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育成馬ブログ 日高⑧

○ブリーズアップセールでの個体情報(X線画像)について

 

 雪が溶けはじめ春の訪れが感じられる暖かく穏やかな季節になった、

ここ日高育成牧場では4月のJRAブリーズアップセール本番に向けて、

育成馬たちの調教がヒートアップしてきています。

 

 この調教と並行して行われているのは、育成馬の球節や飛節などの

X線撮影です(写真1)。これは、通常の臨床現場のように

痛みや腫れの原因究明を目的としているのではなく、

JRAブリーズアップセールにおいて会場内の情報開示室や

インターネットを介して購買者に公開するためのものです。

これらの情報は『レポジトリー』と総称されており、

競走馬のセリ市場の透明性および信頼性を高めることに寄与しています。

 

 今回のブログでは、このレポジトリーのX線画像の中でも注目度が高い

『種子骨炎』および『飛節のOCD』について触れたいと思います。

 

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写真1:育成馬のX線撮影風景

 

種子骨炎

 馬の種子骨炎(Sesamoiditis、正確には第一指節種子骨炎)は

球節の過伸展や捻転などが原因と言われており、炎症により

種子骨内の孔状構造が太くなる他、骨辺縁の靭帯付着部が粗造になります。

この疾患は、跛行だけでなく種子骨に付着している靭帯の炎症を

続発することもまれにあるとされています。跛行の有無に関わらず、

X線撮影により孔状構造の線状陰影や骨辺縁の粗造などが認められれば

繋靭帯炎などの前駆症状として考えられることから、重度であれば

慎重に調教を進めていくことが推奨されています。

 

 JRAブリーズアップセールでは、前肢球節部の種子骨の

X線検査による評価を程度の軽いものから順に

グレード(G)0~3の四段階に分類しています(図1)。

また、セリ会場に設置する個体情報開示室(4月19日~23日)

において、種子骨の線状陰影や骨辺縁粗造の有無などの状態を

X線画像で確認することができます。

 

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図1:種子骨グレード(%はJRA育成馬全体に占めた割合)

 

 各グレードにおける、育成馬を用いた競走期における繋靭帯炎発症率

初出走までに要した日数2・3歳時の出走回数ならびに総獲得賞金

関する調査(計550頭)では、前肢の種子骨グレードが高い馬は

低い馬に比べて繋靭帯炎を発症するリスクが高いことが

確認されていますが(表1)、その一方で種子骨グレードは出走回数や

能力に殆ど影響していないことも報告されています(表2~4)。

  

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表1:種子骨グレードと前肢繋靭帯炎の発症率の関係

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表2:種子骨グレードと初出走までに要した日数の関係

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表3:種子骨グレードと出走回数の関係 

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 表4:種子骨グレードと総獲得賞金の関係

 

 

離断性骨軟骨症

 OCD(Osteochondrosis dissecans)と略されるこの疾患は、

発育過程における骨化異常の結果として関節軟骨の糜爛(びらん)や

剥離を生じる疾患です。飛節が好発部位ですが、膝関節や球節、

肩関節などにも発症します。跛行の原因となることもあり、

その程度によっては関節鏡で骨軟骨片の摘出が必要となることもあります。

  

 JRAブリーズアップセールでは、飛節部のX線画像を公開しています。

図2、3は、比較的頻繁に認められる飛節部のOCDですが、

一時的な関節液の増量などを認めることはあるものの、

跛行を示すことは少ないとされています。

 

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図2:脛骨遠位中間稜のOCD

 

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図3:脛骨内顆のOCD

 

 JRA育成馬の飛節部OCDについての過去の調査(計413頭)では、

OCDを発症していない馬、発症した馬およびOCD摘出術実施馬の

初出走まで要した日数2・3歳時の出走回数および総獲得賞金

比較しています。何れの項目においても大きな差が認められないことから、

後期育成期に認められる飛節部のOCDは熱感や腫脹などの明らかな

炎症症状を伴わなければ、手術をしなくても競走能力に影響を

及ぼさないことが報告されています。

 

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表5:飛節部OCDと出走まで要した日数との関係

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表6:飛節部OCDと出走回数との関係Image

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表7:飛節部OCDと総獲得賞金の関係

  

 この他にもレポジトリーとして咽喉頭部疾患(内視鏡)や

屈腱炎(エコー)、軟骨下骨嚢胞(X線撮影)などの情報を

公開していますが、これらの詳細についてはまた別の機会に

ご紹介いたします。JRAブリーズアップセールでは、

今後も市場の透明性と信頼性の向上のため正確な情報公開を続けるほか、

更なる育成期疾患の調査研究に努めてまいります。