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育成馬 活躍情報(事務局)

1025日(日)の東京競馬第1レース(2歳未勝利戦 芝1,600m)において、モンテフジサン号(育成馬名:パステルウェイブの07、父:グラスワンダー、牡馬、松山康久厩舎、馬主:毛利喜昭氏)が優勝しました。

本年ブリーズアップセールで売却したJRA育成馬は、現在までに7頭が7勝(中央競馬のみの成績)をあげています。

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また、同日京都競馬場で行われた菊花賞では、昨年のブリーズアップセールで売却したセイウンワンダー号(育成馬名:セイウンクノイチの06、父:グラスワンダー、牡馬、領家政蔵厩舎、馬主:大谷高雄氏)が3着に大健闘しました。今後の活躍が楽しみです。

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JRA育成馬の血統(宮崎)

宮崎育成牧場に入厩したJRA育成馬24頭は、その半数が917日に、残る半数も1015日に騎乗馴致を開始しました。どちらのグループも日々新しい経験をし、成長していく姿が手にとるようにわかる大変楽しい時期です。

さて、今回は入厩した24頭の血統(父系)について簡単に説明しようと思います。今シーズンの特筆すべき点は、すべて異なる父の産駒であること、つまり24頭の種牡馬がいることでしょう。

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上の表が宮崎在厩24頭の父系です。青い網掛けが牡馬(12頭)の父、赤い網掛けが牝馬(12頭)の父で、左側はその祖先を示しています。24頭というのは決して多い頭数ではありませんが、バラエティーに富んだ様々な系統をラインナップしています。

ノーザンダンサー系は、今回の分類法でいうと世界で最も勢力を拡大している系統といえるでしょう。当場育成馬でも最多となる9頭がこの系統です。このうちDanzigの直仔デインヒルは種牡馬として多数の活躍馬や後継種牡馬を出し、世界的に大成功を収めている系統で、1996年に日本でも供用されました。その直仔で本邦新種牡馬となるロックオブジブラルタルは、既に英・仏・米・豪・香の5カ国でG勝利馬を輩出しており、大変楽しみな種牡馬です。

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ロックオブジブラルタルを父にもつソプラニーノの08。素軽い動きが目立ちます。もの覚えがよく物怖じしない性格から、初期調教では他馬の先導役を果たす牡馬です。

ナスルーラ系の2頭はブラッシンググルームの孫にあたります。本邦新種牡馬のファンタスティックライト、2歳新種牡馬としてランキング上位にあるバゴとも今後の活躍が楽しみです。

ネイティブダンサー系の3頭はミスタープロスペクターの子孫にあたります。種牡馬として日本でも活躍したフォーティナイナーの直仔であるエンドスウィープは、本邦では3年間の供用のみで3頭のG馬(計G8勝)を送り出しました。その直仔スウェプトオーヴァーボードも日本への適性が認められつつある楽しみな種牡馬です。

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スウェプトオーヴァーボードを父にもつタイキエンプレスの08。おじにダービーGPG勝ちのタイキヘラクレスがいて、兄姉も堅実に活躍しています。強い気性が競馬でいいほうに発揮できるよう、育て甲斐のある牡馬です。

ロイヤルチャージャー系の父は5頭ですが、うち4頭はサンデーサイレンスの直仔です。1995年から2007年まで本邦リーディングサイアーに君臨し、今や「サンデーサイレンス系」と呼ばれ、日本では最も勢いのある一大勢力といえます。しかし国内での席巻度合いと比較して、JRA育成馬ではそれほど多数であるとはいえないようです。

一例として国内最大規模の1歳市場であるサマーセールの上場馬について調べてみました。今年の上場馬1,077頭の3代父までにサンデーサイレンスを持つ割合はなんと42.2%の高率でした。このうち売却された馬では44.7%となり、700万円以上の高額取引馬では55.6%と過半数にまで上昇します。それだけサンデーサイレンス系の人気度・信頼度が高いことを示す数値かと思われます。これに対して、JRAが同セールで購買した61頭では37.7%とやや低い数値となっています。今年のJRA育成馬はそれだけバラエティーに富んだラインナップといえるのではないでしょうか。

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先頭がゼンノロブロイを父にもつノースシェーバーの08。前向きな気性と動きのよさが目立つ牡馬です。写真は500mトラックでの駈歩調教2日目に撮影しました。

上記以外の系統も、4頭をラインナップしています。このうち新種牡馬となるデビッドジュニアは欧州の3歳中距離チャンピオンで、ドバイデューティフリー(G)にも勝利しました。その血にミスタープロスペクターをもたず、ノーザンダンサー、ヘイルトゥリーズンも薄いことから、日本の繁殖牝馬にも配合しやすい血統といえます。

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誘導馬(先頭・芦毛)に続く栗毛がデビッドジュニアを父にもつローズガーデンの08。どっしりと構えていて、時に牡馬のような威圧感を漂わせる牝馬です。筋肉質で尻回りのボリュームが増してきました。写真は500mトラックでの駈歩調教初日です。

“離乳(子馬と母馬の別れ)”について(生産)

軽種馬生産の現場で晩夏から早秋の風物詩となっている子馬の離乳が当場でも行われました。離乳と聞くと悲しい儀式のように思われている人が多いのではないでしょうか?離乳直後の子馬が母馬を呼ぶ“いななき”を聞くと、ほとんどの人が胸を締め付けられる思いになるでしょう。実際、離乳後には明らかにストレスを受けているように見えることも少なくなく、食欲が落ち、体重が減る場合もあります。そのため、無事に離乳が行われることを願い、縁起を担いで「大安」の日を選んで行う牧場もあるようです。

一方、海外では日本ほど離乳を特別なものとは考えていないようです。広大な敷地面積を有する海外の牧場では、子馬と母馬を完全に隔離することが可能であり、24時間放牧などを実施しているため、母馬を想うストレスを最小限に止められることがその一因なのかもしれません。それ以外にも文化の違い、すなわち人に目を向けても1歳未満の乳児も母親と別々の寝室で寝ることも珍しくない海外と、5歳頃までは添い寝を続ける日本との差であるようにも思われます。

母馬と別れることは、子馬にとって非常に不安であるに違いありません。しかし、群れで行動する馬という動物の性質を考えた場合、離乳後すぐに安心して生活できる安定した群れの中で過ごせることが最も重要なポイントになると考えています。

この考え方に基づき、本年度は群れの安定化を目的として、45組の親子の放牧群から同時に全ての母馬を引き離すことはせずに、半数ずつの母馬を2度に分けて引き離す“間引き方法”を実施しました。これに併せて、安定した群れを維持するために“離乳直後から行う24時間の放牧”を試みました。その際、気温が高くアブが多い日は、子馬へのストレスが増すように感じられたので、昼間は馬房に収容することとしました。また、当場の繁殖馬房は大き目に作ってあることから、厩舎への収容時に群れから離れ1頭になるストレスを軽減する目的で、離乳後の子馬を2頭ずつ同じ馬房に収容しました。この方法が功を奏したのか、食欲が落ちることなく、体重も著しく減ることはありませんでした。今後も、どのような離乳方法がストレスを最小限に止めることができるかについて、考えていきたいと思います。

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写真①:離乳後、落ち着きがない子馬たち。

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写真②:諦めて残っている母馬の方へと向かう子馬の群れ。

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写真③:他の母馬をリーダーとして新たに安定した群れを形成しました。

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写真④:離乳後は2頭で1つの馬房をシェアすることでストレスを軽減させました。

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写真⑤:馬房収容2日後。早くもリラックスしています。