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スタートライン

「それじゃ、行ってくるから」

 そんなことを言って、16歳の春に高校入学のため札幌へ出たのが、今から25年前になります。これから、一人でしっかりやっていかなければならない・・・慣れない土地での下宿生活。不安と寂しさ・・・今となっては遠い思い出です・・・。競走馬にもそれぞれのドラマがあります。母親から自立し、育成期間を経て調教を重ね、デビューに向けて慣れ親しんだ牧場に別れを告げ、トレセンに旅立つ。そして、順調に調教メニューを消化し、出走まもなくとなってきたところに、突然のアクシデント・・・。復活を目指し新たな旅立ち。その行き先は・・・。

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 今日もまた一頭の競走馬が常磐にやってきました。馬運車に揺られて、どこに連れて行かれるかわからない不安な気持ちで来るのでしょう・・・。着いたばかりの馬は落ち着きません。馬房から見える限られた景色を感じ取ろうとしているのか、遠くを見つめる姿を見ると、あの時の自分と重ねあわせて見てしまいます。

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 馬房のなかをクルクル回って、寝転がるものもいます。私たちは声をかけながら、馬体をひと通り観察して体温を測ります。脚元を見ると事前に報告を受けたとおり、検査の跡がくっきり残っていました。彼もまた出走を目前にして、残念ながらリハビリの道を進むこととなったのかと、すこし可哀想な気持ちになってしまうのでした・・・。しかし、何事も前向きに考えなければ・・・今日は新しいスタートラインに立った記念すべき日になったとも言えるのです。私たちと一緒に常磐での療養生活を楽しみ、リハビリをやっていこうね・・・って心の中で会話をするのでした。

 常磐は一つのスタートライン。決して悲観的になることはなく、希望を持っていく場所。

 皆さんは、どんなスタートラインに立とうとしていますか?人それぞれ・・・ですよね。機会があれば、常磐の馬たちを眺めに来てください。「スタートライン」に立つ人と馬で心の会話をしてみませんか・・・。

 常磐への入所は年中不定期に行われています。その数は50頭から80頭になります。トレセンから直接入きゅうするものと、トレセンで故障し放牧されたものが直接入きゅうしてくる場合があります(この場合は検疫を実施します)。いずれも調教師からの依頼によるもので、毎月頭数は異なります。

 運のいい方は、入所退所の場面に遭遇できるかもしれませんね!(ASHI)

「きゅう舎関係者へ・・・常磐のスタートラインに立たせたい競走馬大募集中です。連絡お待ちしております。」

もう一つの旅立ち

 最近の異常気象には本当に驚かされることばかりですね。竜巻なんて、外国でしか起こらないものと思っていたら、私の故郷である北海道でも起こるんですから・・・。子供の頃は地震と大雨が多い所に住んでいましたが・・・。今では全国各地でいろいろな災害が起こるからなあ・・・自然は怖いですよね。

 さて、湯治場日誌ではお馴染みの「旅立ち」シリーズ。競馬学校に合格し卒業していく若者たちの思い出話を綴るコーナーですが、こちらのブログでも書いていこうかなと思います。従来の「旅立ち」は日誌にとっておくことにして・・・こちらは「もう一つの旅立ち」です。

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 毎日、競走馬の世話をしながら、トレセンのきゅう務員を目指して勉強中の若者たち。その中の一人アオちゃんは、今年の4月に常磐に来たばかり・・・。実は彼、既に競馬学校を卒業し、きゅう舎に配属になる前に常磐に勉強をしに来ている・・・ちょっと他の人とは違う立場にあります。今までまじめに一所懸命取り組んできたアオちゃん。でも彼は一人で悩んでいたようで・・・。

 何度も書いてきている通り、ここ常磐は骨折や屈腱炎など一定期間リハビリが必要な馬ばかりがいる施設。自分の担当馬が決まって、その入きゅう直後は騎乗できないことがほとんど・・・。競走馬の騎乗を勉強するには少し制限があることは仕方がないことなんですね。でもその分、飼養管理や馬の病気のことを学ぶには良い勉強の場。乗れない分を補う意味合いで、これまでいろいろなことをアドバイスしていきました。

でも・・・馬には乗りたい。

 アオちゃんの担当してきた馬は数頭いますが、どの馬も短期間で出て行ってしまいました。不思議なことに、アオちゃんが一所懸命リハビリメニューどおりに担当馬の世話をして「さあ馬場入りだ!」と張り切ったとたん、退きゅうの連絡が来てしまうのです。(普通は順番に騎乗馬が回ってくるものなのですが、運がないのかなあ・・・。)これはきゅう舎の事情とリハビリの進み具合で今後どうするか決まることであり、その馬にとって一番良い方法を考えた上での結論ですから、復帰に向けて出て行くことはむしろ喜ばしいことです。実際アオちゃんの担当馬のなかには、メインレースに出走してる馬もいるわけですし・・・。ホント、どうしてアオちゃんに担当させるとこうなってしまうのかな、と私自身も申し訳なく思うほどでした・・・。

 今月に入って、アオちゃんは私のところに来ました。

「もう少し、競走馬に乗れる環境で腕を磨きたいです。」

「そうだね、それはいいことだと思うし、良い選択だと思うよ」

 私は、心の中では残念だなと思いました。もう少し、彼の騎乗ぶりも見てみたかったし、騎乗以外のことも、もっと教えてあげれば良かったな、と後悔しました。でも、アオちゃんの人生だ。自分のことは自分で決める!当然のことだ。自分で決めた方向にすすめるということは幸せかつ大事なことですよね!この決断がきっといい方向に向いてくれると私は信じています。

 アオちゃんは「外国に行くかもしれない」とのことでした・・・。遠いなあ。帰ってきたら、また元気な姿を見たいものです。きゅう舎の所属になって、パドックで会える日が来ることを心待ちにしています。環境の違うところに行くのですから、辛いこともあるでしょう。

私は、彼に一つ言葉を送りたいと思います。  

「それなりに!」

 いい加減にも聞こえるかな?(ちょっと自信がない・・・)「それなりに辛いことがあっても、それなりに自分のペースでやっていけば、それなりに何とかなる。」そんな気持ちを込めました。

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 ではでは、イングランド代表のヘルメットが似合うアオちゃん、またいつかどこかでお会いしましょう。(ASHI)

 きゅう舎関係者へお知らせコーナー

 「常磐も朝の気温が一桁台を観測するころとなりましたが、温泉はいつも暖かく、各馬リハビリに励んでおります。例年になく少ない在きゅう頭数で、入きゅうは即日OKです。皆様からの連絡お待ちしております!!」 

うちの看板娘です!

 すごしやすい陽気が続く常磐です。しかし、朝は寒いですね~。今は季節の変わり目で昼夜の気温の差が激しいですね。馬も季節の変わり目は苦手。時々「疝痛」という病気になることがあるんですけど(通常「はらいた」と言っています)、ちょうどこのような時期に多い病気です。おなかの調子が悪くなって、便秘になったりガスが溜まったりして、寝たまま動かない、食欲がなくなる、振り返って腹を見るなどの症状をみせて、痛みを訴えます。先日も、朝5時半に調子が悪い(軽い症状で済みました)という連絡を受けたのですが、往診に向かう途中に温度計を見たら、なんと「9度」でした!冬はもうすぐです・・・。

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 さて、看板娘ということで・・・ミミちゃんをご紹介しましょう。

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 まずはミミちゃんのお家から。かわいいと思いませんか?駐車場から入り口に向かって歩いていくと、まず左手に見えるのがこのお家です。皆さんを最初に出迎えてくれるのが・・・

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 ミミちゃんです(事務所前で放しているところです)。と、言っても13歳ですから結構いい年だったりします。人間で言えばだいたい・・・余計なこと言わなくていいのよ!って怒られそうなのでやめときます・・・。ミミの家の隣には小さな遊び場があり、いつも遊んでいる子供たちを見守っていてくれてます。また、遠足など小さなお友達が遊びに来てくれて来た時は、外に出てさわらせてくれたりします。以前、湯本高校のお姉さんたちが遊びに来てくれたことがあって、ミミが遊んでもらったこともあります。そんな、ミミも子供たちが帰った後や天気が悪くなって誰も遊びに来ない日は一人ぼっち・・・

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 ではなく、お隣にサラブレッドのレイン君がいます。(レインのお尻のところにミミの家が写ってますよね!)レインは馬の温泉で競走馬の世話をしながら、乗馬の練習をしているきゅう務員たちの練習馬です。頑張り屋さんで、きゅう務員全員にかわいがってもらってます。皆が競走馬の仕事をしている間はミミのお話し相手です。お客様にもミミと同様にかわいがってもらってます。

 先にご紹介した写真のように、ミミはとっても慣れていて、散歩している時も放してOK。人間のあとをちゃんとついていくんですよ。ポニーはサラブレッドに比べると、とってもしっかりものです。あまり機会はありませんが、ポニーとサラブレッドを一緒に放牧すると、必ずといっていいほどポニーが主導権をとります。体の大きさとは反比例して、おもしろいものですよ・・・。

 みなさん、遊びに来る機会がありましたら、ミミとレインもよろしくお願いしますね!!(ASHI)