2026年5月11日 (月)

AIは「何を使うか」で結果が変わる時代へ 〜論文検索で感じたAIの使い分けの重要性〜

臨床医学研究室の三田です。

皆さんは普段、AIを使っていますか?

スマホで何かを調べた時にはAIによる結果が最初に表示されますし、文章作成やイラスト作成で使ったりしている方も多いのではないでしょうか。

一括りにAIといっても、数えきれないほどのモデルが存在し、どれを使用するかで結果が変わることをご存じでしょうか。例えば下の画像はAIに描かせた競走馬の絵ですが、このように同じテーマのイラストを描かせても使うモデルによって結果が変わります。

このようなモデルによる結果の違いはイラストだけに留まりません。

Photo_22つのモデルに同じ指示を出して作成した競馬のイラスト

  

~AIによって格段に効率化した論文検索~

私がAIを使用するなかで特にモデルの違いを感じるのは論文検索です(作成ではないですよ)。

論文検索においてもAIはとても便利で、あまり知識のない研究分野について浅く広く調べる時にはとても使い勝手がよいと感じます。

大衆向けのGeminiやChat GPTに「○○の病気に対して△△の治療方法を検証している論文を探して」のような指示を出すと結果がすぐに返ってきます。

しかしAIは時々、存在しない論文を“それっぽく”作ってしまうことがあるのです・・・。

例えばAIが出した結果には、

  • 論文タイトル
  • 著者名
  • 雑誌名
  • 発行年

まで自然に提示されるため、一見すると本当に存在する論文のように見えます。

しかし、実際にその引用先を検索してみると、その論文自体が存在しないことがしばしばあるのです。

AI分野では、この現象を「ハルシネーション(hallucination)」と呼びます。

つまり、AIがもっともらしい誤情報を生成してしまう現象です。

これでは正しい情報源になかなかたどり着くことができません。

 

ここで重要なのが、「AIモデルの使い分け」です。

例えば一般的な対話AIは、文章作成、要約、アイデア出しなどが得意です。

一方で論文検索では、

  • 論文検索に特化したAI
  • 参照データベースが限定されているAI
  • 出典を明示するAI

 が既に利用可能となっており、論文データベースに掲載されている論文に基づく情報検索が非常に効率的にできるようになっています。

そのため、「AI」と一括りに考えるのではなく、用途に応じて適切なモデルを選ぶことが重要となっています。

適切なAI選択ができれば、誤情報を減らしつつ情報整理を効率化してファクトチェックにかかる時間を短縮することができます。

AIは非常に便利なツールですが、「どのAIを何に使うか」を意識することが、これからますます重要になっていくと感じています。

 

AI選びも競馬のように能力だけでなく“適性”を見極めることが大事ですね!

2026年4月24日 (金)

帯状疱疹について

分子生物研究室の辻村です。

 今年に入ってから、職場で帯状疱疹の発症を立て続けに耳にする機会がありました。帯状疱疹は、過去に感染した水ぼうそうのウイルスが体内に潜伏し、加齢や疲労による免疫力の低下をきっかけに再活性化することで発症する病気です。このウイルスは、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)と呼ばれ、馬鼻肺炎ウイルスと同じヘルペスウイルスの一種です。主な症状は、神経に沿って現れる水ぶくれと激しい痛みです。症状が治まった後も長期間にわたって痛みだけが残ることもあり、そうなると生活の質(QOL)を大きく下げてしまいます。

 昨年(2025年)、65歳以上の方などを対象にしたワクチンの定期接種が始まったことをご存じでしょうか(図:厚生労働省リーフレット)。私自身はまだ定期接種の対象ではありませんが、発症リスクが高まる年齢に差し掛かってきたこともあり、自費での接種を検討していたところでした。そんな折、この病気を身近に感じる出来事が続きましたので、今回はこの話題を取り上げてみることにしました。

 帯状疱疹の治療では、一般的に抗ヘルペス薬が処方されます。近年の大きなトピックとしては、日本で開発された「アメナメビル」という薬が2017年に発売されたことが挙げられます。アメナメビルは、既存の薬とは異なる仕組みでウイルスの増殖を抑える薬です。腎機能に合わせた用量の調整が不要で、1日1回の服用で済むという利便性もあり、発売当時は10%程度だった処方割合が、最近では40%を超えるまでになっています(2022年のデータ)。

 ところで、近年、VZVの再活性化と認知症リスクとの関連性が議論されています。VZVが認知症を引き起こすメカニズムについてはまだ仮説の段階ですが、さまざまな調査からその関連性が裏付けられつつあります。そのようななか、2025年に『Nature』誌に掲載された研究では、ワクチンの接種によって認知症の新規発症リスクがはっきりと低下することが示されました。帯状疱疹だけでなく認知症の予防にもつながるとなれば、このワクチンへの注目はさらに高まっていくかもしれません。
<外部リンク>https://www.nature.com/articles/s41586-025-08800-x

 現在、国内では「生ワクチン」と「組換えワクチン」の2種類を接種することができます。組換えワクチンは2018年に承認された比較的新しいもので、遺伝子組換え技術で作ったウイルスのたんぱく質の一部を抗原とし、免疫の効果を高める成分を添加した製品です。高い効果が認められている一方で、2回の接種が必要だったり、生ワクチンよりも副反応が出やすい傾向があったりします。どちらのワクチンを選ぶかは、それぞれの状況に合わせて検討していくことになります。

 さて、こうしたVZVに対する知見は、将来的に馬鼻肺炎ウイルスに対応するための獣医医療でも役立つ可能性があると考えています。馬に発熱、深刻な流産や神経麻痺を招くことがある馬鼻肺炎の一種「ウマヘルペスウイルス1型(EHV-1)」は、人間のVZVと分類学的に極めて近い位置にあるからです。人間で実用化された治療薬の応用や、最新のワクチンに用いられた「免疫を効率よく高める仕組み」が、いつかEHV-1対策を検討する際の大きな助けになるかもしれません。

Fig_4<外部リンク>https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001601105.pdf

2026年4月20日 (月)

ウマ科学会の賞牌を作った人は凄い彫刻家だった!

企画の桑野です。

 ウマ研究者の発表の場である日本ウマ科学会学術集会では、学会への功労者やウマ科学に貢献した者を表彰することがあります。その際、表彰状の他、ウマを平面ブロンズで彫像した賞牌(図1)も受賞者にお渡ししております。この賞牌は彫刻家の後藤信夫先生がお造りになったものですが、この方に先日お会いして、その作品の輝きに圧倒されてしまい、この感動を皆様にもお伝えしたく筆を取りました(御本人承諾済み)。

Photo_3図1.日本ウマ科学会の賞牌(功労賞)

 先生(図2)は現84歳、1968年に第64回太平洋美術展奨励賞を受賞後、数々の褒賞を受けてこられ、2009年には日本ウマ科学会の功労賞をも受賞されました。凄いのはそういうことよりも、要所要所にある数々の競走馬の彫像を製作されたご本人であるという点です。

中山競馬場の正門入った所にあるハイセイコー像(図3a)、札幌競馬場の駿馬躍進の像(図3b)、中京競馬場の蹄鉄と競走馬の像である“マイドリーム”(図3c)、JRA競馬博物館の“競馬の殿堂”コーナーにある数々の懸賞馬(スピードシンボリ、ハイセイコー、トウショウボーイ、マルゼンスキー、ミスターシービー、シンボリルドルフ、メジロラモーヌ、オグリキャップ、テイエムオペラオー、ディープインパクト)の像、そして日高の優駿メモリアルパークの白銅製のオグリキャップ像(図3d)は先生の作品です。そうとは知らずに記念撮影されている方も多いのではないでしょうか。

Photo_5

      図2. 「歳のせいで以前のようには作品は作れなくなった」と言いつつも、実に明朗な語り口調でお話しくださった後藤先生

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Photo_6    図3. a. ハイセイコー像(中山競馬場)、b. 駿馬躍進の像(札幌競馬場)、c. マイドリーム(蹄鉄と競走馬の像)、d. オグリキャップ像(レプリカ/ご自宅で所蔵)…後藤先生所蔵の写真から

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 後藤先生はウマの制作において特に気を付けてきたことがあったそうです。それは、シンボリの冠名で知られる和田オーナーからいただいた「競走馬を作るなら、“素軽さ”が表現されてなくてはいかん!」というお言葉だそうです。この“素軽さ”という辞書にも載っていない言葉をどう捉えるべきか、生涯悩み続けての制作だったとため息まじりに語っておられました。

 世に馬の彫像は多々あるものの、先生の作品には決まって競走馬らしい動きが感じられます。静止しているだけの競走馬ですら、その目線、尻尾の形、筋肉ひとつひとつのスジ目に今にも動き出しそうな躍動感を感じられるのは、この“素軽さ”の探究に端を発しているかもしれません。

 後藤先生はJRAの発展とともに大きく羽ばたいてきた数少ない彫刻家です。ウマ科学会の褒賞者は実に偉大な彫刻家の作品を授与されていることを真摯に受けて止めてほしいものです。

 なお、“名馬の彫像すなわち後藤!”と称されるほど競走馬と深く関わってこられた先生の作品の制作風景は、以下のリンクで垣間見ることができます。

<外部リンク> https://www.youtube.com/watch?v=gQRc0aWb3j8







2026年4月13日 (月)

宮崎育成牧場でのストライド解析

運動科学研究室の胡田です。

 近年、テクノロジーの進化により、さまざまなウェアラブルデバイスが開発されており、運動中の生体情報を数値化してモニタリングする重要性に注目が集まっています。

 皆さんの中にも、スマートウォッチを身体に着けて日々の運動を行っている方がいるのではないでしょうか。

 こうした流れはウマの分野にも広がっており、ウェアラブルデバイスを活用して運動中のウマのデータを収集・分析することで、パフォーマンスの向上やケガのリスク軽減につなげようとする取り組みが進んでいます。

さらに近年では、GPS機器を用いることでウマのストライドデータ(ピッチや一完歩の長さ)を測定できることが報告されており、騎乗時のデータ収集を簡便に行えるようになりました(参照論文は以下です。興味のある方はぜひご覧ください)。

<外部リンク> https://doi.org/10.1016/j.jbiomech.2022.111364

そこで我々は、育成期のストライドパラメータの変化を明らかにするため、JRA宮崎育成牧場と協力し、2歳のJRA育成馬を対象にデータ収集を行いました。

 ちなみに、以前に宮崎を訪れた際には雨に見舞われたのですが、今回もまさかの大雨…(以下)。

Photo

 何とか無事にデータを取得することはできましたので、今後は解析を進めて良い結果がでればこちらでも報告したいと思います。

 また、次の機会には、”雨男”の汚名を返上するべく、てるてる坊主を持参して実験に臨みたいと思います(WWW)。

2026年4月 2日 (木)

「クビアカツヤカミキリ」から桜を守る

はじめまして。微生物研究室の平間です。

 この3月の定期人事異動により、美浦トレーニング・センターから参りました。これまでは臨床現場での仕事が長く、研究所勤務は今回が初めてとなります。慣れない環境に戸惑う毎日ですが、研究所のゆったりと流れる時間や、研究室の窓から見える美しい桜の木々に癒やされながら、少しずつ仕事に慣れていければと考えています。

 さて、当研究所の桜は樹齢50年を超える見事なソメイヨシノで、毎年職員や地域の方々の目を楽しませてくれています。しかし今、この美しい景観を脅かす特定外来生物の影が忍び寄っています。

 みなさんは、「クビアカツヤカミキリ」という虫をご存じでしょうか?この虫はサクラ、モモ、ウメなどのバラ科の樹木を食い荒らして枯死させる、極めて厄介な外来生物です。人体への直接的な毒性はありませんが、幼虫が樹木の内部を執拗に食害するため、木が衰弱して枯死するだけでなく、突然の倒木や落枝を引き起こす危険性もあり、厳重な警戒が必要です(外部リンク;農水省 クビアカツヤカミキリに関する情報)

 日本では2012年に最初の被害が確認されて以来、全国へと生息域を広げており、2018年には環境省により特定外来生物に指定されました。そして残念ながら、昨年の秋、当研究所の桜にも初めてその被害が確認されてしまいました。

 被害を見分けるサインは「フラス」

サクラの幹や根元に、「フラス(木くずと糞が混ざったもの)」が大量に排出されていたり、不自然な穴が開いていたりするのが、クビアカツヤカミキリが潜んでいる決定的なサインです。

 対策としては、成虫の捕殺、幼虫の穴への薬剤注入、および防虫ネットの巻き付けなどがあります。当研究所でも現在、被害を受けた木にネットを巻き、成虫の脱出や新たな産卵を防ぐ措置を講じています。

Img_0419_2

 被害が深刻化してしまうと、拡散防止のために木の伐採・焼却という苦渋の決断を迫られることもありますが、幸いなことに、防虫ネットに守られながらも今年も力強く花を咲かせてくれています。

馬を治療するときの心境に通ずるところがありますが、今はその生命力を信じて見守っていこうと思います。

  皆さんもお花見に出かける際には、ぜひ木の根元や幹の様子もチェックしてみてください。もし「フラス」を見つけたら、それはサクラからのSOSかもしれません。

<外部リンク>https://www.maff.go.jp/j/syouan/syokubo/keneki/k_kokunai/kubiaka/kubiaka.html

2026年3月13日 (金)

馬の全身麻酔における新薬「レミマゾラム」の可能性

臨床医学研究室 黒田です。


今回は、当研究所で実施した最新の研究の中から、次世代の鎮静・麻酔薬として期待される「レミマゾラム(Remimazolam)」に関する知見をご紹介します。

■ 人間の内視鏡検査でも活躍する新薬
レミマゾラムは、ベンゾジアゼピン系と呼ばれる種類の麻酔薬で、人間の医療現場ではすでに広く活用されています。特に胃カメラなどの内視鏡検査や短時間の手術において、「麻酔からの覚醒が極めて早く、かつ安全性が高い」という点が大きなメリットとされています。この「目覚めの良さ」という特徴は、実は人間以上に、馬の医療において極めて重要な意味を持ちます。

■ 馬の麻酔管理における「覚醒時」の課題
馬の全身麻酔において、最も神経を遣う場面の一つが、手術終了後の「起立(立ち上がり)」です。
麻酔薬が体内に長く残ってしまうと、体意識が朦朧とした状態で立ち上がろうとして転倒し、体の大きい馬では骨折などの重大な事故につながるリスクがあります。そのため、理想的には麻酔薬がすぐに体からなくなって速やかに麻酔から覚めることが求められています。

■ 研究の結果:従来薬を大幅に上回る「代謝スピード」
本研究では、サラブレッドを対象にレミマゾラムと従来のミダゾラムを投与し、薬物動態(血中濃度の推移)を詳細に比較・解析しました。解析の結果、レミマゾラムは体内で非常に速やかに代謝されることが明らかになりました。

Photoレミマゾラムとミタゾラムの血中消失動態

■ 安全な外科手術の実現に向けて
今回の基礎研究により、レミマゾラムは馬においても「必要な時にしっかり効き、速やかに消失する」という優れた特性を持つことが裏付けられました。

今後、他の麻酔薬との併用における安全性や、長時間の手術での反応を詳しく検証していく予定です。この研究が進むことで、より安全で馬に負担の少ない麻酔管理体制が確立されることが期待されます。

当研究所では、これからも最新の科学的知見を応用し、馬たちの健康と安全を守るための研究を推進してまいります。  

〈外部リンク〉:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41055126/                            

2026年3月10日 (火)

異動という名の出会い

企画調整室の桑野です。

 3月は我が社の人事異動の月です。異動は、組織にとって新しい体制づくりや活性化のために欠かせないものですが、そうは言っても残る人にも異動する人にも慣れ親しんだ仲間との別れの月です。ちょっとの期間でも一緒に働いた仲間には情が移ると言いますか、仲間意識が生まれると申しますか、一種の連帯感が生まれますので、ちょっと寂しい気持ちになる季節です。

 一方、新しい出会いもやってくることで、新たな視点を持つチャンスも到来します。異動される方にとっては不安もあるでしょう。ところが、JRAの職員は一同、自分の経験が増え、視野を広げられる機会と捉えており、実に前向きな姿勢を保っております。素晴らしいことです。

 新しい方が来たら、早速、意気揚々と業務に取り掛かる姿を見ることになるでしょう。私、老兵も、心構えを新たに、若い方達の足を引っ張らないように新規事業に取り組んでいかないと。そのような心づもりで、太った腹の下で腰の帯を締め直しているところですwww。

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3月初めての週では異動された方達が座っていた机がもの悲しいです。でもすぐに新しい方が来て、また活発になります。こうして月日は目まぐるしく移っていきます。

2026年2月18日 (水)

ノルマンディー・ブルターニュ紀行

Bonjour. 分子生物研究室の上林です。
一年間にわたるフランス留学生活もいよいよ最終盤を迎えています。
先日、研究留学先の上司が「最後の思い出作りに」とノルマンディー地方を中心に巡るドライブ旅に連れて行ってくれました。
滞在地のカーンを出発し、ノルマンディー地方を反時計回りにぐるりと巡り、モン・サン・ミシェルを経てブルターニュ地方のレンヌを訪れ、帰路につくという一泊二日の旅です。

Fig1_3今回のドライブコース

フランスでは馬文化が広く根付いていますが、なかでもノルマンディー地方はフランス最大の馬産地として馬産業に力を入れている地域として知られています。
今回の旅でも、郊外に出れば広大な農地や牧草地が広がり、放牧され草をはむ馬の姿を至る所で見ることができました。研究対象である馬のルーツがこうした風景の中にあるのだと改めて感じました。

山の多い日本とは異なり、ノルマンディー地方は緩やかな丘陵が広がる地域が多いです。車でしか行けないような岬や海岸にも立ち寄り、穏やかな海と起伏に富んだ丘陵が織りなす自然のダイナミズムもたくさん味わうことができました。ノルマンディーの人にとっての誇りであるモン・サン・ミシェルも訪問。何回見ても飽きることのない素晴らしい景観です。

Fig2_6La Hagueというノルマンディー地方最北端の地域の岬(左)と羊の群れの向こうに望むモン・サン・ミシェル(右)

旅の終盤にはブルターニュ地方の中心都市レンヌへ。ブルターニュは中世まで独立した公国として存在し、現在でも独自の文化色が色濃く残る地域です。そんな地域に住む人々や独自言語のことをブルトン(Breton)と呼ぶとその上司から教わり、ふと気になったので調べてみました。
すると、ブルターニュ地方は帯広で行われているばんえい競馬に用いられる重種馬の一つ「ブルトン種」の発祥の地域であることを知りました。思いがけず、ここでもまた馬と地域の繋がりを感じることができました。
最後はブルターニュ地方名物のガレットを味わい、帰路へ。

Fig3_2ブルターニュ原産の馬ブルトン(左)と名物のガレット(右)

フランス旅行といえばまず観光地として思い浮かぶのはパリだと思います。私もパリは何度か訪問しましたが、歴史・文化・芸術の面で飽きることのない素晴らしい街だと思います。
しかし、もしフランスの違う表情も見てみたいという方には、ぜひこのノルマンディーやブルターニュ地方、あるいは他の地域も訪れてみることもおすすめします。フランスという国の自然・文化・人々をより深く理解できる機会になるかと思います。なお、冬は天候が不安定な日が多いので6〜9月の訪問が最もおすすめです。

研究留学生活もいよいよ大詰めです。無事に帰国し、この一年で学んだ経験を日本での研究にしっかりと生かしたいと思います。フランスからのお届けはこれで最後になります。
À bientôt!

2026年2月16日 (月)

ICEEP12(国際馬運動生理学会)に向けて

運動科学研究室の高橋です。

 午年の2026年、みなさんいかがお過ごしでしょうか。

 運動科学研究室としても今年の秋は国際馬運動生理学会(ICEEP)12が開催されるため、忙しい年になりそうです。

 ICEEPは、International Conference of Equine Exercise Physiologyの略称で、1982年より4年に1回開催されている国際学会です。トレーニング、栄養、薬物、生理機能、バイオメカニクスなどについての多くの研究結果が発表されます。前回はスウェーデンのウプサラで開催され、第12回目の今年は10月26日から30日の日程で東京にて行われます。要旨提出締め切りが今月末となっているので、運動科学研究室でも多くの演題を提出すべく、準備を進めています。

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 提出された要旨は、その分野の専門家のもとに回され、査読(校閲)を受けます。コメントを踏まえて修正されたものが、最終的に演題として採択されます。

 以前は 4000 字 前後の論文 (full paper)として発表内容が掲載されていた時代もあり、まとめると相当の頁数だったようです。最近では、250 字程度の要旨のみが学術雑誌に掲載されることが一般的です。とはいえ、本学会では 200 近い演題が集まるため、それらをまとめて出版した書籍は、まるで辞書のような厚さになります。

 私の研究室はこの学会の事務局を担ってもいますが、学会中は、海外から参加する研究者に日本を楽しんでもらうための social event と呼ばれる催しを企画したり、タイムテーブルや当日の運営を考えたりと、事務局として対応すべきことは多岐にわたります。これに加えて、かつては提出された論文の査読から出版までをすべて担っていたとのことです。しかも、現在のようにパソコンや生成 AI といった便利なツールが十分に整っていなかった時代に...です。そう考えると、当時の運営に携わっていた方々は、本当にとてつもない仕事をしていたのだなと、改めて感心させられます。

 本国際学会の成功を祈りつつ...。

 

2026年2月12日 (木)

世界の馬たちの健康を科学の力で守る—WOAH(国際獣疫事務局)馬インフルエンザワクチン株選定専門家会議の議長就任

みなさんこんにちは。分子生物研究室の根本です。

 今回は、動物衛生の国際機関である「WOAH(World Organisation for Animal Health、国際獣疫事務局)」が主催している、馬インフルエンザワクチン株選定専門家会議(Expert surveillance panel on equine influenza vaccine composition)について紹介します。

WOAHウェブサイト(外部リンク)

https://offlu.org/equine-influenza/

Photo_8*会議に参加する各国の馬インフルエンザの専門家

 WOAHは、パリに本部を置く動物版のWHO(世界保健機関)のような組織です。本会議の役割をひとことで言うと、世界で流行している馬インフルエンザウイルスの流行状況を毎年分析し、世界中の馬たちに接種する馬インフルエンザワクチンの「中身」を決めることです。現在のワクチンの中身が有効と判断されれば継続、そうでなければ中身を変更することを推奨します。

 記憶に新しい方も多いかと思いますが、昨年(2025年)は、熊本や十勝地方で17年ぶりに日本での馬インフルエンザの発生が確認されました。ニュースを聞いて、大変なことになるのではと心配された方も多かったと思います。しかし結果としてこの流行はサラブレッド競走馬には広がらず終息へと向かいました。 その要因のひとつとして、現在のワクチンが実際に流行したウイルスに対して有効であったことが挙げられます。ウイルスは常に変化していますが、長年に渡って総研、そして本会議は、世界中で流行しているウイルスに対して現在のワクチンが有効であるかを評価しています。実際に現在のワクチンが2025年に日本で流行したウイルスに対して有効であったこの経験は、研究者として大きな自信となると同時に、改めてその責任の重さを痛感する出来事でした。近年は日本の競走馬が頻繁に海外遠征を行っており、馬の国際間移動が非常に活発です。馬インフルエンザは欧米を中心に流行しており、また非常に伝播力が強い病気ですので、国境を超えたウイルス対策が不可欠になります。

 今年からこの馬インフルエンザワクチンに関する国際会議の議長になりました。これまでの議長はイギリス、アイルランドの研究者であり、英語ネイティブではない日本人の私が3代目として任されたことは、非常に光栄なことであると同時に、気が重いのも正直なところです。ですが、世界中の馬たちの健康のために、縁の下の力持ちとして世界中の馬インフルエンザの専門家と協力し、議長として実りのある議論ができるように少しでも貢献できればと思います。