下肢部の皮膚炎について
馬を管理する者にとって、冬季は下肢部の皮膚炎に悩まされることが多いのではないでしょうか。ご存じの方も多いですが下肢部皮膚炎は主に繋皸(けいくん)と呼ばれており、重症化すると腫脹や疼痛のため跛行を呈し調教できなくなる場合もあり、適切な処置が必要となってきます。
繋皸は主に四肢の繋~球節の掌側面に生じる疾患で、特に白斑部分に起こりやすいと言われています。原因としては調教後の手入れ不足や手入れ方法の悪さが考えられます。繋皸を発症する機序として、まずは冬季で空気中の湿度低下や手入れ時にジェットヒーター等を使用することで馬体の過度な乾燥が進むと皮膚バリアの脆弱化が起こります。そして調教を行った際、馬場に蹄が沈み込むことで繋や球節の掌側面が路盤や路面へ接触して、脆弱な皮膚に小さな創ができます。その創が炎症を起こし発赤や滲出、痂疲形成などを認めるようになり、そこに皮膚常在菌である黄色ブドウ球菌という細菌が感染し、繋皸が発症します。適切な処置を行わないまま調教を継続していくことで創の治癒が進まず、ストレスによる免疫力の低下等も加わると炎症が拡大し、重症化していきます。
繋皸の原因菌となる黄色ブドウ球菌に対しては、抗菌薬であるセファロチンが非常に有効です。オロナイン軟膏を基材としてセファロチンを約1~2%の濃度で添加した軟膏を我々は日々のケアの際に患部に塗布しています。オロナイン軟膏による適度な保湿と抗菌薬による細菌増殖抑制によって治癒が進むと考えています。また、軟膏を直接患部に塗布するために、患部周囲の毛刈りを行うこともあります。消毒薬としてヒビテン(クロルヘキシジングルコン酸塩)も有効です。使用する濃度は40万倍希釈(バケツ1杯に対して数ml)で十分であり、濃度が高いからといって効果が強く出る訳ではありません。逆に濃度が高いと洗浄が不十分だった場合に消毒薬成分が残り皮膚を刺激してしまう可能性があるので注意が必要です。その他、創周囲の殺菌にはオゾン水による洗浄も非常に有効です。しかし、四肢に汚れ(有機物)が残っていると殺菌効果が極端に低くなってしまうので、まずは汚れをきれいに洗い流した後にオゾン水を使用すべきかと思います。しかし疼痛による跛行を呈するほど重症化してしまった場合には、患部への軟膏塗布だけでは治癒は困難なので、抗生剤の全身投与も合わせて行うこともあります。
繋皸の発症を予防するために、球節や繋を保護するバンテージやプロテクター等の馬装具の使用、また軽度な症状の早期発見や創への適切な処置が大事だと考えますので、日々の手入れの際によく足元を観察してみてください。
日高育成牧場 業務課 水上寛健