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2026年7月

2026年7月16日 (木)

馬の薬の飲ませ方;「経鼻カテーテル」と「シリンジを用いた経口」の相違

臨床医学の黒田です。

 馬が病気になったときや健康維持のために、飲み薬を飲ませる機会があります。しかし、大きな馬に薬を飲ませるのは一苦労です。馬に薬を与えるときには経鼻カテーテルを鼻から入れて食道に水とともに薬を流し込む方法と、注射用のシリンジを使って口から飲ませる2つのルートがあり、状況に合わせて使い分けています。今回はその特徴を比較してご紹介します。

1:確実だけど「プロの技」が必要な経鼻カテーテル
 鼻の穴から細いチューブ(カテーテル)を優しく差し込み、喉を通って胃まで直接お薬を届ける、獣医師が行う専門的な方法です。この方法の一番のメリットは、「どれだけ苦い薬でも、数L(リッター)の水でも、確実に胃まで届けられる」という点です。例えば、便秘のときには、数Lの水分やオイルを投与する必要があります。経鼻カテーテルであれば、どれだけ苦いお薬でも舌(味覚)を通らないため、美味しくない薬も投与できます。しかし、鼻にチューブが入る瞬間は馬も嫌がるため、獣医師による技術が必要ですし、何回も投薬すると馬が嫌がって拒否するようになることもあります。

2:手軽だけど「味」が勝負のシリンジ
 もう一つは、注射器のような筒(シリンジ)を使って、口の脇から薬を流し込む方法です。簡単ではありますが、用量に限界があり1度に飲ませることが出来る液体は多くても40mL程度です。また、経鼻カテーテルと違い、吐き出したりもするので経鼻カテーテルより確実性は下がります。この方法の最大のハードルは「薬の味」です。馬は結構味に敏感で、研究でも「バナナ」「リンゴ」といった甘いフレーバーが大好きで、逆に苦いものは大嫌いなことが分かっています。苦い薬をそのまま飲ませようとすると、首を振って嫌がったり、せっかくの薬をペッと吐き出したりしてしまいます。

 そのため、我々も少しでも苦味を隠そうと、いろいろなものを試しています。コーヒーに入れるシロップを混ぜてみたり、ケーキ用のシロップを試してみたり、糖蜜を練り込んでみたりと、馬の好みに合わせてあの手この手で工夫を凝らして奮闘しております。作った薬を自分で試しに舐めたりしますが、人には意外と苦いと感じた薬でも馬には大丈夫な時もあります。一方、その逆もあり苦労しているところです。どうも、味覚より嗅覚が重要かなと感じてはいます。

このことは、本年の研究成果でも詳しくご紹介しますので、ぜひ楽しみにしていてください。

比較 経鼻カテーテル シリンジ
入れる場所 鼻からカテーテルを入れる 口から
手軽さ 獣医師の技術が必要 比較的かんたん
馬への影響 連続投与すると拒否する馬も 味次第だが比較的少ない
一度に飲める量 数L単位 20~50mL
味の影響 なし(舌を通らず味を感じない) あり(苦いと吐き出してしまう)
確実さ 狙った量が100%届くので確実 吐き出した分は体に入らない

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(Gemini 生成模式図)

2026年7月 3日 (金)

新人獣医研修@総研

こんにちは、分子生物研究室の上林です。

 フランス留学から帰国し、初めての投稿となります。近頃はフランスを含む欧州各地で記録的な熱波が続いているとのニュースを目にし、現地の同僚たちのことを心配しています。

 ところで先月、JRAの新人獣医職員を対象とした研修が、約2週にわたりJRA競走馬総合研究所(総研)で開催されました。本研修は、4月に入会した獣医職員がこれからトレーニング・センターなどで本格的に臨床経験を積んでいくにあたり、総研の研究者から知識や技術を学び、併せて交流を深めることを目的としています。今年はJRA職員6名に加えて、法人や民間で馬の臨床や研究に携わる獣医師7名を迎え、計13名での開催となりました。

 研修生は、2週間の間に総研の4つの研究室、すなわち運動・臨床医学・微生物・分子生物といった様々な分野の研究者達から、講義や実習を通して幅広い知識や技術を学びました。

 私たち分子生物研究室では、競馬産業に大きな影響を与えうる馬インフルエンザや馬鼻肺炎を中心に、ウイルス感染症とその防疫技術を担当させていただきました。安定的な競馬の施行のためには、馬感染症の流行予防は非常に重要なテーマであり、私たち獣医師が中心的な役割を担っています。

 その中で研究者が果たす役割は大きいです。一方で、実際に馬の臨床の前線に立つ獣医師が、感染症への理解や予防意識を高く持つことも同じくらい重要です。今回の研修を通じて、その点を少しでも理解してもらえたなら嬉しく思います。

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馬鼻肺炎の遺伝子診断法実習に取り組む研修生たち(左)と馬インフルエンザのPCR判定を行う研修生(右)

 ひとたびトレーニング・センターなどの臨床現場で働き始めると、同じ会社内であっても研究者と日常的に接する機会は限られます。そのため、本研修のもう一つの側面である人材交流も重要です。将来、臨床現場では解決できない問題や個人的な疑問を持った際に、研究者に相談できるつながりを作っておく意味があります。JRA内だけでなく、外部から研修に参加された方々にとっても、人的交流が広がることは重要でしょう。今回の研修が彼らの今後の仕事の助けになれば、大変喜ばしい限りです。

  日本もこれから本格的な夏がやってきます。皆さんも体調には十分留意しながら、今年も夏競馬を楽しみましょう。