上ではシェルターが重要な設備であると思われます。シェルター内で過ごした場合には、放牧地内で過ごすよりも20%以上の熱量を節約できるという報告もあります。

 そして、③放牧地での運動低下への対策としては、当歳の12月よりウォーキングマシーンによる運動を実施しています。子馬の成長にとって運動が重要ということはみなさまも実感しているところかと思います。運動させた子馬と運動させなかった子馬を比較したところ、運動させた方の子馬で骨密度が増加したり、屈腱が発達したりしたという報告もあります。しかしながら、GPSを用いた子馬の放牧地での行動分析によると、冬期は放牧地内での移動距離が短くなることが分かっています。そのため、低下した運動量を補うことで、骨や屈腱の成長を促すことを目指しています。

 これまでご紹介してきたように、JRA日高育成牧場では成長停滞に対応するための様々な試みを行っていますが、最適な対策法を見いだせていないのが現状です。冬期に体重が落ちた馬を再び元の状態に戻すためには、体重を維持するために必要な労力と同等かそれ以上の労力が必要とも言われています。そのため、今後も適切な冬期の飼養管理方法を検討していき、その成果をご紹介できるように努めていきたいと思います。

育成馬ブログ(2020年 日高②-2)

ウマコロナウイルス(ECoV)感染症

現在、ヒトで新型コロナウイルス(COVID-19)が流行していますが、ウマにもコロナウイルス感染症が存在します。
10月15日に静内で開催された「第48回生産地における軽種馬の疾病に関するシンポジウム」で、ウマコロナウイルス(ECoV)感染症に関する講演がありましたのでご紹介します。

Photoシンポジウムの様子。発表者がフェイスシールドを着用するなど、

厳重なコロナウイルス対策下で開催されました。

ECoVはウマ固有のウイルスで、ヒトには感染しません。日本では2004年以降に3回、重種馬で流行しましたが、本年春に初めてサラブレッドでの流行が確認されました。
主な症状は、発熱、食欲不振、元気消失、下痢などの消化器症状で、多くは数日で回復しますが、海外では神経症状を呈し予後の悪い馬も確認されているので注意が必要です。ヒトのCOVID-19で肺炎などの呼吸器症状がみられるのとは異なり、ECoVでは下痢などの消化器症状がしばしばみられます。
ECoVは感染馬の糞便で伝染します。競走馬総合研究所の研究によると、感染馬からは9日間以上も糞便にウイルスが排出されることがわかりました。また、ECoVに感染しても症状を示さない「不顕性感染馬」からも同程度の期間ウイルス排出が確認されていますので、これらも感染源になります。
本年春の流行は、JRA施設内のサラブレッドやさまざまな品種を含んだ41頭の馬群で起こりました。この中で症状が認められたのは15頭で、そのうち発熱は11頭、下痢は3頭で認められました。いずれも軽症で1~3日で治まりましたが、注目すべき点はその感染力の強さでした。症状のない馬も含め、全頭に抗体検査を行った結果、全頭が抗体を持っていた、つまりECoVに感染していたことがわかりました。
また、この流行の調査から、糞便中へのウイルス排泄期間は、サラブレッドでそれ以外の品種の馬よりも短い傾向があることがわかりました。サラブレッド感染馬では、糞便からウイルスが検出された期間が最長19日であったのに対し、サラブレッド以外の感染馬のうち5頭が19日以上、最長で98日間となりました。品種によって感染源となるリスクが違うのかもしれません。

馬を飼育する上で気を付けなければならない疾病は様々ですが、このような疾病の情報を常に勉強しておくことで、発生した際の適切な対応につなげていきたいものです。

【ご意見・ご要望をお待ちしております】
JRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。当ブログに対するご意見・ご要望は下記メールあてにお寄せ下さい。皆様からいただきましたご意見は、JRA育成業務の貴重な資料として活用させていただきます。
アドレス jra-ikusei@jra.go.jp

育成馬ブログ(2020年 日高②-1)

JRA育成馬とBTC研修生の近況

JRA日高育成牧場では、9月から開始した1歳馬の騎乗馴致もほぼ終盤戦を迎え、11月にはセプテンバーセール購買馬を含めた概ね全ての馬について、コースでの騎乗調教を始めています。

現時点で利用しているコースは、屋内800mダート馬場、屋外1600mトラック砂馬場、屋内1000m坂路ウッドチップ馬場の3ヵ所です。これらの多様なコースでの調教は、本格的なトレーニングに入る前の体力向上のみならず、様々な状況下に置くことで「馬に自信を持たせる」という効果もあります。新規環境に置かれた1歳馬が、騎乗者の指示で未知の場所に行くことで自身の殻を破ってくれること、また、馬が騎乗者をリーダーとして再認識し、それが人馬の信頼関係をより強固なものに繋がることを期待しています。

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1600mトラック砂馬場での1歳馬の調教風景

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日々成長を続けているのは育成馬ばかりではありません。JRA日高育成牧場ではBTC軽種馬育成調教センターが行う育成調教技術者養成研修の生徒を受け入れ、騎乗馴致や育成馬の騎乗を経験する実地研修を行っています。

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育成馬に騎乗するBTC研修生

多くの研修生は実際に馬に騎乗するようになって、まだ半年程度しか経っていませんが、すでに1歳馬の騎乗にも取り組んでいます。もちろん、不慣れな部分も多いのですが、1歳の若馬と一緒に成長していく姿を見るに、人馬の今後の活躍を期待せずにはいられません。
そのようなBTC研修生が騎乗した育成馬が、後の活躍馬になった例は少なくありません。本年のキーンランドカップ(GⅢ)に優勝したエイティーンガール(飯田祐史厩舎、牝4歳)もその1頭です。日高育成牧場での最後の強調教となった4月の育成馬展示会では、BTC研修生を背に、持ったままでラスト1ハロンを11秒台で駆け抜けて、周囲を驚かせました(写真)。

現在、BTC軽種馬育成調教センターでは、来年度(令和3年4月から約1年間)の育成調教技術者養成研修の研修生を募集しています。
詳しくはこちら(http://www.b-t-c.or.jp/btc_p200/p200_05.html)をご覧ください。
締め切りは、令和2年12月4日(金)です(書類必着)。
※締め切り前に募集を終了する場合があります。

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2018年の育成馬展示会でのエイティーンガール(写真右)
BTC研修生を背に持ったままでラスト1ハロンを11秒台で駆け抜けた。

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キーンランドカップ(GⅢ)優勝時のエイティーンガール

【ご意見・ご要望をお待ちしております】
JRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。当ブログに対するご意見・ご要望は下記メールあてにお寄せ下さい。皆様からいただきましたご意見は、JRA育成業務の貴重な資料として活用させていただきます。
アドレス jra-ikusei@jra.go.jp

育成馬ブログ(2020年 生産②)

Withコロナで実施する研修

 今年は新型コロナウイルス感染症の影響で、多くのイベントが中止や延期に追い込まれていることは、皆様も実感しているところかと思います。サラブレッド生産地においても、北海道トレーニング・セールの中止にはじまり、多くの1歳市場が入場制限や新型コロナウイルス感染症対策を講じた上での開催となったことは皆様もご存じのことでしょう。日高育成牧場では、例年行っている一般の方を対象としたバスツアーを全面中止しております。さらに、例年8月に実施していた獣医学生を対象とした研修であるサマースクールについても、新型コロナウイルス感染症の情勢が読めないことから中止という判断を下しました。

 しかしながら、いつまでも外部からの研修を中止し続けるわけにもいかず、Withコロナの時代に合った「新しい研修様式」を模索しなければならない状況となっています。今回の記事では、新型コロナウイルス感染症対策を講じた上で実施した研修の報告と、これから実施する予定の研修についてご紹介したいと思います。

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写真1.コロナ禍でも“集団”で行動する離乳後の当歳馬たち

コロナ対策を講じた当歳離乳見学研修
日高育成牧場では、JBBA生産育成技術者研修生を対象とした実習形式の研修を毎年受け入れています。例年は8月末から9月上旬にかけて行われる当歳馬の離乳の際に、研修生に日高育成牧場まで来てもらい、離乳や当歳馬に関する講義と実際の離乳を見学する研修を行っていました。しかし、新型コロナウイルス感染症の情勢が予断を許さない状況では、例年と同様の形での研修の実施には問題があると考えられ、何かしらの対策を講じなければならないと考えました。

 まず、講義室という「3密」の空間で行われる講義での感染リスクを少しでも低下させるために、本年の講義はZOOMを活用したオンラインで実施しました。その結果、講師であるJRA職員が研修生と接触する機会を減らすことができました。さらに、このオンライン上での講義には別の効果もあり、例年では実習の直前に行っていたため研修生が内容を良く理解するための時間がなかったわけですが、今回は実習の1週間以上前に実施したことで内容を復習する時間ができたと思います。

 一方で、離乳の見学実習については実際に日高育成牧場に来てもらう必要があります。例年であれば研修生全員が同じ日に牧場に来て見学をしていたのですが、今年は少人数(5人以下)のグループに分けて、複数回に分けて実施しました(写真2)。日高育成牧場での離乳は、親子馬群の中から母馬を段階的に他の放牧地に移していく「間引き法」で実施しています。これは当歳馬への精神的なストレスの影響を最小限にするために実施しているものですが、結果的に複数回の研修にも対応できる形になりました。このように、新型コロナウイルス感染症対策を講じた形で、「新しい研修様式」で無事に研修を行うことができました。

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写真2.離乳後の当歳馬の様子を見学する研修生たち

JRA日高育成牧場 実践研修プログラムのご案内
JBBA軽種馬経営高度化指導研修事業の一環として、JRA日高育成牧場では実践研修プログラムを開催しています。これは、競走馬の生産・育成に従事されている方を対象とした、実習と講義を主体とする実践的な研修です。講師はJRA職員が担当し、日高育成牧場で繋養されている馬たちを用いた実習も行うことができます。

本年は、参加人数制限やマスク着用などの新型コロナウイルス感染症対策を講じた中での研修となりますが、可能な限り例年と同様のクオリティの研修を行っていきます。すでに実践研修プログラムの募集は開始しており、12月18日(金)までの月曜~金曜の間の1日(2~4.5時間)で行うことになります。新型コロナウイルス感染症の今後は見通せない状況が続いていますが、そのような状況下であっても何かを学びたいという方々の申し込みをお待ちしております。

実践研修プログラムの詳細はこちら

https://jbba.jp/news/2020/pdf/jissenkenshu2020.pdf

育成馬ブログ(2020年 生産①)

草地更新とは?

 競走馬の生産牧場における草地(放牧地や採草地)の重要性は言うまでもありませんが、他の作物と同様に、同じ草地を連続で使用することによる土壌成分の枯渇、牧草の栄養価低下、雑草の繁茂などが問題となります。そのため、定期的な「草地更新」を行うことが望まれます。

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写真1.放牧地で牧草を食べる馬たち

 

草地更新前の準備

 草地更新を行う判断は、上述のように雑草が多くなったというような“主観的な”基準がきっかけになるかと思いますが、更新を行う前に土壌の状態を科学的に調べて“客観的な”基準も参考にすることが大切です。JRA日高育成牧場では、公益社団法人日本軽種馬協会(JBBA)が行っている事業を活用して、更新を予定している草地の「土壌分析」を行っています。

 土壌分析は、JBBAに分析依頼申請を行った後、対象となる草地の概ね5か所以上から土壌サンプルを採材し、分析機関に送付するだけで結果を得ることができます(表1)。この分析結果は、草地更新時に使う肥料や土地改良資材の使用量を決定するために必要な情報となるので、とても重要なものになります。また、草地に関する基礎的な情報(土壌の種類、広さ、牧草の種類など)を再確認するという意味でも、有益なことだと考えられます。

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図1.草地更新前に実施した土壌分析結果

 

草地更新の流れ

 土壌分析を行い、更新をしたい草地の状況を把握した後、いよいよ草地更新を行っていくことになります。一般的な草地更新(完全更新法)の流れをまとめると、表1の通りです。現在JRA日高育成牧場で行っている方法では、8月中旬から作業を開始しています。まずは、対象となる草地の雑草を含む牧草を除くために(1)除草剤を散布します。その後、枯れた草を埋没させるために(3)耕起を行い、この状態で冬を越すことになります。

Photo_5(サラブレッドのための草地管理ガイドブック【JBBA発行】を参考)

 

 翌春の土壌の凍結がなくなった4月下旬頃に、土壌の状態を改善するための(4)土壌改良資材を散布(土壌分析結果に基づいた量)し、そして土地を整えるための(5)砕土・混和・鎮圧(写真2)を行います。その後、埋没種子(土壌に残っていた種)から発芽した雑草を処理するために、再び除草剤を撒きます。JRA日高育成牧場では、雑草の生育が盛んとなる5月頃と播種前の8月頃の2回にわたって除草剤処理を行っています。そして、寒くなる前(9月頃まで)に(7)施肥・播種・鎮圧を行うことで、ついに草地更新作業が終了となります。このように、草地更新は1年間をかけて行う根気のいる作業となります。

 

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写真2.鎮圧の様子

草地更新後の管理

 これまで述べてきたように、草地更新は牧草の種を撒くまででとりあえずは作業が終了となります。しかしながら、種を撒いて発芽(写真3)してからの管理も非常に重要となります。その後の管理が不適切であると、牧草が順調に育たないだけでなく、最悪の場合には牧草が定着しない可能性もあります。それを避けるためには、適切な時期に追肥(追加の肥料散布)することや、雑草を取り除くための掃除刈り(雑草が成長・繁殖する前に刈り取る作業)をすることが重要になってきます。

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写真3.草地更新後に発芽した牧草

 

 また、更新した草地の管理方法について再検討することも非常に大切です。そもそも、放牧地が荒れた原因を究明しないことには、草地が再び荒れてしまう可能性が高いと考えられます。草地が荒れる原因としては、放牧地の利用状況が悪い(放牧頭数が多い、放牧時間が長いなど)、肥料の施肥量や施肥時期が不適当、掃除刈りの実施方法が不適当(実施頻度が少ない、刈り取りの高さが長いなど)が考えられます。これらに対して適切な管理方法をすることで、草地が良い状態に維持されるだけでなく、草地更新にかかる費用も抑えることが可能になると思われます(図1)。

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図1.草地更新の要点

 

 日本の牧場においては、放牧地の広さの問題もあって更新時の代替放牧地の確保が難しく、今回ご紹介した完全更新法による草地更新はなかなか困難であると思われます。そのような場合には、簡易更新法を実施してみても良いのかもしれません(詳細はサラブレッドのための草地管理ガイドブック【JBBA発行】をご参照ください)。今回の記事をきっかけに、いま一度「草地更新」について考えていただくことになれば幸いです。

サラブレッドのための草地管理ガイドブックはこちら

https://jbba.jp/data/booklet/guide/pdf/THOROUGHBRED_guide_all.pdf