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2025年6月 3日 (火)

画像診断におけるAIの活用について

臨床医学研究室の野村です。

 近年のAI技術の発展は、皆様も日常生活のさまざまな場面でそれを体感されていることと思います。医学における画像診断領域では古くからAIが活用されてきましたが、第3次AIブームの火付け役となったディープラーニングと多層ニューラルネットワークは画像認識技術に革命的な進歩をもたらし、最近では多数の画像診断補助ソフトウェアが医療機器としての承認を受けるに至っています。

 競走馬診療においては、検査装置内で行われる画像処理においてAI技術が活用されています。競走馬の画像検査は、対象が大動物である分必ずしもベストな撮影データが得られないことがありますが、AIによる画質補正やノイズ除去技術の向上により高画質化が進み、診断精度の向上につながっています。研究段階ではありますが、JRAの取組みとしては、CT検査で得られた画像を再構築(3次元化)したうえでそれぞれの骨ごとに分割化(セグメンテーション)して解析したり(図1)、MRI検査における画像再構築にディープラーニングを活用して1つ1つのスキャンにおける撮影時間を短縮し、代わりにスキャンの種類を増やしたりすることで診断に繋がるデータをより多く確保できないか検討を進めているところです。

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図1. 馬の球節を構成する骨を、CT画像をもとに3D化したもの。ソフトウェア上で簡単な操作で4つの骨を分割することができ、病変が存在する場所をイメージしやすい。

 現在の第4次AIブームにおいては、視覚-言語モデルの開発が進み、医学領域ではX線画像から診断レポート作成までをすべてAIで実施するモデルの開発なども行われています。また、診断をAIに任せてよい症例か、医師が自ら読影すべき症例か、その判断をサポートする監視用AI(ナッジAI)の開発も進んでいます。画像診断医としても、また獣医師としても、技術革新の変遷を把握し、自分が置かれた環境や自分が必要とする情報に合わせて能動的に技術を活用できるよう、時代にキャッチアップしていく必要があると考えています。