育成馬ブログ 生産編②
○ 米国の伝統的な離乳方法
離乳の季節になりました。当ブログでは今までに何度か離乳について
取り上げていますが、今回は米国の伝統的な離乳方法についてご紹介します。
● 米国の種付方法
米国の伝統的な離乳方法を理解する前に、種付についてお話しします(図1)。
米国ケンタッキー州では牧場が密集しており、どの牧場からどの種馬場まで
種付に行っても1.5~2時間で帰ってこれる距離にあります。そのため、子馬の
輸送ストレスや感染症のリスクを考え、子馬を馬房内に置いて母馬のみ種馬場
に連れて行くというスタイルが普及していました。この方法が安全に行える
ように、米国の馬房は馬栓棒ではなく扉が備え付けられていました。また、
子馬が怪我をしないように母馬が種付に行く際には水桶や飼桶は外されて
いました。ちなみに、母馬は牧場スタッフではなく輸送業者が連れて行き、
帰厩時は興奮した母馬が子馬を蹴ることを防ぐため最初の授乳までスタッフが
母馬を保定していました。
図1 米国では子馬を馬房内に置いて種付に行く
● 米国の伝統的な離乳方法
種付と同じく、離乳の際にも子馬を馬房内に置いて母馬を引いて他の放牧地
に移すというのが米国の伝統的な方法でした(図2)。前述したとおり、米国
の馬房は安全性を考慮し扉が備え付けられており、さらに離乳の際には水桶や
飼桶などの突起物が撤去されます。母馬が別の放牧地に移動し、鳴き声が届か
なくなってから子馬たちはもともと放されていた放牧地に出され、そのまま昼
夜放牧がなされていました。
図2 米国の伝統的な離乳では子馬を馬房に残して母馬を移動させる
●「間引き法」での離乳
上記の方法はあくまでも伝統的なやり方であり、米国でも現在JRA日高育成
牧場が行っているのと同じく「間引き法」での離乳を採用している牧場も多く
ありました。JRA日高育成牧場で行っている「間引き法」は、まずリードホー
スとして母性本能の強い子育て経験の豊富な子なし牝馬を放牧地の中に導入
し、その後、1週目に母馬を2頭、2週目に3頭という感じで母馬を間引いてい
き、徐々にリードホースと子馬だけにするという方法です(図3)。母馬を間
引かれて不安な気持ちになっている子馬の周囲にリードホース、まだ離乳の終
わっていない母子、離乳が終わってすでに落ち着いた子馬がいるため、離乳さ
れた子馬も徐々に落ち着きを取り戻し、ストレスを軽減することができます。
最後にはリードホースを移して子馬だけの群れにします。
図3 JRA日高育成牧場で行っている「間引き法」
米国の伝統的な離乳方法も間引き法も、根底にあるのは「子馬の環境は変え
ずに母馬を移動させることで子馬にかかるストレスを軽減する」という考え方
です。今回の記事が離乳前後の子馬の管理に少しでもお役に立てば幸いです。