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活躍馬情報(事務局)

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6月12(土)札幌競馬8R 3歳以上1勝クラスにおいて、日高育成牧場で育成されたヒューマンコメディ号が勝利しました。

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6月12日(土)札幌競馬8R 3歳以上1勝クラス 芝2,000m

ヒューマンコメディ号(チョコレートリリーの17) 牝 父:ハーツクライ

厩舎:水野貴広(美浦) 

主:野村茂雄 氏  生産者:上水牧場

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6月6(日)中京競馬9R 蒲郡特別(3歳以上2勝クラス)において、日高育成牧場で育成されたグレイトゲイナー号が勝利しました。

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6月6日(日)中京競馬9R 蒲郡特別 芝1,200m

グレイトゲイナー号(キャニオンリリーの17) 牡 父:キンシャサノキセキ

厩舎:森秀行(栗東) 

主:田中慶治 氏  生産者:谷川牧場

今後のさらなる活躍を期待しております。

育成馬ブログ(2020年 生産⑤)

子馬を帯同しない種付けの影響

 

子馬を帯同しない種付けとは?
 JRA日高育成牧場では、子馬のいる繁殖牝馬に種付けする際に、子馬を種馬場まで連れて行かない形で種付けを実施しています。方法はいたってシンプルで、子馬を馬房に残すだけです。突然母馬がいなくなった子馬は、馬房内で寂しくて鳴いたり、不安から飛び跳ねたりすることもあるため、馬房の扉や裏戸をしっかりと閉めることや飼い桶や水桶などの突起物を取り外すことなどを確実に実施し、子馬が怪我をしない状況を整えることが重要となります(動画1)。

https://youtu.be/AQ9Twcc2Phk
動画1 種付けの際に馬房に残され子馬の様子

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 また、種付けから帰ってきた際にも、注意が必要です。種付けを終えて帰ってきた繁殖牝馬は興奮しており、哺乳にきた子馬を蹴って怪我をさせてしまう可能性があります(動画2)。それを防ぐために、馬房に戻ってきた繁殖牝馬と子馬をしっかりと向い合せ、慣れるまで待つことが重要となります。その後、繁殖牝馬を保持した状態で、子馬が問題なく哺乳したことを確認してから、繁殖牝馬を馬房に離します。このように、いくつかの点に注意を払えば、安全に実施することができます。JRA日高育成牧場では、種付けに出発してから帰ってくるまでの時間は約5時間ですが、これまで大きな事故が発生したことはありません。

https://youtu.be/83CbxSOF_GA
動画2 子馬を蹴ろうとする母馬

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 この方法の利点について考えてみると、馬運車に慣れていない子馬が暴れて、馬運車内で怪我をしてしまうことが防げます。また、母馬が種付けに行く時期の子馬はまだ免疫機能が低く、牧場外の環境に触れることで何かしらの疾病にかかる危険性がありますが、牧場に残しておくことでそのリスクをなくすことができます。さらに、副次的なメリットとして、輸送時に子馬を保定する人員を減らすことにもなります。

 一方で、一時的とはいえ、親子を引き離すことになりますので、親子双方にストレスがかかることが問題点としてあげられます。その結果として、子馬の健康状態や成長に悪影響を与える可能性も考えられます。また、先ほど述べたように馬房内の安全確保に努めたとしても、子馬が怪我をしないようにしっかりと監視する必要があります。(図1)。

 

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図1 子馬を帯同しない種付けの利点と問題点

 

子馬を帯同しない種付けの影響
 先ほど説明した問題点について、どの程度の影響があるのかを検討した結果がありますので、ここでご紹介したいと思います。まず、種付け時のストレスについて、血液中のコルチゾール値を指標として検討したところ、馬房に残された子馬が大きなストレスを感じていることが明らかとなっています。しかしながら、そのストレスは一過性のものであり、母馬が牧場に戻ってきて親子が再会した時点では、正常値に戻っていました。つまり、一時的には大きなストレスを感じるものの、その精神面への影響は長くは続かないものと考えられます。

 子馬の健康や成長といった身体的な影響については、子馬を帯同しない種付けをした群(5組)と種付けをしなかった群(母馬と離れた経験のない群)(4組)に分けて、比較・検討を行いました。それぞれの子馬で体重には個体差がありますので、各馬の1日あたりの増体重量を出生30日後から30日ごとに調べ、各群の平均を比較しています(図2)。もしも、身体面への影響があるとすれば、母馬が種付けを実施したあとの出生60日後以降において、増体量に差が出てくるはずですが、両群間に有意な差は認められませんでした。つまり、子馬を帯同しない種付けを行っても、その後の子馬の成長に大きな影響は認められないと考えられます。

 

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図2 子馬の1日あたりの増体重の比較

 

 以上のように、子馬を帯同しない種付けには、種付けに行く人員を削減できたり、子馬の感染症予防になったりといった、利点があることを説明してきました。さらに、問題点として懸念される、子馬の健康や成長に対する影響も、長期的には大きなものではないことも示唆されました。しかしながら、今回の記事は子馬を帯同する種付け自体を否定するものではありません。生産者の中には、いつでも親子が一緒にいた方が安心できると考える方もいるかと思います。

 

 アメリカのケンタッキーでは、種付けに行く時には子馬を帯同しない形が一般的です。さらに、輸送自体も輸送専門の業者が行い、牧場関係者すら帯同しない場合も多くあります。これは、生産牧場と種馬場が概ね1時間程度の圏内にあることが要因と考えられます。ヨーロッパのアイルランドでは子馬を帯同する種付けが一般的で、輸送も繁殖牝馬が繋養されている牧場のスタッフが行います。このように、牧場の考え次第で対応が異なるものであると考えられ、帯同するかしないかの正解はないと考えられます。今回の記事で興味を持った方が子馬を帯同しない種付けを検討していただければ幸いです。