馬事通信 Feed

2021年12月24日 (金)

機能水の使用方法について

機能水とは

 日本機能水学会は機能水を次のように定義しています。「人為的な処理によって再現性のある有用な機能を付与された水溶液の中で、処理と機能に関して科学的根拠が明らかにされたもの、及び明らかにされようとしているもの」。難しいことを言っていますが、実際に現場でよく使用されているものとしては、皮膚炎に対する予防や治療を目的とするオゾン水や微酸性次亜塩素酸水(ビージア水)等があります。今回はこれら2つの機能水の使用方法および注意点について説明していきたいと思います。

オゾン水とは

 オゾンが水に溶けたものをオゾン水と呼びます。オゾンは酸素から作られますが、数秒から数分で酸素に戻るため、有害な残留物を残さず安全に使えます。オゾンの殺菌・消臭効果については、オゾンが化学的に不安定な物質であるため、安定した酸素に戻る際の酸化作用により発揮され、一般的な細菌・真菌・ウイルスに効果があるとされています。

オゾン水の使用方法および注意点

 オゾン水は馬体洗浄後に直接馬体にかけるのが理想です。そして菌やウイルスを死滅させるには90秒程度の接触が必要とされています。

 注意点としては、オゾン水を容器に汲んでから使用する場合や、タオルに浸して使用する場合は、それらが汚れていると殺菌効果が損なわれてしまいます。またオゾン水中のオゾン濃度は生成10分後には半減(1時間後には6分の1)してしまい効果が低くなるため、容器への保存は避けるべきです。特に冬季では温かい水で使用したくなりますが、温度が上がるにつれオゾン濃度は低くなるので、冷水のまま使用した方が効果は高いです。

微酸性次亜塩素酸水(ビージア水)とは

 ビージア水は次亜塩素酸ナトリウムと希塩酸を反応させ、pH5~6.5(微酸性)に調整したものです。人肌も微酸性で、ビージア水がこれに近いことから肌や粘膜への刺激が少なく殺菌や消臭の効果があります。

 ビージア水は次亜塩素酸の酸化力によって殺菌・消臭効果があります。次亜塩素酸という物質は化学的に不安定な物質であるため、別の物質と結合して安定しようとします。この際に菌と接触すると菌の構成する物質と反応して、殺菌作用を発揮します。 

ビージア水の使用方法および注意点

 オゾン水同様、馬体洗浄後に直接馬体にかけるのが理想で、汚れた容器やタオルを使用すると馬体にかけるまでに効果が失われます。ビージア水は30秒程度の接触で殺菌効果があり、温水での使用も可能です。また、容器での保管も可能ですが効果が損なわれないようには、冷暗所での保管が推奨されます。

 機器の設定によっては高濃度で生成することもできます。容器への保存やお湯で薄めて使う場合など便利ですが、そのまま使用してしまうと逆に皮膚に炎症を起こすことがありますので、適切な濃度でご使用ください。

まとめ

 馬体や容器・タオルなどが汚れていることで、機能水の効果が十分に発揮されなくなるので、効果が感じられない際は使用方法を見直してみてください。また、重度の皮膚炎や化膿している場合は抗生物質や抗真菌剤の投与などの治療が必要になってくるので、その際はお早めに獣医師へご相談ください。

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JRAで使用しているオゾン水生成機BT-01H       

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JRAで使用しているビージア水生成機BJS-720

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管部の皮膚炎に対してオゾン水を流している様子。短時間で終わらないことが重要

日高育成牧場 業務課 久米紘一

2021年12月13日 (月)

セレン過剰症について

セレンについて

 セレン(Se)というミネラルをご存じでしょうか。おそらく一度は配合飼料の成分表に書かれているのをご覧になったこともあるでしょう。このミネラルは馬には必須の微量ミネラルで、グルタチオンペルオキシダーゼの主要な構成成分としてビタミンEとともに細胞の抗酸化作用などに重要な役割を果たしています。その欠乏症は「白筋症」として知られ、栄養的な筋障害を引き起こすことが知られています。一方、過剰症の急性症状としては、視力低下、発汗、疝痛、下痢などがあり、「アルカリ病」として知られる慢性症状では、たてがみや尾の脱毛、蹄の変形や裂蹄などが認められ、いずれも重症の場合には死に至ることもあります。

国内で初めての過剰症の発生

 よく管理された競走馬においては中毒など起こりえないと考えがちですが、数年前に国内の競走馬おいて、セレン過剰症を原因とする蹄疾患(全周性の亀裂:写真1)が続発し、数十頭の馬が罹患したことがありました。ほとんどの症例で蹄葉炎に類似した症状が共通していましたが、消炎剤の投与や蹄の支持療法等の通常の蹄葉炎に対する治療への反応も乏しく、疼痛のコントロールができないまま多くの競走馬が予後不良となりました。これまで経験のない症状であったため診断に苦慮しましたが、発症馬の血液から正常値を上回るセレンと蹄の病変部やたてがみからも高濃度のセレンが検出されたことなどから、セレン過剰症と診断できました。しかしながら、通常獣医師が行う血液検査における一般的な測定項目ではないことから診断がつきにくいことに加え、その治療にも限界があることなどもあり、治療よりも発症させないことのほうが重要といえます。

海外での報告例

 海外の報告をみると、馬のセレン過剰症はセレンを多量に含んだ植物の摂取やアメリカ中西部などの土壌中のセレン濃度が高い地域で栽培された飼料の摂取により起こることが一般的な原因とされています。また、サプリメントや注射により発生したケースも報告されており、2009年に米国で開催されたポロ競技大会では、不適切な調合のセレン入りのビタミン剤が投与され、投与を受けた21頭全頭が投与後3~24時間の間に急性中毒で死亡したという報告もあります。

 現在国内で利用されている牧草の多くが、セレン濃度が低い土壌の国内産やアメリカ北西部からの輸入牧草がほとんどですので、牧草由来のセレンについてはそれほど心配しなくてもよいかもしれません。しかしながら、近年では栄養の強化された様々な種類の配合飼料やサプリメントが利用されていますので、配合飼料の使用にあたっては、エネルギーや蛋白質量といった項目だけでなく、セレンをはじめとした微量元素についても確認をする必要があるといえるでしょう。

適切な摂取を

 セレンの詳細な体内動態や明確な要求量は明らかにされていません。一般的に成馬のセレンの最大許容量は20 mg/日(乾物飼料1kgあたり2mg)で、これを超えると中毒症状が起きる可能性があるとされています。通常、1~2mg/日の摂取が目安とされており、FDA(アメリカ食品医薬品局)でも「一般的な成馬」での摂取量が3mg/日を超えないようにと注意を促しています。運動強度の高い馬においては、抗酸化作用を期待してそれ以上の摂取が必要だという意見もあるようです。いずれにせよ、要求量と中毒量が近く安全域の狭いミネラルであるということも忘れずに、適正な摂取量となるよう心掛けていただければ幸いです。

pastedGraphic.png 写真1:国内で発生したセレン過剰症の馬の蹄

pastedGraphic_1.png  写真2:同じ馬の蹄X線画像

日高育成牧場業務課長  立野大樹

2021年11月22日 (月)

競走馬の長距離輸送について

 国内における馬の輸送は、周知のとおり主に馬運車というトラックで行われます。競馬開催のためや近隣の種馬場までの輸送なら数時間程度ですが、休養のために本州から北海道の牧場まで輸送するなど、長時間の輸送が必要な場合もあります。このような場合に、馬の健康を害さないように輸送するためにはどのようなことに気を付けるべきなのでしょうか。

輸送後に頻発する発熱(輸送熱)に注意

 輸送に際して最も問題となるのは輸送熱です。輸送熱は輸送のストレスなどが引き金となって起こる発熱で、細菌感染が重症化すると肺炎を起こす極めて注意が必要な疾患です。輸送熱の主な病原菌は、馬の気道に常在している(常にいる)細菌であることが知られており、輸送による疲労やストレスにより馬の免疫機能が低下することで、感染が成立して発症すると考えられています。また、誘因の一つとして、輸送中に排出された糞尿による空気の汚染も挙げられます。馬運車内の空気中に糞尿由来のアンモニアなどが充満すると、普段問題とならない細菌に感染しやすくなってしまうのです。

 過去の調査により、輸送が20時間以上かかると輸送熱の発症率が大幅に上昇することが分かっています。これを予防するために、輸送前の抗生剤投与などが行われ、大きな成果が出ています。一方で、抗生剤の副作用で腸内細菌が悪影響を受ける可能性があり、これが一因と疑われる腸炎の発生も確認されています。

 JRAの育成部門では、毎年北海道の1歳セリで購買した馬をJRA宮崎育成牧場まで、所要時間にしておよそ40時間以上かかる輸送を行っています。この環境を利用し、抗生剤投与以外の方法で、いかに輸送熱を予防するかを目的とした研究を行ってきました。そこから得られた知見をいくつかご紹介いたします。

※現在は中継地点で1泊休憩を入れるスケジュールで輸送しています

車内環境を整える

 馬運車内の空気中の細菌やアンモニアなどの有害物質を除去する目的で、次亜塩素酸水の噴霧を行う実験をしました。次亜塩素酸水は近年の新型コロナウイルス対策で手の消毒などにも用いられている消毒薬です。その結果、次亜塩素酸水を噴霧した馬運車では、空気中のアンモニア濃度と細菌数が減少することがわかりました(写真1)。また、輸送後の鼻腔スワブ(鼻の中の拭い液)にいる細菌の数も噴霧群のほうが少なかったことから、空気をきれいにすることは輸送熱の予防に有効であると考えられました。消毒薬を使用しなかったとしても、馬運車内の換気を十分にし、新鮮な空気に入れ替えることが重要だと思われます。

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 写真1:空気中の細菌数は次亜塩素酸水噴霧群の方が対照群よりも少なくなった

中継地点での休憩は効果あり

 輸送中の馬は、揺れるトラックの荷台に繋がれ、立ったまま過ごします(写真2)。そのため、肉体的な疲労や精神的ストレスにさらされ、非常に過酷な状況であるといえます。そこで、北海道から宮崎までの中間地点で馬を下ろし、馬房内で一晩休ませた時の反応を調べました。ストレスがかかると上昇する指標である、血中コルチゾール濃度を調べたところ、休憩の前後でコルチゾール濃度は明らかに下がり、ストレスが軽減していることがわかりました。また、血中の免疫細胞の数も休憩前後で増加したことから(図1)、輸送熱の原因菌への抵抗力が上がり、感染症にかかりにくくなる効果もあると考えられました。

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写真2:輸送中の馬は立ったまま馬運車に揺られている

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図1:休憩前後で免疫細胞数は増加した

 以上のように、輸送中の車内環境を改善すること、そして馬の疲労やストレスを軽減することは健康な状態で馬を輸送するために重要なことであると言えます。先ほどの例のように、日本を縦断するほどの長時間輸送をする機会は少ないかもしれませんが、長い時間輸送する場合にはできるだけ疾病リスクを下げられるよう心がけましょう。

日高育成牧場 業務課 竹部直矢

2021年10月29日 (金)

これからの寄生虫対策

 馬を管理する上で、消化管寄生虫対策は必要不可欠なもののひとつです。古くから寄生虫対策といえば駆虫薬を投与すればよい、くらいにしか考えられてきませんでしたが、近年、駆虫薬耐性虫の出現が世界的に報告されるようになり、従来の寄生虫対策が見直されるようになってきました。今回は、最新の対策法として海外の獣医師団体(米国馬臨床獣医師協会:AAEP)により提言されている寄生虫対策の概要を紹介します。

駆虫薬耐性虫とは

 駆虫薬耐性虫とは、駆虫薬が効かない虫、ということになりますが、最近話題のウイルスの変異と同じ理屈で遺伝子の変化が起き、実は昔からときどき出現していた可能性があるのですが、少数すぎて寄生虫同士の生き残り競争に敗れ、増えることができない状況にありました。ところが、この寄生虫群に同じ駆虫薬を繰り返し投与し続けると耐性虫だけが生き残るようになり、耐性虫同士の交配が増加し、結果的に耐性虫が多数を占めるようになったと言われています(図1)。

 同じ駆虫薬が繰り返し使われてきた理由としては、使用できる駆虫薬が数種類しかないうえ、新しい駆虫薬の開発がうまくいっていない、という事情があります。その理由として、ウイルスや細菌に比べて寄生虫は高等な生き物であるため、その分対応が難しいというのがまずありますが、開発にかかるコストと需要のバランスなど、製薬会社側の都合も複雑に絡むのでなんとも説明ができません。

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図1:耐性虫の出現

寄生虫対策

 このような状況を受けて、従来の駆虫薬を使用しつつ耐性虫を増やさないための対策が進んできています。その最終的な目標は、①栄養失調や消化管の閉塞など寄生虫感染によるリスクを最小限にする、②虫卵排出を減少させる、③駆虫薬耐性虫の出現を抑えて有効な駆虫薬を後世に残すこととされており、耐性虫を全滅させることは諦めた、ということになります。①と②は、従来の寄生虫対策とほとんど同じで常識となりつつあるので詳しい説明は省きますが、寄生虫感染の影響が大きい若馬を中心に計画的に駆虫を実施して馬の体から寄生虫を減らしつつ、ボロ拾いや拾ったボロの確実な堆肥化・放牧地のローテーションやハローがけといった寄生虫にとって生きにくい環境の維持に努めることを提言しています。そして③の部分が、近年特に変わってきた部分です。

耐性虫出現を最小限に

 耐性虫をできるだけ出現させないために提言されているのが、計画的な駆虫プログラムにおいて「使用する駆虫薬に同じものばかり使用しないこと」と、「耐性虫の出現をいち早く検知すること」です。前者は、図1で説明した通りです。一方、耐性虫の出現をいち早く検知するには、これまでの寄生虫卵検査を応用することで可能となります。簡単にいうと、これまでは感染している寄生虫の「種類」と糞便中に排出される虫卵が「多いか少ないか」ということが分かる程度でしたが、駆虫薬投与前後に虫卵数をカウントする「糞便虫卵数減少試験」により、虫卵の減少率を調べることで耐性虫の存在を確認することができます(図2)。また、ある駆虫薬を投与してから毎週虫卵検査を実施する「虫卵再出現期間」により当該駆虫薬の有効期間を確認することで、耐性虫の出現をいち早く把握できると言われています(図3)。

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図2:糞便虫卵数減少試験

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図3:虫卵再出現期間

 わが国においても、今回ご紹介したような寄生虫対策を進める必要があるのですが、解説したように現状を把握していなければ、最適な対抗手段をとることができません。今後、JRAも参加している「生産地疾病等調査研究」において牧場それぞれの寄生虫対策や駆虫状況を調査・分析し、結果およびそれに適した対策をフィードバックしたいと考えておりますので、その際は調査にご協力くださいますようお願いします。

日高育成牧場 生産育成研究室  琴寄泰光

2021年10月 5日 (火)

JRAホームブレッドの馴致

 今回は、日高育成牧場でJRAホームブレッドに対して行っている馴致について、中でも特に1歳秋にブレーキングを行う前までの当歳から1歳夏にかけての馴致の内容についてご紹介したいと思います。

母子の引き馬

 引き馬の躾は生後翌日から開始します。日高育成牧場では一人で母子を保持するやり方を行っています。将来的に「子馬を左側から引く」ことを教えるため、位置関係は「人の左に母馬、右に子馬」としています(図1)。左手で母馬のリード(引き綱)を保持し、右手で子馬の左側から頚をかかえるようにします。このようにして子馬の左肩の位置に人がいる「引き馬の位置関係」を教えます。特に生後2ヶ月までの間は、頚部へのダメージを防止するため、子馬にはリードを使用しません。