謹んで新春のお慶びを申し上げます。本年もJRA日高育成牧場をよろしくお願い申し上げます。年が明け1歳になったホームブレッドは、昼夜放牧を通して心もからだも日々成長しています。妊娠馬は昼夜放牧から昼放牧に切り替え、2月上旬から幕開けとなる分娩シーズンにむけて、準備を整えているところです。
さて、日高育成牧場ではJRAホームブレッドを活用してサラブレッドの生産および育成に取り組み、調査・研究や技術開発を行っています。2010年には「JRA育成牧場管理指針-生産編-」として成果を取りまとめ、生産地における講習会で使用する普及用参考書として活用してきました。
このたび本指針を改訂し、第3版を発刊いたしました。繁殖牝馬や子馬の管理に関する最新の知見を追加するとともに、動画への二次元コードを掲載し、これまで以上に活用しやすい内容となっております。引き続き、生産・育成の参考書として利用いただけますと幸いです。JRA HPに冊子PDFを公開しておりますので、ぜひご活用ください。
日高育成牧場では獣医学生の皆さんに馬産地における馬獣医師について知っていただくため、春と夏の年に2度、実習を開催しています。現在、来春の実習参加者を募集しております。
繁殖シーズン真っ只中に開催するスプリングキャンプでは、繁殖牝馬と生まれたばかりの子馬を中心に取り扱い、生産現場の概要や獣医療について学んでいただきます。分娩の立ち会いや2歳馬の育成調教の見学などを通して馬産地の概要について幅広く知ることができる実習です。馬の獣医療に触れる数少ない実習であり学生にも大変好評で、参加者からのちに職員となった者もおります。過去の実習の様子については過去記事(以下URL)も併せてご覧ください。本実習はVP camp事業として開催するため、詳細はVP campのHPをご確認ください。
ご興味のあるお知り合いがいらっしゃいましたら、ぜひお伝えいただけますと幸いです。
2023年開催:https://blog.jra.jp/kitanoheya/2023/04/post-a2bd.html
2019年開催:https://blog.jra.jp/kitanoheya/2019/03/post-f0b6.html
2024年スプリングキャンプ
【実習日程】2024年3月18日(月)~22日(金) 集合3/17 解散3/23
【参加条件】獣医学科3~4年次
【募集人数】6名
【応募方法】VP camp HPにて詳細を確認の上、専用フォームよりご応募ください。
応募者多数の場合は書類選考を実施いたします。
https://www.vetintern.jp/project/jra-hidaka/
【応募締切】2023年12月20日(水)
雪虫の大量発生に続き、急に気温も冷え込んできた今日この頃ですが、皆様冬支度はばっちりでしょうか?
さて、当研究室では、強い馬づくりのための生産育成技術講座という馬産関係者向けの講習会を毎年行っており、今年は4年ぶりの対面形式で門別、浦河の2会場で開催し、総勢216名と多くの方にご来場いただきました。
演題は「新しい乳母付け法」、「難産の管理」、「若馬の腰痿」、「マメ科牧草の草生割合がマメ科採食割合に及ぼす影響」と様々なテーマを用意しました。閉会後にも演者は多くの質問者に囲まれ、非常に活発な講習会になったと考えております。筆者も演者の一人でしたが、参加者の方々の質問から逆に学ぶこともあり、非常に勉強になった2日間でした。参加してくださった皆様、本当にありがとうございました。
胚(受精卵)移植によって生産された馬が誕生しましたのでご紹介いたします。
胚移植とは生殖補助医療技術のひとつであり、代理母出産ともよばれます。馬の場合はドナー(胚提供馬)が本交配や人工授精によって自らの子宮内で胚を生産したのち、その胚を回収してレシピエント(代理母)へ移植します。
ドナーとなったのは2023年現在17歳になるオランダ混血種(KWPN)の牝馬(写真1)です。2020東京五輪の総合馬術競技リザーブ馬になるなど高い能力を有していましたが、怪我によりハイクラスの競技会からは引退しました。現在は日高育成牧場で胚移植技術の実践に供しています。
写真1. ドナーとなった牝馬
昨年10月、このドナーから一度にふたつの胚(いわゆる二卵性の双子)を回収、それぞれひとつずつ2頭のレシピエントへと移植し、順調に妊娠を継続してきました。
2頭ともに9月20日が出生予定日でしたが、1頭(写真2)は9月13日に、もう1頭(写真3)は10月4日に誕生しました。血統的には同じ両親から生まれた全兄弟である2頭ですが、レシピエントの違いからか出生には3週間の差が生じ、出生時体重もそれぞれ42kg、50kgと差がありました。毛色や白斑にも違いがあり、血統の奥深さを感じます。
写真2. 9月13日生まれの子馬
写真3. 10月4日生まれの子馬
サラブレッド生産時期と比較すると暖かく青草も豊富なため、生後早いうちから放牧時間を長くした管理を実施しています(写真4)。寒くなるこれからの季節に備えて、サラブレッド生産とは異なる飼養管理方法について模索しているところです。この馬たちの成長も楽しみにしていてくださいね。
写真4. 少しずつ距離が縮まってきた2頭
近年スマート農業とよばれる農業の効率化や簡略化の観点からドローンやAIを活用した草地管理が注目を集めており、植物の育ち具合や肥料をどれくらい与えたらいいかの推定、さらには放牧牛の健康管理など様々な活用法が研究されています。
日高育成牧場においても、放牧地の植生(イネ科やマメ科、その他の草がどのような割合で生えているか)に関する研究のため、無人航空機(ドローン、写真1)飛行を行いました。3.5haの放牧地について、撮影は20分ほどで終了し、450枚の写真を撮影しました。450枚の写真を組み合わせることで放牧地の全体像を得ることができます(写真2)。写真から草の分布、糞の位置などを検出し、放牧地の状態を把握しました。
現在は牛での研究が盛んですが、馬の放牧地や採草地でもドローンやAIによって草地管理の省力化を図り、また馬の健康や発育の管理に活用すること目標に調査してまいります。
写真1. ドローン(重さ950g)
写真2. 450枚の写真を組み合わせてできた放牧地の全体像
この夏、札幌競馬開催のための滞在出張で美味しいものを食べすぎ、見事に3kg程太ってしまった筆者です。季節は食欲の秋に移っていきますが一旦ダイエットします。
さて、8/21~8/25の5日間、当牧場で獣医学生を対象としたJRA日高サマーキャンプ2023が開催され、約5倍の応募者の中から選ばれた6名の獣医学生が全国各地から集まりました。
研修では、馬生産地、馬繁殖学、栄養学、運動器疾患などの講義、直腸検査実習や乗馬体験、そして馬のセリ(北海道市場サマーセール)の見学など、馬生産地ならではの研修内容で貴重な経験になったのではないかと思います。
今回の研修で馬獣医師に興味を持っていただき、将来、馬獣医師になる学生が増えてくれることを願っています。
北海道でも最高気温が25℃を超える夏日が続き、放牧地の馬たちは暑さと虫の多さに悩まされているようです。母馬、子馬ともにびっしょりと汗をかき、尻尾や肢で虫を払っています。
日高地方ではこのひと月ほどが牧草収穫の繁忙期となりました。輸入飼料の価格高騰が長引く中、良質な粗飼料確保は特に重要です。日高育成牧場でもより良質な自家牧草を得るため、牧草の生長度合および天気予報とにらめっこしながらの収穫作業が行われています。
牧草収穫は刈取、反転、集草、梱包という手順で行っていきます。刈り取った牧草を平らにならし、適宜反転させながら3~5日かけて乾燥させ、ロール状に集めて梱包します。梱包されたロール牧草はひとつ300kgにもなります。この日は200個ほどのロール牧草を収穫し、保管倉庫に移動させました。
昨年は長雨の影響で牧草の質が少し落ちてしまいましたが、今年は晴れた日が続いたことから良質な牧草が収穫できています。繁殖牝馬や育成馬にとって良い栄養になることを期待しています。
気温が上がり虫も多い季節になってきましたね。
馬たちも夏になると尻尾をブンブン振り、虫を払っています。今回は虫にまつわる話です。
先日、日高育成牧場乗馬厩舎にてシマウマ柄の馬着を見つけました!
最初見たときは単純に可愛い!面白い!と思いましたが、この柄にはものすごい効果があることを後で知りました。
その効果とは…虫よけです!!!
カリフォルニア大学デービス校(UC Davis)での研究によると、アブはシマウマへの接近時に適度な減速が行えず衝突し、着地できないことが多いため、結果としてシマウマはアブによる吸血がされにくいと報告されています。
シマウマ(点線)、馬(実線)の接近0.5秒前までのアブの飛行速度
「Benefits of zebra stripes: Behaviour of tabanid flies around zebras and horses」より引用
虫よけにより馬自身の快適度の改善は勿論ですが、馬の後肢にアプローチが必要な装蹄師、獣医師にとっても虫により馬が暴れるリスクを下げられます。
人の安全面から見ても夏場の馬の虫よけは非常に大事なのです!
ゼブラ柄恐るべし!
今年の3月から日高育成牧場に異動してきた私ですが、先日異動後初めて「暑い!」という単語を発しました。少しだけ夏の訪れを感じる今日この頃です。
さて、今年生まれたホームブレッド達はすくすくと成長し、一番大きい子は200kgに達しようとしており、生まれて約3か月で目線は成人男性とほぼ同じ高さになっています。
子馬は4か月齢まで毎日1~2kgずつ体重が増えます。数字の理解はしていますが、実際にこの成長を目の当たりにすると、やはり大動物の成長速度に驚嘆するばかりです。
体の成長や放牧地で走ることに起因する骨端炎や骨折なども生じやすい時期ですが、このまま無事に離乳まで健やかに育ってほしい限りです。