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2026年4月

2026年4月24日 (金)

帯状疱疹について

分子生物研究室の辻村です。

 今年に入ってから、職場で帯状疱疹の発症を立て続けに耳にする機会がありました。帯状疱疹は、過去に感染した水ぼうそうのウイルスが体内に潜伏し、加齢や疲労による免疫力の低下をきっかけに再活性化することで発症する病気です。このウイルスは、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)と呼ばれ、馬鼻肺炎ウイルスと同じヘルペスウイルスの一種です。主な症状は、神経に沿って現れる水ぶくれと激しい痛みです。症状が治まった後も長期間にわたって痛みだけが残ることもあり、そうなると生活の質(QOL)を大きく下げてしまいます。

 昨年(2025年)、65歳以上の方などを対象にしたワクチンの定期接種が始まったことをご存じでしょうか(図:厚生労働省リーフレット)。私自身はまだ定期接種の対象ではありませんが、発症リスクが高まる年齢に差し掛かってきたこともあり、自費での接種を検討していたところでした。そんな折、この病気を身近に感じる出来事が続きましたので、今回はこの話題を取り上げてみることにしました。

 帯状疱疹の治療では、一般的に抗ヘルペス薬が処方されます。近年の大きなトピックとしては、日本で開発された「アメナメビル」という薬が2017年に発売されたことが挙げられます。アメナメビルは、既存の薬とは異なる仕組みでウイルスの増殖を抑える薬です。腎機能に合わせた用量の調整が不要で、1日1回の服用で済むという利便性もあり、発売当時は10%程度だった処方割合が、最近では40%を超えるまでになっています(2022年のデータ)。

 ところで、近年、VZVの再活性化と認知症リスクとの関連性が議論されています。VZVが認知症を引き起こすメカニズムについてはまだ仮説の段階ですが、さまざまな調査からその関連性が裏付けられつつあります。そのようななか、2025年に『Nature』誌に掲載された研究では、ワクチンの接種によって認知症の新規発症リスクがはっきりと低下することが示されました。帯状疱疹だけでなく認知症の予防にもつながるとなれば、このワクチンへの注目はさらに高まっていくかもしれません。
<外部リンク>https://www.nature.com/articles/s41586-025-08800-x

 現在、国内では「生ワクチン」と「組換えワクチン」の2種類を接種することができます。組換えワクチンは2018年に承認された比較的新しいもので、遺伝子組換え技術で作ったウイルスのたんぱく質の一部を抗原とし、免疫の効果を高める成分を添加した製品です。高い効果が認められている一方で、2回の接種が必要だったり、生ワクチンよりも副反応が出やすい傾向があったりします。どちらのワクチンを選ぶかは、それぞれの状況に合わせて検討していくことになります。

 さて、こうしたVZVに対する知見は、将来的に馬鼻肺炎ウイルスに対応するための獣医医療でも役立つ可能性があると考えています。馬に発熱、深刻な流産や神経麻痺を招くことがある馬鼻肺炎の一種「ウマヘルペスウイルス1型(EHV-1)」は、人間のVZVと分類学的に極めて近い位置にあるからです。人間で実用化された治療薬の応用や、最新のワクチンに用いられた「免疫を効率よく高める仕組み」が、いつかEHV-1対策を検討する際の大きな助けになるかもしれません。

Fig_4<外部リンク>https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001601105.pdf

2026年4月20日 (月)

ウマ科学会の賞牌を作った人は凄い彫刻家だった!

企画の桑野です。

 ウマ研究者の発表の場である日本ウマ科学会学術集会では、学会への功労者やウマ科学に貢献した者を表彰することがあります。その際、表彰状の他、ウマを平面ブロンズで彫像した賞牌(図1)も受賞者にお渡ししております。この賞牌は彫刻家の後藤信夫先生がお造りになったものですが、この方に先日お会いして、その作品の輝きに圧倒されてしまい、この感動を皆様にもお伝えしたく筆を取りました(御本人承諾済み)。

Photo_3図1.日本ウマ科学会の賞牌(功労賞)

 先生(図2)は現84歳、1968年に第64回太平洋美術展奨励賞を受賞後、数々の褒賞を受けてこられ、2009年には日本ウマ科学会の功労賞をも受賞されました。凄いのはそういうことよりも、要所要所にある数々の競走馬の彫像を製作されたご本人であるという点です。

中山競馬場の正門入った所にあるハイセイコー像(図3a)、札幌競馬場の駿馬躍進の像(図3b)、中京競馬場の蹄鉄と競走馬の像である“マイドリーム”(図3c)、JRA競馬博物館の“競馬の殿堂”コーナーにある数々の懸賞馬(スピードシンボリ、ハイセイコー、トウショウボーイ、マルゼンスキー、ミスターシービー、シンボリルドルフ、メジロラモーヌ、オグリキャップ、テイエムオペラオー、ディープインパクト)の像、そして日高の優駿メモリアルパークの白銅製のオグリキャップ像(図3d)は先生の作品です。そうとは知らずに記念撮影されている方も多いのではないでしょうか。

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      図2. 「歳のせいで以前のようには作品は作れなくなった」と言いつつも、実に明朗な語り口調でお話しくださった後藤先生

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Photo_6    図3. a. ハイセイコー像(中山競馬場)、b. 駿馬躍進の像(札幌競馬場)、c. マイドリーム(蹄鉄と競走馬の像)、d. オグリキャップ像(レプリカ/ご自宅で所蔵)…後藤先生所蔵の写真から

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 後藤先生はウマの制作において特に気を付けてきたことがあったそうです。それは、シンボリの冠名で知られる和田オーナーからいただいた「競走馬を作るなら、“素軽さ”が表現されてなくてはいかん!」というお言葉だそうです。この“素軽さ”という辞書にも載っていない言葉をどう捉えるべきか、生涯悩み続けての制作だったとため息まじりに語っておられました。

 世に馬の彫像は多々あるものの、先生の作品には決まって競走馬らしい動きが感じられます。静止しているだけの競走馬ですら、その目線、尻尾の形、筋肉ひとつひとつのスジ目に今にも動き出しそうな躍動感を感じられるのは、この“素軽さ”の探究に端を発しているかもしれません。

 後藤先生はJRAの発展とともに大きく羽ばたいてきた数少ない彫刻家です。ウマ科学会の褒賞者は実に偉大な彫刻家の作品を授与されていることを真摯に受けて止めてほしいものです。

 なお、“名馬の彫像すなわち後藤!”と称されるほど競走馬と深く関わってこられた先生の作品の制作風景は、以下のリンクで垣間見ることができます。

<外部リンク> https://www.youtube.com/watch?v=gQRc0aWb3j8







2026年4月13日 (月)

宮崎育成牧場でのストライド解析

運動科学研究室の胡田です。

 近年、テクノロジーの進化により、さまざまなウェアラブルデバイスが開発されており、運動中の生体情報を数値化してモニタリングする重要性に注目が集まっています。

 皆さんの中にも、スマートウォッチを身体に着けて日々の運動を行っている方がいるのではないでしょうか。

 こうした流れはウマの分野にも広がっており、ウェアラブルデバイスを活用して運動中のウマのデータを収集・分析することで、パフォーマンスの向上やケガのリスク軽減につなげようとする取り組みが進んでいます。

さらに近年では、GPS機器を用いることでウマのストライドデータ(ピッチや一完歩の長さ)を測定できることが報告されており、騎乗時のデータ収集を簡便に行えるようになりました(参照論文は以下です。興味のある方はぜひご覧ください)。

<外部リンク> https://doi.org/10.1016/j.jbiomech.2022.111364

そこで我々は、育成期のストライドパラメータの変化を明らかにするため、JRA宮崎育成牧場と協力し、2歳のJRA育成馬を対象にデータ収集を行いました。

 ちなみに、以前に宮崎を訪れた際には雨に見舞われたのですが、今回もまさかの大雨…(以下)。

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 何とか無事にデータを取得することはできましたので、今後は解析を進めて良い結果がでればこちらでも報告したいと思います。

 また、次の機会には、”雨男”の汚名を返上するべく、てるてる坊主を持参して実験に臨みたいと思います(WWW)。

2026年4月 2日 (木)

「クビアカツヤカミキリ」から桜を守る

はじめまして。微生物研究室の平間です。

 この3月の定期人事異動により、美浦トレーニング・センターから参りました。これまでは臨床現場での仕事が長く、研究所勤務は今回が初めてとなります。慣れない環境に戸惑う毎日ですが、研究所のゆったりと流れる時間や、研究室の窓から見える美しい桜の木々に癒やされながら、少しずつ仕事に慣れていければと考えています。

 さて、当研究所の桜は樹齢50年を超える見事なソメイヨシノで、毎年職員や地域の方々の目を楽しませてくれています。しかし今、この美しい景観を脅かす特定外来生物の影が忍び寄っています。

 みなさんは、「クビアカツヤカミキリ」という虫をご存じでしょうか?この虫はサクラ、モモ、ウメなどのバラ科の樹木を食い荒らして枯死させる、極めて厄介な外来生物です。人体への直接的な毒性はありませんが、幼虫が樹木の内部を執拗に食害するため、木が衰弱して枯死するだけでなく、突然の倒木や落枝を引き起こす危険性もあり、厳重な警戒が必要です(外部リンク;農水省 クビアカツヤカミキリに関する情報)

 日本では2012年に最初の被害が確認されて以来、全国へと生息域を広げており、2018年には環境省により特定外来生物に指定されました。そして残念ながら、昨年の秋、当研究所の桜にも初めてその被害が確認されてしまいました。

 被害を見分けるサインは「フラス」

サクラの幹や根元に、「フラス(木くずと糞が混ざったもの)」が大量に排出されていたり、不自然な穴が開いていたりするのが、クビアカツヤカミキリが潜んでいる決定的なサインです。

 対策としては、成虫の捕殺、幼虫の穴への薬剤注入、および防虫ネットの巻き付けなどがあります。当研究所でも現在、被害を受けた木にネットを巻き、成虫の脱出や新たな産卵を防ぐ措置を講じています。

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 被害が深刻化してしまうと、拡散防止のために木の伐採・焼却という苦渋の決断を迫られることもありますが、幸いなことに、防虫ネットに守られながらも今年も力強く花を咲かせてくれています。

馬を治療するときの心境に通ずるところがありますが、今はその生命力を信じて見守っていこうと思います。

  皆さんもお花見に出かける際には、ぜひ木の根元や幹の様子もチェックしてみてください。もし「フラス」を見つけたら、それはサクラからのSOSかもしれません。

<外部リンク>https://www.maff.go.jp/j/syouan/syokubo/keneki/k_kokunai/kubiaka/kubiaka.html