2024年10月17日 (木)

JRA特別展示を見てきました!

企画調整室の桑野です。

 先日、このサイトにて10月20日(日)まで東京国立博物館でJRA特別展示が開催されていることをお伝えしました(https://blog.jra.jp/kenkyudayori/2024/09/jra-e7af.html)。この特別展示を見てきましたのでご報告します。

 荘厳な佇まいの表慶館(図1)で行われた当展示会のタイトルは、“世界一までの蹄跡”。 「あれ、フランス凱旋門賞優勝馬も出ていない日本の競馬が世界一?」と訝る声も聞こえてきそうですが、JRAが主催するジャパンカップ、安田記念、天皇賞(春)の3レースは、2020年のロンジン・ワールドレーシング・アワードで、距離別カテゴリーにおいてそれぞれ世界首位に認定されています。

 JRAを筆頭に日本の競馬界が世界を目指し出したのは、1981年の第1回ジャパンカップからと考えますと、足掛け39年での目標達成と言えるでしょう。長かったとするか、短かったとするか、それぞれ思惑はあると思いますが、私が競馬会に就職した平成元年(1989年)では、今の日本馬の世界的躍進はとても考えられませんでした。時間のかかる馬の改良および育成・調教技術の進歩を40年に満たない年月で成し遂げたことは、私にとっては驚きです。

Photo図1.東京国立博物館の表慶館

 JRA設立70年目にこのような企画、なかなか見どころがありました。特に、10年ごとの競馬の歴史を紐解いた大型ヴィジョンでの放映「タイムトリップ競馬史」は、競馬の変遷を実感できる内容で、見ていて楽しい映像でした。

 また、私の興味本位で恐縮ですが、上野不忍池(しのばずのいけ)競馬場の当時の様子を伝える明治時代の絵画(図2)が印象的でした。私の祖父母が湯島に住んでいたことから、私は幼少期、それと知らずに不忍池の外周を走り回っていたのですが、なんの因果か、JRAに就職して今度は全国の競馬場を走り回ることになるとは、ゆめゆめ思いもしませんでした。

 この展示、もう終わってしまいますが、開催最後の週に飛び込みで見に行かれてもいいかと思います。ぜひ、足を運んで近代競馬の発展の有り様を感じていただきたいと思います。

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図2.当時の上野不忍池競馬場の情景を伝える説明と絵画

2024年10月16日 (水)

屋内馬場でのモーションキャプチャを使った実験

運動科学研究室の胡田です。

 前回の掲載(https://blog.jra.jp/kenkyudayori/2024/02/post-449c.html)では、野外データ測定について書きましたが、今回、屋内における大掛かりなデータ測定についてご紹介します。

 先日、我々運動科学研究室は、一緒に研究をしている慶應大学のラボのスタッフと、北海道のJRA日高育成牧場に赴き、屋内800メートル馬場において人馬一体となる騎乗運動のデータを採取してきました。野外と異なり、天候に悩まされることなくデータを採取できる屋内での実験は大変嬉しいものでした。

 さて前回の野外測定では、表面筋電図を採取することで走行中の個々の筋肉の活動状況を測定しましたが、今回はモーションキャプチャという、馬と騎乗者双方の動きを表面から解析するシステムを用いました。このモーションキャプチャは、CGアニメーションの作製、アスリートの動作解析、ロボットや車の動きの計測など多岐にわたる分野で使われている技術です。我々は、動作の特徴となる人と馬の関節の位置にマーカーをつけて、それぞれの動きを記録した後、デジタル化して分析しました。たくさんのマーカーを装着したり(写真1)、カメラやコード類を設置したり(写真2)と大がかりな実験になるため、屋内での騎乗実験とはいえ、なかなか大変でした。

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写真1 馬にも人にもマーカーを装着して文字通り人馬一体となって測定開始

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写真1 馬にも人にもマーカーを装着して文字通り人馬一体となって測定開始

 実験で集まったデータをもとに、馬と騎乗者の走行時のフォームの解析を行い、双方の動きの特徴とその関連性などを探っていきます。こういったデータを積み重ねていき、適切なリハビリやトレーニング管理、騎乗技術の向上などに活用していきたいと考えています。

2024年10月 7日 (月)

今年も「こども馬学講座」を開催しました

総務課の山口です。

 当研究所では、毎年秋口に「こども馬学講座」を開催します。このイベントは、小学校高学年のお子様に「ウマとはどんな生き物なのか」を知ってもらおうと年1回開催され、獣医師のレクチャーに加えて、乗馬指導者による「体験乗馬」や「馬とのふれあい」、装蹄師による「蹄鉄を使ったもの作り」など盛りだくさんの内容を体験してもらうものです。今年も秋分の日(9月23日)に行われ、保護者の方を含めて13組40名様にご参加いただきました。まず、獣医師による馬の身体の仕組みや走り方に関する講義では、子供達が真剣に向き合っているのが印象的でした。続いて、馬用の大型ルームランナーである「トレッドミル」で、馬の走る姿を間近で観察していただきました。講義だけではなく、実際に走る姿を見ることで、お子様に走る馬の迫力をお伝えし、保護者の皆様には馬の走りについて理解を深めていただきました。

Photo_6写真1.馬学講座          写真2.トレッドミル見学

 その後は、「馬とのふれあい」や「体験乗馬」を通して、馬の温もりを感じてもらいました。馬に跨って芝生の上を一周していただいたのですが、初めは恐る恐る馬に近づいていたお子様たちも、降りた後は「もっと乗りたかった~」と名残惜しそうにしていました。そして、最後に装蹄師によるダイナミックな造鉄実演を見ていただいた後、参加者全員で蹄鉄を使ったコースターづくりをもってプログラムは無事終了しました。

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写真3.馬とのふれあい               写真4.体験乗馬

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写真5.造鉄実演

 アンケートでは「乗馬やふれあいが特に楽しく、とても良い経験になった」、「親子で楽しめる内容で馬のことが好きになった」、「職員の方々がとても優しくて良かったです」などの声が多く寄せられました。正しく取り扱えば、馬は優しく、決して怖い動物ではないと感じてくれたら嬉しいですね。

 当研究所は、防疫上の観点から常時開放することはできないため、見学の機会は限られています。その意味でこのイベントは、皆様と直接お話出来る職員にとっても大変貴重な機会です。今後も一般のお客様に馬のことを知ってもらい、たまには競馬場へ足を運んでいただいて、迫力ある馬の走りを生で見て感動していただけたら幸いです。

2024年10月 1日 (火)

JRA総研サマースクール(VPキャンプ)無事終了

企画調整室の福田です。

 例年夏になると恒例の獣医学生インターンシップ(VPキャンプ)の一環として、当研究所では、いわゆる「JRA総研サマースクール」を実施しております。今年も8月最終週から9月の初週にかけて実施され、全国の獣医系大学から計24名の学生さんが参加しました。競走馬や乗馬の獣医師へと進む動機になればと、国内では触れる機会の少ない馬の取り扱いに加えて、馬獣医学に関する臨床技術や検査業務を体験してもらいました。参加者の多くが初めて馬に触れるという状況でしたが、研修最終日にはそれなりに馬の扱いに慣れてくれたのは嬉しい限りです。彼らは大学に入学したとたんにコロナ禍となってしまった世代。対面授業は少なく、部活動の制限から学生同士の交流も活発ではなかったようです。そういう意味でも、各所で実施されるインターンシップは新鮮な体験の場であったことでしょう。我々が提供した実習の場でも、楽しい経験が共有でき、学生間の交流もできたと記憶に残る実習となったようです。

 来年も開催する予定ですので、獣医学生さんはVPキャンプやJRA総研のお知らせに注意していてください。

12_2写真1  左;臨床コース、右;感染症コース

参加した学生さん達(掲載許可をいただいています)。未来の馬獣医師の卵たちかも....

34写真2  左;包帯巻きの練習(臨床コース)、右;細菌培養実習(感染症コース)

臨床研修や検査実習に積極的に取り組んでいただきました。

5写真3  研修には乗馬訓練もあります。初めてでも上手に乗りこなしました。

2024年9月29日 (日)

東京国立博物館でJRA特別展示が開催される

こんにちは、企画調整室の桑野です。

 JRAは、1954年(昭和29年)に競馬の健全な発展と馬の改良増殖およびその他畜産の振興に寄与することを目的に設立されて以来、今年で創立70周年を迎えています。その記念として東京国立博物館の表慶館にて本年9月20日(金)から10月20日(日)まで、“世界一までの蹄跡”と称したJRA70周年特別展示が催されています(図1)。

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図1.東京国立博物館での特別展示のお知らせ

  この展示会では、来場される皆様に、馬と人との長い歴史を紐解く歴史的な絵画や貴重品の数々を、そして体感できる音と映像によるタイムトリップ競馬史などを通して、国内外を問わない普遍的な“競走する”という魅力を、競馬に興味のない方でも知ってもらえるよう工夫されています。もう暫くはない貴重な展示物もありますので、ちょっと足をお運びいただき、ギャンブルではない文化としての競馬の一面に触れてみてはいかがでしょうか?

 私も祝日を利用して見に行く予定です。見学後のレポートはまた後日に。

(外部リンク)東京国立博物館イベント

https://www.tnm.jp/modules/r_event/index.php?controller=dtl&cid=5&id=11179



2024年9月26日 (木)

能登被災地からあの名元調教師が帯広に立つ

企画調整室の桑野です。

 2024年9月、北海道の帯広の “とかちプラザ”にて馬についての市民公開講座が開催されました。これは、帯広畜産大学が主催する日本獣医学会学術集会の一環として開催されたものでした。JRAが本学会をサポートしていたこと、帯広は“ばんえい競馬”の開催地であることなどから、馬というテーマが選ばれたようです。そこに呼ばれたシンポジストの一人が、かく言わん牝馬でダービーを優勝するという離れ技を成し遂げた元JRA調教師の角居勝彦氏(現;ホースコミュニティ代表)でした(写真1)。角居氏は石川県輪島市のご出身で今でもご実家が輪島にあり、さらに、同県珠洲市に人と馬の共生環境を整え、引退競走馬を受け入れる目的で設立した珠洲ホースパークを運営されております。

Img_8365写真1.優しい語り口調が印象的な角居氏

 「日本馬を世界に押し上げた調教師は今」と題したご講演では、引退競走馬のセカンドライフ、馬を用いた社会福祉への貢献について熱く語られていました。中でも本年元旦に被災した石川県の復興にどうにかして馬を用いた支援活動が組み込めないものか模索している姿には感銘を受けました。

 現時点での被災地の問題として、仮設住宅に移住した市民の生活レベルが思うように向上しないこと、引きこもりになりがちなこと、行政レベルでは人の生活がままならない状況で馬施設に投資することに消極的なこと、道路状況が改善されないため輸送手段の断絶があること、台風や豪雨などの新たな災害に対応する力を失っていることなどがあり、総合して各種支援団体からの申し出に答えられないさまざまな悪環境に頭を悩ませていました。しかしながら、語る氏の目には諦めの曇りは感じられず、まだまだやる気がみなぎっており力強さを感じました。

 今回の豪雨を含めて被災された方々には心からのお悔やみを申し上げます。どうか、豊富な人脈と馬を調教する技術を持った角居氏が石川県の復興を成し遂げられますよう、心からお祈りいたします。

 

2024年9月20日 (金)

馬に対するMRI検査

こんにちは、臨床医学研究室の野村です。

 臨床医学研究室では、この春より、競走馬の診療に用いられる画像診断技術に関する研究に取り組んでいます。本稿では、数ある画像診断技術のなかから、馬用のMRIについてご紹介します。

 競走馬の運動器疾患の診断に用いられる画像診断は、X線検査や超音波検査が一般的ですが、それらの検査で原因がはっきりしない場合の精密検査として、MRI検査が実施されることがあります。JRAでは、2014年に馬用MRI検査装置を導入し、昨年で検査開始から10年の節目を迎えました。馬用MRI検査装置の特徴は、何と言っても、馬を立たせたまま、鎮静剤の投与だけで画像検査ができることです(図1)。最初、馬用のMRI検査装置は麻酔下で馬を寝かせた状態で撮影することを前提に開発されました。しかし、500kgにも達する体重を有し、また下肢部に何らかの疾患があることが多い競走馬を寝かせて検査する、その後に起立させるといった手技は、痛めた肢を悪化させてしまうリスクを伴います。こうしたリスクを避けるため、2002年に馬用の立位MRI装置が開発されました。現在では競走馬の検査に広く用いられており、世界中の競走馬診療施設で活用されています。

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図1 MRI検査風景(美浦トレーニング・センター競走馬診療所)

 MRIは”Magnetic Resonance Imaging”の略語で、Magneticという名が示す通り、磁力(磁場と電波)を用いた検査法です。検査の原理は複雑ですが、簡単に言えば骨や靭帯といった組織において、正常より水分の含有量が増えている部位を磁力を利用して可視化する検査です(図2)。この「正常より水分の含有量が増えている」状態は、多くの場合、組織の炎症や出血を示すものであるため、疾患の診断につながるのです。

Mri_3図2 MRI検査の原理

 もう1つのMRIの特徴は、器官を3次元的に厚さ5mmで断面化した断層画像を得られることです。どのような断面での断層画像を描出するかは自由に設定でき、原因部位の断画を、位置的・状態的にわかりやすく可視化することができます(図3)。

Mri_6       図3 蹄のMRI検査結果(左から縦断面、前額断面、水平断面);

黄矢印部の信号変化により蹄骨内の骨嚢胞と診断されました

馬にMRI検査というと少々大袈裟に感じられるかもしれません。しかし、我々が診療対象としている競走馬は、人で言えばいわば“アスリート”です。微細なダメージを抱えながらレースに出走すれば大きな怪我につながりかねませんし、疾患が原因でトレーニングができないことは大きな損失です。さまざまな診断技術を駆使して原因を特定し、少しでも早くトレーニングが再開できるように適切な診断と治療が望まれます。1頭でも多くの競走馬に、自身の持つパフォーマンスを、怪我無く最大限に発揮してもらいたいという獣医師の願いが、これからも画像診断技術を発展させていくでしょう。





2024年9月 5日 (木)

馬のジャンプ力

 こんにちは、運動科学研究室の杉山です。暑い日々が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。

 先日行われたパリオリンピックでは、日本の総合馬術チームが団体で92年ぶりのメダルを獲得するなど目覚ましい躍進がありました。荘厳なベルサイユ宮殿を背景に広大な敷地をウマが豪快に障害を飛んでいくクロスカントリー競技は目を見張る素晴らしさがありましたね。全人馬大きな怪我もなく大会を終えられたことは、現地チームの協力と日本チームの日頃の努力あってのことだと思いました。選手と出場馬のみなさま、本当にお疲れさまでした。

 そんなスポーツの世界では爆発的なパフォーマンスを行う場面がたくさんありますが、人間に強靭なアキレス腱があり、弾性エネルギーをつかって長距離を走るように、馬も腱の弾性エネルギーを使って走る・ジャンプすることが知られています [参考1]。障害を飛ぶ際の馬の後肢では、歩いているときの約4.5倍のエネルギーが使用されます[参考2]。さらに、馬はジャンプができる動物の中でも大型な部類ですが、ときには160cm以上もある障害を、人間を背負って飛ぶこともできます。これは強靭な筋肉だけでは創出できないパワーであり、腱の弾性エネルギーをも使ったパフォーマンスといえます。

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 JRAでは馬事公苑や開催競馬場でホースショーを定期的に行っています。競技馬が人を乗せて迫力あるジャンプをするのを間近で見るのも一興です。ぜひ、足をお運びください。

 馬事公苑などで開催される競技のイベント情報は以下のサイトでお知らせしています!

馬事公苑Instagram:https://www.instagram.com/jra_equestrianpark/

参考文献:

  1. Biewener, A.A., Muscle-tendon stresses and elastic energy storage during locomotion in the horse. Comparative Biochemistry and Physiology Part B: Biochemistry and Molecular Biology, 1998. 120(1): p. 73-87.
  2. Dutto, D.J., et al., Moments and power generated by the horse (Equus caballus) hind limb during jumping. J Exp Biol, 2004. 207(Pt 4): p. 667-74.

2024年9月 3日 (火)

アジア競馬会議 in 札幌

分子生物研究室の坂内です。

 8月27日~30日に札幌市で行われた、第40回アジア競馬会議に参加しました(写真1)。私自身は昨年のオーストラリア(メルボルン)での第39回大会に続き、2回目の参加となります。参加登録者は800名以上、アジアと言いつつも欧米からの参加者も多く、競馬産業の抱える課題や将来の発展について多角的に議論する会議です。

 競馬の発展と一口に言っても、競走馬や人材の確保、ファンサービス、環境問題や気候変動への対策、違法賭事との闘い、公正確保などいろいろな切り口があります。今回のスローガンは、「Be connected, stride together(つながりを持ち、一緒に走ろう)」。各国の主催者や関係者が連携して、こうした様々な課題に団結して取り組む姿勢を打ち出したものです。

Photo写真1. オープニング・セッションの様子

 とりわけ私たち研究所が関係するトピックスとしては、暑熱問題遺伝子ドーピングへの対策が挙げられます。総研では数年前から運動科学研究室を中心に暑熱対策に関する研究を進めており、パドックのミストやレース後のシャワー設備などが既に現場に導入されています。遺伝子ドーピングの問題についても、関連団体である競走馬理化学研究所を中心に研究が進められていることが紹介されました。私たちの行う研究業務は裏方ではありますが、今後の競馬産業を支える重要なものだということを、アジア競馬会議を通じて改めて感じたところです。

 日本の競馬について騎手、調教師、生産者それぞれの立場から語っていただくセッションもありました。武豊騎手、クリストフ・ルメール騎手、矢作芳人調教師など多くの登壇者から、日本の競馬のレベルが向上したことを実感する声が聞かれ、さらに発展させるための前向きな議論が交わされました。

 大会2日目の夜には、海外からのゲストに日本の文化を体験してもらうべく、札幌ドームで縁日と花火を中心としたイベントが開かれました(写真2)。ゲストから喜びの声が多く聞かれ、私自身もお祭りの雰囲気を存分に楽しみました。

Photo_2写真2. ソーシャル・イベントの様子

 閉会式ではフラッグセレモニーが行われ、今大会をホストしたJRAの吉田理事長からアジア競馬連盟のエンゲルブレヒト=ブレスゲス会長へ、そして次回開催地であるサウジアラビアジョッキークラブのバンダル王子へと連盟旗が渡されました(写真3)。サウジカップ創設をはじめとして、近年急速な発展を見せるサウジアラビアの競馬、きっと彼らがホストするアジア大会も素晴らしいものとなるでしょう。

Photo_3写真3. フラッグセレモニー;JRAの吉田理事長(左)と後藤総括監(前JRA理事長;中)の見守る中、

      連盟旗はブレスゲス会長からバンダル王子への引き継がれました。

2024年7月31日 (水)

馬伝染性子宮炎について

微生物研究室の木下です。

 

馬伝染性子宮炎 (CEM : Contagious Equine Metritis) という、不受胎の原因となるウマ特有の性感染症をご存じでしょうか?

CEMは、1970年代後半から80年代にかけて世界各国に広まった病気で、日本国内においても1980年代から2000年代にかけて発生が確認されていました。国内の軽種馬群では2005年の発生を最後にまもなく20年が経過しようとしていますが、国外に目を向けると、ヨーロッパ (特にドイツ) を中心に毎年のように発生が報告されています。さらに、今年に入り、2013年以来となるアメリカでのCEM発生が、フロリダ州で繋養されているポニーにおいて確認されました。本ブログの執筆時点で、97頭の馬を飼育する当該牧場において、11頭のポニーがCEM陽性と確認されています (検査中の馬もいるため、最終的な陽性数は増える可能性あり)。また、ポニー間で広まった原因として、ルーティンで行っていた生殖器の清掃作業が疑われているようです。CEMに限ったことではありませんが、このような人為的な行為によって病気が広まる可能性があることを認識し、注意を払う必要があると改めて感じました。

 

アメリカにおけるCEM発生についての詳細は、下記の米国農務省のホームページ(外部リンク)をご確認ください。

(外部リンク)

https://www.aphis.usda.gov/livestock-poultry-disease/equine/contagious-equine-metritis

Cem2024ver2_2(写真1. 本年7月の会議風景)

国内での発生は長年認められていないとはいえ、ウマの国際間移動が頻繁になっている昨今、CEMが再び国内で発生する可能性は否定できません。CEM発生時の影響が非常に大きいことに鑑み、日本軽種馬協会(公益社団法人)を中心として、生産地、検査機関、そしてJRAの関係者が集まり、CEMの検査状況の共有や、今後どのような対策が必要なのかについての協議を行うために定期的に会議を行っています (写真1)。良からぬ伝染病が広まらないことを強く望みはしますが、万が一事象が起きた際に迅速な対応が取れるよう、関係者と普段から連携しておき、有事に備えた取り組みを平時から行っておくことが重要であろうと思います。