2023年11月24日 (金)

強い馬づくり講習会開催しました。

雪虫の大量発生に続き、急に気温も冷え込んできた今日この頃ですが、皆様冬支度はばっちりでしょうか?

さて、当研究室では、強い馬づくりのための生産育成技術講座という馬産関係者向けの講習会を毎年行っており、今年は4年ぶりの対面形式で門別、浦河の2会場で開催し、総勢216名と多くの方にご来場いただきました。

演題は「新しい乳母付け法」、「難産の管理」、「若馬の腰痿」、「マメ科牧草の草生割合がマメ科採食割合に及ぼす影響」と様々なテーマを用意しました。閉会後にも演者は多くの質問者に囲まれ、非常に活発な講習会になったと考えております。筆者も演者の一人でしたが、参加者の方々の質問から逆に学ぶこともあり、非常に勉強になった2日間でした。参加してくださった皆様、本当にありがとうございました。

3g8a1614

2023年10月25日 (水)

胚移植による生産馬誕生

 胚(受精卵)移植によって生産された馬が誕生しましたのでご紹介いたします。

 胚移植とは生殖補助医療技術のひとつであり、代理母出産ともよばれます。馬の場合はドナー(胚提供馬)が本交配や人工授精によって自らの子宮内で胚を生産したのち、その胚を回収してレシピエント(代理母)へ移植します。

 ドナーとなったのは2023年現在17歳になるオランダ混血種(KWPN)の牝馬(写真1)です。2020東京五輪の総合馬術競技リザーブ馬になるなど高い能力を有していましたが、怪我によりハイクラスの競技会からは引退しました。現在は日高育成牧場で胚移植技術の実践に供しています。

3

写真1. ドナーとなった牝馬

 昨年10月、このドナーから一度にふたつの胚(いわゆる二卵性の双子)を回収、それぞれひとつずつ2頭のレシピエントへと移植し、順調に妊娠を継続してきました。

 2頭ともに9月20日が出生予定日でしたが、1頭(写真2)は9月13日に、もう1頭(写真3)は10月4日に誕生しました。血統的には同じ両親から生まれた全兄弟である2頭ですが、レシピエントの違いからか出生には3週間の差が生じ、出生時体重もそれぞれ42kg、50kgと差がありました。毛色や白斑にも違いがあり、血統の奥深さを感じます。


23

写真2. 9月13日生まれの子馬

23_2

写真3. 10月4日生まれの子馬

 サラブレッド生産時期と比較すると暖かく青草も豊富なため、生後早いうちから放牧時間を長くした管理を実施しています(写真4)。寒くなるこれからの季節に備えて、サラブレッド生産とは異なる飼養管理方法について模索しているところです。この馬たちの成長も楽しみにしていてくださいね。

Photo

写真4. 少しずつ距離が縮まってきた2頭

2023年9月28日 (木)

ドローン飛行

 近年スマート農業とよばれる農業の効率化や簡略化の観点からドローンやAIを活用した草地管理が注目を集めており、植物の育ち具合や肥料をどれくらい与えたらいいかの推定、さらには放牧牛の健康管理など様々な活用法が研究されています。

 日高育成牧場においても、放牧地の植生(イネ科やマメ科、その他の草がどのような割合で生えているか)に関する研究のため、無人航空機(ドローン、写真1)飛行を行いました。3.5haの放牧地について、撮影は20分ほどで終了し、450枚の写真を撮影しました。450枚の写真を組み合わせることで放牧地の全体像を得ることができます(写真2)。写真から草の分布、糞の位置などを検出し、放牧地の状態を把握しました。

 現在は牛での研究が盛んですが、馬の放牧地や採草地でもドローンやAIによって草地管理の省力化を図り、また馬の健康や発育の管理に活用すること目標に調査してまいります。

Photo_4

写真1. ドローン(重さ950g)

C1

写真2. 450枚の写真を組み合わせてできた放牧地の全体像

2023年9月 6日 (水)

JRA日高サマーキャンプ2023開催!

この夏、札幌競馬開催のための滞在出張で美味しいものを食べすぎ、見事に3kg程太ってしまった筆者です。季節は食欲の秋に移っていきますが一旦ダイエットします。

さて、8/21~8/25の5日間、当牧場で獣医学生を対象としたJRA日高サマーキャンプ2023が開催され、約5倍の応募者の中から選ばれた6名の獣医学生が全国各地から集まりました。

研修では、馬生産地、馬繁殖学、栄養学、運動器疾患などの講義、直腸検査実習や乗馬体験、そして馬のセリ(北海道市場サマーセール)の見学など、馬生産地ならではの研修内容で貴重な経験になったのではないかと思います。

今回の研修で馬獣医師に興味を持っていただき、将来、馬獣医師になる学生が増えてくれることを願っています。

Photo_2座学

Photo_3親子の取扱い

Photo_4乗馬体験

Photo_5直腸検査

Photo_6下肢部の検査

Photo_7日高育成牧場展望台

Photo_8北海道市場サマーセール

2023年7月24日 (月)

牧草収穫

 北海道でも最高気温が25℃を超える夏日が続き、放牧地の馬たちは暑さと虫の多さに悩まされているようです。母馬、子馬ともにびっしょりと汗をかき、尻尾や肢で虫を払っています。

Photo 

 日高地方ではこのひと月ほどが牧草収穫の繁忙期となりました。輸入飼料の価格高騰が長引く中、良質な粗飼料確保は特に重要です。日高育成牧場でもより良質な自家牧草を得るため、牧草の生長度合および天気予報とにらめっこしながらの収穫作業が行われています。

 牧草収穫は刈取、反転、集草、梱包という手順で行っていきます。刈り取った牧草を平らにならし、適宜反転させながら3~5日かけて乾燥させ、ロール状に集めて梱包します。梱包されたロール牧草はひとつ300kgにもなります。この日は200個ほどのロール牧草を収穫し、保管倉庫に移動させました。

 昨年は長雨の影響で牧草の質が少し落ちてしまいましたが、今年は晴れた日が続いたことから良質な牧草が収穫できています。繁殖牝馬や育成馬にとって良い栄養になることを期待しています。

Photo_2

Photo_3

2023年6月23日 (金)

ゼブラ柄、恐るべし!

気温が上がり虫も多い季節になってきましたね。

馬たちも夏になると尻尾をブンブン振り、虫を払っています。今回は虫にまつわる話です。

先日、日高育成牧場乗馬厩舎にてシマウマ柄の馬着を見つけました!

最初見たときは単純に可愛い!面白い!と思いましたが、この柄にはものすごい効果があることを後で知りました。

その効果とは…虫よけです!!!

Photo_2

カリフォルニア大学デービス校(UC Davis)での研究によると、アブはシマウマへの接近時に適度な減速が行えず衝突し、着地できないことが多いため、結果としてシマウマはアブによる吸血がされにくいと報告されています。

1

シマウマ(点線)、馬(実線)の接近0.5秒前までのアブの飛行速度

「Benefits of zebra stripes: Behaviour of tabanid flies around zebras and horses」より引用

虫よけにより馬自身の快適度の改善は勿論ですが、馬の後肢にアプローチが必要な装蹄師、獣医師にとっても虫により馬が暴れるリスクを下げられます。

人の安全面から見ても夏場の馬の虫よけは非常に大事なのです!

ゼブラ柄恐るべし!

2023年6月 1日 (木)

毎日体重増

今年の3月から日高育成牧場に異動してきた私ですが、先日異動後初めて「暑い!」という単語を発しました。少しだけ夏の訪れを感じる今日この頃です。

さて、今年生まれたホームブレッド達はすくすくと成長し、一番大きい子は200kgに達しようとしており、生まれて約3か月で目線は成人男性とほぼ同じ高さになっています。

子馬は4か月齢まで毎日1~2kgずつ体重が増えます。数字の理解はしていますが、実際にこの成長を目の当たりにすると、やはり大動物の成長速度に驚嘆するばかりです。

体の成長や放牧地で走ることに起因する骨端炎や骨折なども生じやすい時期ですが、このまま無事に離乳まで健やかに育ってほしい限りです。

Photo_2「母の刹那の休息」

Photo_4「食べることは生きること」

Photo_5「トリオ結成」

Photo_6「ホラー映画でビックリするやつ」

2023年5月10日 (水)

ホームブレッドすくすく成長中

GWも終わり、日高育成牧場では桜の木もすっかり葉桜になりました。

放牧地の牧草も青々と茂りだし、放牧に出た親子は嬉しそうに駆け回っております。

 

放牧地での親子の距離感にも変化が出始めています。

生まれて1か月程度までの子馬達は、母馬からあまり離れず親子で過ごす時間がほとんどですが、年長の子馬達は、親から離れる時間が増え、子馬同士で遊び始める時期になりました。

一般的に15~16週齢以降に、子馬は群れの中で「精神的」に自立すると考えられており、早期離乳のタイミングの基準になっています。

 

今年のホームブレッド達も秋の離乳に向けて精神的にもすくすくと成長中です!

Photo

「遊ぼうよー。」「えー眠いからやだー。」

Photo_2

「1か月齢ですけど何か?」

2023

「桜をバックにハイポーズ」

Photo_3

「寝る子は育つ!」

2023年4月10日 (月)

3年ぶりにスプリングキャンプを開催しました

 3月中旬に獣医学生向けのスプリングキャンプ(5日間の実習)を開催しました。本実習はVPcampを介して受入を実施しており、今回は約7倍の応募者の中から選ばれた6名の学生が全国各地から集まりました。新型コロナウイルス感染症の影響で2年間開催中止が続いていたため、学生たちも再開を待ち望んでいたようです。

 本実習の一番の目的は繁殖シーズンに馬の生産を学ぶことですので、繁殖学や繁殖牝馬と子馬の管理を中心にカリキュラムを組みました。繁殖学実習での直腸検査や親子の引き馬、採血、レントゲン撮影、造鉄見学など、大学では得られない経験ができたのではないでしょうか。職員の話に真剣に耳を傾け、積極的に質問する姿が印象的でした。この経験を糧に、良い獣医師になってくれることを願っています。

Photo

講義

Photo_3

直腸検査

23

ルイゼリアクィーン2023親子の引き馬

Photo_4

繫殖牝馬の採血

Photo_5

造鉄見学

2023年2月17日 (金)

2023年 ホームブレッド第1号・第2号が誕生しました

 2月12日22時頃、今シーズンのホームブレッド第1号となるルイゼリアクィーン2023が誕生しました。大きな星が特徴的な牝馬です。父は2022年より供用が開始されたミスチヴィアスアレックスで、この世代が初年度産駒となります。

S__114245640_2 ルイゼリアクィーン2023

 また、16日7時頃には第2号となるブレシッドサイレンス2023も誕生しました。母馬によく似た白斑をもつ牡馬で、父はデクラレーションオブウォーです。

S__114245638 ブレシッドサイレンス2023親子

 日高育成牧場では出生翌朝(出生8~12時間後)に子馬の血中免疫グロブリン濃度を測定して、初乳免疫移行の確認を行っています。今回生まれたルイゼリアクィーン2023は出生3時間以内に哺乳行動を確認していたものの、翌朝の母馬の乳房が大きく腫れていたこと、また子馬の免疫グロブリン濃度が低かったことから、十分な初乳摂取ができていなかった可能性が考えられました。子馬が初乳から免疫抗体を吸収できるのは生後24時間以内と言われており、中でも6時間以内が最も吸収率が高いと言われています。そのため分娩直後の初乳(搾乳し、冷凍保存しておいたもの)とその場で搾乳した母乳の強制投与を行い、初乳免疫の獲得を促しました。

 処置翌朝(出生翌々日)、子馬の血中に十分量の免疫移行が確認できたことから、初乳免疫獲得は成功したと考えられました(ここで移行確認ができなければ、血漿輸血の検討も必要です)。その後数日間母馬の乳房を確認したところ大きな腫れは引いたことから、子馬の哺乳は上達し十分な栄養摂取ができていると判断しました。

 子馬の初乳免疫移行にはタイムリミットがあり、新生子馬は感染症に弱いためその確認は極めて重要です。免疫グロブリン濃度の測定が難しい場合でも、母馬の乳房の状態から母乳摂取状況を推察することで、子馬の健康状態把握の一助となるかもしれません。

S__114245635 哺乳の様子