ブリーズアップセールで開示される個体情報(内視鏡像)

 JRAブリーズアップセールは、新しく馬主になられた方をはじめ、セリに慣れていない方でも「セリの入門編」として、わかりやすく参加しやすい運営を目指しています。セリの透明性を高めるための情報開示は、そのセリ運営のひとつです。また、購買後に競馬出走に向けてスムーズな調教へ移行できることを目的として、内視鏡所見やX線画像所見の評価、病歴あるいは飼養管理など多岐にわたる情報を提供しています。

 セリにおいて情報を開示する際には、多すぎる無意味な情報によって購買者が混乱しないように注意する必要があります。特に購買者は、開示された疾病情報が今後の調教過程や競走馬としての能力にどのような影響を及ぼすのかについて関心が高いものと思われます。したがって、JRAブリーズアップセールでは、これまで10年以上にわたって実施してきた育成研究の成果から、今後の出走や調教に耐えうると判断した馬を選別して上場することとしています。また、医療情報開示室(レポジトリールーム)では、10年以上にわたって蓄積してきた内視鏡やX線画像などの様々な検査所見と競走パフォーマンスとの関連について分析した成果を活用し、各馬の所見についての情報を提供しています。今回はブリーズアップセールで開示している上気道内視鏡所見とその判断方法を紹介いたします。

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ブリーズアップセールの個体情報冊子の記載内容

LH(喉頭片麻痺)

 いわゆる喘鳴症(ノドナリ)は、吸気時に披裂軟骨(気管の入口)が完全に開かず気道が狭くなり、運動中に空気が吸い込む際にヒューヒューという異常呼吸音(喘鳴音)を発します。また、披裂軟骨の動きの程度が悪い場合(喉頭片麻痺)、競走能力にも影響を及ぼすとされています。その原因となる喉頭片麻痺は、グレードⅠ~Ⅳの4段階に分類されます。JRA育成馬を用いた調査では、若馬の14%以上がグレードⅡ以上の所見を有していること、また、グレードⅡまでは競走成績に影響を及ぼさないことが明らかになっています。一方、グレードⅢ以上の有所見馬になると、喘鳴症を発症することが多くなることから、麻痺して動かない披裂軟骨を固定する喉頭形成術が適応されます。喘鳴症の程度は安静時の内視鏡検査のみでは判らないことが多く、手術実施の確定診断にはトレッドミル走行時の内視鏡検査が有効な確定法となります。

                        症 状

 I

左右の披裂軟骨の動きが常に同調かつ対称であり、完全外転が獲得・維持されうる。

 II

披裂軟骨の動きが非同調で、かつ喉頭が左右不対称な状態を示すこともあるが、披裂軟骨の完全外転は獲得・維持されうる。

 III

披裂軟骨の動きが非同調で、喉頭が左右不対称である。披裂軟骨の完全外転は獲得・維持されない。

 IV

披裂軟骨と声帯ヒダは動かない。

                LH(喉頭片麻痺)のグレード分類基準

DDSP(軟口蓋背方変位)

 走行中に軟口蓋が喉頭蓋の上方(背方)に変位し、走行中に「ゴロゴロ」と喉が鳴る疾病です。この疾病は、グレード034段階に分類されます。若馬は喉頭蓋が未発達であるため、成馬と比較してDDSPを発症しやすく、安静時検査におけるグレードの程度と競走パフォーマンスには関連がないことが明らかとなっています。しかし、若馬でDDSPを発症する馬は、初出走までの期間が長くなることもわかっており、症状を有する場合は、馬体の成長を待って競馬に出走させる必要があります。

             症 状

 0

嚥下を促しても発症しない

 1

嚥下により発症するが、続く嚥下1回で復する

 2

嚥下により発症するが、続く嚥下2回以上で復する

 3

嚥下を伴わなくても容易に発症する

   DDSP(軟口蓋背方変位)のグレード分類基準

Photo

LH(喉頭片麻痺)(左)およびDDSP(軟口蓋背方変位)(右)の内視鏡像

ELE(喉頭蓋の挙上)

 喉頭蓋が挙上し、気道が狭くなった状態です。極端な異常ではない限り、競走成績に影響を及ぼしません。

AE(喉頭蓋の異常)

 喉頭蓋が未発達なため、矮小、菲薄な状態です。一般的に、若馬は成馬と比較して喉頭蓋の形成不全(矮小、弛緩、菲薄、背側中央部の凸面)が多く認められ、DDSPを誘発しやすくなります。しかし、AEの所見は年齢とともに消失することが多いため、極端な異常ではない限り、競走成績に影響を及ぼしません。

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ELE(喉頭蓋の拳上)(左)およびAE(喉頭蓋の異常)(右)の内視鏡像

 喘鳴症のみならず、ノド(上気道)の状態は安静時の内視鏡検査のみでは判らないことが多いため、ブリーズアップセールでは、疑わしい所見を認めた場合には、トレッドミルでハロン15秒程度のスピードを上げた走行時の内視鏡検査を実施し、その検査結果の情報開示を行っています。

 次回はX線画像に関する個体情報について触れてみたいと思います。