24-25育成馬ブログ(生産②)
〇当歳馬の厳冬期の過ごし方
日高育成牧場のある浦河では、12月中旬を過ぎてからついに寒さが増してきて、冬本番の様相を呈してきました。雪も放牧地を一面に覆い、いわゆる根雪が張った状態となりました。こうなると、放牧中の馬達は放牧地の草が食べられなくなってしまいます。
前回のブログ記事でご紹介したとおり、当場の当歳馬たちは10月下旬から新しい厩舎ができたハッタリ分場で過ごしてきましたが、11月末で別の厩舎に移動してきました。放牧時間は13時から朝8時までの19時間と変更はしないものの、この厩舎の移動は冬季の当歳馬管理に重要な意味を持っています。
実は放牧地での馬達の行動について見てみると、寒い時期には運動量が低下することが分かっています。こちらは日高育成牧場の当歳馬において、GPSを使って放牧地での移動距離を調べたグラフですが、気温の変化と移動距離は連動しています。気温が低くなると、馬の移動距離は短くなるということです。
この理由はいくつか考えられますが、気温が低いと馬達は体温を維持するためにエネルギーを消費してしまうため、できるだけじっとして消費エネルギーや熱の放散を抑えるようになる、放牧地が雪で覆われていることで、食べる牧草を探して歩き回ることがなくなる、そもそも歩きにくいため歩かなくなる、などがあります。
移動距離の減少は、子馬の体力づくりや健全な成長に悪影響を及ぼすかもしれません。そこでこの時期の日高育成牧場では、ウォーキングマシンの使用を開始します。ウォーキングマシンは、子馬の不足した運動量を補うことができます。歩行速度は4.5~5.0 km/hとそれほど速くない設定で、毎日30~60分程度行います。ウォーキングマシンを使用したいがために、この時期に子馬の繋養厩舎を変更している、というわけです。
ウォーキングマシン以外の運動量を維持するための工夫として、放牧地で与える乾草をできるだけ複数個所に分けるようにしています。こちらの写真は実際に当歳馬が使用している放牧地の空撮画像ですが、赤丸で示したように四角い放牧地の四隅で与えています。これによって馬達が草を求めて少しでも歩き回るように仕向けることができ、運動量の確保につながります。
当歳馬を放牧している放牧地の空撮画像。赤丸のついた四隅に乾草を投げる
放牧地で食べる草を与えるために、自家乾草のロールを置く方法もありますが、馬達はロールのある場所から動かなくなってしまうと考えられ、運動促進にはつながらないかもしれません。食べてなくなってしまう量を何回かに分けて与えるのが良いと考えています。
このように、北海道の冬は馬達にとっても過ごしにくい環境となります。これから競走馬に育っていく子馬たちをどうしたらより強い馬にしていくことができるのか、工夫を凝らしていきたいと思います。
JRA育成牧場管理指針-生産編(第3版)-について
JRA日高育成牧場での繁殖牝馬や子馬の管理方法や考え方を記載した「JRA育成牧場管理指針-生産編(第3版)-」を発行しています。下記のサイトからPDFファイルをダウンロードできますので、ぜひともご活用ください。
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