育成馬ブログ 生産編⑧「その1」
難産 ―病院へ連れていく決断―
出産シーズンの生産牧場において、
子馬が無事に産まれてくることが何よりであることは言うまでもありません。
しかし、人為的介助を必要としない正常分娩はおよそ9割と言われており、
残りの1割は何らかの対応や処置が必要となります。
特に分娩時の胎子の異常に起因する難産に対しては、
正確かつ迅速な判断が求められます。
なかでも最も重要なジャッジは「病院への輸送」です。
ここでいう病院とは、「二次診療施設」、
すなわち全身麻酔下での整復および帝王切開が可能な病院を指します。
病院に連れていく判断、
つまり「牧場現場での整復が不可能であると判断」するうえで重要なことは
「正常分娩との違い」を見極めることです。
正常分娩では、
①陣痛症状の発現
→②破水
→③足胞(羊膜に包まれた胎子の蹄)の出現
→④娩出
がスムーズに進みます(下図)。
これに反して、①から④の進行がスムーズではなく、
いずれかのポイントで停滞した場合には、何らかの異常が疑われるため、
獣医師による整復や病院への輸送を考慮すべきです。
分娩に際しては、時間経過の把握も極めて重要です。
一般的には、②破水から③足胞の出現までは5分以内、
②破水から④娩出までの時間は20~30分程度ですが、
いずれも個体差がみられます(下図)。
特に娩出までの時間は、
経産馬では出産を重ねる毎に時間が短縮される傾向がみられ、
5分間程度で終了する場合もある一方、
初産馬は時間を要することが多いようです。
なお、破水から40分を経過しても胎子が娩出されない場合は、
胎子の生死に関わる可能性があります。
獣医師の到着や病院への輸送時間を考慮した場合、
できるだけ早い段階で異常兆候を把握して、
正確な判断を下す必要があります。
以上のことから、正常分娩で認められる
①陣痛→②破水→③足胞出現→④娩出までの進行にスムーズさを欠き、
経過時間の著しい延長が認められた場合には、
病院への輸送を決断するべきです。