帯状疱疹について
分子生物研究室の辻村です。
今年に入ってから、職場で帯状疱疹の発症を立て続けに耳にする機会がありました。帯状疱疹は、過去に感染した水ぼうそうのウイルスが体内に潜伏し、加齢や疲労による免疫力の低下をきっかけに再活性化することで発症する病気です。このウイルスは、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)と呼ばれるヘルペスウイルスの一種です。主な症状は、神経に沿って現れる水ぶくれと激しい痛みです。症状が治まった後も長期間にわたって痛みだけが残ることもあり、そうなると生活の質(QOL)を大きく下げてしまいます。
昨年(2025年)、65歳以上の方などを対象にしたワクチンの定期接種が始まったことをご存じでしょうか(図:厚生労働省リーフレット)。私自身はまだ定期接種の対象ではありませんが、発症リスクが高まる年齢に差し掛かってきたこともあり、自費での接種を検討していたところでした。そんな折、この病気を身近に感じる出来事が続きましたので、今回はこの話題を取り上げてみることにしました。
帯状疱疹の治療では、一般的に抗ヘルペス薬が処方されます。近年の大きなトピックとしては、日本で開発された「アメナメビル」という薬が2017年に発売されたことが挙げられます。アメナメビルは、既存の薬とは異なる仕組みでウイルスの増殖を抑える薬です。腎機能に合わせた用量の調整が不要で、1日1回の服用で済むという利便性もあり、発売当時は10%程度だった処方割合が、最近では40%を超えるまでになっています(2022年のデータ)。
また、原因ウイルスであるVZVの再活性化と、認知症リスクとの関連も議論されています。VZVが認知症を引き起こすメカニズムについてはまだ仮説の段階ですが、さまざまな調査からその関連性が裏付けられつつあります。そのようななか、2025年に『Nature』誌に掲載された研究では、ワクチンの接種によって認知症の新規発症リスクがはっきりと低下することが示されました。帯状疱疹だけでなく認知症の予防にもつながるとなれば、このワクチンへの注目はさらに高まっていくかもしれません。
<外部リンク>https://www.nature.com/articles/s41586-025-08800-x
現在、国内では「生ワクチン」と「組換えワクチン」の2種類を接種することができます。組換えワクチンは2018年に承認された比較的新しいもので、遺伝子組換え技術で作ったウイルスのたんぱく質の一部を抗原とし、免疫の効果を高める成分を添加した製品です。高い効果が認められている一方で、2回の接種が必要だったり、生ワクチンよりも副反応が出やすい傾向があったりします。どちらのワクチンを選ぶかは、それぞれの状況に合わせて検討していくことになります。
さて、こうしたVZVに対する知見は、将来的に馬医療でも役立つ可能性があると考えています。馬に深刻な流産や神経麻痺を招くことがある「ウマヘルペスウイルス1型(EHV-1)」は、人間のVZVと分類学的に極めて近い位置にあるからです。人間で実用化された治療薬の応用や、最新のワクチンに用いられた「免疫を効率よく高める仕組み」が、いつかEHV-1対策を検討する際の大きな助けになるかもしれません。
<外部リンク>https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001601105.pdf
