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JRAホームブレッドを用いた研究紹介~当歳馬の種子骨骨折~(生産②)

暑い日が続いていますが、皆様いかがお過ごしでしょうか? 日高育成牧場では先月「うらかわ馬フェスタ」が開催されました(写真1)。このお祭りは馬上結婚式などが行なわれる「シンザンフェスティバル」と、ジョッキーベイビーズの北海道地区予選などが行なわれる「浦河競馬祭」を合わせたもので、浦河町を挙げて大々的に行なわれました。北海道予選を勝ち抜いた木村和士君と大池澪奈さんは、11月に東京競馬場で行なわれるジョッキービベイビーズ決勝に出場することになります。おめでとうございます。

繁殖業務が一段落した現在は、我々が普段行なっている調査・研究のまとめをする時期でもあります。今回は、日高育成牧場の生産馬(以下ホームブレッド)を用いて調査している研究のうち、「当歳馬の近位種子骨骨折の発症に関する調査」の概要について紹介いたします。

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写真1 ジョッキーベイビーズ北海道地区予選

(向かって1番左が木村君、1番右が大池さん)

当歳馬の近位種子骨骨折発症状況

 日高育成牧場では、ホームブレッドを活用して発育に伴う各所見の変化が、その後の競走期のパフォーマンスにどのような影響を及ぼすかについて調査しています。そのなかで、クラブフット等のDOD(発育期整形外科的疾患)の原因を調査するため、肢軸の定期検査を行っていたところ(写真2)、生後4週齢前後の幼駒に、臨床症状を伴わない前肢の近位種子骨骨折がX線検査で確認されました。そこで、子馬におけるこのような近位種子骨々折の発症状況について明らかにするため、飼養環境の異なる複数の生産牧場における本疾患の発症率およびその治癒経過について調査しました。また、ホームブレッドについては、発症時期を特定するため、X線検査の結果を詳細に分析しました。

 まず、日高育成牧場および日高管内の生産牧場の当歳馬を対象として、両前肢の近位種子骨のX線検査を実施し、骨折の発症率、発症部位および発症時期について解析しました。骨折を発症していた馬については、骨折線が見えなくなるまで追跡調査を実施しました。次に、ホームブレッドについては、両前肢のX線肢軸検査を生後1日目から4週齢までは毎週、その後は隔週実施し、近位種子骨々折の発症時期について検討しました。

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写真2 当歳馬のレントゲン撮影風景

「種子骨骨折の発症率と特徴」

調査の結果、近位種子骨骨折の発症が約4割の当歳馬に認められました。全てApical型と呼ばれる種子骨の上端部の骨折でした(写真3・4)。骨折の発症部位については、左右差は認められませんでした。また、近位種子骨は内側と外側に2つありますが、外側の種子骨に発症が多い傾向がありました。しかし、統計学的な有意差は認められませんでした。

世界的に見ても、当歳馬の近位種子骨々折に関する報告は非常に少なく、5週齢までの幼駒に臨床症状を伴わない近位種子骨骨折が高率に発症していることが今回の調査で初めて明らかとなりました。また、今回の調査では、全てApical型の骨折でした。成馬においてもApical型の骨折が最も多く、繋靱帯脚から過剰な負荷を受けることによって骨の上部に障害が生じることが原因とされています。現在のところ、子馬特有の腱および靱帯の解剖学的なバランスのより、種子骨上端部のみに力がかかりやすい状態なのではないかと考えています。

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写真3 5週齢の子馬に認められた近位種子骨骨折

(正面から、丸印が骨折部位)

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写真4 5週齢の子馬に認められた近位種子骨骨折

(横から、丸印が骨折部位)

「発症と放牧地との関連」

牧場別の発症率は、大きく異なっていました。また、発症時期については、約8割は5週齢までに骨折が確認されました。JRAホームブレッドでの骨折発症馬についてX線検査結果の詳細な解析を行ったところ、3~4週齢で発症していました。

牧場ごとに発症率が大きく異なっていたことや、ホームブレッドでの骨折発症時期は、広い放牧地への放牧を開始した時期(この時期、母馬に追随して走り回っている様子が観察された)と重なっていることから、子馬の近位種子骨骨折の発症には、子馬の走り回る行動が要因となっていると推察されました。

「予後」

 ほとんどの症例で、骨折を確認してから4週間後の追跡調査で骨折線の消失を確認できました。しかし、運動制限を実施していない場合は治癒が遅れる傾向があり、種子骨辺縁の粗造感が残存する例や、別の部位で骨折を発症する例も認められました。

今回の調査では、全ての症例で骨折線の消失を確認し、予後は良好でしたが、疼痛による負重の変化も考えられるため、今後は、クラブフットなど他のDODとの関連について検討したいと思います。

「まとめと今後の展開」

5週齢までの幼駒に臨床症状を伴わないApical型の近位種子骨々折が高率に発症していることが今回初めて明らかになりました。広い放牧地で母馬に追随して走ることが発症要因の一つとして推察されました。今後は、今回の調査で認められた骨折がなぜこのように高率に発症しているのか、成馬の病態と異なっているのかどうか、などを調べるため、病理組織学的検査などを含めたさらなる詳細な検査を実施する予定です。また、最終的には、生後間もない幼駒の最適な放牧管理方法について検討して参りたいと考えています。

今後、興味深い知見が得られましたら、順次、当ブログで紹介していきたいと思います。これからもJRAが行なう生産育成研究についてご注目いただけましたら幸いです。