画像診断 Feed

2022年12月 2日 (金)

育成期の運動器疾患

はじめに

 多くの育成場では、育成馬の騎乗馴致を開始している頃だと思います。トレセンや競馬場に移動するまで順調に調教が進む場合もあれば、疾患の発症によって休養を余儀なくされる場合もあるでしょう。今回は皆様の悩みの種となる育成期における運動器疾患について紹介させていただきます。

 

離断性骨軟骨症(OCD

 軟骨内骨化の過程に異常をきたす疾患で、関節軟骨の糜爛や剥離を生じさせる骨端骨化異常と考えられています。好発部位は球節、肩関節、飛節、膝関節であり、特に飛節でよく認められます。跛行等の臨床症状を認めることが少ないため、セリ上場に際するレポジトリー検査のX線撮影時に偶発的に発見されることがほとんどです。なお、X線検査で所見を認めていても無症状であることが多く、これらの場合は育成調教および出走に影響を与えることは少ないと考えられています。JRA育成馬を用いた調査においても、飛節のOCDを認めた馬と非OCD馬の出走時期および出走回数に有意な差は認められませんでした。一方、OCDに起因する跛行が継続する場合には、関節鏡による骨軟骨片の摘出手術が必要となることもありますので注意が必要です。

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図1.飛節(距骨滑車外側稜)のOCDのX線所見

  • この馬は育成期間中を通して症状を示さず2歳7月に出走

 

軟骨下骨嚢胞(ボーンシスト)

 関節軟骨の下にある骨の発育不良により発生する骨病変で、栄養摂取や成長速度のアンバランスなどの素因がある子馬において関節内の骨の一部に過度の物理的ストレスが加わることで発症すると考えられています。好発部位は前肢の球節、指骨間関節、肩関節、膝関節であり、前述のOCDと同様にセリ上場に際するレポジトリー検査のX線撮影時に偶発的に発見されることがほとんどです。骨嚢胞が認められても、調教に支障をきたさない場合もありますが、特に膝関節の軟骨下骨嚢胞に起因する跛行などの臨床症状が認められた場合は、長期休養が必要になることもあります。治療としてはステロイド投与、シスト領域へのスクリュー挿入や掻把等があります。

 

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図2.大腿骨内側顆における軟骨下骨嚢胞のX線所見(グレード1~4)

 

近位繋靭帯付着部炎(深管骨瘤)

 繋靭帯と第3中手骨の付着部位における炎症の総称です。原因として繋靭帯の役割が関わっていると考えられています。馬が走行する際には球節が沈み込み、繋靭帯はそれを元の位置へ戻そうと球節を上に引っ張り上げる役割があります。そのため、繋靭帯付着部では下へ引っ張る強いテンションがかかることによって炎症が起こります。

 軽度~中程度の跛行を示し、患部の触診痛や熱感を伴うこともありますが、触診痛を示す症例は少なく、さらにX線検査や超音波検査といった画像診断で異常所見を認める症例も多くありません。そのため、所見が認められない場合には、局所麻酔による跛行改善を確認することで確定診断を行います。軽傷であれば比較的早い調教復帰も可能ですが、再発例も多く認めることから、慎重なリハビリを行うことが重要です。

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図3.赤丸内が繋靭帯付着部

 

ウォブラー症候群(腰フラ)

 頸椎脊髄の圧迫に起因する運動失調を示す疾患で、主に後肢で多くみられます。発症時期は4~24ヶ月齢、特に生後4~8ヶ月齢と14~18ヶ月齢の二峰性の好発時期があると考えられています。サラブレッドの発症率は1.3~2.0%といわれており、牡馬は牝馬よりも発症率が高いという調査結果があります。発症原因は遺伝や栄養バランス、成長障害、外傷などが考えられており、診断方法としてはX線検査やCT検査があります。予後は悪く、発症後に運動失調が進行する場合が多く、重症例では起立不能となります。軽症例では、抗炎症剤の投与や馬房内休養、過度な成長を抑制するために飼料給与量を75%に制限した食餌管理法を実施することで症状が改善される場合がありますが、根本的な治療にはならないことがほとんどです。

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図4.第3頸椎の脊椎管狭窄部位のX線所見(この狭窄が主に後肢の運動失調を誘発)

 

最後に

 早期発見が重要になってきますので、歩様の異常、下肢部の腫脹、関節液の増量など些細な変化を見逃さず、日々チェックやケアをしていくことが不可欠です。

 

JRA日高育成牧場 業務課 久米紘一

2022年9月30日 (金)

1歳セリのレポジトリー検査について(X線検査)

 1歳馬のセリシーズンを迎えるにあたり、「レポジトリー検査」に関して2号にわたりご紹介させていただきます。すでに広く浸透しておりますが、レポジトリーとは、馬のセリにおける上場馬の医療情報開示のことを示します。レポジトリーの活用により、外見上では判断できない情報、例えば骨・関節の状態をX線検査画像として、喉の状態を内視鏡動画として、それぞれ確認することが可能になります。

 今回は骨・関節の状態確認の手段にあたるX線検査についてご紹介いたします。X線検査は何気なく行っているような印象をもたれがちですが、質の高い画像を撮影するためには注意しなければならないポイントがございます。

ポイント1:撮影の角度(照射角度)

 レポジトリー画像撮影時に何度も撮り直す。そんな場面に遭遇したことはありませんか?剥離骨片を評価することの多い球節、軟骨疾患である離断性骨軟骨症(OCD)を評価することの多い飛節など、所見を正しく評価するためには関節面を重なりなく描出することが求められます(図1)。撮影器機の角度調整はもちろんですが、馬の駐立姿勢の微調整は質の高い画像撮影に不可欠です。馬の保定にご協力いただく際は、検査する肢がなるべく地面に対して垂直になるよう、また馬体が動かないように負重を促すなどサポートしていただけるとより円滑な撮影が可能になります。

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図1:関節面が重なっていない像(左)と重なっている像(右)(球節)

ポイント2:画像のブレ

 皆さんがX線検査を受ける身近な機会は、健康診断、はたまた歯科検診などでしょうか?「動かないでくださいね。」とはよく耳にするフレーズかと思います。X線画像検査において、馬のわずかな動きは検査画像の質を損なう原因となります。画像がブレてしまうと、軟骨疾患である骨嚢胞など白黒の階調の違いで評価する所見は途端に判別困難となります。後膝関節の屈曲外―内側像などは股の間にカセッテを差し込み、かつ検査肢を持ち上げて保定し、撮影を実施します。これらの部位は特に馬・カセット保持者・検査肢保定者の動きとブレやすくなる要素の多い撮影箇所であることから、息を合わせた撮影が求められます。馬の反応に合わせて、鎮静剤による化学的保定、鼻捻子による物理的保定を併用することで、人馬とも安全にかつブレの少ない撮影が可能となる場合があります。また、馬の呼吸のタイミングもわずかなブレにつながることもあり、撮影者はよくよく人馬の動きを観察して撮影を実施しています。

 X線検査画像の撮り直しはわずらわしいかと思いますが、検査所見を正しく評価するためには、質の高い検査画像が必要となります。購買者が正しく評価できるX線検査画像の提出のため、上記のポイントも念頭にご協力いただければ幸いです。

 レポジトリーに提出されるX線検査画像はどのように評価されているかご存じでしょうか?過去に実施した調査から、撮影部位によって好発しやすい所見が明らかにされており、その知見をもとに評価されています。画像を見る際は、好発部位の理解はもちろんですが、骨の輪郭をひとつずつなぞって確認することをおすすめします。剥離骨片などは比較的わかりやすく、関節面や骨の辺縁などに欠片のように描出されます(図2)。似たような所見として描出されるのが、骨の成熟する過程で生じる離断した骨軟骨片です(図3)。飛節、膝関節などの骨の辺縁、端を観察してみると所見が認められることがあります。これらの所見を保有していても症状を示さず、問題なく調教を進めることができる馬が多くいます。一方で、骨片・軟骨片保有部位の関節液が増加する、熱感を帯びるといった関節炎症状を示す場合には、跛行の原因となることもあります。レポジトリーでこれらの所見を認めた際は、実際の馬を見て、関節の腫れ・熱感や跛行などの症状の有無を確認するべきと思われます。欠片ではなく、X線透過領域(黒い色調)として描出されるのが、軟骨部の障害に起因する骨嚢胞です。辺縁でドーム状に認められるもの(図4)、関節面付近で丸く黒く抜けたように見えるもの(図5)があります。大腿骨内側顆は骨嚢胞の好発部位であり、嚢胞の大きさや位置により調教を進めていく過程での跛行のリスクが異なります。触診しづらい箇所でもあり、調教が始まるまでほとんど跛行しないため、レポジトリーでの検査所見の評価をあらかじめ実施しておくことで、歩様に違和感が生じた際の早期対応につながるかと思います。

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図2:第1指骨近位の剥離骨片(辺縁は丸く陳旧性と思われる)

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図3:大腿骨外側滑車稜の離断性骨軟骨片

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図4:大腿骨内側顆に認められたドーム状の骨嚢胞(黒い窪みとして描出)

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図5:球関節面に認められた球状の骨嚢胞

 レポジトリーに提出されるX線検査画像は、骨・関節の状態を確認することができる有用な情報です。撮影された画像に何かしらの所見を認めることも少なくありませんが、これらの所見は必ずしも将来の跛行につながるわけではなく、臨床所見を伴うものでなければ競走能力に大きく影響を及ぼすものではないと考えております。また、万が一症状を認めた場合でも、早期発見・早期治療で改善を見込める所見もありますので、常に馬の状態を観察することが重要です。最後になりますが、愛馬の状態を確認するひとつのツールとして、レポジトリーのX線検査の機会を有効に活用していただければと思います。

日高育成牧場 業務課 瀬川晶子

2021年8月31日 (火)

喉の病気と内視鏡検査

競走馬の喉の病気

 競走馬の喉の病気の中には、喉の披裂軟骨の一方(主に左側)が十分に開かない【喉頭片麻痺(LH)】や、強い運動時にヒダや声帯が気道の中心側に倒れてしまう【披裂喉頭蓋ヒダ軸側偏位(ADAF)】、【声帯虚脱(VCC)】などがあります(図1)。原因はさまざまですが、呼吸の際に鼻孔から吸い込んだ空気の通り道が喉で狭くなってしまい、結果的に競走能力を発揮することができないこと(プアパフォーマンス)が問題となります。これまでの競走馬に関する研究により、走行距離が伸びるほど有酸素エネルギーの負担割合が増加すること、また、短距離のレースでさえ走行エネルギーのおよそ70%を有酸素エネルギーに頼っていることが明らかとなっていることから(長距離レースでは86%)、競走馬にとって気道の確保がいかに大切かご理解いただけるかと思います。今回は、そんな喉の病気の検査方法についてご紹介します。

Photo_3図1:喉の疾患の内視鏡像

Photo_4図2:安静時内視鏡検査

診断方法(内視鏡検査)

 基本的には、気道内を観察するためのビデオスコープを馬の鼻孔から挿入し咽喉頭部を観察する安静時内視鏡検査により喉の疾病を診断しています(図2)。「ノドナリ」と呼ばれることもあるLHの診断方法としてご存じの方が多いかと思われます。一方、そのLHの症状がプアパフォーマンスの原因となるほど重症かどうかは、馬に運動負荷をかけないと正確に診断しにくいことや、ADAFおよびVCCなど運動時にのみ症状を表す疾病の存在が注目されるようになったことで、馬をトレッドミル上で走らせながら内視鏡検査を実施する運動時内視鏡検査が盛んに行われるようになりました(図3)。近年では、人が騎乗してより強い運動負荷をかけた状態の喉を観察できるオーバーグラウンド内視鏡(OGE)が開発され(図4)、実際の調教で高速走行中の状態を観察することで、安静時の内視鏡で発見できなかった病気が発見できるようになっています。しかし、どちらの運動時内視鏡検査もトレッドミルやOGEなどの特殊な器材が必要になること(JRAでは、美浦・栗東の両トレセン競走馬診療所、日高育成牧場にトレッドミルとOGEが設置されています)、特にOGEは熟練した獣医師による器材装着が必要となることから、検査を受けるチャンスが限定されているのが現状です。

Photo_5 図3:運動時内視鏡検査(トレッドミル)

Oge

 図4:運動時内視鏡検査(OGE)

詳細情報

 競走馬の様々な喉の病気の症状や治療法、詳しい運動時内視鏡検査の応用方法についてはユーチューブ動画「ホースアカデミー 馬の上気道疾患 ~咽喉頭部の内視鏡検査~」(URL、QRコード参照)にて解説していますので、是非ご視聴ください。今回ご紹介した運動時内視鏡検査が皆様の愛馬の喉の病気を診断する一助としていただければ幸いです。

https://www.youtube.com/watch?v=QQb62hFdRPQ&t=629s

 

日高育成牧場 生産育成研究室 琴寄泰光

2021年7月27日 (火)

若馬の種子骨炎と予後

種子骨炎とは

 種子骨とは、関節部を跨ぐ靭帯あるいは腱構造に包まれている骨を指し、馬では球節の掌側(底側)にある近位種子骨、蹄内の遠位種子骨および膝関節の膝蓋骨などが知られています(図1)。この種子骨の役割は、運動時に骨や腱、靭帯にかかる負荷を分散させることですが、大きな負荷が反復してかかると損傷して炎症が起こると言われています。今回は、このうち近位種子骨の炎症(以下、種子骨炎)について解説します。

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1:馬の種子骨

診断・分類方法

 種子骨炎を発症すると、球節部の腫脹や帯熱の他、跛行(支跛)する可能性があり、発症馬は調教を中止し休養する必要があります。診断は主にX線検査で行われており、重症度にもよりますが、種子骨内の血管孔の状態を示す線状陰影の拡幅や増加、辺縁の靭帯付着部の粗造化や変形および骨嚢胞状の陰影が観察されます。これを基に、近位種子骨のX線画像を異常所見の無いものから順にグレード(G)0~3の四段階に分類(図2)することで、種子骨炎の重症度を客観的に評価できます。これらの情報は、JRAブリーズアップセールをはじめ、多くの若馬のセリ市場の上場馬情報として開示されており、購買を検討するうえで重要な情報の一つとなっています。

2:種子骨グレード(G0:異常所見なし、G1:2㎜以上の線状陰影1~2本、G2:線状陰影を3本以上・辺縁不正、G3:線状陰影多数・辺縁不正・骨嚢胞状陰影、%はJRA育成馬に占めた割合)

治療と予後

 局所の炎症やそれに伴う疼痛(跛行)が著しい場合、球節部の冷却や鎮痛消炎剤の投与が推奨されますが、基本となるのは運動制限(休養)です。また、必要とされる休養期間は、重症度により異なります(軽度:3~4週間、重度:3~6か月)。

予後の調査

 JRA日高育成牧場で育成馬を対象に行った調査では、育成馬の売却時の種子骨炎グレードと売却後に発症した疾病や成績との関連性について報告されています。前肢の種子骨グレードと競走成績の関連についての調査は、競走期のデータが不足している2歳馬などを除外した221頭で行い、前肢の種子骨グレードが高い馬はグレードが低い馬に比べて繋靭帯炎を発症するリスクが高いことが明らかになっています。

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グラフ1:種子骨グレードと前肢繋靭帯炎の発症率の関係

 一方、初出走までに要した日数や、2・3歳時の出走回数ならびに総獲得賞金に関する調査(550頭分)(グラフ2~4)では、種子骨グレードは出走回数や能力に殆ど影響していませんでした。また、一度も出走しなかった馬は9頭いましたが、いずれの原因も種子骨炎ではありませんでした。なお、出走回数や獲得賞金のグラフには一見差があるように見えますが、グレード3の中に活躍馬が含まれているためです

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グラフ2:種子骨グレードと初出走までに要した日数の関係

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グラフ3:種子骨グレードと出走回数の関係 

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 グラフ4:種子骨グレードと総獲得賞金の関係

最後に

 種子骨炎の発症を予防する方法は残念ながら報告されていませんが、JRA育成馬では、治療と休養後に調教復帰し、売却後に出走しています。他の疾患同様、早期発見・早期治療が最も重要となりますので、普段から注意深く馬体や歩様を観察することが重要です。また、種子骨炎を発症したことがある馬に対しては、調教を進めるにあたって定期的に検査を実施し、再発や繋靭帯炎などの続発を防ぐため、状態に合わせた調教、その後の患肢冷却および飼養管理を行うことが推奨されます。

日高育成牧場 生産育成研究室 琴寄泰光

2021年1月27日 (水)

若馬における骨軟骨症の発生

はじめに

近年、国内サラブレッド市場における医療情報開示が一般的となったことにより、四肢関節のX線画像でよく認められる離断性骨軟骨症(OCD)や軟骨下骨嚢胞(SBC)が注目されるようになってきました。このOCDやSBCと呼ばれる病変には、骨の成長過程における軟骨下骨の損傷(骨軟骨症)が深く関わっていることが知られています。今回はこのOCDやSBCの発生原因となる骨軟骨症についてご紹介したいと思います。

 

骨の成長

四肢を構成する長管骨は、骨端部と骨幹部の間にある骨端線の軟骨細胞が増殖して骨化することで長軸方向に伸張すると同時に、骨端部の関節軟骨の軟骨細胞と骨幹部の骨膜の骨芽細胞も同様に骨化することで直径も増していきます(図1-A)。

これら骨端線や関節軟骨で軟骨細胞が増殖して次第に骨小柱を形成していく過程は、「軟骨内骨化」と呼ばれています(図1-B)。サラブレッドでは、離乳時期にあたる6ヶ月齢ぐらいまでの時期がこの軟骨内骨化が最も盛んに行われている時期になります。その後、中手骨(管骨)遠位の骨端線は7ヵ月齢ごろ、橈骨および脛骨遠位(腕節および飛節の上部)の骨端線は25ヶ月齢ごろまでに閉鎖し、その役割を終えます。このことから、四肢の骨は出生直後から2歳頃まで成長を続けていることが分かります。

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(図1)若馬の骨の成長

A:長管骨における骨の成長の模式図、B:関節軟骨における軟骨内骨化の様子

若馬の骨の成長は、骨端線だけでなく関節軟骨の軟骨細胞の増殖による軟骨内化骨によって起こる。

 

骨軟骨症

成長期の子馬の骨の成長に重要な役割を果たしている骨端軟骨や関節軟骨の軟骨組織は骨組織に比べて柔らかいため、物理的な外力の影響を受けやすく容易に障害を発症します。特に、軟骨組織が骨組織へと移行する境目の部位は弱いため、突発的な大きな外力や小さくても継続的に外力が加わることで損傷しやすい部位となります。特に損傷が起こり易い部位として、種子骨の先端や指節関節の関節面などが挙げられます。これらの部位は体重を支えるために負荷が加わるため、頻繁に骨軟骨症が発生します(図2)。こうして発生した骨軟骨症は、臨床症状を示すことなく自然に治癒してしまうものが大半であるため、実際にはそう問題になることはありません。しかし、中には治癒に至らず、OCDやSBCへと発展して跛行などの臨床症状を呈する例もあるのです(図3)。

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(図2)生後2週齢の子馬の種子骨尖端部に発生した骨軟骨症

X線検査で認められた骨透亮像(左図矢印)の組織学的観察により、軟骨基質と骨基質の間で離開損傷していることが確認された(右図矢印・破線部)。成長中の軟骨と石灰化した骨基質との間の軟骨基質の部分は、物理的な外力に最も弱い部分である。

 

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(図3)骨軟骨症病変の軟骨下骨嚢胞への変化

生後1ヶ月齢の子馬の近位指節間関節に認められた骨透亮像(左図矢印)は、4ヵ月後に軟骨下骨嚢胞になり跛行を呈した。

 

最後に

これまでOCDやSBCの発生原因は、軟骨下骨の剥離や栄養血管の壊死、あるいは軟骨の隙間から関節液が浸潤することによるものと考えられていました。しかし最近の研究から、原因は成長過程の幼弱な軟骨基質の物理的な外力による損傷であることが明らかになってきています。我々の調査結果もこのことを裏付けるものであり、生後4ヶ月齢未満の子馬の時期から初期病変が認められる例が多く存在することが明らかになっています。前述したように、骨軟骨症の大半は気付かないうちに自然に治癒してしまいますが、中にはOCDやSBCに発展して跛行の原因となるもの、さらに重症化することで競走馬への道が閉ざされてしまうこともあり、侮れない疾患です。予防には、幼駒の飼養管理や取り扱い方法について、改めて再確認することが重要です。

 

日高育成牧場 生産育成研究室 室長 佐藤 文夫

若馬に見られる頸椎X線所見

はじめに

育成期の若馬にしばしば発症するウォブラー症候群(腰痿)は、主に後躯の運動失調や不全麻痺などの神経症状を呈する疾患です。近年、その病態から頸椎狭窄性脊髄症(CSM:Cervical Stenotic Myelopathy)という病名が相応しいとされています。発症要因から大きく分けて2つのタイプがあることが知られています。すなわち、Type I型は第3-4頸椎の配列の変位による脊髄神経の圧迫変性、Type II型は第5-7頸椎関節面の離断性骨軟骨症(OCD)による脊髄神経の圧迫変性です。しかし、このような所見について発症馬に関する報告は多く認めるものの、健常馬に関する報告は殆ど無いのが現状です。そこで生産育成研究室では、健常1歳馬における頸椎Ⅹ線検査所見の保有状況について明らかにするとともに、そこで認められる所見の発生時期と変化についても調査してきましたので、その一部分を紹介したいと思います。

 

健常馬における保有状況

国内で開催されたサラブレッド1歳市場で購買された健常馬合計240頭(牡122頭、牝118頭)を用いて10月の時点(15-20カ月齢)で頸椎X線検査を実施し、頸椎配列の変位および頸椎関節突起の離断骨片、肥大所見の保有状況について解析しました。その結果、頸椎配列の変位は4.2%(牡9、牝1)の馬にみられ、その所見は全て第3-4頸椎間に見られました。関節面の離断骨片は17.1%(牡27、牝14)の馬にみられ、主に第5-6-7頸椎間に見られました。関節面の肥大は9.1%(牡8、牝5)の馬にみられ、全て第5-6-7頸椎間に見られました(表1、図1)。これらの馬は、翌年4月までの6カ月間、馴致および騎乗調教が実施されましたが、その間に不全麻痺などの神経症状を発症する個体はいませんでした。

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(表1)頸椎X線所見の保有状況

(240頭:牡122頭、牝118頭)

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(図1)供試馬に認められた頸椎X線所見の例

A:頸椎配列の変位

B:頸椎関節面の離断骨片

C:頸椎関節面の肥大



 

発生時期とその経時的変化

サラブレッド20頭(牡12頭、牝8頭)の誕生から15か月齢まで1ヶ月置きに頸椎X線検査を実施し、頸椎X線所見について解析しました。その結果、生後2~6ヶ月齢の6頭(牡5頭、牝1頭)の頸椎突起関節面にOCD様所見の発生が認められました。これらのOCD様所見のうち3頭の所見は次第に治癒する様子が認められましたが、残りの3頭に認められた所見は関節面の離断骨片から肥大所見へと変化し残存しました(図2)。

 

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(図2)第5-6頸椎間関節突起に認められたOCD様X線所見の変化

2ヶ月齢および5か月齢で認められたOCD様所見。次第に癒合したが、関節面は肥大化した。

考察

健常1歳馬の頸椎にも脊髄神経を圧迫する要因となりうるX線所見が多くみられることが明らかになりました。理由は知られていませんが、ウォブラー症候群の発症は牡馬に多いことが知られています。今回の調査において、頸椎X線所見が牡馬に多く認められたことは、これまでの報告を裏付けるものかもしれません。

今回の頸椎X線検査の有所見馬は、すべてが発症には至ることは無かったことから、これらの所見は四肢関節に多く認められるDOD所見と同様にありふれた所見であり、多くの所見は問題とはなり得ないものと思われます。しかしながら、認められた所見は発症馬の頸椎には必ずといってもよい程に認められる所見であり、脊髄神経の変性を引き起こす原因の一つとなることが知られていることから、その部位と程度、飼養環境、新たな診断方法などについて、これからも検討が必要であると思われます。

頸椎X線所見の発生時期は、離乳前のまだ幼弱で成長段階にある頸椎関節に起こる骨軟骨病変であることも明らかになり、この時期の飼養管理が重要であることが分かります。

今後も症例を増やして調査していくことで、ウォブラー症候群発症の予防や発症馬の予後判断に活用できる知見になると思われます。

 

 

日高育成牧場生産育成研究室 室長 佐藤文夫

2021年1月25日 (月)

大腿骨遠位内側顆における軟骨下骨嚢胞について

軟骨下骨嚢胞(subchondral bone cyst、いわゆる「ボーンシスト」、以下SBC)は関節軟骨の下の骨が骨化不良を起こし発生する病変であり、遺伝、栄養や増体率などの要因により、1~2歳の若馬の様々な骨に生じます。このうち競走馬の育成に問題となるものとして、大腿骨遠位内側顆のSBCがあげられます。日高・宮崎両育成牧場では研究の一環として、毎年秋と春に育成馬の膝関節のX線検査を行い、この病変の発生状況を調査しています。

馬の膝関節は図1の骨標本に示す位置にあり、SBCはX線写真では透亮像(黒く抜けた所見)として認められます(図1)。

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図1.馬の膝関節の位置

 

 

この病変は図2のとおり大きさと形状によって4つのグレードに分けられます。

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図2.SBCグレードごとの形状と大きさ(出典:Santschi et.al, 2015, Veterinary surgery, 44(3), pp281-8

グレード1: 極わずかな軟骨下骨の窪み

グレード2: ドーム状の軟骨下骨の窪み

グレード3: ドーム状のX線透過部位を有する嚢胞

グレード4: 円形・釣鐘状のX線透過部位を有する嚢胞

 

  SBCグレードは数値が高くなるに従い、予後が悪くなる傾向にありますが、X線検査で大型(直径10mm以上)のSBCが確認された1歳馬において、跛行を示したのは2割以下であり、SBCを確認した馬が必ずしも跛行を呈するわけではないとの報告もあります(妙中ら, 2017, 北獣会誌, 61, 207-211)。

症状を伴わない場合は治療を行う必要はなく、調教を進めることができますが、跛行が続く場合には治療が必要となる場合もあります。治療の方法にはいくつか選択肢がありますが、近年では螺子挿入術による治療法が特に注目されています。螺子挿入術とはSBCを跨ぐようにして螺子を挿入することで周囲の骨を固定・補強する治療法です。この治療法では2ヶ月の休養が必要とされますが、3ヵ月後には多くの馬が通常運動を行えるようになるまで回復すると報告されています(Santschi et al, 2015, Veterinary surgery, 44(3), pp281-288 )。

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図3.螺子挿入術

 

しかしながら、SBC自体には未解明の部分が多いため、確実な方法としては確立している治療法はありません。そのため、日高・宮崎両育成牧場では、発症時期、原因、跛行との関連性および病変と競走成績の関連性を明らかにするとともに、治療を含めた管理方法の確立を目指して研究を継続します。

日高育成牧場 業務課 胡田悠作

育成期の運動器疾患(軟骨下骨嚢胞)

例年より降雪が遅いものの日々の最低気温が氷点下に届きはじめ、日高育成牧場にも冬が到来しつつあります。騎乗馴致も終わり、1歳馬たちの調教も来年の競走馬デビューに向けて徐々に本格化する時期でもあります。とはいえ、この時期の1歳馬たちは未だ成長途上にあり、運動強度が増すにつれさまざまな運動器疾患が認められるようになります。今回は、それらの疾患のうち「軟骨下骨嚢胞」について紹介します。

 

馬の大腿骨内側顆軟骨下骨嚢胞

ボーンシストとも呼ばれ、栄養摂取や成長速度のアンバランスなどの素因や関節内の骨の一部に過度のストレスがかかることが一因となって関節の軟骨の下にある骨の発育不良がおこることにより発生するとされています。X線検査でのドーム状の透過像(黒っぽくみえる領域)が特徴で(図1)、大腿骨の内側顆が好発部位です(図2)。発生時期も1歳春から秋まで様々で、調教が始まるまで殆ど跛行しないため、セリのレポジトリー(上場馬の医療情報)用のX線検査で初めて発見されることもあります。

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              図1

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              図2

嚢胞があったら長期休養または手術?

この嚢胞には炎症産物が含まれており、運動を継続すると病巣が広がってしまうため、一度跛行が認められたら運動や放牧を中止し休養させなければいけません。調教への復帰を早めるため手術(嚢胞部分の掻爬や螺子挿入)されることもありますが100%改善するとは限りません(図3)。しかし、この病気の発症馬43頭とその「きょうだい」207頭を比較した調査では、①発症・発見が早いほど出走率は高く、②平均出走回数は「きょうだい」と発症馬との間に差がなく、③手術した14頭の出走率は71%、しなかった29頭は52頭であったことが報告されており、早期診断・適切な治療・管理をすれば競走馬としての可能性が十分に期待できることがわかっています。

※出展:馬大腿骨遠位内側顆軟骨下骨嚢胞罹患馬の追跡調査(NOSAI加藤ら)

 

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          図3

また、掻爬による手術を実施した150頭の軟骨下骨嚢胞発症馬に関する調査では、①損傷していた関節表面の大きさが15mm以下であれば出走率が70%、②対して損傷部が15mm以上であれば出走率が30%、③たとえ症状を示していない1歳馬でも嚢胞の直径が15mm以上のものは高い確率で後々跛行することが報告されています。従って、関節表面損傷部の大きさを指標に発症馬の予後判定ができます。

※出展:馬獣医のよもやま話46「後膝におけるボーンシストについて」(HBA柴田ら)

一方、まだ跛行していない1歳馬1,203頭が大腿骨内側顆軟骨下嚢胞を持っていた確率と、それらの馬のうちどの程度が跛行したのかに関する調査では、①10mm未満の嚢胞を持っていたのは84頭(7%)、②10mm以上の嚢胞を持っていたのは33頭(2.7%)、③後に跛行したのは嚢胞を持っていなかった馬のうちの1頭と10mm以上の嚢胞を認めた馬のうちの6頭だったことが報告されています。このことから、比較的大きな嚢胞が認められた馬の殆どが後に症状無く出走することが可能だということがわかります。

※出展:サラブレッド1歳馬の大腿骨遠位内側顆X線スクリーニング検査における有所見率とその後の跛行発症との相関(ノーザンF妙中ら)

 

最後に

 いずれにしても重要なのは症状を悪化させないための早期発見・早期治療です。そのためには、普段からのチェックやケアの徹底により愛馬の状態を確認しておくことはもちろん、「歩様(騎乗した感じ)がいつもと違う」などの前兆を見逃さないことが重要となります。今回の内容について不明なことなどありましたら、是非日高育成牧場までお問い合わせいただければ幸いです。

日高育成牧場 専門役 琴寄泰光

食道閉塞(のどつまり)

食道「閉塞(へいそく)」?「梗塞(こうそく)」?

食道閉塞は、食道が食塊や異物によりふさがってしまう病気で、よく「のどつまり」といわれています。古くから「食道梗塞」という病名が慣例的に使われていますが、本来「梗塞」とは脳梗塞など血液循環障害により生じる虚血性壊死のことをいいます。ですので、「のどつまり」のような病気に用いるのは本来ふさわしくありません。そのため、本稿では海外でも使用されている「食道閉塞(esophageal obstruction)」という病名を用いています。

 

診断と治療

流涎(よだれを垂れ流す)、水および摂食物の逆流、咳などが特徴的な症状です(図1)。診断はこれらの症状、経鼻食道(鼻から食道への)カテーテルの挿入、内視鏡検査により行われます。内視鏡検査では閉塞物、閉塞部位および食道内の異常を確認することができます(図2)。多くは内科療法により治癒可能で、経鼻食道カテーテルを用いて食道に適量の水を注入したり、頚をマッサージしたりして、閉塞物を外側から揉みほぐすことで閉塞の解除を促します。また、内視鏡専用の鉗子を用いて閉塞物をほぐすこともあります。これらの治療を行う際は、鎮静剤の投与により馬の頭を下げさせ、誤嚥を防ぐことが重要です。鎮静剤にはその他に食道の収縮を軽減させる効果もあります。外科療法としては食道切開術がありますが、様々な合併症(食道の裂開・狭窄、電解質平衡異常、頚動脈破裂など)を引き起こす可能性があり、対象は内科療法を繰り返しても良化しない症例に限られます。

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閉塞物除去後の管理

食道閉塞は閉塞物除去後の管理が非常に重要で、それが適切に行われないと再発を繰り返し、死に至る可能性もあります。管理手順について図3にまとめました。閉塞すると閉塞物により食道粘膜の損傷が生じ、狭窄を伴うことがあります(図2)。すぐに通常の給餌を行うと再発のリスクが高くなるため、粘膜の損傷が良化するまで流動食(水分を多く含んだ軟らかい飼料)を与えます。牧草(切り草やキューブを含む)は再発の原因となるため、食道粘膜の修復期間中は与えるべきではありません。また、敷料(麦稈やシェービング)を食したことにより再発するケースも多くありますので、注意が必要です。再発すると食道粘膜の状態を悪化させるため、再び絶食からやり直しとなります。再発を繰り返すと治療期間が長引くだけでなく、食道が正常に機能しなくなり予後不良と診断されることもあります。そうならないためにも内視鏡検査を定期的に行い、食道粘膜の修復(7~21日かかるとされる)を確認してから通常の給餌を再開します。

 

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重要な合併症:誤嚥性肺炎

誤嚥性肺炎は、食道閉塞時に食道から逆流した飼料や唾液が気管内に流入することで生じます(図4)。発症から解除後数時間以内では、多くの馬の気管内に中等度から重度の汚染が生じています。このような状態は誤嚥性肺炎を引き起こすリスクが高くなります。また、肺炎の発症と気管内の汚染度合いとは相関がないという報告もあるので、たとえ診察時に気管内の汚染が軽度であっても油断してはいけません。以上のことから軽種馬育成調教センター(BTC)では多くの場合、誤嚥性肺炎の予防的措置として抗菌薬を投与しています。

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予防

不十分な咀嚼は食道閉塞の発症リスクを高めます。定期的に歯科検診を実施し、馬がしっかりと咀嚼できる状態をキープしてあげましょう。早食いの馬も発症しやすいと考えられるので、そのような馬に対しては一度に多量の飼料を与えるのではなく、なるべく小分けにして与えるようにしましょう。飼葉桶に障害物(大きな石など)を入れておいたり、乾草ネットを使用したりすることも有効です。

 

最後に

先にも述べましたが、食道閉塞は重篤化すると命にかかわる疾患です。しかし、その認識は薄く軽視されがちなのか何度か再発を繰り返してから、診療を依頼されることがあります。今回の記事により一人でも多くの方が食道閉塞の理解を深めるとともに、治療や管理の一助にしていただければ幸いです。

軽種馬育成調教センター軽種馬診療所 日高修平

後期育成馬における深管骨瘤

【はじめに】

深管骨瘤は、様々な用途の馬で跛行を引き起こす原因として古くから知られており、競走前の後期育成馬においても発生の多い疾患の一つです。その病態は名前の通り、管近位後面の深部(図1)に骨瘤を形成する疾患とされています。この部位は周囲を副管骨、浅屈腱、深屈腱、深屈腱の支持靭帯および繋靭帯といった構造物に囲まれた深い場所に位置します。そのことから、患部の熱感、腫脹、触診痛といった症状が表在化しづらい傾向があります。それゆえ、最初に観察される症状が跛行であることがほとんどで、跛行以外の症状が認められないことも珍しくありません。跛行の程度は速歩でしか認められない軽度なものから、常歩ではっきりと観察されるような重度のものまで様々です。

1_9 図1.深管骨瘤が発生する管近位後面


 

【深管骨瘤の病態】

深管骨瘤は大きく二つの病態に分けられます。一つは繋靭帯と管骨の付着部で起こる靭帯付着部症で、もう一つは繋靭帯と関係なく骨単独で起こるストレス骨折です。

靭帯付着部症は、繰り返しの運動負荷により管骨が繋靭帯に引っ張られることで、その付着部である管骨近位後面で傷害が起こります。損傷の程度や発症年齢により骨膜炎、剥離骨折、繋靭帯炎などを発症します。後期育成馬のような若い馬では、骨膜炎や剥離骨折が多くみられます(図2)。その一方、競走馬や乗用馬などのより高齢の馬において発生が多いとされる付着部近くでの繋靭帯炎はあまりみられません。これには年齢の若い育成馬特有の理由があります。腱や靭帯といった組織は年齢とともに強度や弾力性が低下しますが、年齢の若い育成期では柔軟性に富み、高い強度を持っています。それに対して、成長期の骨は軟骨部分が多く未熟であり、腱や靭帯と比較して強度が低いことから、強い負荷がかかった際には物理的な強度の低い靭帯付着部の骨に傷害が起こりやすいのです。そのため、繋靭帯炎は少なく、骨膜炎や剥離骨折の発症が多いと考えられています。

2_8 図2.管骨近位後面のレントゲン画像(左:骨膜炎、右:剥離骨折)

ストレス骨折についても、繰り返しの運動負荷が原因で起こります。管骨の近位後面に圧縮力がかかることで発症するとされており、重度の症例では同部の皮質骨(骨の表面にある硬い部分)に骨折線が観察され、その周囲では骨硬化像(骨が硬くなりレントゲン検査でより白く映る)が認められます(図3)。

3_8 図3.ストレス骨折を発生した管骨近位後面のレントゲン画像
 

【難しい診断】

深管骨瘤は周囲を様々な構造物に囲まれていることから症状が表在化しづらく、診断することが難しい疾患です。触診では異常が確認されないケースでも、診断的麻酔法(患部に分布する神経やその患部へ直接局所麻酔薬を注入することで、跛行の原因箇所を特定する診断方法)を実施することで本疾患が判明することも珍しくありません。触診で問題がなかったとしても、跛行の原因の一つとして除外せずに考えておく必要があります。

 

【予後】

後期育成馬における深管骨瘤の予後は、その症状に応じてしっかりとした休養、リハビリ期間を設けられれば、運動を再開して競走馬デビューすることは難しくありません。しかし、休養やリハビリが適正でなかった場合、運動により再発を繰り返し難治化する恐れもあるため、発症後の管理には十分な注意が必要です。

軽種馬育成調教センター軽種馬診療所 安藤邦英