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2024年9月

2024年9月29日 (日)

東京国立博物館でJRA特別展示が開催される

こんにちは、企画調整室の桑野です。

 JRAは、1954年(昭和29年)に競馬の健全な発展と馬の改良増殖およびその他畜産の振興に寄与することを目的に設立されて以来、今年で創立70周年を迎えています。その記念として東京国立博物館の表慶館にて本年9月20日(金)から10月20日(日)まで、“世界一までの蹄跡”と称したJRA70周年特別展示が催されています(図1)。

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図1.東京国立博物館での特別展示のお知らせ

  この展示会では、来場される皆様に、馬と人との長い歴史を紐解く歴史的な絵画や貴重品の数々を、そして体感できる音と映像によるタイムトリップ競馬史などを通して、国内外を問わない普遍的な“競走する”という魅力を、競馬に興味のない方でも知ってもらえるよう工夫されています。もう暫くはない貴重な展示物もありますので、ちょっと足をお運びいただき、ギャンブルではない文化としての競馬の一面に触れてみてはいかがでしょうか?

 私も祝日を利用して見に行く予定です。見学後のレポートはまた後日に。

(外部リンク)東京国立博物館イベント

https://www.tnm.jp/modules/r_event/index.php?controller=dtl&cid=5&id=11179



2024年9月26日 (木)

能登被災地からあの名元調教師が帯広に立つ

企画調整室の桑野です。

 2024年9月、北海道の帯広の “とかちプラザ”にて馬についての市民公開講座が開催されました。これは、帯広畜産大学が主催する日本獣医学会学術集会の一環として開催されたものでした。JRAが本学会をサポートしていたこと、帯広は“ばんえい競馬”の開催地であることなどから、馬というテーマが選ばれたようです。そこに呼ばれたシンポジストの一人が、かく言わん牝馬でダービーを優勝するという離れ技を成し遂げた元JRA調教師の角居勝彦氏(現;ホースコミュニティ代表)でした(写真1)。角居氏は石川県輪島市のご出身で今でもご実家が輪島にあり、さらに、同県珠洲市に人と馬の共生環境を整え、引退競走馬を受け入れる目的で設立した珠洲ホースパークを運営されております。

Img_8365写真1.優しい語り口調が印象的な角居氏

 「日本馬を世界に押し上げた調教師は今」と題したご講演では、引退競走馬のセカンドライフ、馬を用いた社会福祉への貢献について熱く語られていました。中でも本年元旦に被災した石川県の復興にどうにかして馬を用いた支援活動が組み込めないものか模索している姿には感銘を受けました。

 現時点での被災地の問題として、仮設住宅に移住した市民の生活レベルが思うように向上しないこと、引きこもりになりがちなこと、行政レベルでは人の生活がままならない状況で馬施設に投資することに消極的なこと、道路状況が改善されないため輸送手段の断絶があること、台風や豪雨などの新たな災害に対応する力を失っていることなどがあり、総合して各種支援団体からの申し出に答えられないさまざまな悪環境に頭を悩ませていました。しかしながら、語る氏の目には諦めの曇りは感じられず、まだまだやる気がみなぎっており力強さを感じました。

 今回の豪雨を含めて被災された方々には心からのお悔やみを申し上げます。どうか、豊富な人脈と馬を調教する技術を持った角居氏が石川県の復興を成し遂げられますよう、心からお祈りいたします。

 

2024年9月20日 (金)

馬に対するMRI検査

こんにちは、臨床医学研究室の野村です。

 臨床医学研究室では、この春より、競走馬の診療に用いられる画像診断技術に関する研究に取り組んでいます。本稿では、数ある画像診断技術のなかから、馬用のMRIについてご紹介します。

 競走馬の運動器疾患の診断に用いられる画像診断は、X線検査や超音波検査が一般的ですが、それらの検査で原因がはっきりしない場合の精密検査として、MRI検査が実施されることがあります。JRAでは、2014年に馬用MRI検査装置を導入し、昨年で検査開始から10年の節目を迎えました。馬用MRI検査装置の特徴は、何と言っても、馬を立たせたまま、鎮静剤の投与だけで画像検査ができることです(図1)。最初、馬用のMRI検査装置は麻酔下で馬を寝かせた状態で撮影することを前提に開発されました。しかし、500kgにも達する体重を有し、また下肢部に何らかの疾患があることが多い競走馬を寝かせて検査する、その後に起立させるといった手技は、痛めた肢を悪化させてしまうリスクを伴います。こうしたリスクを避けるため、2002年に馬用の立位MRI装置が開発されました。現在では競走馬の検査に広く用いられており、世界中の競走馬診療施設で活用されています。

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図1 MRI検査風景(美浦トレーニング・センター競走馬診療所)

 MRIは”Magnetic Resonance Imaging”の略語で、Magneticという名が示す通り、磁力(磁場と電波)を用いた検査法です。検査の原理は複雑ですが、簡単に言えば骨や靭帯といった組織において、正常より水分の含有量が増えている部位を磁力を利用して可視化する検査です(図2)。この「正常より水分の含有量が増えている」状態は、多くの場合、組織の炎症や出血を示すものであるため、疾患の診断につながるのです。

Mri_3図2 MRI検査の原理

 もう1つのMRIの特徴は、器官を3次元的に厚さ5mmで断面化した断層画像を得られることです。どのような断面での断層画像を描出するかは自由に設定でき、原因部位の断画を、位置的・状態的にわかりやすく可視化することができます(図3)。

Mri_6       図3 蹄のMRI検査結果(左から縦断面、前額断面、水平断面);

黄矢印部の信号変化により蹄骨内の骨嚢胞と診断されました

馬にMRI検査というと少々大袈裟に感じられるかもしれません。しかし、我々が診療対象としている競走馬は、人で言えばいわば“アスリート”です。微細なダメージを抱えながらレースに出走すれば大きな怪我につながりかねませんし、疾患が原因でトレーニングができないことは大きな損失です。さまざまな診断技術を駆使して原因を特定し、少しでも早くトレーニングが再開できるように適切な診断と治療が望まれます。1頭でも多くの競走馬に、自身の持つパフォーマンスを、怪我無く最大限に発揮してもらいたいという獣医師の願いが、これからも画像診断技術を発展させていくでしょう。





2024年9月 5日 (木)

馬のジャンプ力

 こんにちは、運動科学研究室の杉山です。暑い日々が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。

 先日行われたパリオリンピックでは、日本の総合馬術チームが団体で92年ぶりのメダルを獲得するなど目覚ましい躍進がありました。荘厳なベルサイユ宮殿を背景に広大な敷地をウマが豪快に障害を飛んでいくクロスカントリー競技は目を見張る素晴らしさがありましたね。全人馬大きな怪我もなく大会を終えられたことは、現地チームの協力と日本チームの日頃の努力あってのことだと思いました。選手と出場馬のみなさま、本当にお疲れさまでした。

 そんなスポーツの世界では爆発的なパフォーマンスを行う場面がたくさんありますが、人間に強靭なアキレス腱があり、弾性エネルギーをつかって長距離を走るように、馬も腱の弾性エネルギーを使って走る・ジャンプすることが知られています [参考1]。障害を飛ぶ際の馬の後肢では、歩いているときの約4.5倍のエネルギーが使用されます[参考2]。さらに、馬はジャンプができる動物の中でも大型な部類ですが、ときには160cm以上もある障害を、人間を背負って飛ぶこともできます。これは強靭な筋肉だけでは創出できないパワーであり、腱の弾性エネルギーをも使ったパフォーマンスといえます。

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 JRAでは馬事公苑や開催競馬場でホースショーを定期的に行っています。競技馬が人を乗せて迫力あるジャンプをするのを間近で見るのも一興です。ぜひ、足をお運びください。

 馬事公苑などで開催される競技のイベント情報は以下のサイトでお知らせしています!

馬事公苑Instagram:https://www.instagram.com/jra_equestrianpark/

参考文献:

  1. Biewener, A.A., Muscle-tendon stresses and elastic energy storage during locomotion in the horse. Comparative Biochemistry and Physiology Part B: Biochemistry and Molecular Biology, 1998. 120(1): p. 73-87.
  2. Dutto, D.J., et al., Moments and power generated by the horse (Equus caballus) hind limb during jumping. J Exp Biol, 2004. 207(Pt 4): p. 667-74.

2024年9月 3日 (火)

アジア競馬会議 in 札幌

分子生物研究室の坂内です。

 8月27日~30日に札幌市で行われた、第40回アジア競馬会議に参加しました(写真1)。私自身は昨年のオーストラリア(メルボルン)での第39回大会に続き、2回目の参加となります。参加登録者は800名以上、アジアと言いつつも欧米からの参加者も多く、競馬産業の抱える課題や将来の発展について多角的に議論する会議です。

 競馬の発展と一口に言っても、競走馬や人材の確保、ファンサービス、環境問題や気候変動への対策、違法賭事との闘い、公正確保などいろいろな切り口があります。今回のスローガンは、「Be connected, stride together(つながりを持ち、一緒に走ろう)」。各国の主催者や関係者が連携して、こうした様々な課題に団結して取り組む姿勢を打ち出したものです。

Photo写真1. オープニング・セッションの様子

 とりわけ私たち研究所が関係するトピックスとしては、暑熱問題遺伝子ドーピングへの対策が挙げられます。総研では数年前から運動科学研究室を中心に暑熱対策に関する研究を進めており、パドックのミストやレース後のシャワー設備などが既に現場に導入されています。遺伝子ドーピングの問題についても、関連団体である競走馬理化学研究所を中心に研究が進められていることが紹介されました。私たちの行う研究業務は裏方ではありますが、今後の競馬産業を支える重要なものだということを、アジア競馬会議を通じて改めて感じたところです。

 日本の競馬について騎手、調教師、生産者それぞれの立場から語っていただくセッションもありました。武豊騎手、クリストフ・ルメール騎手、矢作芳人調教師など多くの登壇者から、日本の競馬のレベルが向上したことを実感する声が聞かれ、さらに発展させるための前向きな議論が交わされました。

 大会2日目の夜には、海外からのゲストに日本の文化を体験してもらうべく、札幌ドームで縁日と花火を中心としたイベントが開かれました(写真2)。ゲストから喜びの声が多く聞かれ、私自身もお祭りの雰囲気を存分に楽しみました。

Photo_2写真2. ソーシャル・イベントの様子

 閉会式ではフラッグセレモニーが行われ、今大会をホストしたJRAの吉田理事長からアジア競馬連盟のエンゲルブレヒト=ブレスゲス会長へ、そして次回開催地であるサウジアラビアジョッキークラブのバンダル王子へと連盟旗が渡されました(写真3)。サウジカップ創設をはじめとして、近年急速な発展を見せるサウジアラビアの競馬、きっと彼らがホストするアジア大会も素晴らしいものとなるでしょう。

Photo_3写真3. フラッグセレモニー;JRAの吉田理事長(左)と後藤総括監(前JRA理事長;中)の見守る中、

      連盟旗はブレスゲス会長からバンダル王子への引き継がれました。