育成馬ブログ(2020年 生産①)
草地更新とは?
競走馬の生産牧場における草地(放牧地や採草地)の重要性は言うまでもありませんが、他の作物と同様に、同じ草地を連続で使用することによる土壌成分の枯渇、牧草の栄養価低下、雑草の繁茂などが問題となります。そのため、定期的な「草地更新」を行うことが望まれます。
写真1.放牧地で牧草を食べる馬たち
草地更新前の準備
草地更新を行う判断は、上述のように雑草が多くなったというような“主観的な”基準がきっかけになるかと思いますが、更新を行う前に土壌の状態を科学的に調べて“客観的な”基準も参考にすることが大切です。JRA日高育成牧場では、公益社団法人日本軽種馬協会(JBBA)が行っている事業を活用して、更新を予定している草地の「土壌分析」を行っています。
土壌分析は、JBBAに分析依頼申請を行った後、対象となる草地の概ね5か所以上から土壌サンプルを採材し、分析機関に送付するだけで結果を得ることができます(表1)。この分析結果は、草地更新時に使う肥料や土地改良資材の使用量を決定するために必要な情報となるので、とても重要なものになります。また、草地に関する基礎的な情報(土壌の種類、広さ、牧草の種類など)を再確認するという意味でも、有益なことだと考えられます。
図1.草地更新前に実施した土壌分析結果
草地更新の流れ
土壌分析を行い、更新をしたい草地の状況を把握した後、いよいよ草地更新を行っていくことになります。一般的な草地更新(完全更新法)の流れをまとめると、表1の通りです。現在JRA日高育成牧場で行っている方法では、8月中旬から作業を開始しています。まずは、対象となる草地の雑草を含む牧草を除くために(1)除草剤を散布します。その後、枯れた草を埋没させるために(3)耕起を行い、この状態で冬を越すことになります。
(サラブレッドのための草地管理ガイドブック【JBBA発行】を参考)
翌春の土壌の凍結がなくなった4月下旬頃に、土壌の状態を改善するための(4)土壌改良資材を散布(土壌分析結果に基づいた量)し、そして土地を整えるための(5)砕土・混和・鎮圧(写真2)を行います。その後、埋没種子(土壌に残っていた種)から発芽した雑草を処理するために、再び除草剤を撒きます。JRA日高育成牧場では、雑草の生育が盛んとなる5月頃と播種前の8月頃の2回にわたって除草剤処理を行っています。そして、寒くなる前(9月頃まで)に(7)施肥・播種・鎮圧を行うことで、ついに草地更新作業が終了となります。このように、草地更新は1年間をかけて行う根気のいる作業となります。
写真2.鎮圧の様子
草地更新後の管理
これまで述べてきたように、草地更新は牧草の種を撒くまででとりあえずは作業が終了となります。しかしながら、種を撒いて発芽(写真3)してからの管理も非常に重要となります。その後の管理が不適切であると、牧草が順調に育たないだけでなく、最悪の場合には牧草が定着しない可能性もあります。それを避けるためには、適切な時期に追肥(追加の肥料散布)することや、雑草を取り除くための掃除刈り(雑草が成長・繁殖する前に刈り取る作業)をすることが重要になってきます。
写真3.草地更新後に発芽した牧草
また、更新した草地の管理方法について再検討することも非常に大切です。そもそも、放牧地が荒れた原因を究明しないことには、草地が再び荒れてしまう可能性が高いと考えられます。草地が荒れる原因としては、放牧地の利用状況が悪い(放牧頭数が多い、放牧時間が長いなど)、肥料の施肥量や施肥時期が不適当、掃除刈りの実施方法が不適当(実施頻度が少ない、刈り取りの高さが長いなど)が考えられます。これらに対して適切な管理方法をすることで、草地が良い状態に維持されるだけでなく、草地更新にかかる費用も抑えることが可能になると思われます(図1)。
図1.草地更新の要点
日本の牧場においては、放牧地の広さの問題もあって更新時の代替放牧地の確保が難しく、今回ご紹介した完全更新法による草地更新はなかなか困難であると思われます。そのような場合には、簡易更新法を実施してみても良いのかもしれません(詳細はサラブレッドのための草地管理ガイドブック【JBBA発行】をご参照ください)。今回の記事をきっかけに、いま一度「草地更新」について考えていただくことになれば幸いです。
サラブレッドのための草地管理ガイドブックはこちら
https://jbba.jp/data/booklet/guide/pdf/THOROUGHBRED_guide_all.pdf