2025年5月13日 (火)

Spring lamb(スプリング・ラム)の季節になりました

企画の桑野です。

さて、競走馬総合研究所(総研)では、毎年恒例のヒツジたちの毛刈りシーズンがやってきました。

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毛刈りの時は霰もない姿で毛刈りおじさんに身を任せます

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すっかり綺麗になってスッキリ顔

 春を過ぎて梅雨に入りかけるこの季節、イギリスをはじめ北半球の牧野では、春になって一気に茂った栄養豊かな牧草を食した子羊たちが丸々と太って美味しくなるのをご存知でしょうか?スプリング・ラムと呼ばれる良質の子羊肉は、この時期、イギリスではちょっとお高くなり、贅沢な食材として人気があります。ロンドンの有名デパート“ハロッズ”でも、この時期の子羊を取り扱っており、肩肉がkgあたり24ポンド(5000円弱)で売られています。

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左図;イギリスの広大な平原にでは羊たちがのんびり草をはむ   

右図;ロンドンのハロッズで売られているラム肉の例

 ラムの定義は、生後1年未満の子羊の肉を指します。実際は、こんな小さな羊では肉量も少ないですし、そもそもかわいそうで食べられません。流通しているラム肉は1歳から2歳未満の大きくなった子羊で、その肉は正確には英語でホゲットと呼ばれます。2歳を過ぎた肉がマトンです。マトンは臭みが出てくるのでお嫌いな方が多いでしょう。

 さて、ラム肉には、含まれているビタミンの種類が多く、必須アミノ酸と呼ばれる体に必要なアミノ酸も豊富で、さらに牛肉や豚肉に比べるとカロリーも低いことから健康や美容に良いと言われています。のみならず、ラム肉の脂肪は動脈硬化を起こすトランス脂肪酸(悪玉脂肪酸)が非常に少なく、ラードやマーガリンを食べるよりずっと健康に良いことも知られています。最近の健康志向から、日本でもラム肉は見直されてきており、農水省の発表では平成30年以降は羊の国内飼育頭数が微増傾向にあるそうです。

 日本の羊の飼育頭数は北海道が群を抜いて多く、国内頭数の60%を占めています。そのためか、北海道では普通のスーパーにお手頃な価格でラム肉が売られています。次いで飼育頭数が多いのが岩手県、次いで長野県、その次が総研のある栃木県なのですが、私は栃木県内でラム肉が売られているのをほとんど目にしたことがありません。栃木県内で飼育されている羊は、取引先が東京のような都会なのかもしれませんね。高級志向なのでしょう。お手頃価格で売っていたら…と、ちょっと北海道の皆様が羨ましいです。

なお、総研は食べるために羊を飼っているのではありません!






  



2025年4月25日 (金)

ドイツ人による乗馬の矯正装蹄;German corrective shoeing

企画の倉ケ﨑です。

 本年3月21日(金)に、馬事公苑(東京)にてドイツ人装蹄師による実技研修会があり参加しました。担当した2人のドイツ人装蹄師(図1)は、いかにもゲルマン民族らしい大柄な体格で、同じくドイツで乗馬を診療している獣医師とともに来日されました。彼らが実施した”跛行する乗馬の矯正装蹄”について書いてみます。ちょっと専門的ですが、お付き合いください。

 対象馬は、後肢球節に屈曲痛があり、屈曲試験の後に歩様に問題があったハノーバー種(700kg超え)でした。

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図1.ドイツ人装蹄師(写真左Philipp Mukisch氏、写真右Kalle Tudyka氏)

 

 2人のドイツ人装蹄師からは、「まず初めに、四肢蹄の全てで、崩れた蹄のバランスを戻す。このため、初回矯正として蹄縦径(蹄の最前端から最後端までの距離)の中央が、蹄関節の中心に近づくように削蹄したい」と説明がありました。次いで、歩く時の蹄の返り(反回と言います)を良くする積極的な装蹄方針(後記)も示されました。通常装蹄に戻すのは、次回の装蹄までに獣医師の治療の経過なども見てから総合的に判断するとのことでした。

 図2は、実際の削蹄方法を図にしたものです。蹄を横から見た状態で、削蹄前では蹄関節の中心(赤星)が蹄縦径を基準にすると後寄りになっていたのですが、削蹄後は中央に概ね一致するよう削蹄されました。ここで難しいのは、蹄関節の中心を正確に判断することでした。彼らは獣医師とのコンビネーションの元、レントゲンで確認した後、さらに、皮膚の上から骨の位置を指で確認しながら位置を決めていました。これは、レントゲン撮影が許されていない装蹄師だけでは正確にできない部分です。

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図2. 冠骨が、蹄骨と種子骨とでつくる蹄関節の中間点(赤星)から降ろした垂線は、削蹄前では蹄の縦径にて後ろ寄りであったが(左図)、この蹄を赤点線の位置で削蹄したことで中央寄りに位置させた(右図)。

 次いで蹄鉄ですが、彼らが選択した蹄鉄は、我々の見立てより一回りも二回りも大きなものでした。これは、蹄球の後端まで長く蹄鉄があった方が、休息時の起立が安定するという考えからでした(図3)。かなり極端に鉄尾が長く見え、反対の後蹄が交錯することで踏み掛けないのか心配になりましたが、「激しい運動はしないし、安定させるにはこれでいい」とのことでした。

 さらに、彼らはその蹄鉄の先頭部分(鉄頭と言います)と後部(鉄尾と言います)の地面に接する面を、鑢で削って斜面すなわち上湾(じょうわん)を作りました。それらの目安ですが、鉄頭の上湾は蹄鉄が蹄壁と接する面の最前端から蹄骨の先端までとし、鉄尾の上湾は蹄骨の最後部から蹄球の後端までとしていました(図3)。また蹄鉄は、やや後方にずらすように装着しました。これらの操作は、蹄の反回を良くする試みです。こうすることで、関節への負担が軽減されます。

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図3. 蹄鉄には、地面に接する面(接地面)の前後に上湾がつくられた。接地面では、蹄関節の中心点(赤星)から先端までの距離(b)の方が、中心点(赤星)から後端までの距離(a)より若干長くなったが、大きなバランスの崩れはないとのこと。通常の装蹄より鉄尾が長いのが今回の装蹄の特徴だった。

 以上、皆さんには少し難しかったかもしれませんが、装蹄師はこんなことを考えて削蹄や造鉄を行い、馬の用途に合わせた装蹄を実施していることをご理解いただけたら幸いです。

 

備考;本研修は、オリンピック(2020東京)の馬場馬術競技に選手として参加された佐渡一毅氏(本会職員)が中心となってドイツより招聘、実現したものです。なお、通訳は麻布大学獣医学部を2018年に卒業後、ドイツへ留学し、獣医系教育機関(Pferdeklinik Mühlen GmbH)で馬臨床を学んでいる佐藤俊介氏に行ってもらいました。



2025年4月20日 (日)

北海道における神経型馬鼻肺炎の発生

分子生物研究室の坂内です。

今年の1月から2月にかけて、北海道の軽種馬飼養施設で神経型馬鼻肺炎が発生したことが、軽防協ニュースの号外で報じられました。

軽防協号外(EHV-1)20250402-.pdf

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馬鼻肺炎はウマヘルペスウイルス1型の感染によって引き起こされ、呼吸器型、流産型、神経型の3つの病気のパターンがあります。呼吸器型はたいてい軽症ですが、発熱によって競走馬の調教や出走の妨げとなる場合があります。流産は言うまでもなく競走馬の生産に直接的な被害を与えます。神経型の重篤な例では、馬が起立不能に陥って安楽死となる場合があります。いずれも馬産業に大きな被害を与えるため、総研では特に力を入れて調査研究を行っています。

今回の発生で特筆すべきなのは、症例が2歳の若齢馬だったことです。近年欧米では多くの神経型馬鼻肺炎の発生が報告されていますが、多くは成馬や高齢の馬です。実験的にも高齢の馬で神経型の発症リスクが高いことが示されており、若齢馬での発生は極めて稀と言えます。

まだ十分な情報がありませんが、今回の症例に関わったウイルスの特徴を詳しく調べると共に、今後似たような事例が起きないかどうか、注視していく必要があります。

2025年4月15日 (火)

海外研究者と挑む運動性肺出血(EIPH)研究

こんにちは、運動科学研究室の杉山です。

本研究室では3月下旬から4月上旬にかけて、米国・ワシントン州立大学のBayly教授(図1)とカナダ・カルガリー大学のLeguillette教授(図1)、大学院生のMassieさんを招き、 ウマの運動性肺出血(EIPH)に関する実験を行いました。

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1   左;Dr. Warwick Bayly ワシントン州立大学のウマの内科学教授。『Equine Internal Medicine』の共編者。専門はウマの運動・呼吸器疾患。

   右;Dr. Renaud Leguillette  カナダ・カルガリー大学の獣医内科・スポーツ医学の専門医、かつ同大学の教授。専門はウマの喘息やEIPH、心肺運動生理学。

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 EIPHは、激しい運動を行う競走馬などで見られる疾患で、肺の毛細血管が破れて気管へ出血が起こると、重度なものでは鼻血に至るものです。原因としては、運動にともなる肺内血圧の上昇や胸腔内圧の激しい変化が関連していると考えられています。今回の共同研究では、心電図、血圧計や運動時内視鏡を装着した状態で、馬のルームランナーとも言えるトレッドミル上を走行し(図2)、肺への負担を測定することを試みました。測定後の綿密なディスカッションは、非常に勉強になるものでした(図3)。

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(図2)トレッドミル上で、ウマに装着している様々な測定機器を確認している様子。

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(図3)得られたデータについてBayly教授(左)とLeguillette教授(右)とディスカッションしている様子。

 滞在中、お二人の先生は日本に大変興味を示しになり、この季節ならではのイベント“お花見”では、満開の桜にも大変感動されていました(図4)!私たちも美しい桜の下で、実りある研究交流ができたことを大変喜ばしく思っています。

今回の研究成果については、今後学会発表や論文などで発表していく予定です。ご期待ください!

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(図4)桜の下で記念撮影。いい季節に来ていただけました🌸

2025年4月10日 (木)

ノルマンディー生活スタート

Bonjour! 分子生物研究室の上林です。

本年3月から約一年間の研究留学のため、フランス北西部ノルマンディー地方のカーン(Caen)という町に来ています。パリから西へ約200 km、列車で約2時間の距離です。

ノルマンディーといえば、第二次世界大戦時の「ノルマンディー上陸作戦」でその名を知っている方も多いのではないでしょうか。その中心都市でもあるここカーンは、十一世紀にノルマンディー公ウィリアム一世によって築かれた町とされており、たまたまなのですが今年が建都1000周年ということで様々な大規模イベントが開催されるミレニアムイヤーとなっています。

1_2 (写真1)十一世紀に設立された町の中心にある男性修道院はカーンの象徴的存在でもあり、現在は市庁舎として利用されている

 ノルマンディー地方はフランス北部でイギリス海峡も近いということでどんよりして寒いというイメージを持っていましたが、実は気候は比較的穏やかで夏は北海道並みに涼しく冬も東京と同程度の寒さのようです。加えて年間を通じて湿度も低いようなので、非常に過ごしやすい地域です。

 町の中心は市街地を形成しているものの、少し郊外に出ればカントリーサイドの景色が広がっており、のどかな空気が流れています。

2_2 (写真2)カーンの中心にあるカーン城から見た街の眺望

 

 さて、このカーンの地にて、私はLABEOという研究所で馬のウイルス感染症について学ぶこととなります。LABEOは地域における公的研究分析機関としての役割を担っています。検査機関としては馬に限らず家畜や伴侶動物の感染症の診断、あるいは飲料や水中の残留薬物濃度の検査など、人の公衆衛生の面でも大きな役割を担っています。その一方で、馬の感染症領域においても世界のトップランナーの研究機関の一つとしてその名は知られており、地域の大学や企業と緻密なネットワークを築いて今なお発展を続けている研究所です。

4_2 (写真3)研究所の敷地内に建つ馬のモニュメントとその後ろの研究施設

 

 LABEOでは馬に発熱、流産、あるいは神経症状を引き起こし、競馬にも大きな影響を与えうる馬鼻肺炎(うまびはいえん)というウイルス感染症について学び、研究を進めていくこととなります。それに向けて、今はまだ職場や実験環境に慣れていく段階ですが、いずれは仕事の面についてもレポートをお届けできればと思います。

 それでは!À bientôt!

2025年4月 1日 (火)

桜満開です

はじめまして。

3月から微生物研究室に異動してきました佐藤です。

私はこれまで美浦トレーニング・センターの競走馬診療所で5年間、現役競走馬の診療業務に携わってきました。

その中で感染性角膜炎や肺炎などを診療していくうちに、馬の細菌感染症に興味を持ち、微生物研究室でその原因となる細菌について調査・研究をしてみたいと思うようになりました。

研究所での仕事は以前の診療業務とは異なり、細菌に関する専門的な知識や実験手技などが必要となります。

馬に触れる機会が凄く減ったため、寂しく思うこともありますが、自分自身が興味のある分野について研究できるようになったため、精一杯頑張りたいと思います。

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さて、この写真は自席の窓からの眺めになります。

研究所の敷地内にはたくさんの桜の木があり、現在満開に咲いていて、とても綺麗で心が洗われます。

寒暖差で体調を崩しやすい時期です。皆様、どうぞご無理なさらず、お体を大切にお過ごしください。

学位を取得しました

臨床医学研究室の三田です。

 

 先月3月17日に山口大学大学院共同獣医学研究科にて学位を取得することができました。

 学位とは、大学や大学院で一定の教育を受け、所定の課題をクリアしたことを証明する資格です。

 私の研究テーマは「競走馬の骨折手術における手術部位感染に対する新規治療法の開発に関する研究」でした。

 手術部位感染とは手術を行った部位に起こる細菌感染症のことで、その発生には患者の免疫力や生体侵襲の大きさなど様々な要因があります。そのため、どんなに丁寧に手術を行っても起きてしまう合併症です。

トレーニング・センターで行われる一般的な手術の後に発生するものは適切な治療によって治癒することが多いです。しかし、中にはそれが難しい症例もいます。そのような症例に対してどんな治療が効果的なのかを検討した基礎研究が学位論文の内容でした。

 

 学位取得にあたっては温かく丁寧に指導してくれた先輩の研究者をはじめ、トレーニング・センターの獣医師の方々からも多くの協力をいただきました。さらに、ヒトの整形外科の先生方からも貴重なアドバイスを多くいただき、そのおかげで研究を進めることができました。本当にありがとうございました!

 

 学位を取得したことはひとつの大きな節目ですが、ここからが新たなスタートだと考えています。これまで学んできたことを活かし、今後も精進していきたいと思います。

自分の研究が少しでも多くの馬の役に立つよう、日々努力を続けていきます。

 そして、学位授与式が終わった後、ずっと行ってみたかった場所に行ってきました。それが、山口県の「秋芳洞」です。自然の神秘を感じる美しい空間で、心が洗われるような体験ができました。これまでの研究を振り返りつつ、リフレッシュすることができました。本当に素敵な思い出になりました。

Gakuiki

学位記と学位論文

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帰りに立ち寄った秋芳洞

2025年3月27日 (木)

肢蹄管理ワークショップ@宇都宮

企画の桑野です。

 本年2月22日(土)に、栃木県宇都宮市にある一般財団法人TAW(馬事公苑宇都宮の跡地に設立)にて、日本軽種馬協会(公社)が主催する“肢蹄管理ワークショップ”が開催されました。装蹄師、獣医師のみならず馬産業関係者を対象とした研修であり、関東圏の比較的広い範囲から競走馬や乗馬に携わる方々90名以上が集まりました。講師として私も参加しましたので、その様相の一部をお伝えします。

  今回のテーマは蹄葉炎と蹄癌と呼ばれる2つの蹄病について、その一般概念および装蹄師と獣医師のコンビネーションによる蹄病治療の実際についてでした。これに対して、蹄病の病理学を研究してきた私、乗馬専門の開業獣医師でありながら装蹄師の資格もお持ちの斎藤重彰先生、蹄癌の発生が多いと言われる十勝のばんえい競馬で臨床獣医をされている福本奈津子先生の3名が講師となり教育的講演を実施しました。また、JRA職員装蹄師である金子大作氏および旭川工業高等専門学校の中川教授らにより、蹄葉炎に比較的早い段階から対応可能な3Dプリントシューによる装蹄処置についても情報が開示されました(参考;JRA日高育成牧場 馬の資料室 https://blog.jra.jp/shiryoushitsu/2024/03/3d-8482.html)。

Photo_4会場風景

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講演で話題となった特殊な蹄鉄や装蹄補助具の供覧

 専門的すぎるので詳細は割愛しますが、治療困難な蹄葉炎にどう対処したらいいのかについては、総合討論の場にて装蹄師および臨床獣医師を含むフロアの皆様から積極的に質問を受けました。また、蹄癌については、真の癌腫ではなく何かの感染、とりわけトレポネーマ属細菌の関与が強く疑われること、サラブレッド種競走馬ではほとんど目にしないのに、なぜか、ばんえい競馬の重種馬や乗馬では少しずつ増えている現状を共有でき、関係者に少なからず警笛を鳴らせたようです。

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日本に最初に蹄癌が紹介されたグーテンエッケル著の蹄病学(1920年 翻訳版出版)では、ドイツ語でDer Hufkrebs(蹄癌)と記載され、直訳である蹄癌が通り名称となった。だが、実際には癌ではない。

  蹄病についての講演会はあまり公にされないため、こういった講習会は希少です。軽種馬協会は獣医師、装蹄師、飼育者が三位一体となって蹄病に向かい合ってくれたらばと、今後も不定期ながら蹄に関する講演会を実施していきたいと仰っていました。

 

2025年2月25日 (火)

栃木県産業技術センターという便利な施設

企画の桑野です。

 業界ではそれなりに知られているのですが、栃木県には産業技術センターという県内の中小企業等の新技術・新製品開発や技術高度化を支援する技術拠点が存在します。県内と限定されているのは、栃木県の予算を使って運営されているためです。我々競走馬総合研究所の母体はJRAですが、栃木県内にある中規模な事業所であることから、「技術相談」としてこちらの施設の利用を認めてもらい、馬の蹄の病気の解明を助けてもらったことがあります。

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 昨今、それまでには測定困難だった物質をより精度高く検出したり、材質を評価したり、尚且つ以前より操作が簡便となった使いやすい研究備品が開発されています。しかし、こういった備品は高額ですから、いかなる研究や開発をもすべからく網羅しようとして、あらゆる備品を揃えることはできません。ましてや中小企業でしたら、業務に必要な備品1個を更新することすら予算的に厳しい現実があります。そこで、栃木県は、最新機器を豊富に取り揃え、各方面の産業の面々が比較的安価に使える備品の宝庫を整備してくれたというわけです。我々も、以下のように、こちらの設備を使ってとある蹄病の解明を助けてもらったことがあります。なんか、日本的な助け合いの精神が見え隠れしますね。ありがたい話です。企業間の連携は、利益相反などで難しい面がありますが、公共の県営施設なら守秘義務を守ってもらえるし、安心ですね。

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<外部リンク>https://iri.pref.tochigi.lg.jp/content/files/katuyoujirei_ver20250217.pdf

2025年2月15日 (土)

バイオメカニクス学会に行ってきました

こんにちは、運動科学研究室の高橋です。

 昨年12月になりますが、中京大学豊田キャンパスで開催されたバイオメカニクス学会に参加してきました。

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 下の写真は屋内トラックでの企業展示とポスター会場の様子です。中京大学からは多くのオリンピック選手が卒業しており、スポーツに関する研究も非常に盛んです。この学会の対象は主にヒトになり、「身体運動に関する科学的研究と連絡共同を促進し、バイオメカニクスの発展を図ることを目的」とした学会になります。

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 筋電図に関する基調講演や走動作中の筋活動に関する演題も多数あり、ウマの筋活動を研究テーマの一つに挙げている運動科学研究室にとっては非常に参考になりました。一方で、脳科学との融合をテーマにした基調講演があり、MRIを使って特定の運動課題や認知機能に対する脳局所の反応を計測しているグループが、本番に強い人と弱い人では脳のどこが違うのかについて、アーチェリーを専門にしているアスリートを対象に計測した結果を紹介していました。すると本番に弱い選手(練習のスコアは良い選手)は本番に強い選手(本番のスコアが良い選手)に比べて島皮質という領域の体積が大きかったそうです。この他にも、特定の運動課題や認知機能に対する局所の反応を機能的MRIで計測し、その課題に対する脳の負荷を評価する手法により、ピアノを最後まで安定したリズムで継続できる人と途中でリズムが崩れてしまう人を運動開始時の脳の反応から予測することに成功しているそうです。私は大学の時、ラットの脳に関する研究を行っており、脳研究には元々興味があるのですが、運動パフォーマンス発揮時の「メンタル」というところまで踏み込んだ研究は初めて聞いたので非常に面白かったです。また、脳機能に関する研究は人工知能を用いてもたくさん行われており、動物が何を考えているのかもそのうち分かるようになるのではないかと夢が膨らんだ学会でした。