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育成馬ブログ 生産編⑩「その2」

人工哺乳の方法 ~躾の観点から~

 

人工乳を与える場合には、躾(しつけ)の観点から、

人間の関与を最小限にする工夫が必要になります。

あまりに熱心に与えた場合、

結果として子馬が人に危害を及ぼすリスクを生じることがあります。

 

子馬が、どこにいくにも人間についてきたり、

衣類を噛んだり、ぶつかってきたり、立ち上がったり、

乗っかったりするなどの行動は、

小さいうちは問題ありませんが、

大きくなった際にはきわめて危険です。

さらに、成馬になった時に、

人間をリスペクトせずに問題行動を起こすことがあります。

 

このことから、出産直後は哺乳瓶を使用せざるを得ませんが、

翌日以降はバケツから飲むように馴致を開始し、

できるだけ早く哺乳瓶の使用を終了させることが望まれます。

 

また、バケツから飲むようになったら、

馬房壁などに設置した飼い桶などから、

子馬自身が飲むようにさせることもできます(動画参照)。

 

また、早い時期からミルクペレットやクリープフィードなどの

固形飼料を食べさせてもよいでしょう。

 

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                 人工哺乳は人間の関与を最小限にすることが重要

 

 

飼い桶からミルクを飲む子馬(Youtube)

  

これに加えて、

放牧地で他の複数組の母子と一緒に過ごす時間を

なるべく長くとりましょう。

 

子馬は群(むれ)の中で、

「馬としての社会性」を学習することができ、

結果として人間をリスペクトする性質を身につけることも可能となります。

  

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子馬は群(むれ)の中で、「馬としての社会性」を学習する。

  

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本年出産のJRAホームブレッド タキオンメーカーの16(父アルデバラン)

初産で乳房の発達が悪かったため、

出産直後は人工哺乳を併用しましたが、

母馬に大事に育てられ、順調に成長してます。

  

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育成馬ブログ 生産編⑩「その1」

人工哺乳

 

母馬の死亡やフォールリジェクト(育子拒否)などによる孤子、

もしくは初産などでよく見られる母乳の分泌不全症などの場合には、

乳母もしくは人工哺乳が必要となります。

 

特に孤子の場合には、適切な馬体成長のみならず、

競走馬としての躾を考慮した場合にも、

乳母を用意することが最良の選択肢になります。

しかし、乳母が準備できるまでの間、

もしくは、人間の手だけで育てざるを得ない場合には、

人工哺乳を実施しなくてはなりません。

  

まずは初乳!!

 

人工哺乳が成功する最重要ポイントは

「十分量の初乳の投与」です。

良質な保存初乳を生後すぐに0.5~1リットル与えましょう。

以前のブログでも触れましたが、

良質な保存初乳がない場合には、

市販されている牛の初乳が利用可能です

(あくまで緊急用として利用してください)。

 

また、フォールリジェクトされた子馬が感染症にかかり、

死亡する話をよく聞きます。

おそらく、十分量の初乳を摂取していなかったのでしょう。

このため、「出産直後の哺乳行動」と「血中IgG濃度」の

ダブルチェックの確実な実施が望まれます。

  

馬用の人工乳

 

人工乳として、

市販されている馬用ミルクを使用することが推奨されます。

すぐに入手できない場合には、

牛乳で代用することもできます。

ただし、通常の牛乳は馬の母乳と比較して脂肪分が多く、

ラクトースが少ないことが知られています。

このため、低脂肪乳1リットルあたりに、

ブドウ糖20g添加したものを与えると良いでしょう。

 

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人工哺乳の量と回数

 

出産直後の子馬が必要とする母乳の量は体重の約10%ですが、

生後10日には体重の25~30%にまで達します。

そして、5週間を過ぎると体重の17~20%になります。

 

また、この時期の子馬の哺乳回数は、

1時間あたり約3回であり、比較的頻繁ですが、

人間が与える場合は、

生後1週間であれば1~2時間に1回、

2週齢以降は4~6時間に1回で良いでしょう。

 

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成長の確認

 

子馬が十分量の母乳を摂取しているかどうか確認することは、

適切な成長のために重要です。

このためには、

定期的に計測する体重および体高の値は

極めて有用な指標になります。

2ヶ月齢までの子馬が十分量の母乳を摂取している場合、

1日あたりの体重増は1~2kg、

体高の伸びは0.3~0.4cmになります。

  

つづく