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2025年7月28日 (月)

持続性交配誘発性子宮内膜炎(PBIE)に対する多血小板血漿(PRP)療法の可能性

北海道の厳寒期も過ぎ、馬繁殖シーズンも真っ盛りとなりました。皆様、出産に種付けと忙しい毎日を送られているかと思います。

今回はヒト医療やウマ医療で話題のPRP(Platelet Rich Plasma:多血小板血漿)療法について、持続性交配誘発性子宮内膜炎(Post Breeding Induced Endometritis, PBIE)への臨床応用の可能性についてお話ししようと思います。

持続性交配誘発性子宮内膜炎(PBIE)とは

牝馬は交配を行うと、子宮内の異物である精液に対する炎症反応が起こります。通常は免疫機構により速やかに解消されますが、一部の馬ではこの炎症が持続しPBIEとなってしまうのです。PBIEになると炎症産物が胚の着床を妨げるため、受胎率低下につながる大きな課題の一つとされています。現在、この問題を解決する一つの方策として、PRP療法が注目されています。

PRP療法のメカニズム

PRPとは、自身の血液から遠心分離により血小板を高濃度に含む血漿を抽出したものです。成長因子や抗炎症因子を豊富に含むため、組織修復や炎症抑制に役立つと考えられています。ヒト医療では関節炎や腱、靭帯損傷といった運動器疾患治療や、皮膚投与による美容治療に用いられています。ウマ医療でも浅屈腱炎などの腱・靱帯の損傷や、外傷への適用が報告されているところです。

PBIEに対するPRP療法の効果

近年の研究では、PRP療法がPBIEに有効であることがいくつか報告されています。ある研究では、PBIEに罹患しやすい牝馬に対して、人工授精前後にPRPを子宮内に注入することで、炎症誘発物質を優位に減少させ、子宮内貯留液も減少したとの報告があります(Segabinazziら, 2021)。また、他の報告では、交配2日後にPRPを子宮内注入することで、次の発情までの日数が優位に短くなり、交配後の子宮内膜肥厚および、妊娠率が優位に高くなったと報告されています(Dawodら, 2021)。これらの結果は、PRPが持つ成長因子、抗炎症因子に起因していると考えられます。

PBIEに対するPRP療法の応用

 これらのことから、種付け後の排卵確認の際に子宮内に貯留液が溜まっている場合、従来通り子宮洗浄やオキシトシン投与を行い、子宮内膜細胞診などによる細菌感染が否定的であれば、後日PRPの投与、細菌感染が疑われるのであれば抗生剤の投与を行うといった治療方法の選択ができれば、不妊リスクの低減、繁殖効率の向上に繋がると考えています。

Photo図. 交配誘発性子宮内膜炎(PBIE)による子宮内貯留液の超音波検査画像

 

生産育成研究室 浦田 賢一