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冬期の子馬の管理について(生産)

12月中旬に降り続いた雪のため、北海道浦河地方は例年より早く一面銀世界へと変わりました。北海道では冬期の積雪および低温を避けることはできず、当歳馬の管理方法の変更を余儀なくされます。

冬期には主食となる牧草が枯れ、気温の低下によって放牧地の路面が凍結するなど、飼育環境が急変します。当場においても、放牧地の草が枯渇したためか、群れ全体で体重が減少する傾向が認められました。そこで、離乳後から開始していたシェルター付き放牧地での24時間放牧管理を12月初旬で終了し、当場において最も遅くまで緑が残る放牧地に当歳馬を移動させました。

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メドウフェスクの混入割合が高い放牧地。12月中旬にも緑が残っています。

この放牧地は、なぜか最低気温が氷点下に達する時期にも緑が残るので不思議に思っていました。そこで日高農業改良普及センターの指導員の方々に調査してもらったところ、「メドウフェスク」の混入割合が高いためではないか、との返答をいただきました。メドウフェスクはシベリア原産の牧草です。耐冬性に優れているため晩秋期にも生育を続け、12月中旬でも緑が残るようです。一方、フェスク系の牧草は、「エンドファイト」と呼ばれる内部寄生真菌が産生するアルカロイドによる中毒症が問題となります。しかし、この中毒症は、主に妊娠馬に対して流産や無乳症を引き起こすといわれており、一般的に子馬の摂取には問題が無いと考えられています。放牧中の子馬を見ている限りは、嗜好性も概ね良好で、体重の増加もスムーズでした。晩秋期でさえも生育を続けるため、12月中旬でも草丈は15cm程度を維持しており、他の放牧地の草丈が5cm未満で地面が凍結している時でも、クッション性はある程度良好です。しかし、この放牧地は馬が退避するためのシェルターを備えていないため、いつまで昼夜放牧を継続できるのかが悩みの種となっています。十分な栄養は、良質な乾草やバランスの取れた配合飼料によって供給可能かもしれません。しかし、地面に生えている草を群れの仲間とむしり食べる行為こそが生理的に自然であり、子馬の成長にとって最も重要なことだと思っています。そのため、可能な限り昼夜放牧を継続し、濃厚飼料を最小限にした自然な状態で管理したいと考えています。

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嗜好性も良く、草丈が長いためクッション性も良好です。

昼夜放牧から昼放牧へ変更時期の目安は、①放牧地での運動距離の5km前後に低下したとき、および②体重が減少したとき、としています。放牧地での運動距離は、GPS装置を使って確認していますが、12月初旬に放牧地を変更した際が14km、そして降雪の翌日で最低気温が-10℃になった日でさえも10kmの移動距離が確認されました。一方、体重については、降雪が続いた日などには減少することもありましたが、緩やかな増加を認めました。そのため、現在も昼夜放牧を継続しています。

当初、シェルターがないことから、雨や雪の夜には馬体へのダメージを考慮して馬房に収容することも考えました。しかし、天気予報に反して雪が降る夜を放牧地で過ごした翌朝、子馬たちは背中に雪を背負っているにもかかわらず、意外にも清々しい表情をしています。さらに背中に積もった雪の下はほとんど濡れておらず、密な冬毛が馬体の暖かさを保っていました。

この日を境に、馬は寒さに適応する能力を有していると再認識するようになり、昼夜放牧を終了する時期については、子馬の行動および表情を見て決定しようと考えるようになりました。

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朝飼葉を食べるため馬房に収容した当歳馬。夜間の積雪により、背中に雪が積もっています。

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背中の雪を掃うとあまり濡れておらず、暖かさを保っていました。

北海道の冬期における当歳から1歳にかけての管理をどのようにするべきか、という問いに対する明確な答えは見つかりません。半日かけて移動する距離を、ウォーキングマシンを使用して1時間で強制的に運動させるべきなのか、または、将来のアスリートであることを考慮して、馬服を着せて皮下脂肪を蓄積させないように保ち、冬眠にも似た低代謝状態を避けるべきなのか、悩みは尽きません。しかし、調教が始まれば、当然のことながら毎日馬房に収容されます。したがって、それまでの期間は群れで管理し、放牧地で仲間と餌を食べて仲間と遊ぶことで自然に体力がつき、あわせて精神面も成長すれば良いな、と理想ばかり抱いてしまう今日この頃です。

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昼夜放牧時の午後、餌は放牧地にバケツをつるし、並んで食べさせています。馬房では餌を残す馬も、群れで食べさせると完食するから不思議です。

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雪は牧草を保温し、運動時のクッション性も高める役割を果たします。

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前肢で雪をかき分け、雪の下の牧草を食べる子馬。草をむしり食べる行為こそが、馬の自然な行動であり、欲求なのでしょう。

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