22-23育成馬ブログ(生産④)
〇BCSを指標とした繁殖牝馬管理
~BCSは脂肪の状態を反映しているのか?~
4月となり、JRA日高育成牧場での生まれる予定の子馬も残りわずかとなってきました。JRA日高育成牧場では競走馬の生産や育成を行っているわけですが、馬だけでなく馬産業で働く人材の育成にも取り組んでいます。3月中旬に1週間にわたって獣医学生を対象としたJRA日高スプリングキャンプとして開催しました。全国の獣医学科のある大学から合計6名の学生が参加し、熱心に色々なことを学んでいただきました(写真1)。今後もこのような研修を実施していき、馬業界で働く人材の育成も行っていきたいと考えています。
BCSを指標にした繁殖牝馬の管理
さて、4月になると、生産牧場のみなさんは種付けで忙しい日々を送っているのではないでしょうか。受胎率を高めるためには、繁殖牝馬を適切なコンディションで管理することが重要であることは皆さんもご存じかと思います。馬のコンディションを判断する基準としては、ボディーコンディションスコア(BCS)が馬産業では広く用いられています。BCSは、脂肪の付き具合を数値化したものであり、一般的には9点法で示されるものが使われていますが、より細かく馬の状態を評価するために0.5単位で数値化している方もいるかもしれません。生産牧場で実際に遭遇するのはBCS4(少しやせている)からBCS7(肉付きが良い)までがほとんどではないでしょうか(図1)。
(図1)9点法によるBCS(生産牧場で頻繁に遭遇するのは青枠内の馬)
BCSのメリットとしては、①具体的に状態を評価できる、②記録として使えることが挙げられます。数値化をしないと、馬が“太っている”や“痩せている”といった抽象的な表現となり、牧場内での基準の統一が難しくなります。一方、BCSを用いることで具体的に馬の状態を表現することが可能となります(図2)。また、数値として表すことで記録としても活用することが可能になり、太りやすいまたは痩せやすいといった馬ごとの傾向を把握するのにも役に立ちます(図3)。
(図3)BCSを記録することで飼養管理に活用可能
BCSと繁殖成績との関係
先ほども述べたように、BCSは繁殖成績と関係があることが知られています。特に繁殖牝馬が“痩せている”状態であると受胎率が低下することが報告されており、具体的にはBCSが4.5以下では受胎率が低下することが報告されています(Henneke, 1984)。また、受胎後のBCSが受胎の維持にも重要であることも報告されており、交配17日後から35日後にかけてのBCSの変化が低下していると有意に早期胚死滅の発生が多いこと(図4)や交配35日時点でのBCSが5未満であると早期胚死滅の発生率が高いことが報告されています(Miyakoshi, 2012)。
一方、太りすぎている馬については、繁殖成績との直積的な関係を示す報告はあまりありません。しかしながら、太りすぎている馬は負重性の蹄葉炎となるリスクが高いことが知られていますので、注意が必要です。また、BCSが高い馬(BCS≧7)はインスリン感受性が低下することが報告されており(Hoffman, 2003)、インスリン感受性が低下した馬は受胎率の低下と関係があることが示唆されているPPIDの発症率が高くなることも知られています。つまり、BCSが高い状態で管理されていると、結果として受胎率が低下する可能性があるということが言えます。これらのことからも、BCSは繁殖牝馬の飼養管理において非常に重要であることがお分かりいただけたと思います。
(図4)BCSの変化による早期胚死滅および胎子喪失率の発生率
BCSと臀部脂肪厚との関係
BCSは数値という形で具体的に示されますが、測定方法は馬体を触って人間が脂肪の付き具合を判断するという形で実施されます(図5)。そのため、BCSが実際の脂肪含有量を反映しているのかという疑問が湧きます。疾病が理由で安楽死となった馬を用いてBCSと全身の脂肪含有量を調べた研究によると、BCSが脂肪含有量と相関していたことが報告されています(Dugdale, 2011)。しかしながら、全身の脂肪含有量を調査するのは非常に大変な作業となりますので、臀部脂肪厚(図6)から全身の脂肪含有量を推定する方法が知られています(Kearns, 2002)。そこで、2022年1月~2023年2月にかけて158頭を対象としてBCSと脂肪厚を測定したところ、BCSと臀部脂肪厚が正の相関関係があることが明らかになりました(図7)。以上のことから、BCSは適切に脂肪含有量を反映していると言うことができ、繁殖牝馬を管理していく上で有用であると言えそうです。
(図5)肋部のBCSの判断基準
(図6)臀部脂肪厚測定の様子
(図7)BCSと臀部脂肪厚の関係
最後に
BCSを用いた飼養管理は多くの生産牧場で実施されていることかと思います。目標とするBCSを設定して管理することも大事ですが、より重要なことは繁殖牝馬を受胎させたり、健康を維持したりすることになると考えられます。BCSの基準を含めた繁殖牝馬の管理方法については、JRA日高育成牧場管理指針-生産編-にも記載されておりますので、興味のある方はご一読いただければ幸いです。
参考資料:
JRA育成牧場管理指針―生産編(第2版)―
https://www.jra.go.jp/facilities/farm/training/research/pdf/research_seisan.pdf