「どうだった?今日は」
「いや~、ダメでしたね、全然ダメです。」
ある屈腱炎の馬を担当するタダッキくんのリハビリ調教後の口癖のような台詞です。
常磐在きゅうの競走馬が抱える疾病の中で一番多いのが屈腱炎という病気です。その屈腱炎の症状も馬によって様々(今回は詳しい病気の説明は省略しますね)。治るのが早いものもいれば遅いものもいる・・・。また、症状がひどいからといって、治りが遅いわけでもなければ、軽いからといって、治りが早いわけでもない。(ちょっと、混乱してしまうかな・・・こんな書き方では・・・)
で、当然彼の担当する馬についても、じっくりと診断をしてリハビリの進め方を検討するわけですが・・・結局、馬場に出られるようになった時は、
「ゆっくりとしたキャンター(駆け足、駆歩)で進めていこう」
ということになり、通常よりスピードを制限して周回をゆっくりと増やしていこうということになりました・・・では、誰に乗ってもらおうか・・・いろいろ考えて、指名されたのが今回主役のタダッキくんでした。
タダッキくんは前回登場したアオちゃんと一緒に入ってきた競馬学校卒業生。常磐メンバーの中でも乗るのが上手で、私たちの注文どおりに乗ってくれる頼もしい存在です。
「今日は・・・な感じで回ってきてくれる?」といえば、忠実に守って回ってくるんです。それも実に正確に!ところがです!最後に常歩(なみあし)で1周して帰ってくると必ず出てくる台詞が
「全然ダメですね」
なんです。
「どうして?今日は良かったと思うけどね。」
「いや、ダメでした・・・」
と言って、どんなところが今日は良くなかったと私たちに話してくれます。
自分に厳しいタダッキくん。現時点で満足しないんですね。悪かったところを探して、次回には修正を試みる。まあ、馬も生き物ですから日によって気分も違うわけで、なかなかうまくいかない。そんなところを見越して私たちは「よかったね」って言うんですけど・・・。
私はどうだろう。自分に厳しく前を向いて歩いているだろうか?彼の言葉を聞きながら思うのでした。競走馬に乗るからには、妥協は許さない・・・そんな意気込みも伝わってくるような姿勢。皆さんは自分が迷ったり、壁にぶつかった時、どう立ち向かっていますか?簡単に諦めてしまうことはありませんか?私は恥かしいですけど、諦めてしまうことがよくあります。でも、今回彼と接することで感じたこと・・・たとえ納得のいくところにたどり着けなくても、とりあえず前に進んでみようか・・・。そんなことをタダッキくんに教えてもらったような気がします。
そんな、タダッキくんもめでたくきゅう舎へ入ることが決まりそうなんです。良かった、良かった。ということは、暫しのお別れということになります。寂しくなりますね。トレセンでもし彼が馬道で馬にまたがっている姿を見たら聞いてみよう。
「今日は、どうだった?」
常磐の冬の馬場を優しく見つめる山茶花に見送られながら・・・また、一つの旅立ち・・・(ASHI)
きゅう舎関係者の皆様へ「今年の競馬も残り少なくなりました。常磐入きゅう受付は『もちろん!』31日までOKですので、1年の疲れを温泉で取りたいとお考えの馬の入きゅうお待ちしております!」