育成馬ブログ 生産編⑨(その1)
○乳汁の出が悪い母馬に対する処置について その1
初産の馬など、母馬の乳汁の出が悪くて困った経験はないでしょうか?
今回は乳汁の出が悪い母馬に対する処置について、JRA日高育成牧場で
現在行っている方法をご紹介します。
乳汁の出が悪くなる原因
何らかの理由により母馬の乳汁の出が悪くなることを
乳汁分泌不全(英語でアガラクティア)と呼びます(図1)。
原因として、麦角アルカロイド、ドーパミン作動薬、
栄養不良などが挙げられますが、原因が特定できない症例も
少なくありません。教科書に記載されている明確な原因の一つが、
麦角菌と呼ばれる真菌が産生する麦角アルカロイドという毒物です。
この真菌は燕麦などの飼料中で生育するため、
まず第一に妊娠馬や授乳中の馬に与える飼料にカビが生えていないか
チェックすることが、予防・治療の一つと言えそうです(図2)。
図1 アガラクティアの母馬(乳腺の発達が悪い)
図2 飼料にカビが生えていないかチェックすることが重要
血中プロラクチン濃度の低下
原因が明確ではない場合であっても、アガラクティアの牝馬では
血中プロラクチン濃度が低下していることが多いと言われています。
プロラクチンとは脳下垂体前葉から分泌されるホルモンで、
乳腺の発達、乳汁の合成と分泌を促進する作用を持っています。
治療はこのプロラクチンの分泌を増加させる薬を用いることになります。
アガラクティアの治療薬
アガラクティアの治療には、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン、
レセルピン、ペルフェナジン、ドンペリドン、メトクロプラミド、
スルピリドといった薬品が使用されていますが(表)、
JRA日高育成牧場ではこれらの中でもドンペリドンとスルピリドを
使用しています。
表 アガラクティアの治療薬(Equine Reproduction 2nd ed.を一部改訂)
(つづく)