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育成馬ブログ(日高⑤)

○調教後の乳酸値データの活用

 日高育成牧場の育成馬は9月の騎乗馴致後、屋内800mダートコースと屋内

1000m坂路コースを併用してトレーニングを積み重ね、1月時点ではルーチン

ワークとして各コース1000~1200m、合計2,200mをハロン20~22秒程度の

スピードでの縦列走行を行い、週1もしくは2回は坂路コースでの併走による比

較的速いスピードでの調教を取り入れています。

 

●乳酸値を活用した併走調教の組み分け

 この時点での併走調教におけるスピードは、速いグループでハロン16秒平均

(上がり3ハロン48秒)、遅いグループではハロン19秒平均(上がり3ハロン

57秒)と馬によって異なりますが、目安にしているのは調教後の乳酸値です。

 以前までの併走グループの組み分けは、走行スピード、騎乗者の感覚(手応

え)、馬の動きなどを総合的に判断して決めていましたが、現在はその判断材

料の1つとして調教後の乳酸値を含めています。

 下図に一例を示しますと、12月20日に屋内坂路1000mを2組のグループが

1ハロン約18秒平均(上がり3ハロン54秒)で走ってきました。各馬の調教後の

乳酸値(単位は全てmmol/L)は、1組目のA馬は9.3、B馬は9.9、C馬は5.7、

そして2組目のD馬は5.9、E馬は9.4でした。

 そこで、1週間後の12月27日には「A馬、B馬、E馬」と「C馬、D馬」にグ

ループ変更し、前者には1週前と同タイムの指示を、後者には前回よりも速いタ

イムを指示したところ、1組目は1ハロン約18秒平均で走り、A馬は12.3、B馬

は10.8、E馬は11.3でした。そして、2組目は1ハロン15.5秒平均(上がり3ハ

ロン46.5秒)で走り、C馬は15.1、D馬は14.7でした。後者については強度が

想定よりも上がってしまいましたが、いずれのグループも1週前と比較するとグ

ループ内の乳酸値に大きな差を認めなくなりました。

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 このように乳酸値を活用してグループ分けを行うことで、個々の馬に応じた

運動負荷を適切にかけることができるのではないかと考えており、1月現在は

「乳酸値が10mmol/L程度に上がるようなトレーニング」を週1もしくは2回実

施しています。

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坂路調教直後における乳酸値測定のための採血

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屋内坂路コースでの併走調教 (左)デュエットの17(めす 父タニノギムレット)、(右)ティンクルハートの17(めす 父クロフネ)。

上がり3ハロンのタイムは52.4秒で、乳酸値は両馬いずれも10.5mmol/Lでした。

 

●騎乗スタッフとの乳酸値データの共有

 騎乗調教において乳酸値を活用するうえでの欠点の1つは、調教後にしか測定

結果を出せない、すなわちリアルタイムで確認できないことです。このため、

あくまで前回の調教時のデータを活用せざるを得ないのが現状です。そこで当

場では、騎乗スタッフが自身の騎乗馬の動きとスピードから乳酸値を推定でき

るように、毎回の測定データを騎乗スタッフと共有しています。これによっ

て、騎乗者自身がターゲットとなる乳酸値が出る運動負荷を課すような騎乗を

することを目指しています。

 近年、人間のアスリートの世界では、乳酸値を活用して運動強度を設定する

トレーニング方法が注目されています。競走馬の世界でも「どの程度の乳酸値

を上げるトレーニング強度が必要なのか」、「乳酸値を上げるトレーニングは

何日間隔で行うのが効果的か」など検討課題は山積しています。

 日高育成牧場では、引き続き乳酸値のデータを蓄積していき、1~2歳の若馬

にそれらを活用した効果的なトレーニング方法を模索していきたいと思います。

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

JRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。当ブログに

対するご意見・ご要望は下記メールあてにお寄せ下さい。皆様からいただきま

したご意見は、JRA育成業務の貴重な資料として活用させていただきます。

 

アドレス jra-ikusei@jra.go.jp

活躍馬情報(事務局)

1月27日(日)京都9R(若菜賞)で日高育成牧場で育成された

エイティーンガール号は、大外から差し切り、人気に応え2勝目を挙げました!

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1月27日 2回京都競馬2日目 第9R 若菜賞 芝 1,200m

エイティーンガール号(センターグランタスの16) 牝

【 厩舎:飯田 祐史 厩舎(栗東) 父:ヨハネスブルグ 】

  

今後のさらなる活躍を期待しております。

活躍馬情報(事務局)

1月19日(土)中山8R(4歳上500万下)で日高育成牧場で育成された

シゲルベンガルトラ号は、スタートから好位追走、最後の直線では最内を

突いて競り勝ち、3勝目を挙げました!

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1月19日 1回中山競馬6日目 第8R 4歳上500万下 ダート 1,200m

シゲルベンガルトラ号(ローズヘイローの14) 牡

【 厩舎:和田 勇介 厩舎(美浦) 父:プリサイスエンド 】

 

1月20日(日)中京12R(大須特別)で日高育成牧場で育成された

ヒロシゲゴールド号が、前走同様にスタートダッシュを決め、そのまま逃げ切り

人気に応える快勝。中1週で2連勝を飾りました!

 

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 1月20日 1回中京競馬2日目 第12R 大須特別 ダート 1,200m

ヒロシゲゴールド号(エフテーストライクの15) 牡

【 厩舎:北出 成人 厩舎(栗東) 父:サウスヴィグラス 】

   

今後のさらなる活躍を期待しております。

育成馬ブログ(生産編⑤)

●交配に向けて繁殖牝馬の冬期の管理

 年が明け、いよいよ繁殖シーズンも近づいてまいりました。今回は当場で

行っている繁殖牝馬の冬期の管理についてご紹介いたします。

 

○繁殖牝馬の管理における冬期のポイント

 JRA日高育成牧場では例年3月中旬より交配(種付)を開始していますが、寒

い北海道で繁殖牝馬を管理する上で気を付けているポイントは下記の3点です。

① 12月20日(冬至)からライトコントロール開始

② 最高気温が2桁まで上がらなくなったら馬服着用開始

③ 積雪が概ね30㎝以上になったら放牧地内に乾草ロールを設置

 

○ライトコントロール

 ウマは日長時間が長くなることによって発情期が出現する「長日性季節繁殖

動物」であり、日照時間の短い北国において3月中旬から交配を開始するために

は馬房内に電球を点灯して人為的に明るい時間を延長するライトコントロール

が必要不可欠となります。過去に我々が空胎馬に対して行った調査によると、

12月中旬から明期14.5時間、暗期9.5時間のライトコントロールを開始する

と、2月下旬までに70%の、3月下旬までに90%の牝馬にシーズン初回排卵が

認められることがわかりました。このことから、現在は12月20日(冬至)前後

から昼放牧に切り替え、朝は5時半から夜は20時まで馬房内の電球が点灯する

ようにタイマーを設定し、ライトコントロールを行っています。妊娠馬に対し

ても同じくライトコントロールを実施することで妊娠期間の短縮および分娩後

の卵巣静止を予防する効果があると言われているため、同時にライトコント

ロールを開始しています。

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12月20日(冬至)からライトコントロール開始

 

○馬服の着用

 さらに、ウマは日長時間だけでなく気温の上昇によっても季節の変化を感じ

ていると言われているため、冬期は馬服の着用を行っています。着用する馬服

の種類にもよりますが、馬服を着用した状態で最高気温が概ね2桁(10℃)以

上になると汗をかき始めるため、汗が乾く際の気化熱で馬体がかえって冷えて

しまう恐れがあるので、最高気温が2桁まで上がらなくなったタイミングで馬服

を着用するようにしています。なお、JRA日高育成牧場では、防水・防風効果

に優れ、放牧に適したニュージーランドラグというタイプの馬服を着用してい

ます。

 

○放牧地内に乾草ロールを設置

 積雪がまだ少ない状態では馬は雪の下に生えている青草を掘って食べます

が、積雪が概ね30cm以上になると雪を掘るのが困難となってしまうため、乾草

ロールを放牧地内に設置します。これによってボディコンディションスコアの

低下を防ぐのと同時に、繊維分を補給することで疝痛の予防にもなります。な

お、かつては当場でも鉄製の草架を使用していましたが、事故防止および呼吸

器への影響(馬が上を向いた状態だと気管に埃が入りやすい)から現在は草架

を使用していません。

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馬服の着用と乾草ロールの設置

 

 繁殖シーズンが始まる前に交配に向けてしっかりと準備しておくことが重要

だと考えています。今回の記事が繁殖牝馬の管理に少しでもお役に立てば幸い

です。

育成馬ブログ(宮崎④)

⦁ 本年もよろしくお願いいたします

 

 宮崎育成牧場から本年最初の投稿となります。昨年に引き続き「JRA育成馬

日誌」をよろしくお願いいたします。

 宮崎の今冬は暖冬で、冬至となった12月22日には最高気温が20度に達す

るなど、12月には馬服を装着していると発汗する日も少なくありませんでし

た。一方、年末には最低気温が氷点下近くに達する日も散見されましたが、1

月に入ってからは例年よりも暖かく、まもなくプロ野球のキャンプインという

ことを考えると、このまま春を迎えるのではないかと思うほどの暖冬を実感し

ています。
 

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年末の寒波ではパドックに吊り下げた水桶に薄氷が張っていました。

 

●育成馬の近況

 宮崎育成牧場所属のJRA育成馬の近況をお伝えいたします。最初にウォーミ

ングアップとして500mトラック馬場で直線をキャンター、コーナーを速歩

という調教を左右3周ずつ実施しています。その後は1600mトラック馬場

に場所を変えて、一列あるいは二列縦隊で1400mのキャンターを実施して

います。

 2月に入ると4月23日(火)のブリーズアップセールに向けて徐々にスピー

ド調教を開始しますが、それまでは「真っ直ぐ走行する」という基本を重要視

して調教を進めていきたいと思います

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1600m馬場での調教の様子。

「真っ直ぐ走行する」という基本を重要視して調教を行っています。

 

●競馬セミナー

 さて、宮崎育成牧場は育成業務の他にも、2010年から利用者登録制の「ウ

インズ宮崎」での場外発売業務を行っています。つまり、馬券(勝馬投票券)

を購入してJRAの競馬を楽しんで頂くことができます。

 しかし、宮崎県は日曜日15時からのフジテレビ系列でのJRA競馬中継が放

送されておらず、メインレースの馬券を購入しても、自宅においてリアルタイ

ムで楽しむことができないという状況でした。この状況を打開するために、

2016年よりMRT(宮崎放送)ラジオで日曜日の15時から「GOGO競

馬サンデー!」が放送されるようになりました。

 このようなご縁もあり、2016年から有馬記念の前日に、宮崎県の競馬初心

者の方に競馬を楽しんで頂くことを趣旨として、MRT主催の競馬セミナーを

開催しています。昨年は12月22日に宮崎の朝の顔として知られているMR

Tの瀬藤アナウンサーの進行で、当場の職員による「馬学講座」および「馬券

の買い方」に関する座学を実施した後、実際に馬券を購入して阪神カップ(G

2)などのレースを楽しんで頂きました。
 

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当場職員による「馬券の買い方」講座の様子。

 

 メインレースの阪神カップは波乱の結果となりましたが、複勝で的中されてい

る参加者がいらっしゃいました。最後は競馬通の瀬藤アナウンサーによる有馬

記念の予想を参考に、有馬記念の前日発売馬券を購入して解散となりました。

初めて馬券を買った方がほとんどでしたが、競馬の楽しさを感じていただけた

のではないかと思っております。

 

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競馬通の瀬藤アナウンサーによる有馬記念の予想の様子。

 

 参加者の皆様方には、宮崎育成牧場で競走馬の卵が育成されているということ

も知っていただきましたので、当場で育った育成馬を地元宮崎の方々に応援し

ていただき、期待に応えられるように育成業務に励みたいと思います。

活躍馬情報(事務局)

1月6日(日)京都6R(4歳上500万下)で日高育成牧場で育成された

ヒロシゲゴールド号が、スタートから勢い好く先頭を奪い、そのまま逃げ切り

2着馬に5馬身をつける圧勝。2勝目を挙げました!

 

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 1月6日 1回京都競馬2日目 第6R 4歳上500万下 ダート 1,200m

ヒロシゲゴールド号(エフテーストライクの15) 牡

【 厩舎:北出 成人 厩舎(栗東) 父:サウスヴィグラス 】

   

今後のさらなる活躍を期待しております。