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2024年11月24日 (日)

軟膏で乾燥に打ち勝つ!

臨床医学研究室の三田です。

 

寒さも厳しくなり、空気も乾燥してきました。

 

乾燥肌の私は保湿剤を塗らないと肌が痛くて耐えられなくなりますが、ウマも乾燥による皮膚バリアの低下が起こると擦過傷や細菌感染などの皮膚疾患を起こしやすくなります。 

今回はそんな時に役立つ軟膏についてご紹介します。

 

トレーニング・センターでは「繋皹軟膏(ケイクンなんこう)」と呼ばれる軟膏がよく用いられています。名前の由来はウマの繋の裏に発生する皮膚炎「繋皹(ケイクン、下写真)」に使用されることに由来しており、オロナイン軟膏、抗菌薬、ザーネ軟膏、ラノリンを調合して作られたものです。

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繋ぎの裏に発生した繋皹(参考文献1より引用)

 先輩が調合したこの軟膏について良い配合だなと感じる点は次の通りです。

 ①オロナインの主成分はクロルヘキシジン

競走馬の皮膚疾患には細菌が原因となるものが多いです。繋皹やフレグモーネも細菌感染が原因です(参考文献1,2)。これらの病気を予防するためには傷ついた皮膚周辺の細菌数を減らすことが方法の1つです。クロルヘキシジンは消毒薬の一つで、ウマ皮膚消毒に用いられるヒビテンやマスキンの主成分としても知られています。この薬剤は皮膚炎の原因になる様々な細菌に対して効果を持ち、皮膚への残存性が他の消毒薬に比べて長いことや有機物への接触によって効果が失われない点が特徴としてあげられます。私が研究している手術部位感染の領域でも、術前消毒でのクロルヘキシジンの使用はポピドンヨードより効果が高いという報告が多くあり、昔から現在に至るまで信頼される消毒薬の1つです。

 ②抗菌薬

こちらも消毒薬と同様に細菌数を減少させるための成分です。調合されている抗菌薬は繋皹やフレグモーネの原因菌に効果があるものが用いられておりこれらの疾患の予防に役立つと考えられています。フレグモーネは肉眼では見つけられないほど小さな皮膚の創から細菌が皮下組織に混入することで起こると考えられており、原因特定できないことが多いです(参考文献3)。そのため、皮膚バリアが低下した部位の感染制御を補助する目的で抗菌薬を塗布してあげることは有用な手段かもしれません。さらに、抗菌薬を全身投与するよりも副作用も低減できる可能性があります。

 ③ザーネ軟膏のビタミンAで治癒促進

ビタミンAの一般的な効果は皮膚のターンオーバーや乾燥肌を改善すると言われており、皮膚へのダメージ回復を促す効果があります。

 ④ラノリンによる保湿効果UP!

ラノリンは動物の皮脂腺から分泌される蝋で、肌への浸透性が良いため保湿効果を高く保って皮膚のバリア機能を維持する働きがあります。

 

以上、繋皹軟膏について詳しく書いてきましたが、この軟膏は臨床試験が行われていないためどれ程の効果をもたらしているのかは正直わかりません。ただ、使用している方の評判がいいことを考えると効果があるのではないかと私は感じています。

実はウマに限らずヒトの臨床現場でも経験則から培われたこのような治療法が多く存在します。中には成績が悪く廃れてしまう治療法もあれば、今回紹介した軟膏のように10年以上にわたって使用されるものもあります。これらについて学術的な評価を行っていくことも本研究室の役目の1つなので、これからも色々な研究を推進していこうと思います。

 

 

参考文献

1.繋皹についての過去の調査(外部リンク)

https://www.b-t-c.or.jp/btc_p300/btcn/btcn82/btcn082-04.pdf


2. J Am Vet Med Assoc. 2007 Dec 1;231(11):1696-703. doi:10.2460/javma.231.11.1696.

3. Vet Rec. 2008 Feb 23;162(8):233-6. doi: 10.1136/vr.162.8.233.