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2025年5月

2025年5月30日 (金)

細菌の分類学とDNA解析について

こんにちは、微生物研究室の佐藤です。

 私は先日、静岡県で細菌同定のための遺伝子配列解析について研修を受けてきました。そこで今回は、細菌の分類学について紹介させていただきます。

 分類学(taxonomy)とは、あるものを共通の特性に基づいてグループ分けしそれぞれの違いを区別していく学問です。具体的には、種やグループを識別して名前(学名)を付けることを目的としています。細菌の分類や同定の手法は、科学の進歩とともに大きく変わってきました。

 1900年代初頭は、菌の形や大きさといった「形態学的特徴」や、細菌が増殖できる環境条件などの「生理学的特徴」で分類されてきました。その後、1960年代頃からは、細胞壁のアミノ酸や菌体内の脂肪酸の組成などの「化学分析」による分類が主流となりました。そして、1977年にフレデリック・サンガーによってサンガー法(ジデオキシ法)が発表されてからは、大きく状況が変わりました。1980年代以降は、細菌のリボソームRNA遺伝子(rDNA)のDNA塩基配列に基づく分類が行われるようになりました。それにより、1980年時点では細菌種の数は約1800種でしたが、2025年現在では約25000種まで増加しました。さらに近年では、細菌の持つ全ての遺伝情報(ゲノム)の塩基配列を読み解く「ゲノム解析」の開発が進み、これまで以上に細かい違いを分類できるようになっています。

 分類学は、地球上の膨大な種類の生物(細菌)の進化の歴史や関係性を理解するために、必要不可欠な学問です。身近な自然を観察する時、ぜひ分類学の視点を取り入れてみてください。きっと、これまでとは違う発見があるはずです。

Photo写真:魅惑の静岡おでん

牛すじや黒はんぺんなどの具材や黒い見た目が特徴的で、だしの香りが深く染み込んだ優しい味わいはとてもお酒に合いました!

2025年5月13日 (火)

Spring lamb(スプリング・ラム)の季節になりました

企画の桑野です。

さて、競走馬総合研究所(総研)では、毎年恒例のヒツジたちの毛刈りシーズンがやってきました。

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毛刈りの時は霰もない姿で毛刈りおじさんに身を任せます

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すっかり綺麗になってスッキリ顔

 春を過ぎて梅雨に入りかけるこの季節、イギリスをはじめ北半球の牧野では、春になって一気に茂った栄養豊かな牧草を食した子羊たちが丸々と太って美味しくなるのをご存知でしょうか?スプリング・ラムと呼ばれる良質の子羊肉は、この時期、イギリスではちょっとお高くなり、贅沢な食材として人気があります。ロンドンの有名デパート“ハロッズ”でも、この時期の子羊を取り扱っており、肩肉がkgあたり24ポンド(5000円弱)で売られています。

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左図;イギリスの広大な平原では羊たちがのんびり草をはむ   

右図;ロンドンのハロッズで売られているラム肉の例

 ラムの定義は、生後1年未満の子羊の肉を指します。実際は、こんな小さな羊では肉量も少ないですし、そもそもかわいそうで食べられません。流通しているラム肉は1歳から2歳未満の大きくなった子羊で、その肉は正確には英語でホゲットと呼ばれます。2歳を過ぎた肉がマトンです。マトンは臭みが出てくるのでお嫌いな方が多いでしょう。

 さて、ラム肉には、含まれているビタミンの種類が多く、必須アミノ酸と呼ばれる体に必要なアミノ酸も豊富で、さらに牛肉や豚肉に比べるとカロリーも低いことから健康や美容に良いと言われています。のみならず、ラム肉の脂肪は動脈硬化を起こすトランス脂肪酸(悪玉脂肪酸)が非常に少なく、ラードやマーガリンを食べるよりずっと健康に良いことも知られています。最近の健康志向から、日本でもラム肉は見直されてきており、農水省の発表では平成30年以降は羊の国内飼育頭数が微増傾向にあるそうです。

 日本の羊の飼育頭数は北海道が群を抜いて多く、国内頭数の60%を占めています。そのためか、北海道では普通のスーパーにお手頃な価格でラム肉が売られています。次いで飼育頭数が多いのが岩手県、次いで長野県、その次が総研のある栃木県なのですが、私は栃木県内でラム肉が売られているのをほとんど目にしたことがありません。栃木県内で飼育されている羊は、取引先が東京のような都会なのかもしれませんね。高級志向なのでしょう。お手頃価格で売っていたら…と、ちょっと北海道の皆様が羨ましいです。

なお、総研は食べるために羊を飼っているのではありません!