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2025年7月

2025年7月31日 (木)

これ,何でしょう?

猛暑の中、いかがお過ごしでしょうか。

微生物研究室の越智です。
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 早速ですが・・・,これは何でしょう?

  正解は,ウマの尿です。ヒトの尿と比べて,どうですか?どこが違うかお分かりいただけますか?

 ウマの尿の最大の特徴はやや粘稠性(粘り気)があり、混濁していることです(ご自身の尿と比べてみるとわかるかと思います)。なお、臭いは人と同じです。

 この特徴は,腎臓にある腎盤腺*や尿管にある腺から蛋白を含む粘液が分泌され,それが尿に混ざるためです。人では尿タンパクは疾患の存在を意味しますが、ウマではそうではありません。

    *腎盤腺の存在は,馬科動物の特徴です(第75回獣医師国家試験 出題)。

 また,馬の尿には炭酸石灰結晶が多く含まれ,健康な状態でもふつうに結晶由来の白濁や沈殿が見られます。 以上の理由で,ウマの尿は正常であっても白濁し,ときに泡立つほど豊富な尿蛋白を含有しています(生理的蛋白尿といいます)。

 ヒトやイヌではしばしば膀胱炎が発生しますが、その原因として,細菌が尿道を通り膀胱に感染する事象があります。これを上行性細菌感染といいます。ウマの場合,このような尿路における上行性細菌感染は極めて稀です。その理由として,腎盤腺から分泌される粘液に抗菌作用や粘膜保護作用があるからだと言われています。

 しかし,良いことばかりではありません。ウマでは,感染症の発生は少ないのですが,結石による膀胱や尿道の炎症や排尿障害がしばしばみられます。特に,膀胱結石や尿石症は比較的多く発生しますので,排尿の量や頻度の低下が見られた場合には要注意です。

 ところで,夏場に尿といえば厚生省が出した以下のカラーチャートを思い出します。

みなさまも熱中症に注意し(トイレで尿をしっかり確認し),夏競馬の観戦をお楽しみください。

Photo_2<外部リンク>https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001088385.pdf

2025年7月17日 (木)

検診の重要性~野球肘の早期発見~

臨床医学研究室の三田です。

先日、整形外科超音波学会の学術集会に参加してきました。

 参加者は整形外科医をはじめプロスポーツチームのメディカルドクター、理学療法士など様々で幅広い分野の研究報告を聞くことができました。

 その中でも、特に興味深かった内容は青少年野球選手に対する肘の定期検診でした。

 野球をはじめとするボールを投げるスポーツでは、投球動作のときに肘の骨と骨がぶつかりあって関節の中に骨の欠片が遊離することがあります。これを離断性骨軟骨症と呼びます。

症状が重度になると手術が必要となったり、肘の曲げ伸ばしがうまくいかなくなるやっかいな病気で青少年野球選手の約2~3%に発症するそうです。

この病気は早期発見できれば運動制限によって治癒することが期待できます。そのため、定期健診を行って症状が出る前に発見することがとても重要で、ドクターの中にはエコー機器を詰め込んだリュックを背負って地方を飛び回っている方もいるそうです。

 会場からの質問では「チームの監督や親御さんは長期間の運動制限に納得してくれるのか?」という質問があり、筆者も共感できる質問でした。質問に対して演者は「最初の頃は理解を得にくかったが、近年は関係者が病気についてよく勉強してくれており、休養してくれる方が増えた」という回答をしており、改めて理解の醸成は大事だなと感じました。

 ヒトと同様に競走馬においても初期の病態を捉えることで重篤な病気やケガの発症を防げることが近年報告されるようになってきました。このような予防医学を視野に入れた研究分野がますます発展できるように現場と協力しながらこれからも頑張っていきたいと思います!

  Sisa

追伸:最近の学会ではAIソフトで作成したイラストを発表に盛り込む先生が多くなってきました。この学会は沖縄県で行われたので、筆者もチャッピー(ChatGPT)にお願いして「検診されるシーサー」を描いてみました。

2025年7月15日 (火)

新人獣医研修が無事に終わりました!

企画調整室の岡田です。

 JRA競走馬総合研究所(以下、総研)では、その年度の新規採用獣医職員を対象に研修を実施しています。これは、現代の大学教育ではあまり深く教えないウマ、特に競走馬に関する知識を身につけて即戦力として活動してもらうことを目的としたものです。私はJRA本部の獣医課および総研の各研究室と連携して、期間の限られた中でより充実した研修にするべくこれを総括し、今年も無事に6月10日から約2週間にわたって実施することができました。

 実は、JRAは自分達の職員だけが教育されれば良いとは考えず、本会と関連の深い、されど教育者や教育施設の手薄な本会トレーニングセンター開業獣医、地方競馬場あるいは生産地の諸機関などから依頼されれば、それら諸機関の若い獣医師をお招きして本会職員と一緒に教育を受けてもらっています。本年は、8名の本会新人に加えて外部から5名の若手獣医師をお招きしました。

 自分も新人の時に、同期職員だけでなく外部からいらした若手獣医師と共にこの研修を受けたのを昨日のことのように覚えています。今、振り返って考えてみますと、本会の獣医師が一同に集まったり、本会外の同業者と意見交換したりできる機会は意外と少なく、この意味で、本研修は社会に出たばかりで役職が固まっていない、そして就いたポストの責任に縛られずに、同世代とコミュニケーションができる貴重な機会だったなと思います。

Photo・勉強だけでなく懇親会では職場の枠を超えたコミュニケーションが重要(本年研修)

 実習を総括してみますと、国家試験を合格してきたばかりのフレッシュな後輩達は、みな優秀であることがわかります。それでもウマに関する知識は不十分で、現場の諸先輩達についていくには、総研での教育は欠かせないと感じました。競走馬獣医師としての心構えを、現場経験のある研究者から聞けるのも総研の特徴です。研究者といえども、前職では現場で競走馬をバリバリ診ていた強者がいっぱいいますからね。

 新人獣医師もいつか指導者の立場に立ちます。この研修で学んだことは知識だけでなく、上に立った時の目線の置き方にもヒントとなる貴重な経験だったことをも胸に刻み、これからの長い道を歩んで行ってほしいものです。