« 生産現場における駆虫 その4「駆虫剤投与以外に実施すること」(生産) | メイン | 活躍馬情報(事務局) »

「騎乗馴致」が始まりました(日高)

 今夏の北海道は、特に7月上旬から8月中旬までが暑く、平均気温が過去10年間で2番目に高かったようですが、お盆を過ぎたあたりから暑さが和らぎ、9月中旬に全国的に記録的な大雨をもたらした台風18号が通過後は、急激に秋を感じる涼しい朝が続くようになりました。9月27日には旭川市で初霜が観測されるなど、道内18の地点で氷点下を記録する寒さとなりました。日高育成牧場のある浦河西舎でも5℃を記録しました。このような冬を感じる寒さの中、騎乗馴致を進めています。

 騎乗馴致は3つの群に分けて実施しています。21頭の牡馬を1群として9月初旬から、そして、23頭の牝馬を2群として9月下旬から騎乗馴致を開始しています(写真1)。このように、来年のブリーズアップセールに向け、日高育成牧場は活気づいてきました。

Photo

写真1.騎乗前にはドライビングを実施し、安全に騎乗するために扶助を理解させます。写真はプルームリジェールの12(牡、父:ハーツクライ)。

 JRA育成馬の騎乗馴致は、「育成牧場管理指針」にも記載しているとおり、「タオルパッティング」、「馬房内での回転」および「ストラップによる圧迫馴致」などの「プレ馴致」から始めます。「タオルパッティング」は、触られることを嫌う部位などを重点的にタオルで触れることによって慣らして、人の様々なアクションが無害であるということを理解させるために実施します。「馬房内での回転」は、ラウンドペンでのランジングや騎乗時に人の指示や音声コマンドに従って、回転できるように慣らします。また、「ストラップによる圧迫馴致」(写真2)は、段階的に腹部の圧迫に慣らすために実施します。これらに共通するのは「慣らす」ということです。「プレ馴致」から「騎乗馴致」に至るまでで、最も大切なことは、馬を「慣らす」ということであり、そのためには、馬に対する「寛容」な気持ちが不可欠です。

Photo_2

写真2.「プレ馴致」で実施する「ストラップ馴致」は腹帯馴致の有効な手段となります。

このように、細心の注意を払って馴致を進めていても、「ローラー」と呼ばれる「腹帯」の装着時の「カブリ(Bucking)」と呼ばれる、四肢で跳ね上がる反応を見せる馬は必ず認められます(動画)。この「カブリ」は、大きな呼吸によって胸郭が膨らみ、ローラーによる経験したことのない腹部の圧迫を強く感じて驚き、それを振り解こうとする本能的な反応です。馬が「カブリ」を見せた場合には、ムチなどの扶助を使って馬を前進させ、馴致者の安全を確保します。また、扶助に従って、前進することにより、問題が解決されるということを理解させます。この際にも、馴致者は「寛容」な気持ちで、冷静に明確な指示を出すことが要求されます。

動画.ローラー装着時の「カブリ」の様子。ケイアイリードの12(牡、父:カネヒキリ)。

例年と同様に、騎乗馴致の開始に伴い、BTC育成調教技術者養成研修生の騎乗馴致実習も始まっています。研修生達は、3週間かけてランジング、ローラーの装着、ドライビング、そして騎乗に至るまでの過程を学びます。実際に競走馬になるJRA育成馬を用いて、騎乗馴致の過程を体験することは、優秀なホースマンになる上で必ずや研修生達の大きな財産になることと思います。

研修初日には、馬装の方法のみならず、作業の流れも分からず、緊張しているのが手に取るように分かります。これと同じことが、騎乗馴致初日にラウンドペンの中に入る1歳馬にも当てはまります。騎乗馴致初日の馬は、ラウンドペンの中で何をしたらよいかということを全く理解していません。研修生たちは、一つのことが終われば、次のことを率先して実施しようと努力します。これは、研修生たちは自らの目標に向かって取り組んでいるため、様々な難題も自ら克服しようとします。一方、馬は自ら騎乗されたい、あるいは競走馬になりたいという目標など持っているはずもありません。そのため、ラウンドペンの中に入った瞬間に鞭で追ってキャンターを実施して嫌な思いをさせてはならず、「プレ馴致」で馴らしてきたことをラウンドペンの中でも繰り返し実施し、ラウンドペンの中は安全であるということを理解させることが最も重要です。研修生達には、研修初日の自らの精神状態を、騎乗馴致初日の馬の精神状態に置き換えて、馬の立場に立って馴致を進めていくことの大切さを学んでほしいと願っています。

Photo_3

写真3.JRA職員の指導の下、ドライビング実習を実施するBTC生徒。モントレゾールの12(牡、父:ステイゴールド)。