ホームブレッド Feed

2023年1月 6日 (金)

良質な初乳を給与するためのポイント

 12月となり、そろそろ来年の分娩の準備に取り掛かる時期になっていることと思います。出生後の子馬に対して、生産者のみなさんがもっとも心配していらっしゃることの一つは、良質な初乳を給与できるかどうかということかと思います。初乳は出生直後の子馬が得られる唯一の抗体供給源であり、上手く獲得できなかった場合には感染症にかかるリスクが非常に高くなります。そのため、如何にして良質な初乳を得ることができるかが、子馬の健康な発育には不可欠と言えます。今回は、良質な初乳を給与するためのポイントについて、ご紹介していきたいと思います。

 

分娩前の妊娠馬への対応

 良質な初乳を得るための作業は、分娩前の妊娠後期から始まっています。その一つが妊娠馬に対するワクチン接種になります。多くの生産者の方は、インフルエンザや破傷風といったサラブレッドに基本的に接種しているワクチンに加え、妊娠馬に対しては流産予防を目的とした馬鼻肺炎ワクチンを接種していることかと思います。馬鼻肺炎ワクチンは、流産の発生する妊娠後期に最も効果を高めるため、妊娠7~9か月齢の間に接種することが推奨されています。JRA日高育成牧場では、上記の期間に生ワクチンを2回接種しています。このワクチン接種は流産予防が第一の目的ですが、ここで作られた抗体が初乳から子馬に移行することで、子馬が馬鼻肺炎に感染することを防ぐことにも役立っています。さらに良質な初乳を作るためには、初乳への抗体が作られる分娩1か月前までに馬インフルエンザ、破傷風およびロタウイルスなどのワクチンを接種することが望まれます。特に、出生後の子馬に重篤な下痢を発生させるロタウイルス感染症を予防するためには、母馬にロタウイルスワクチンを接種しておくことが非常に重要となります。JRA日高育成牧場では、ロタウイルスワクチンの1本目(基礎)を分娩2か月前に、その2本目(補強)および馬インフルエンザワクチンと破傷風ワクチンを分娩1か月前に接種しています。

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図1 妊娠馬に接種するワクチンの種類と推奨される接種時期

 また、妊娠馬は遅くとも分娩1か月前までに分娩を行う厩舎に移動することが推奨されています。これは、分娩を行う厩舎の環境に慣らすことで、落ち着いた状態で分娩させることのみならず、分娩厩舎の環境中に存在する細菌やウイルスに接触させることで、それらに対する抗体を作らせることも目的にしています。その結果、生まれた子馬は環境中の細菌やウイルスに対する抗体を含んだ初乳を飲むことになり、病気にかかりにくくなると考えられます。この考え方に基づくと、分娩前には分娩を行う馬房だけでなく、出生後の子馬を放すパドックや放牧地などにも母馬を放しておくことが重要となります。JRA日高育成牧場では、分娩1か月前になった段階で、インドアパドックや小さい放牧地に妊娠馬を最低1日以上放すことを行っています。

 

初乳の品質と繁殖牝馬の状態との関係

 繁殖牝馬が無事に分娩を終えた直後には、初乳の品質を調べることが推奨されています。糖度計を用いて初乳の糖度(Brix値)を測定し、この値によって初乳の品質を判断することになります。これは、Brix値が初乳に含まれる抗体量(IgG量)に比例することが知られているからであり、表1のようにBrix値で初乳の品質を判断することができます。JRA日高育成牧場で過去5年間に発生した分娩時の初乳Brix値を調べたところ、すべての初乳の品質が「Very good」 (36%)または「Good」(64%)という結果でした。この結果から、JRA日高育成牧場では十分な品質の初乳を得られる飼養管理ができていることが示唆されます。Brix値が低くなる要因として、分娩前に乳房から乳汁が漏れ出る“漏乳”が知られています。そこで、「Very good」と「Good」の品質の初乳において、それぞれ漏乳が起きていた割合を調べたところ、「Very good」では6.7%であったのに対し、「Good」では22.2%と高い結果となっていました(図2)。漏乳が発生した妊娠馬に対しては、初乳のBrix値が低くなっている可能性を踏まえた対策を考えておく必要がありそうです。

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表1 Brix値による初乳の品質の評価

 

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図2 初乳の品質ごとの漏乳の発生割合

 また、良質な初乳を得るためには、栄養面でも適切な飼養管理を行うことが重要であると考えられます。繁殖牝馬の栄養状態の判断は、馬体への脂肪の付き具合を数値化したボディコンディションスコア(BCS)を用いて評価する方法が推奨されています。一般的には、BCSが高く(栄養状態が高く)なるにつれて、初乳Brix値も高くなると考えられがちですが、日高育成牧場において分娩前3か月間の平均BCSと初乳Brix値との関係について調べた調査結果(図3)では、BCSが高くなるにつれて、初乳Brix値が低くなる傾向、つまり、弱い負の相関が認めらました(相関係数-0.29)。この結果からは、太りすぎの馬の初乳Brix値が低くなる可能性が示唆されましたが、これはBCSの高い馬は乳量が多いことから、IgG(抗体)濃度が希釈されたためであり、総IgG(抗体)濃度が低いということではないと推測されます。この結果からは、少なくとも標準的な脂肪の付き具合であるBCSが5以上あれば、十分な品質の初乳が得られるものと考えられます。一方、分娩後の母馬の管理等を考慮すると、分娩前にはBCSが6となるように管理することが推奨されます。

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図3 分娩前3か月平均BCSと初乳Brix値の関係

 良質な初乳が得られたとしても、子馬に抗体が移行していなければ意味がありません。子馬が十分量の抗体を摂取できているかを調べるために、生後11~14時間の子馬に対して採血を行い、血中IgG量を測定することが推奨されています。子馬の血中IgG濃度と初乳Brix値の関係を調べた結果が図4となります。初乳Brix値が高くなるほど、子馬の血中IgG濃度も高くなる正の相関関係が認められました(相関係数0.46)。この結果から、やはり初乳Brix値が低い場合には、子馬が十分量の抗体を獲得できていない可能性が高くなると言えそうです。

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図4 子馬血中IgG濃度と初乳Brix値の関係

良質な初乳が得られない時には?

これまでお話してきたように、適切な飼養管理を行ってきたとしても、良質な初乳が得られない状況がどうしても発生してしまいます。そのような状況への対策として、凍結された良質な保存初乳を準備しておくことが挙げられます。一般的に、Brix値が20%以上であり、初産ではなく、乳量の多い(乳房の大きい)繁殖牝馬から、300ml程度の初乳を採取して冷凍保存(-20℃で2年程度)しておくことが推奨されています。JRA日高育成牧場でも、過去に得た保存初乳をストックしており、母馬の初乳のBrix値が低い場合や子馬の血中IgG濃度が低い場合に、積極的に活用しています。保存初乳の投与には注意点があり、生後24時間以内に投与しなければなりません。これは、子馬の腸管が生後24時間経過すると構造が変化し、初乳に含まれる抗体を吸収できなくなるためです。このように、保存初乳は生後直後に必要となることから、一定数をストックしておくことがとても重要だと考えられます。

 また、残念ながら保存初乳がない場合や生後24時間以上経過している場合には、血漿輸血を行うという方法もあります。これは母馬やユニバーサルドナー(供血馬)から採血を行い、その中の血漿成分(抗体が含まれる部分)を子馬に輸血することで、子馬に十分な抗体を移行させる方法になります。特に、ユニバーサルドナーは輸血後の拒絶反応のリスクが低い馬であり、母馬よりも安全に輸血を行うことができます。JRA日高育成牧場にはユニバーサルドナーが繋養されておりますので、牧場の担当獣医師の方の判断で血漿輸血が必要な場合にはご相談ください。

JRA日高育成牧場 専門役(生産担当) 岩本洋平

2022年9月30日 (金)

JRAホームブレッドのまとめ

 JRAは2009年よりJRAホームブレッドとして自家生産馬を生産してまいりました。2022年までに通算で100頭を超えるサラブレッドを生産してきましたので、今回は生産を通じて得られた各種知見について、ご紹介していきたいと思います。

JRAホームブレッドの受胎率

 2022年現在までに100頭以上のJRAホームブレッドが生産されてきました。それらの受胎に関する詳細をまとめたのが表1となります。これまでに交配牝馬頭数は143頭にのぼり、それらの馬に対して198回の交配が行われました。受胎頭数は125頭であり、分娩頭数は108頭となっています。これらの数値を用いて受胎率や分娩率を算出しますが、受胎頭数を交配回数で割ったものが1交配当たりの受胎率、受胎頭数を交配牝馬頭数で割ったものを交配牝馬頭数当たり、つまり繁殖シーズン当たりの受胎率と呼んでいます。1交配当たりの受胎率は、交配適期を逃さずに交配できたことを示していると考えられ、適切な交配判断の指標になると思われます。また、繁殖シーズン当たりの受胎率については、繁殖シーズンを通して繁殖牝馬を受胎させる状態で管理できたことを示しており、適切な飼養管理ができていたかを示す指標になると思います。JRAホームブレッドの1交配当たりの受胎率と分娩率は、それぞれ63.1%と54.5%でした。一方、繁殖シーズン当たりの受胎率と分娩率は、それぞれ87.4%と75.5%という結果になっています。1997年から2017年までの日本で生産されたサラブレッドの分娩率についての報告によると、1交配当たりの分娩率は40~43%、繁殖シーズン当たりの分娩率は70~75%という結果が報告されています(Fawcett, 2021)。この結果と比較すると、JRAホームブレッドの分娩率は日本の平均と同等かそれ以上ということができると思われます。特に、1交配当たりの分娩率が平均を上回っていた点については、繁殖牝馬の年齢が若いことに加え、適切に交配判断ができていることが要因と考えられます。

表1 JRAホームブレッドの受胎率と分娩率

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受胎から出産まで

 先ほどの表1で示したように、受胎した馬がすべて無事に生まれてくるわけではありません。表2は、受胎してから出産までに胎子が失われた内訳を示しています。受胎馬は122頭であり、その中で、早期胚死滅や流産、死産が発生して出産まで至らなかった割合は11.5%でした。この胎子喪失率については、13.8%【イギリス】(Rose, 2018)、14.7%【日高地方】(Miyakoshi, 2012)などの報告があることから、JRAホームブレッドの胎子喪失率は平均より低く、その要因は繁殖牝馬の年齢構成と適切な飼養管理の結果と思われます。胎子損失の原因の中で、その半数が胎齢約40日以内の喪失として定義される早期胚死滅が占めていました。胎子の喪失の中で、胎齢39日までの発生が55%、胎齢49日までの発生が75%を占めるという報告もあります(Bain, 1969)。これらの事実からも、早期胚死滅を防ぐ管理を行っていくことが、胎子損失率を低下させるためには非常に重要であることが示唆されます。早期胚死滅の発生率は加齢と共に上昇することが知られています(Miyakoshi, 2012)。このことから、繁殖成績(産駒の競走成績)の芳しくない高齢の繁殖牝馬は、更新することを検討すべきかもしれません。

表2 胎子喪失の内訳

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子馬の出生時体重

 多くの生産者の方にとって、子馬の出生時体重は気になる要素であると思います。出生時体重が小さいと成長に不安が残りますし、逆に大きな産駒であっても難産の発生要因となる可能性があります。JRAホームブレッドの出生時平均体重は53.3±6.5kgであり、最大値は66kg、最小値は29kgでした。最小体重で生まれた子馬は、母馬が慢性的な蹄葉炎を患っていたために虚弱状態で生まれました。乳母により育てられることになりましたが、最終的には競走馬になっています。

 一般的に、初産の繁殖牝馬から生まれた子馬は小さいことが知られています。繁殖牝馬の産歴と子馬の出生時体重の関係を示したものが、表3となります。初産の平均出生時体重は45.8±5.4kgであり、全体の平均よりも小さい値になっていることに加え、2産目以降の平均出生時体重との比較でも有意に小さい値となっていました。このように初産の子馬が小さくなる要因としては、出産を経験していない繁殖牝馬では子宮が小さく、胎子が子宮内で発育するための領域が十分ではないためだと考えられています。一方で、競走馬となった時の体重は両親の体格といった遺伝的要因の影響も大きく受けますので、初産で小さく生まれた子馬に対しても増体を目的とした極端な管理は行わずに、適切な飼養管理を心掛けることが重要であると思われます。

表3 繁殖牝馬の産歴と出生時体重の関係

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ブリーズアップセール上場率

 表4は、2022年のブリーズアップセール(以下BUセール)で売却された世代までの受胎からBUセール上場までの内訳を示しています。これまで12世代で101頭の受胎馬がいましたが、BUセールに上場できたのは70頭であり、約30%がBUセールに上場できなかったことになります。欠場の理由は様々ですが、育成期に発症が多い深管骨瘤に代表される運動器疾患が大多数を占めています。

 BUセール欠場馬19頭のうち、北海道トレーニングセールにおいて6頭を売却しています。JRA育成馬という特性上、それ以降に売却する手段がないため、それ以外の馬については競走馬となることは叶いませんでした。その結果、JRAホームブレッドの出走割合は約75%にとどまっており、日本における生産馬に対する出走馬の割合の約90%と比較して低値になっています。今後はいかにBUセール上場時に調教を行える状態を維持できるかについて、さらなる調査・研究が望まれます。

表4 受胎からBUセール上場までの内訳

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終わりに

 JRAホームブレッドは、生産育成研究の対象として活用され、乳汁pHを用いた分娩予知法の開発や厳冬期の昼夜放牧管理方法の検討などに役立ってきました。今後も、生産地のみなさまに還元できるような知見を得るために、生産育成業務に励んでいきたいと思います。

日高育成牧場専門役(生産担当) 岩本洋平

2021年11月22日 (月)

競走馬の長距離輸送について

 国内における馬の輸送は、周知のとおり主に馬運車というトラックで行われます。競馬開催のためや近隣の種馬場までの輸送なら数時間程度ですが、休養のために本州から北海道の牧場まで輸送するなど、長時間の輸送が必要な場合もあります。このような場合に、馬の健康を害さないように輸送するためにはどのようなことに気を付けるべきなのでしょうか。

輸送後に頻発する発熱(輸送熱)に注意

 輸送に際して最も問題となるのは輸送熱です。輸送熱は輸送のストレスなどが引き金となって起こる発熱で、細菌感染が重症化すると肺炎を起こす極めて注意が必要な疾患です。輸送熱の主な病原菌は、馬の気道に常在している(常にいる)細菌であることが知られており、輸送による疲労やストレスにより馬の免疫機能が低下することで、感染が成立して発症すると考えられています。また、誘因の一つとして、輸送中に排出された糞尿による空気の汚染も挙げられます。馬運車内の空気中に糞尿由来のアンモニアなどが充満すると、普段問題とならない細菌に感染しやすくなってしまうのです。

 過去の調査により、輸送が20時間以上かかると輸送熱の発症率が大幅に上昇することが分かっています。これを予防するために、輸送前の抗生剤投与などが行われ、大きな成果が出ています。一方で、抗生剤の副作用で腸内細菌が悪影響を受ける可能性があり、これが一因と疑われる腸炎の発生も確認されています。

 JRAの育成部門では、毎年北海道の1歳セリで購買した馬をJRA宮崎育成牧場まで、所要時間にしておよそ40時間以上かかる輸送を行っています。この環境を利用し、抗生剤投与以外の方法で、いかに輸送熱を予防するかを目的とした研究を行ってきました。そこから得られた知見をいくつかご紹介いたします。

※現在は中継地点で1泊休憩を入れるスケジュールで輸送しています

車内環境を整える

 馬運車内の空気中の細菌やアンモニアなどの有害物質を除去する目的で、次亜塩素酸水の噴霧を行う実験をしました。次亜塩素酸水は近年の新型コロナウイルス対策で手の消毒などにも用いられている消毒薬です。その結果、次亜塩素酸水を噴霧した馬運車では、空気中のアンモニア濃度と細菌数が減少することがわかりました(写真1)。また、輸送後の鼻腔スワブ(鼻の中の拭い液)にいる細菌の数も噴霧群のほうが少なかったことから、空気をきれいにすることは輸送熱の予防に有効であると考えられました。消毒薬を使用しなかったとしても、馬運車内の換気を十分にし、新鮮な空気に入れ替えることが重要だと思われます。

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 写真1:空気中の細菌数は次亜塩素酸水噴霧群の方が対照群よりも少なくなった

中継地点での休憩は効果あり

 輸送中の馬は、揺れるトラックの荷台に繋がれ、立ったまま過ごします(写真2)。そのため、肉体的な疲労や精神的ストレスにさらされ、非常に過酷な状況であるといえます。そこで、北海道から宮崎までの中間地点で馬を下ろし、馬房内で一晩休ませた時の反応を調べました。ストレスがかかると上昇する指標である、血中コルチゾール濃度を調べたところ、休憩の前後でコルチゾール濃度は明らかに下がり、ストレスが軽減していることがわかりました。また、血中の免疫細胞の数も休憩前後で増加したことから(図1)、輸送熱の原因菌への抵抗力が上がり、感染症にかかりにくくなる効果もあると考えられました。

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写真2:輸送中の馬は立ったまま馬運車に揺られている

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図1:休憩前後で免疫細胞数は増加した

 以上のように、輸送中の車内環境を改善すること、そして馬の疲労やストレスを軽減することは健康な状態で馬を輸送するために重要なことであると言えます。先ほどの例のように、日本を縦断するほどの長時間輸送をする機会は少ないかもしれませんが、長い時間輸送する場合にはできるだけ疾病リスクを下げられるよう心がけましょう。

日高育成牧場 業務課 竹部直矢

2021年10月 5日 (火)

JRAホームブレッドの馴致

 今回は、日高育成牧場でJRAホームブレッドに対して行っている馴致について、中でも特に1歳秋にブレーキングを行う前までの当歳から1歳夏にかけての馴致の内容についてご紹介したいと思います。

母子の引き馬

 引き馬の躾は生後翌日から開始します。日高育成牧場では一人で母子を保持するやり方を行っています。将来的に「子馬を左側から引く」ことを教えるため、位置関係は「人の左に母馬、右に子馬」としています(図1)。左手で母馬のリード(引き綱)を保持し、右手で子馬の左側から頚をかかえるようにします。このようにして子馬の左肩の位置に人がいる「引き馬の位置関係」を教えます。特に生後2ヶ月までの間は、頚部へのダメージを防止するため、子馬にはリードを使用しません。

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図1. 人の左に母馬、右に子馬の位置で母子を引く

駐立の練習

 将来的に検査者の前で馬の左側を向けた左表(ひだりおもて)で四肢が重ならないように立たせることができるように、写真撮影などの機会を通して駐立の練習を行っています(図2)。最初は前後に人が立ち、プレッシャーとその解除により前進後退を行いながら、馬を人に集中させます。まず軸肢(左前肢と右後肢)の位置を決めます。左前管部を地面に対して垂直にし、軸を動かさないまま馬を前後に動かして右前肢と左後肢の位置を決めます。馬の立ち位置が決まったら保持者は後退し、リードを緩めます。馬の接近および前傾姿勢を回避するため、後退する前に人馬の距離を保持するためのプレッシャーをかけます。周囲に人がいない状況できちんと駐立できるようになったら、場内見学バスツアーなどの機会を通して人に囲まれている場面でも同じことができるように慣らしていきます。

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図2 写真撮影を通して駐立の練習をする

離乳後の馴致

 離乳後は母馬の存在がなくなるため、子馬が精神的に不安定になります。人間が子馬のリーダーであることを再認識させるとともに、人馬の1対1の関係を強化する上で大切な時期となります。集放牧の際に前の馬と一定の距離をとって歩かせることで、周囲に他の馬の姿が見えなくなっても鳴かない馬を作ることができます。また、ビニールシートを通過させるなどの機会を設け、人が課題(ビニールシートの通過)を与えてプレッシャー・オンの状態にし(リードを引く)、それに従えばプレッシャーはオフになる(リードは緩められる)ということを繰り返すことで人の指示に従うことを教え(図3)、人馬の1対1の関係を強化することができます。