馬糞紙(バフンシ)を知っていますか?
競走馬総合研究所の桑野です。
いつも学術的な投稿が多いので、今回は目先を変えて芸術?の世界に足を踏み入れてみましょう。
お歳を召した方には聞き覚えのある名前かもしれませんが、日本には古くから馬糞紙(ばふんし)という紙がありました。馬糞が原料ではありません。洋紙の製造技術が日本に入ってきた明治時代に、パルプ材の無かった日本では代用品として稲藁や麦藁を使って紙を製造しました。これを藁半紙(わらばんし)と呼びました。当時、その黄土色に加えて表面に藁の繊維がはみ出している感じが馬糞のようだったため、別名として馬糞紙とも呼ばれていたそうです。私が子供の頃は馬糞紙の改良は進み、表面のざらつきが抑えられたただの藁半紙として販売されていました。その藁半紙も今ではほとんど見なくなりましたが、昭和の時代では学校のテスト用紙、小売店の包装紙、石焼き芋の包み紙などに使われていましたね。
過去の遺物だと思っていたのですが、近年、馬糞紙の質感を持った新バフン紙という新たな商品が一部のクリエイターや臨床美術士(りんしょうびじゅつし)の間で用いられています(図1)。新バフン紙は、昔の藁半紙より丁寧な工程を積み上げて作られており、独特のザラついた表面を残しつつ、様々な色合いの紙として販売されています。パステルの乗りがよいので、絵が得意でない人でも上手に物を描出できる量感画用の紙として人気です(図2)。
図1. 消炭色の新バフン紙 表面のザラザラ感に特徴があります
図2. 新バフン紙にオイルパステルで描かれたサツマイモの量感画
一方、本当に馬の糞からバフン紙を作っている人たちもいます!日本在来馬の繋養地などでは、芸術を極めることが目的ではなく、地元の町起こしや子供の教育として馬の糞から紙を作る技術を伝承し、それで作られた小物を商品として販売したりしているようです。匂いを丁寧に除去した清潔な商品にする努力はアッパレです。
JRAのトレーニングセンターでも沢山のウマを繋養していますが、そこで出る馬糞は紙にこそならないものの、発酵させた後、マッシュルーム生産の床材にしたり、牛繋養のための牛床にしたりと有益に用いられていますよ。結構、無駄がないですねえ!