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二頭の活躍馬(その1)

ほぼ馴致も完了し、12群は坂路馬場へ、3群は屋内800mトラックでの調教をこなしています。最初はキョロキョロ、フラフラ走っていた馬達も、かなりドッシリと落ち着いた走りをするようになってきました。今後、冬季閉鎖になる12月まで1600mトラックでの調教、隊列を意識した調教を進めていきます。

本年も韓国の研修生3名が、3群馴致開始当日の1015日から約1カ月間、実践研修生として育成牧場に滞在しました。1名は韓国馬事会の職員、他2名はオーナーブリーダー牧場の若いオーナーです。3名とも前進気勢旺盛で、積極的に騎乗馴致について学んでいました。

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馴致第12群は、800mトラック馬場で誘導馬を先頭にして、駆歩までの騎乗調教を行っています。

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馴致の研修を終えた後は、ホースマンの基礎である騎乗練習です。誘導馬であり、毎日の練習の相棒であるフジノシャワーを囲んで左からイさん、ナさん、チェさん。

さて、既報にもあるとおり、日高で育成したナイキハイグレード号(牡2歳:父アグネスタキオン、母ダイアモンドコア)が大井競馬場で行われたハイセイコー記念(S2)を勝利しました。これで3連勝となり今後の中央所属馬との対戦もますます楽しみになってきました。そこで、今回から2回に分けて、本年売却した育成馬のなかで活躍している2頭のこれまでを振り返りながら話を進めていきたいと思います。

もう1頭の馬の名前は、セイウンワンダー(牡2歳:父グラスワンダー、母セイウンクノイチ)です。この馬は新潟2歳S(JpnⅢ)で、出遅れての後方待機から、大外をまくって差しきりました。

まず、2頭の購買から売却までの概略を表にしてみました。

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現在の実力は甲乙付けがたい2頭ですが、1歳セリでの購買価格を見て見ましょう。そこには約2倍の差があります。セイウンワンダー(以後セイウン)は馬体の素晴らしさと母父サンデーサイレンスという点、一方のナイキハイグレード(以後ナイキ)は腹袋のある成長力を感じさせる馬体と期待の種牡馬アグネスタキオン(購買年の公示種付け料1200万円)産駒という点を主として評価しました。また、セリではセイウンは活発に競り上がり、ナイキは一声での購買でした。

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セイウンワンダー17月入厩時。バランスの取れた馬体は非常に目を引きます。

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ナイキハイグレード17月入厩時。頭の大きく写るゴロンとした印象の馬体。

さて、競走馬としてのスタートも両極端でした。表にもあるとおり、BUセールでセイウンは持ったままで1313秒の指示にもかかわらず、最終1ハロン11.3秒の豪快な動きを披露したことでセール最高価格で購買され、中央競馬への入厩が決まりました。一方、ナイキは、スピードは指示通りではありましたが、動きが少し重く映ったのか、それとも台付けの割高感からなのか主取りとなってしまったのです。

すぐにトレセンに入厩したセイウンに対し、ナイキは競走馬としての売却を目指し3週間後に迫った千葉トレーニングセールに向け競馬学校に移動、引き続き調教が続けられました。セールの調教供覧では12.411.3秒の標準以上の時計で走行。台付け(セリでのスタート価格)は、声をかけていただくことを期待してBUセールでの主取り価格よりもさらにディスカウントし、1200万円に設定。しかし、残念ながら結果は主取。アグネスタキオンが「なぜ売れないの?」という気持ちと、競走馬としての将来を打ち砕かれたことで大いに落胆させられました。

幸い再上場の申し込みがあり、この馬の競走馬としての将来、もしかしたらせり上げもあるかもしれないという期待から、さらに台付け価格を下げて受けることになったのです。再上場は、通常呼び出しをかけた購買者が一声で落札することが多いのですが、蓋を明けてみると今までの沈黙がウソのような活発な競り合い。結局は最初の台付け価格より少しだけ安い1160万円で購買され、地方競馬で走ることとなったのです。競走馬としての将来を夢見ることが出来ると胸をなでおろすと共にセリの難しさを痛感したものです。

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千葉セールでのナイキハイグレード。すっきりとした見違える馬体に変貌したナイキでしたが…。(写真提供:馬市.com

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千葉のセールでの騎乗供覧。右がナイキハイグレード。ゴール前を12.411.3秒で軽快に走り抜けましたが…。(写真提供:馬市.com

BUセールの売却の際、購買者の方々にお配りしている育成馬の個体情報には、育成牧場における種々の成長の過程や医療情報に加えて育成牧場からのコメントも記載されています。

セイウンには「購買時は父グラスワンダーの雰囲気が強かったが、育成が進むにつれて母父サンデーサイレンスが強く表に出てきた。特に気性面では、人がしっかりとした態度で臨まなければ圧倒される強さを持つ。その気性が勝負根性と躍動感あふれる走りを生み出す。」というコメント。ナイキのコメントには「大種牡馬サンデーサイレンスの後継の筆頭と目されるアグネスタキオン産駒で期待も高まる。坂路で併走しての燃えるような走りと、普段の力を抜いた動きとが好対照。コンパクトな1歳時のイメージに、少しずつ伸びが加わってきた。」と書かれています。この文章に込められた思いと期待、育成期間中のエピソードなどの対比の詳細、この2頭が教えてくれたことなどは、引き続き次回にお伝えしたいと思います。