育成馬ブログ 生産編⑧(その2)
「感染性子宮内膜炎」について
○子宮内膜炎の治療
ハグヤードに所属する獣医師は、
検査室(Laboratory)から返ってきた結果をもとに治療を行っていました。
まとめると下記のとおりでした。
1)細菌が検出されないが、貯留液のみ認められる場合
→アセチルシステインを使用。製剤は10%なので、
3%に薄めて使用(製剤20mlに対し生理食塩水を40ml添加)。
60mlをポンプで2本、120mlを子宮内に注入。
2)β溶血性連鎖球菌(beta Streptococcus species)のみが検出された場合
→子宮洗浄(生理食塩水2リットルで2回)を行った後、
アンピシリンを使用(ペニシリン系であれば何でも良い)。
1バイアル(2g)を注射用水(滅菌水)で溶かして、
60mlのポンプで1本子宮内に注入。
3)大腸菌(Escherichia coli)のみが検出された場合
→子宮洗浄(生理食塩水2リットルで2回)を行った後、
ポリミキシンBを使用。
1バイアル(500,000U)を注射用水(滅菌水)で溶かして、
60mlのポンプで1本子宮内に注入。
4)β溶血性連鎖球菌および大腸菌の両方が検出された場合
→子宮洗浄(生理食塩水2リットルで2回)を行った後、
Timentin(Ticarcillin3gとClavulanic acid100mgが
あらかじめ混合された合剤)を使用。
1バイアルを注射用水(滅菌水)で溶かして、
60mlのポンプで1本子宮内に注入。
5)その他の細菌が検出された場合
→感受性試験の結果に基づいて抗菌薬を選択。
6)真菌が検出された場合
→真菌培養はハグヤードでは行っておらず、
コーネル大学もしくはケンタッキー大学に検査に出す。
感受性試験の結果に基づいて抗真菌薬を選択する。
○理想的な診療体制
前回ご紹介した日高での調査は4年間で1,252件のサンプルを
分析したものであったのに対し、
ハグヤードではたったの1年間で6,947件ものサンプルを検査していました。
なんと、日本の約22倍もの頻度できちんと検査が
行われているという計算になります。
もちろん、生産頭数も多いのですが、ケンタッキーが約12,000頭に対し
北海道は約6,800頭と1.8倍程度しか違いません。
前回の内容と重複しますが、我が国の感染性子宮内膜炎の治療においては、
その都度綿棒によるぬぐい液検査(子宮スワブ)および
薬剤感受性試験(どの抗菌薬が病原菌に効果的であるかを判定する検査)が
実施されているわけではなく、
臨床獣医師が経験的に抗菌薬を選択しているのが現状です。
ケンタッキーのように、全ての症例に対する検査の実施が理想的です。
しかし、土地が平坦で牧場が密集しているケンタッキーとは環境が異なり、
日高地区は山に囲まれ牧場地帯が広範囲に及んでおり、
一人の臨床獣医師が往診できる範囲も限られています。
また、馬専門の臨床獣医師が40名も所属する大病院もありません。
このことから、我が国においては当地の効率的な手法を
そのまま応用することは現実的ではなく、
それに代わる迅速で簡便な細菌検査法の導入が望まれます。
(おわり)