クリッピング(毛刈)の実施(宮崎)

温暖な宮崎も11月後半には最低気温が一ケタとなる日が増えてきました。一方で最高気温は20℃前後まで上昇する日もあり、朝夕の寒暖の差、あるいは日ごとの寒暖の差は皆さんがイメージするよりも大きいと思われます。風邪などで体調を崩しがちなこの時期は、しっかりと保温のできる服装が必要となります。

宮崎の育成馬たちもこの時期からは馬服(ニュージーランドラグ)を着用しています。育成馬に馬服を着せる習慣がなかった日本において、ニュージーランドラグはJRA日高育成牧場が最初に導入したものです。当初は様々な怪我やアクシデントが危惧されましたが、現在では馬の体調管理や冬毛の伸びを抑制して皮膚を薄く保つため、あるいは手入れの簡素化などを目的として、民間にも広く普及しています。

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ニュージーランドラグを着せてパドック放牧中。左の栗毛がマイネシャリオの08(牡・父はテイエムオペラオー)、右の黒鹿毛はミスヴィーナスの08(牡・父はキンググローリアス)

もうひとつ、この時期に施されるのがクリッピング(毛刈り)です。毛刈りされた馬は日本の競走馬ではあまり見かけませんが、海外では頻繁に実施されているようで、先日のマイルチャンピオンシップ(GI)に出走した、イギリスのエヴァズリクエスト号もクリッピングが施されていました。特に栗毛馬は明るい皮膚の色とのコントラストが明白になり、美しさが際立ちます。しかしこれはみせかけではなく、冬毛が長い場合、寒い時期の調教による汗や、馬を洗浄した後の水分が乾きにくいために馬体が冷えることを防止できます。毛刈りされた部分は普段は馬服を着ていることで、しっかりと防寒され、調教中もエクセサイズラグを装着して、馬体を暖かく保ちます。常日頃から体が冷えないように馬服をこまめに着せ替え、冬毛が伸びないように心がけることが重要ですが、宮崎育成牧場では最終的にほぼすべての馬にクリッピングを実施しています。一方、日高の様な寒冷地区での育成馬調教においては、腹まで汗をかく状況になりにくいため、クリッピングされた馬はあまり見ることがありません。

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騎乗してのゲート通過馴致も実施しています。馬はイシノレプリートの08(牡・父バゴ)。この日の夕方、同馬はいよいよクリッピングを実施します。

クリッピングの手順

クリッピングで特に重要なのは、①人馬の安全確保、②安全確保のために刺激が少なく、迅速な手技を行うこと、③刺激が少なく迅速な手技のためのバリカンの整備です。宮崎育成牧場では以下のような手順でクリッピングを実施しています。

まず、馬はクリッピング当日の調教後、全身をしっかりとシャワー・シャンプーしておき、充分に乾かすことで、最も毛が刈りやすい状況となります。毛刈りの時間は馬が比較的リラックスしている夕方に実施しています。

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正しい姿勢でまっすぐに立たせた状態にして、毛刈り線をチョークで下書きします。

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万が一の事故に備えて、後肢の蹄周囲はバンテージで巻いてクッションとします。また、多くの場合は鎮静処置およびメンコ(耳栓をしたうえで)も使用します。

この後、10分程度を目標に手技を開始します。バリカンの選択は迅速で安全な実施のため、最も重要といえます。馬のストレスと恐怖感を取り除くため、なるべく音が小さくて、熱を持ちにくいも、そしてコードレス(充電)タイプのものが便利です。クリッピングでは水濡れやフケの影響、あるいは順調に進んでもいずれは毛が詰まり、全く刈れなくなることをよく経験します。毛を掃除して刃を油に浸けて回復することもありますが、替刃の予備を複数準備しておくことが、重要です。ダメかと思われる替刃も、一晩油に浸けると回復することが多いようです。

しかし今年から宮崎で使用している家畜専用のバリカンは、やや高価なのですがそのようなトラブルも少なく、作業がとてもスムーズになりました。

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広く全体を剃るためのメインバリカン(左・約7万円)と凹凸部やライン上の細かな調整用の小型バリカン(4万円)。いずれも充電式(コードレス)です。

最初にバリカンの振動音、そして皮膚に触れた振動に慣れたことを確認したら、一定の強さで毛並みに逆らって手早く進めます。この間、基本的に鼻ネジや肩をつまむ等の馬に対するプレッシャーは与えずに実施します。また馬が機嫌を損ねたり、怖がっている兆候がみられたら、一時的に手技を中断します。いずれも馬がリラックスした状態で手技を進めることで、安全確保に繋げるためです。

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クリッピング翌朝のイシノレプリートの08(牡・父バゴ)。初日は少々腹帯の違和感を示す場合があるので、注意しています。同馬も少々不穏な様子でしたが、すぐに慣れて、いつものように元気いっぱいの走りを見せてくれました。

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育成馬の調教は前年度よりも約2週間、早めに進んでいます。第1群(9/17馴致開始)と第2(10/15馴致開始)は、11/18からは本格的に混合での調教をスタートしました。1129日は1600mダートコースをF24程度のキャンターで1周程度の内容でした。先頭で馬群を誘導するのは左の黒鹿毛がケリーケイズプレジャーの08(牝・父はTiznow)、右の栗毛がウィーアワーズの08(牝・父はティンバーカントリー)