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【腹帯馴致】について(日高)

 今夏の東日本は、記録的な残暑に見舞われました。北海道浦河も、9月に入っても30℃を超すなど、9月中旬までの平均気温は観測史上最高で、半世紀に1度ともいわれる残暑となりました。この残暑厳しい中、サマーセールで購買した40頭が、829日と30日の両日に分かれて入厩しました。9月上旬にはセレクトおよびセレクションセール購買馬を中心に22頭の牡馬を1群として、また、10月初旬からは21頭牝馬を2群として、騎乗馴致を開始しました(写真1)。日高育成牧場は、来年のブリーズアップセールに向けて活気づいてきました。

 騎乗馴致の開始に伴い、BTC育成調教技術者養成研修生の騎乗馴致実習も始まりました。研修生達は、3週間かけて、ランジング、ローラーの装着、ドライビング、そして騎乗に至るまでの過程を学びます。実習前には、馬は人を乗せるのが当たり前だと考えていた研修生達が、実習を通して、騎乗馴致の重要さを感じ取っていく姿は、非常に印象的に映ります。

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写真1.安全に騎乗するために、騎乗前にはドライビングを実施し、扶助を理解させます。写真はパディントンの11(牡、父:バゴ)。

さて、今回は騎乗馴致について触れたいと思います。騎乗馴致は「ブレーキング」とも呼ばれ、草食動物としての“馬”らしい行動を壊し(Break)、新たにヒトとの約束事を構築することを意味します。1群の牡馬の多くは7月下旬に入厩しており、約1.5ヶ月の昼夜放牧によって、心身もとに“馬”らしい状態になっていたために、まさに「ブレーキング」という言葉がふさわしく感じられます。騎乗馴致は、馬体のパッティング、腹帯馴致、ランジング、ドライビングを経て、ペンでの騎乗までを3週間程度かけて、段階的に進めていきます。

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写真2.「ストラップ馴致」は腹帯馴致の有効な手段となります。

動画1.「ストラップ」による腹帯の馴致方法。

しかしながら、どんなに細心の注意を払って、騎乗馴致を進めていても、危険な場面に遭遇することは少なくありません。その危険な場面とは、初めて「腹帯」および「騎乗」を実施するときです。なぜならば、これらは、騎乗馴致を開始する前には、決して経験することのない刺激となるからです。これらのうち、騎乗は、「装鞍」や「横乗り」などによって、段階的に慣らしていくことが可能となります。一方、「腹帯」は「装着するか装着しないか」、つまり「全か無」の刺激しか与えることができないために、騎乗馴致時において、ひとつの山場となっています。そのために、ローラー装着前の腹帯馴致として、JRA育成牧場では、「ストラップ」による馴致方法を導入しています(写真2)。この「ストラップ」は、革ベルトとリングというシンプルな構造のため、解除が容易であり、使用方法も簡便です。さらに、馬に対して、段階的に圧迫に慣らすことが可能であるために、非常に推奨できる方法であります(動画1)。「ストラップ」による腹帯馴致方法を導入してから、ローラー装着時に「カブリ(Bucking)」(動画)と呼ばれる、四肢で跳ね上がる反応を見せる馬は減るようになりました。この「カブリ」は、大きな呼吸によって胸郭が膨らみ、ローラーによる経験したことのない圧迫を強く感じて驚き、それを振り解こうとする必然的な反応であります。馬が「カブリ」を見せた場合には、必ず、ムチなどの扶助を使って馬を前に出し、馴致者の安全を確保するとともに、扶助に従って、前に出ることによって、問題が解決されるということを理解させます。この際にも、馴致者は冷静に明確な指示を出すことが要求されます。ローラー装着後は、ローラーを装着したまま馬房に収容し、1時間程度様子を見てはずします。しかし、ローラーに対する反応は個体差がありますので、過敏に反応する馬に対しては、馴致終了後も、ローラーを装着したままウォーキングマシンで運動させたり、あるいは放牧するなど、ローラーの圧迫に慣らすことが有効です。

動画2.ローラー装着時の「カブリ」の様子。コロナガールの11(牝、父:デュランダル)。

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写真3.ローラーに過敏に反応する馬に対しては、ローラーを装着したまま放牧し、ローラーの圧迫に慣らすこともあります。コロナガールの11(牝、父:デュランダル)。

 馴致の進行程度は、個体差があるので、「急がば回れ」の諺のとおり、個々の馬に合わせて、段階的に進めていきたいと思っています。次回は、走路での走行している姿をお伝えするとともに、初雪についてもご報告できるかもしれません。