出産後の母馬を交配のために種馬場につれて行く場合、日本では子馬も連れていくことが一般的です。しかし、欧米、特に米国の馬産地ケンタッキーでは、子馬を帯同させずに母馬のみを種馬場につれて行くことが一般的のようです。
子馬を帯同させずに母馬を種馬場につれて行くことの主なメリットとして、感染症に罹患しやすい子馬の感染症予防、そして馬運車内での事故防止が上げられます。また、牧場の繁忙期に1名のスタッフで輸送できるという業務効率化もその1つかもしれません。一方、一時的であっても母子を引き離すことによる母馬および子馬のストレス、そのストレスによる子馬の健康・成長への影響、そして、子馬の馬房内での事故なども懸念されます。
これらの問題点を検討するために、日高育成牧場で実験を行いました。供試馬は当場の母子8組で、子馬を連れて行った4組と、連れて行かなかった4組にわけました。後者は、当場からJBBA静内種馬場への往復で4時間、母子を離すことになりました。
結果ですが、馬房に残された子馬は、母馬から離れて1~2時間経過した時点で、種馬場に連れていった子馬と比較して「血中コルチゾル」というストレスの指標を示す数値が有意に高い、すなわちストレスを強く感じていることが確認されました(図2)。ただし、母馬の帰厩後は連れて行った子馬と差はありませんでした。また、母馬については子馬の有無でストレスに変化は認められませんでした。なお、馬体重の変化については、母子いずれも特筆すべき変化は認められませんでした。
それでは、実際に馬房に残された子馬の様子はどうだったのでしょうか?
多くの子馬は馬房内を歩き回ったり、いなないたりしながら、立ちつくしていて、横になることはありませんでした。一方、壁のよじ登りや転倒などの危険行動はなく、事故・怪我・疾患発症などは認められませんでした。
ただし、母馬の帰厩時には注意が必要です。多くの母馬は乳房が張っているため、最初の哺乳時に子馬が勢いよく吸い付きに行くと嫌がる場合があります。なかには、哺乳時の痛みからパニックを起こして、子馬に危害を加えそうになる母馬もいるため、気を付けて様子を観察する必要があります。もちろん、母馬の性格によっては、子馬を帯同するという選択肢もあって良いかもしれません。また、当場では初回発情での種付けを実施していませんが、もし、そのようなケースで子馬を残す際には、出産間もないことから母馬がナーバスになり易いかもしれませんので、ご注意ください。
なお、子馬を馬房に残す際には、馬房扉を完全に閉めること、馬栓棒は使用しないこと、馬房内の飼桶や水桶などの突起物を可能な限り撤去することをお忘れなく。
日高育成牧場 業務課長
冨成雅尚