« 2024JRAブリーズアップセール関連情報(事務局) | メイン | 2024JRAブリーズアップセール関連情報(上場馬名簿、特設サイト) »

23-24育成馬ブログ(生産③)

ライトコントロールの効果と影響を与える要因

ライトコントロールによる繁殖期への早期移行

 今シーズンの冬は記録的な暖冬となり、JRA日高育成牧場のある浦河町では、非常に雪が少なくなっています。生産牧場で繋養されている繁殖牝馬たちも、例年に比べると暖かい環境で冬を過ごしているのではないでしょうか。2月になると本格的に繁殖シーズンとなり、種付けに向けて準備を進めている生産牧場の方も多いと思います。ウマは、昼の長い季節のみが繁殖期である長日性季節繁殖動物であり、自然環境下では春から夏(4月~9月)が繁殖期となります。繁殖期の前には繁殖移行期と呼ばれる時期があり、その期間の管理が繁殖期への移行に重要と言われています。サラブレッドの生産においては、効率的な生産や子馬の早い成長を期待して、繁殖期を早めることが行われています。繁殖期への移行には様々な要因が関係していますが(図1)、先ほど述べたように昼の長さ(日長)が大きな要因となっていることから、人工的に昼を長くする処置(長日処置、馬産業ではライトコントロールと呼ばれる)を実施し、繁殖期を早めています。多くの生産牧場では、自動的に電灯のオン・オフを切り替えるタイマーを用いて、ライトコントロールを行っていることと思います。電球の明るさは100W程度(新聞が読める程度の明るさ)で十分です。その一方で、電灯が消えている時間をしっかり設けることも重要であると言われています(図2)。

Picture1_3

図1 馬の繁殖期への移行に関わる要因

Picture2_2

図2 ライトコントロールの実施例

ライトコントロールの効果

 それでは、ライトコントロールにより実際にどの程度繁殖期が早まるのでしょうか。馬産業においては、ライトコントロールは約50年前から実施されており、多くの研究者によりその効果が検証されています。表1はライトコントロール実施の有無および開始時期ごとの初回排卵日数(繁殖期の始まり)を比較したものです。これらは1980年代にアメリカで調査された結果ですが、自然環境下では1月1日から約132日後(5月上旬)に繁殖期へ移行したのに対し、11月1日または12月1日からライトコントロールを実施した群では、それぞれ1月1日から約66日後、約65日後(3月上旬)に繁殖期へ移行したという結果でした。一方、1月1日からライトコントロールを実施した群では1月1日から約98日後(4月上旬)まで繁殖期への移行が遅れており、これらの結果から12月頃にライトコントロールを開始するのが最もコストパフォーマンスが良いと考えられています。

Figure1

表1 ライトコントロール(LC)の条件別の初回排卵日数

続いて、JRA日高育成牧場での結果をまとめたものが表2となります。こちらのデータは2019年~2023年にかけてJRA日高育成牧場で繋養されていた空胎馬を対象に、ライトコントロールの有無による1月1日からの初回排卵日数を比較したものです。ライトコントロール開始時期は、概ね12月20日頃(冬至)となります。自然環境下で飼育した群では、1月1日から約117日後(4月下旬)に繁殖期に移行した一方で、ライトコントロールを実施した群では、1月1日から約59日後(2月下旬)に繁殖期に移行しました。これらの結果から日本の環境下においても、ライトコントロールが繁殖期への移行に大きな影響を与えることがわかります。また、先ほどの1980年代の報告に比べててライトコントロール実施時期が遅いにも関わらず、繁殖期への移行時期が早いという結果になりました。これは1980年代に比べて飼料や飼育環境(厩舎や放牧地)が改善した結果を反映していると考えられます。近年の報告では、ライトコントロールの効果により繁殖期へ移行する日数は、ライトコントロール開始後、約60~70日と言われており(Guillaume,2000)、日高育成牧場の結果もライトコントロールを開始(冬至より開始)してから約70日後に繁殖期へ移行しています。

Figure2

表2 ライトコントロール(LC)の有無による初回排卵日数(JRA)

ライトコントロールに影響を与える要因

 このように繁殖期への移行を早める効果があるライトコントロールですが、その効果は図1で示した繁殖期への移行に関わる要因の影響を受けます。特に適切な日朝時間が維持されているかが重要となります。昼の時間(明期)の途中に暗い時間(暗期)を設けたところ、連続して明期を設けた場合より繁殖期への移行が遅れたという報告があります(Malinowski,1985)。また、24時間電灯を点けっぱなしにしたところ、16時間の明記を設定した場合より効果が低下したことも知られています(Kooistra and Ginther,1975)。これらの事実からも、馬房内のライトコントロールが適切に実施できているか確認することが重要です。

 また、栄養状態もライトコントロールの効果に影響を与えます。先ほどJRA日高育成牧場の結果を示しましたが、この研究で得られた馬ごとのデータを、栄養状態(ボディコンディションスコア:BCS)と初回排卵日数に注目し、散布図にしたものが図3となります。BCSは数値が高いほど栄養状態が良く、低いほど栄養状態が悪いことを示していますが、今回の結果(繁殖期前の2月のBCS)は栄養状態が悪いほど、初回排卵日数(繁殖期への移行)が遅くなるという結果になっています。当然の話ではありますが、繁殖牝馬の栄養状態を適切に管理すべきことがデータでも示されました。

 今回の内容を参考にあらためてライトコントロールの実施方法を確認いただければ幸いです。

Picture3

図3 栄養状態(2月時点のBCS)と初回排卵日数(繁殖期の移行)の関係

※栄養状態が悪いほど繁殖期への移行が遅くなる(相関係数=-0.4)

JRA育成牧場管理指針-生産編(第3版)-の発刊

 今回ご説明したライトコントロールに関する内容も記載している、JRA育成牧場管理指針-生産編(第3版)-が発刊されました。下記サイトからPDFファイルをダウンロードできますので、ぜひご活用ください。

JRA育成牧場管理指針-生産編(第3版)-