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育成馬の成長(宮崎)

世の中不景気な話題ばかりですが、最近の宮崎には景気のいい話(?)がありました。全国ニュースでも大きく報じられましたが、WBC日本代表チームが宮崎入りしています。キャンプ地のサンマリンスタジアムでは駐車場がパンク状態、道路は大渋滞となり、巨人との練習試合の日にはついにスタジアムの駐車場を閉鎖(車両乗り入れ禁止)するまでの事態に!! 来場者は45,000人にもなりました。市内のホテルもほぼ満杯のようで、各所で混乱と報じられましたが、街全体が活気付いています。

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2月も温暖な日が多く順調に調教中です。写真はクーリングダウン中の牡馬群で、向かって左がプレゼントの07(父:バゴ)、右はバルジの07(父:タップダンスシチー)。ちょっと似た顔の新種牡馬産駒2頭です。

WBC代表の他にも、多くのプロ野球チームがキャンプ地に選ぶだけの温暖な気候もあってか、体の小さかった当場育成馬ビッグキャンドルの07(通称キャンドル)もすくすくと成長し、9月に387kgだった馬体重も2月には453kg66kgも増加しました。当初436kgだった全24頭の平均体重も今では48kg増えて484kgになり、どの馬もずいぶんと逞しくなってきました。

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除脂肪体重の測定

Big Dream Stables宮崎育成牧場では、馬体重測定にあわせ脂肪厚の測定をすることで除脂肪体重を推定しています。この除脂肪体重は馬の全体重のうち、体脂肪を除いた筋肉や骨、内臓などの総量にあたりますので、その推移を継続して観察することで、育成馬の筋肉増量を推定することができます。方法としては臀部の脂肪厚を超音波(エコー)で測定することで、体脂肪率を推定(体脂肪率(%)≒5.47 × 脂肪厚(cm+2.47)します。体脂肪を含めた馬体重そのものだけではなく、この数値も含めて検討することは、トレーニング効果と馬体のコンディションを推定するうえで大変有用であると考えています。

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上の図は2世代の当場育成馬における脂肪厚の測定結果です。白丸が前世代(現3歳)の当場在厩時の数値で、青丸が現2歳世代の数値です。それぞれ10頭ずつ(牡牝各5頭)を測定した数値です。

未だ2世代だけのデータではありますが、11月~1月にかけて脂肪厚が増加する傾向がみられます。これはトレーニング内容等よりも気候による影響が大きいと考えられます。人でも冬期間には体脂肪率が増えるというデータがあります。ただし、現2歳世代の育成馬は前世代に比べ脂肪厚はやや低めで推移しています。

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上の図は先ほどの脂肪厚から推計した除脂肪体重の推移です。これをみると11月から12月にかけては2世代とも除脂肪体重が減少しており、体脂肪の増量で体重が維持されていたことが分かります。この時期の気候や運動・飼料量または情動の変化など様々な要因が考えられますが、はっきりとした理由は不明です。いずれにせよ次世代以降の育成馬を宮崎で順調にトレーニングしていく上で、注意しなければいけない時期といえるかもしれません。

また前世代(白丸)との比較では9月にはほとんど差のなかった除脂肪体重が、本2歳世代(青丸)では10月以降、増量が大きくなっています。トレーニング効果により、筋肉量の増加がより大きかったものと推定しています。

今後数年間はさらにデータを蓄積し、性差や競走成績との関連も調べることで、よりよい育成調教管理指針が得られるものと期待されます。特に温暖な宮崎における除脂肪体重の増加が、北海道におけるものとどのように違ってくるのかは興味深いところで、プロラクチン(※)というホルモンの測定とあわせて調査する予定となっています。

プロラクチンの測定

JRA育成馬を用いた研究データでは、北海道(日高)では冬から春にかけて、特に牝馬の除脂肪体重が増加しない傾向が認められています。宮崎の育成馬での除脂肪体重の増加は、温暖な気候での成長の早さを示すものではないかと推測しています。

現在宮崎育成牧場では、東京農工大学にご協力いただき、脳の下垂体から分泌されるホルモンであるプロラクチンの測定による新たな調査を実施中です。プロラクチンには成長ホルモン様の作用があり、その測定によって宮崎の馬の成長の早さ、暖地育成のよさを証明できることが期待されます。

育成馬展示会のお知らせ

Big Dream Stables宮崎育成牧場では330日(月)午後1時より育成馬展示会を実施します。当日は全24頭の展示と約12頭の調教をどなたでもご覧いただけます。また、生産・育成・競馬関係の皆様には、午前中の調教(12頭程度、830分頃より)もご覧いただけます。皆様のご来場をお待ちしております。また、当日以外でも関係者の皆様にはいつでもご覧いただけますので、どうぞお気軽にお問い合わせください(火曜日は馬休日となっております)。

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3列縦隊で常歩・速歩運動を実施する牝馬グループ。先頭は向かって左からプレミアムショールの07(父:アグネスフライト)、ゲイリーアミューズの07(父:ボーンキング)、ビッグキャンドルの07(父:バゴ)。ビッグキャンドルの後ろがレッドジグの07(父:ゼンノロブロイ)。

育成馬展示会のお知らせ(事務局)

427日(月)に中山競馬場で開催します2009 JRAブリーズアップセールの上場番号が決まりました。こちらのページをご確認下さい。

また、日高・宮崎両育成牧場では、同セールの開催に先立ち育成馬展示会を開催いたします。セール上場予定の育成馬を1頭ずつ展示して紹介いたしますので、育成状態を直接確かめていただくことができます。

皆様のご来場をお待ちしております。

宮崎育成牧場  平成21330日(月)13時より 電話0985-25-3448

日高育成牧場  平成21413日(月)10時より 電話0146-28-1211

心臓に毛を生やす(日高)

120日、21日の2日にかけて育成馬検査が実施されました。初日こそしばれがきつかったものの、この時期にしては両日とも好天に恵まれ、本部からの出張者と共にじっくり現状の日高の育成状況の目合わせが出来ました。検査は、市場で購買した56頭の2歳の他、本年誕生する生産JRA育成馬を宿した7頭の繁殖牝馬の状態も併せて実施されました。

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育成馬検査を実施する本部と当育成牧場の職員。馬はホワイトウォーターの07(父Songandaprayer ソングアンドアプレヤー)。この検査は育成状況を把握するのに加え、その結果をBUセールの名簿番号決めにも活用します。

また、セイウンワンダーの活躍のお陰もあり、以前にも増して多くの方々に本会の行っている育成業務やJRA育成馬に興味を持っていただいております。ノーザンファームの方をはじめとした牧場関係者や調教師、馬主の方々が来場し、当場で取り組んでいる調教内容や管理手法、施設の成り立ちなどを熱心に見学されています。

さて、表題の「心臓に毛を生やす」お話です。私たちは物事に動じず、肝の据わった落ち着いた立ち居振る舞いをする人のことを「心臓に毛の生えた人」と言ったりします。

実はその心臓の毛、既報でもお伝えした、当場で実施している軽種馬育成調教センター(以降、BTC)生徒の騎乗研修と関連があります。彼らは昨年の4月にBTCに入学し、その後8ヶ月にわたってBTC所有の訓練馬に騎乗してみっちり練習を積んできました。慣れた大人しい訓練馬であればそつなく乗りこなせる技術レベルには達している彼らに、この時点で騎乗者として不足しているもの、それは何でしょうか。さらに上の騎乗技術はもちろんです。しかし、それ以上に求められるのは経験に裏打ちされた自信です。彼らがその自信を付けることを、私は「心臓に毛を生やす」と言っています。つまり私達JRAでの研修に対して彼らが求めているのは、「心臓に毛を生やすこと」であると考えています。そのために彼らにはJRA育成馬や研究馬を含め60頭近い2歳馬の中から技量に合わせて毎日の騎乗馬が割り振られます。

過去、私はアイルランドの厩舎に滞在したことがあります。そこで騎乗する中で痛感したのが現地の若い騎乗者の肝っ玉の太さです。相当の暴れ馬でもやんちゃな馬でも、「こんなもんさ」という雰囲気で、叱る時は厳しく褒める時は十分に、メリハリをつけて騎乗していました。深く頭で考えている様子ではなく、反射的な反応です。これは彼らが幼少時から馬に接してきた経験から、ごく自然に馬というものを肌で感じとっているからではないかと強く思いました。なかなか幼少時から馬に接する経験を持つことが出来ない日本の環境の中で、少しでもナチュラルなホースマンを育成するために必要なのは、絶対的に豊富な経験、実践であると思います。

最初のうちは、育成馬の中でも安定した走行のできる安全な馬を割り当てます。しかしそういった馬でも最初は新しい環境、初めての馬ということもあり、彼ら自身にとっては精一杯の状況となることが多いものです。しかし習得の速さはやはり若さのなせる業でしょうか、ぐんぐん上手になってきます。彼らには、毎日騎乗日誌を書かせていますが、しばらくすると「指示通り乗れた」「安定した走行が出来た」などという反応が返ってくるようになり、中には「完璧に乗れた」などというコメントが見られることもあります。彼らの成長を喜ぶと同時に、さらに上の騎乗を求めたり、もう1つ難度の高い馬を割り当てたりすることで、常にチャレンジする気持ちを失わせないように配慮しています。

そういったプロセスを経ながら、彼らの研修は413日(月曜日)に開催予定の当場の展示会まで続きます。そこで彼らは、卒業騎乗として多くの来場者の前での騎乗供覧に騎乗することになるのです。 出される指示は5ハロン(1ハロンは200m)の走行で最後の2ハロンを14秒-14秒のスピード。この指示をしっかりこなすことができるようになった彼らの心臓には、しっかりと毛が生えていることと思います。

このように競馬会の行っている育成業務は、調教した育成馬の活用を通して、産地の育成牧場で働く人材の養成にも一役買っているのです。

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ウォーミングアップを行う生徒達。騎乗馬は研究馬。

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800mトラック馬場で1列縦隊の指示で騎乗する生徒達。騎乗馬は研究馬。

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V200の測定試験に騎乗する生徒達(後ろの2頭)。2列縦隊で前列を走る職員のスピードにあわせて追走します。色々な馬に、色々な環境設定で騎乗することにより、心臓に沢山の太い毛を生やしてほしいと思います。馬は左から、イアラガディスの07(牝、父アフリート)、インオンザゴシップの07(牝、父Sky Mesa)、レモンキスの07(牝、父フレンチデピュティ)、サブノリアルの07(牝、父クロフネ)。

最近の調教内容紹介とスピード・心拍数の測定(宮崎)

1/17の中山1R(ダート1,200m)で、単勝1.1倍の1番人気に支持された当場育成のロジロマンス号(3歳・牡・父コロナドズクエスト・粕谷厩舎)が2着馬に26(16馬身)の大差をつける逃げ切りでの圧勝をみせてくれました。1111とタイムも優秀で、今後のさらなる活躍を期待しています。

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右側がロジロマンス号。1年前の1月、旧宮崎競馬場スタンドを背に駈歩調教後のクーリングダウン中。1歳秋の大人しい印象が一変し、調教での負けん気の強さが目立ってきた頃です。

さて、今回は1/22の調教内容をご紹介するとともに同日のスピードおよび心拍数の測定について報告します。心拍数とスピードの測定については、JRA競走馬総合研究所の協力を得て、調教する各馬にハートレートモニターと呼ばれる心拍数の測定装置とカーナビでおなじみのGPSを装着して実施しました。なおその測定から得られる数値であるV200等については、20073月の育成馬日誌V200の測定)で日高から紹介していますので、詳細な解説はそちらをご覧ください。

今回は調教内容の紹介とともに、毎度おなじみ「ビッグキャンドルの07」の心拍数データ・走行スピードについて報告します。

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122日、キャンドル号調教の軌跡

上の図がキャンドル号調教の軌跡をプロットしたもので、宮崎育成牧場の調教コース図が浮かび上がっています。以下、順を追って説明します。まずは厩舎地区での準備運動【上の図の】から、500mトラックコース【】へ移動。ここで速歩を1,000m、駈歩を1,000m実施(23列の併走)して、【】から1,600mトラックコースに出ます。そして1本目の駈歩(1列)を図の上方向へ(左回り)1,000m、【】の左側で折り返して、上方向(右回り)へ2本目の駈歩(併走)を1,000m実施しました。その後のクーリングダウンは【】の右側で折り返して、【】からコース外に出て【】の杉林、【】の採草地・芝馬場をとおり、【】の厩舎地区に戻ります。

調教タイムは1本目の後半600m66秒(F22)、2本目の後半600m57秒(F19)の目標としました。調教の総距離は常歩が4,000m、速歩が1,000m、駈歩が3,100mでした。

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122日、キャンドル号調教時の心拍数(桃色)とスピード(青色)

この調教時にキャンドル号の心拍数(桃色)とスピード(青色)をプロットしたものが、上の図です。横軸は馬装および機械装着からの時間経過です。競走馬の安静時心拍数は1分間に3040回程度ですが、機械を装着し、常歩運動に入ったキャンドルの心拍数は70回程度にまで上昇しているのが分かります。【A】の時点から500mトラックでの速歩調教で心拍は100回程度、【B】の時点からは駈歩運動で心拍が150回近く、スピードは6.5m/s(ハロンタイムで30秒程度)となります。【C】からが1,600mトラックでの1本目の駈歩、心拍が200回近く、スピードは約9.5m/s(ハロンタイムで21秒程度)、【D】からが2本目の駈歩で、心拍が200回以上、スピードは約11m/s(ハロンタイムで18秒程度)でした。

競走馬の最大心拍数は、220230回程度であり、今回のような心拍数200回前後の調教を、インターバルをはさみ2本こなすことは十分な運動強度であると捉えています。2月からはこの強度の運動を週2回程度実施(3Fタイムで5754秒)していて、それ以外の日は1,600mトラックでの調教は1本(駈歩1,0001,600m、最後の3Fタイムが6660秒)としています。

ただし馬によっては、今回の調教内容では2回とも心拍が200回に達せず比較的余裕のある運動であったりもします。またこの数値は騎乗者や隊列での位置(先頭か馬群の後ろか)および馬場状態や天候などによる馬の情動の変化にもある程度影響されます。そのほか駈歩を開始して心拍数が200に上昇するまでの時間、逆に駈歩後心拍数が100をきるまでの時間などを分析し、心肺機能を検討しています。

このようなデータは馬ごとの調教強度を見極め、個体に合ったトレーニング内容を課すための参考として大変貴重なものとなっています。

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500mトラックコースで速歩調教中の牝馬群です。向かって右からタイキフレグランスの07(父サクラバクシンオー)、スーパードレスの07(父キングカメハメハ)、ウォーターセレブの07(父グラスワンダー)、プレミアムショールの07(父アグネスフライト)。