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2021年7月27日 (火)

若馬の種子骨炎と予後

種子骨炎とは

 種子骨とは、関節部を跨ぐ靭帯あるいは腱構造に包まれている骨を指し、馬では球節の掌側(底側)にある近位種子骨、蹄内の遠位種子骨および膝関節の膝蓋骨などが知られています(図1)。この種子骨の役割は、運動時に骨や腱、靭帯にかかる負荷を分散させることですが、大きな負荷が反復してかかると損傷して炎症が起こると言われています。今回は、このうち近位種子骨の炎症(以下、種子骨炎)について解説します。

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1:馬の種子骨

診断・分類方法

 種子骨炎を発症すると、球節部の腫脹や帯熱の他、跛行(支跛)する可能性があり、発症馬は調教を中止し休養する必要があります。診断は主にX線検査で行われており、重症度にもよりますが、種子骨内の血管孔の状態を示す線状陰影の拡幅や増加、辺縁の靭帯付着部の粗造化や変形および骨嚢胞状の陰影が観察されます。これを基に、近位種子骨のX線画像を異常所見の無いものから順にグレード(G)0~3の四段階に分類(図2)することで、種子骨炎の重症度を客観的に評価できます。これらの情報は、JRAブリーズアップセールをはじめ、多くの若馬のセリ市場の上場馬情報として開示されており、購買を検討するうえで重要な情報の一つとなっています。

2:種子骨グレード(G0:異常所見なし、G1:2㎜以上の線状陰影1~2本、G2:線状陰影を3本以上・辺縁不正、G3:線状陰影多数・辺縁不正・骨嚢胞状陰影、%はJRA育成馬に占めた割合)

治療と予後

 局所の炎症やそれに伴う疼痛(跛行)が著しい場合、球節部の冷却や鎮痛消炎剤の投与が推奨されますが、基本となるのは運動制限(休養)です。また、必要とされる休養期間は、重症度により異なります(軽度:3~4週間、重度:3~6か月)。

予後の調査

 JRA日高育成牧場で育成馬を対象に行った調査では、育成馬の売却時の種子骨炎グレードと売却後に発症した疾病や成績との関連性について報告されています。前肢の種子骨グレードと競走成績の関連についての調査は、競走期のデータが不足している2歳馬などを除外した221頭で行い、前肢の種子骨グレードが高い馬はグレードが低い馬に比べて繋靭帯炎を発症するリスクが高いことが明らかになっています。

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グラフ1:種子骨グレードと前肢繋靭帯炎の発症率の関係

 一方、初出走までに要した日数や、2・3歳時の出走回数ならびに総獲得賞金に関する調査(550頭分)(グラフ2~4)では、種子骨グレードは出走回数や能力に殆ど影響していませんでした。また、一度も出走しなかった馬は9頭いましたが、いずれの原因も種子骨炎ではありませんでした。なお、出走回数や獲得賞金のグラフには一見差があるように見えますが、グレード3の中に活躍馬が含まれているためです

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グラフ2:種子骨グレードと初出走までに要した日数の関係

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グラフ3:種子骨グレードと出走回数の関係 

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 グラフ4:種子骨グレードと総獲得賞金の関係

最後に

 種子骨炎の発症を予防する方法は残念ながら報告されていませんが、JRA育成馬では、治療と休養後に調教復帰し、売却後に出走しています。他の疾患同様、早期発見・早期治療が最も重要となりますので、普段から注意深く馬体や歩様を観察することが重要です。また、種子骨炎を発症したことがある馬に対しては、調教を進めるにあたって定期的に検査を実施し、再発や繋靭帯炎などの続発を防ぐため、状態に合わせた調教、その後の患肢冷却および飼養管理を行うことが推奨されます。

日高育成牧場 生産育成研究室 琴寄泰光

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